古びた木造アジトの朝は、今日も今日とて暴力的なまでの『愛』と『欲望』に満ちていた。 お盆を過ぎても衰えを知らない朝日が障子の桟を通り抜け、六畳間に敷き詰められた万年床を照らし出す。 そこには、肉色の海が広がっていた。
「……ん」
黒野改蔵は、重たい瞼を持ち上げた。 身体が重い。物理的に重い。 彼の胸板の上には、輝くようなピンクブロンドの髪と、長くふさふさしたウサギの耳を持つ少女が、へばりつくように眠っていた。 月村ウナ。 先日、組織の本部所属となった『ウサギ怪人』だ。彼女は本来、本部のエネルギー管理課に勤務しているはずだが、「向こうは堅苦しくて退屈」と言って、ここ数日はアジトに入り浸っていた。 彼女は眠っている間さえも、改蔵の体温と匂いを独占しようと、手足をタコのように絡みつかせている。
「……ふふ。マスター。わたし、ここにいるよ。みて、みて」
ウナが寝言のように呟き、改蔵の首筋に顔を埋めた。 その吐息がくすぐったい。 彼女の強烈な『承認欲求』は、睡眠欲さえも凌駕しているようだった。
「おい、起きろウサギ。重てえぞ。仕事はどうした」
改蔵が身体を揺するが、ウナは「有給ぅ……」とさらに強くしがみついてくる。 その時、布団の裾の方から、不満げな声が上がった。
「……マスター。あし、かえして」
サキュバス怪人のメイだ。 彼女は改蔵の足の間で丸くなり、抱き枕のように改蔵の右足を抱え込んでいた。 新入りのウナに『
「あらあら。皆さん、朝から元気ですね」
枕元から、聖母のような声が降ってきた。 五十嵐イスズだ。 彼女はすでに起きており、改蔵のYシャツ一枚にエプロンという新妻のような(ただし下は履いていない)格好で、朝食のお盆を運んできたところだった。 ふわりと、味噌汁と焼き魚の香ばしい匂いが漂う。
「今日の朝ごはんは、スタミナ満点のニラ玉と、あさりのお味噌汁ですよ。昨日の夜、凄かったですから……栄養つけてくださいね」
「おお、気が利くな」
改蔵が身体を起こそうとすると、左腕にしがみついていた小悪魔マナも目を覚ました。
「はっ! 朝ですか! 改蔵様! おはようございます!」
マナは飛び起きるなり、習慣のように改蔵の頬にキスをした。
「んーっ! ……ふぅ。今朝の魔力も上々です! バイタル安定! 今日も世界征服日和ですね!」
「ずーるーいー! マナちゃんだけ!」
ウナが抗議の声を上げ、負けじと反対側の頬に吸い付く。 左右からのキスの嵐。 足元からの甘噛み。 そして目の前には、湯気の立つ朝食と、それを微笑ましく見守る爆乳の聖女。 これ以上ないほどの『
騒がしい朝食を終え、全員で食後のお茶(ウナは改蔵の膝の上、メイは背中、マナは肩揉み)を楽しんでいた時だった。 土間の引き戸が、遠慮がちに叩かれた。
コン、コン。
「……ん? 誰だ?」
改蔵が眉をひそめる。 このアジトに客など来るはずがない。 あるとすれば、サイトウからの緊急連絡か、あるいは通販で頼んだ精力剤の配達か。 だが、扉の向こうから聞こえてきたのは、聞き覚えのある、おっとりとした声だった。
「あのぉ……。改蔵さん? いらっしゃいますかぁ?」
「あ! ノドカちゃん!」
イスズがぱあっと顔を輝かせ、パタパタと玄関へ走った。 引き戸が開かれると、そこには一人の女性が立っていた。 渡辺ノドカ。 かつて『牛怪人』へと変貌し、その『癒し』と『豊穣』の能力でヒーローたちを戦意喪失させた女子大生だ。 彼女は今、人間の姿に戻っていた。 だが、その胸の『質量』だけは、怪人化した時の影響か、あるいは改蔵の魔力による育成の成果か、以前にも増して圧倒的な存在感を放っていた。 薄手のサマーニットの上からでもわかる、重力に逆らう巨大な果実。 動くたびにたゆん、と重々しい音を立てそうだ。
「お久しぶりですぅ。……あ、皆さん、お揃いで。ウナちゃんもいるんですね」
ノドカは、アジトの
「おうノドカ。久しぶりだな。どうした、また『重く』なったか?」
改蔵がニヤリと笑いながら、彼女の胸元に視線を送る。 ノドカは頬を赤らめ、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに自分の胸を抱いた。
「はいぃ……。その、最近また、胸が張ってきちゃって……。肩こりも酷くて……」
彼女はモジモジしながら、上目遣いで改蔵を見た。
「大学の講義中も、服が擦れて気になっちゃって……。だから、その……また、神主様に『軽く』していただきたいなぁって……」
「メンテナンス希望ってわけか。いい心がけだ」
改蔵は立ち上がった。 ステテコ姿だが、その股間はすでに期待で膨らんでいる。 一度『契約』した怪人は、定期的に魔力を補充し、そして過剰になったエネルギーを
「よし。昼間っからだが、『儀式』といくか」
「わぁい。お願いしますぅ」
ノドカが靴を脱ぎ、上がり込んでくる。 その時だった。 マナの懐にある魔術スマートフォンが、けたたましいアラート音を鳴らした。
「えっ!? なんですか!?」
マナが慌てて画面を確認する。 サイトウからの連絡ではない。 アジト周辺に展開していた探知結界が、至近距離での『高ポテンシャル反応』を感知したのだ。
「か、改蔵様! 異常反応です!」
「ああん? 敵襲か? ジャスティンジャーか?」
「いえ、違います! 変身前の一般人です。でも……この反応、すごく近いです! アジトのすぐ外……ううん、この周辺をウロウロしています!」
「誰だ?」
「解析します! ……えっと、因子は『姉妹愛』……? それに『焦燥感』と……強烈な『発育コンプレックス』!?」
マナが首を傾げる。
「……あのぉ」
ノドカがおずおずと手を挙げた。
「もしかして、私の妹かもしれません……」
「妹?」
改蔵とマナの声が重なった。
「はいぃ。実は、私が最近、大学も休みがちで、夜も帰らなかったりすることが増えたので……妹のホノカが、すごく心配しちゃってて」
ノドカは困ったように眉を下げた。
「『お姉ちゃんが悪の組織に騙されてるんじゃないか』って、探偵ごっこみたいに私を探し回ってるんです」
「……ほう」
改蔵の目が光った。 悪の組織に騙されている。 あながち間違いではない。いや、大正解だ。 だが、騙されているのではなく、喜んで堕ちているのだが。
「妹ってのは、お前みたいなデカいのが、もう一人来るのか?」
改蔵は下卑た期待を込めて尋ねた。 姉妹丼。 男のロマンだ。 だが、ノドカはふるふると首を横に振った。
「いえ、ホノカは私と違って、その……未発育というか……小さいんです」
「小さい?」
「はい。でも、とっても元気で、可愛くて……。あ、そうだ。写真、ありますよ」
ノドカがスマホを取り出し、画面を見せた。 そこに写っていたのは、ノドカとは似ても似つかぬ少女だった。 ツインテール。 吊り上がった勝気な目。 そして、小柄で華奢な体躯。身長は百五十センチもないだろう。 だが。 改蔵の目は、その『一点』に釘付けになった。
「……おい」
「はい?」
「どこが『小さい』んだよ」
写真の少女は、確かに背は低かった。全体的に幼い、いわゆる『ロリ』体型だ。 だが、その胸部装甲だけは、姉の遺伝子を色濃く受け継いでいた。 華奢な肋骨の上に、ボールのような球体が二つ、主張激しく乗っかっている。 身体のバランスを無視したかのような、不釣り合いなほどの『巨乳』。 ロリ巨乳。 奇跡のアンバランス。
「え? でも、私よりはずっと小さいですし……」
ノドカが自分の爆乳を見下ろして天然なことを言う。 比較対象がおかしいだけだ。
「マナ。今のスキャナーの反応、こいつか?」
「は、はい! 間違いありません! 今、アジトの裏手の路地を歩いています!」
マナが興奮気味に報告する。
「素晴らしいです! この『姉への執着』と、自身の身体への『コンプレックス(姉と比べた時の劣等感)』! 非常に強力なエネルギーを感じます! 『自分も姉さんのようになりたい、でもなれない』というジレンマが、歪んだ魔力を生んでいます!」
「へえ。姉ちゃんを探して三千里、か」
改蔵はニヤリと笑った。 姉を助けに来た妹が、ミイラ取りがミイラになる。 しかも、敬愛する姉の目の前で、同じ男に堕とされる。 最高のシチュエーションじゃないか。
「ノドカ。お前の妹、迷子になってるみたいだぞ」
「ええっ! 大変! 迎えに行かないと!」
「ああ。迎えに行ってやれ。マナ、案内してやれ」
改蔵はマナに目配せをした。 マナは即座にその意図を理解し、邪悪な(可愛い)笑みを浮かべた。
「はいっ! 私が『親切に』ご案内して差し上げます! 姉妹水入らずの時間をプレゼントしなきゃですね!」
***
アジトの裏手。 人がすれ違うのがやっとの細い路地を、一人の少女が歩いていた。 渡辺ホノカ。 高校二年生。ノドカの自慢の妹だ。 彼女はスマートフォンの地図アプリを睨みつけながら、苛立ちを隠せずにいた。
「もう! お姉ちゃんってば、どこ行っちゃったのよ!」
彼女は、姉のノドカが心配でたまらなかった。 おっとりしていて、人を疑うことを知らない姉。 昔から、変な男に言い寄られたり、妙な勧誘に引っかかりそうになったりするのは日常茶飯事だった。 そのたびに、しっかり者のホノカが追い払い、守ってきたのだ。
「最近、肌ツヤ良くなってるし……胸もなんか大きくなってるし……絶対、男よ。悪い男に騙されて、変な薬とか飲まされてるんだわ」
ホノカの勘は鋭かった。 姉のスマホのGPS情報をこっそり共有設定にしていた彼女は、信号が途切れたこの付近を重点的に捜索していたのだ。
「あんな巨乳だけの天然女、私がついててあげないと、すぐ悪い大人に食べられちゃうんだから!」
ホノカは自分の胸元をギュッと握りしめた。 彼女自身も、年齢にしては規格外の発育をしている。 ブラウスのボタンはパツパツで、走れば大きく揺れるほどだ。 だが、姉のあの『暴力的な質量』の前では、自分などペチャパイも同然だと思っていた。 背も低いし、子供っぽい。 (……お姉ちゃんばっかり、大人の女って感じで……) 姉への憧れと、嫉妬。 そして、姉を守らなければという歪んだ庇護欲。 複雑な感情が、彼女の足を前へと進ませる。
「あら。お困りですか?」
不意に、頭上から声がした。 ホノカが顔を上げると、塀の上に金髪の少女が座っていた。 黒いレオタード。背中の羽。 明らかに不審者だ。
「……誰? コスプレ?」
ホノカは警戒心を露わにした。 だが、少女……マナは、にっこりと微笑んで塀から飛び降りた。
「私はマナ。迷子の子猫ちゃんを導く者です」
「はあ? 意味わかんない。どいてよ」
ホノカは強気に言い返した。 だが、マナの次の言葉が、彼女の足を止めた。
「お姉さんを、探しているんでしょう? 渡辺ノドカさんを」
「っ!? なんで、姉さんの名前を!」
「知っていますよ。だってお姉さんは、今、私たちの『お家』で、とっても幸せそうにしていますから」
「お家……!?」
ホノカの顔色がさっと変わった。 やはり、姉は拉致されているんだ。 幸せそう、なんて嘘だ。 きっと洗脳されているか、脅されているに違いない。
「姉さんを返して! どこにいるの!」
ホノカがマナに詰め寄る。 マナは動じず、クスクスと笑った。
「返してほしければ、ついてきなさい。すぐそこですよ」
マナが手招きをし、路地の奥へと歩き出す。 罠かもしれない。 いや、間違いなく罠だ。 でも、姉がそこにいるなら。
「……上等じゃない。乗り込んでやるわよ! 私がお姉ちゃんを救い出すんだから!」
ホノカは拳を握りしめ、マナの後を追った。 その瞳には、姉を救い出すという決意の炎が燃えていた。 その炎こそが、改蔵が待ち望んでいた『最高のスパイス』だとも知らずに。
***
案内されたのは、古びた民家だった。 「ここが……アジト?」 ホノカは拍子抜けした。 もっとこう、怪しげなビルとか、地下施設を想像していたのに。 ただのボロ家だ。表札には『黒野』とある。
「どうぞ。お姉さんがお待ちですよ」
マナが玄関の引き戸を開ける。 ギイ、という音と共に、家の中の空気が流れ出してきた。 それは、甘く、熱く、そしてどこか淫靡な匂いだった。 蚊取り線香の匂いに混じって、濃厚なフェロモンが漂っている。
ホノカは意を決して、土間に足を踏み入れた。
「お姉ちゃん! いるんでしょ! 迎えに来たよ!」
大声で叫ぶ。 靴も脱がずに、奥の部屋へと踏み込む。 そして、彼女は見た。
「あ、ホノカちゃん。いらっしゃい」
居間のちゃぶ台の前。 姉のノドカが、正座をしてお茶を飲んでいた。 無傷だった。 拘束もされていない。 ただ、その格好が異常だった。 男物の、ブカブカのYシャツを一枚着ているだけ。 ボタンは胸の大きさのせいでほとんど留まっておらず、はち切れんばかりの谷間が露わになっている。 そして下は、明らかに何も履いていない。 白い太ももが艶めかしく輝いている。
「お、お姉ちゃん……? その恰好、なに……?」
ホノカは絶句した。
「あ、これ? 神主様にお借りしてるの。楽でいいわよぉ。自分の服だと、胸がきつくて……」
ノドカは、とろけるような笑顔で答えた。 その表情は、ホノカが知っている姉のものとは少し違っていた。 もっと艶っぽく、そしてどこか『満たされた』女の顔。
「ようこそ、妹さん」
部屋の奥から、野太い男の声がした。 万年床の上。 黒野改蔵が、ステテコ姿であぐらをかいていた。 その周りには、ウサギの耳を生やした女や、半裸の女たちが侍っている。 まさに酒池肉林。
「……アンタが、黒幕?」
ホノカは改蔵を睨みつけた。 恐怖で足が震える。 目の前の男は、だらしない格好をしているが、その全身から発せられるオーラは、まるで肉食獣のそれだった。
「お姉ちゃんを、どうするつもり! 洗脳したの!? 返しなさいよ!」
ホノカは叫んだ。 改蔵は、ニヤリと笑い、立ち上がった。 その巨体が、ホノカに影を落とす。
「返すも何も、こいつは自分の意志でここにいるんだぜ?」
「嘘よ! お姉ちゃんは、そんなふしだらな人じゃない!」
「ふしだら、か。違いねえ。……ノドカ、妹に『証拠』を見せてやれ」
改蔵はノドカに目配せをした。 ノドカは、頬を染めて恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに立ち上がった。
「ホノカちゃん。私ね、ここで『メンテナンス』してもらってるの」
「メンテ……ナンス……?」
「うん。胸が、苦しくて、重くて……。でも、神主様に『軽く』してもらうと、とっても気持ちいいの。……ほら」
ノドカは、Yシャツのボタンを一つ外した。 ボロン。 重力から解放された巨大な果実が、弾むように溢れ出た。 その先端は、興奮で赤く色づいている。
「な……っ!」
ホノカは言葉を失った。 大好きだった清楚なお姉ちゃんが。 こんな男の前で、雌の顔をして、自分から肌を晒している。
「ショックか? 妹」
改蔵が一歩近づく。 ホノカは後ずさりしようとしたが、いつの間にか背後にはマナが立っており、退路を塞がれていた。
「だが、お前も『同類』だろ?」
「え……?」
「お前の中にある『欲望』。姉ちゃんみたいになりたい、姉ちゃんを超えたいっていう、ドロドロしたコンプレックス。匂うぜ?」
改蔵の手が、ホノカの小さな顎を掴み、上を向かせた。 至近距離。 男の汗と、タバコの匂い。
「離して! 変態!」
「いい身体してるじゃねえか。姉貴とは違う、未完成の魅力がある。……特にこの、『生意気な乳』はな」
改蔵の大きな掌が、ホノカの胸を鷲掴みにした。 ブラウスの上からでも分かる弾力。 小さい体に凝縮された肉感。
「ひゃっ!? さ、触らないで!」
「お姉ちゃんを助けたいんだろ? なら、お前も『こっち側』に来いよ」
「……っ!」
「姉妹仲良く、俺に可愛がられるってのも、悪くねえぞ? お姉ちゃんと同じこと、してほしくないか?」
悪魔の囁き。 ホノカの頭の中で、警鐘が鳴り響く。 逃げなきゃ。 でも、身体が動かない。 この男の圧倒的な『雄』の気配に、本能がすくみ上っていた。 そして、心のどこかで、囁く声があった。 (もし、私がこの人のものになれば) (お姉ちゃんと、同じになれる?) (お姉ちゃんと、ずっと一緒にいられる?) (私だって、子供扱いされたくない……!)
「さあ、選べ。逃げ帰って姉ちゃんを見捨てるか。それとも、姉ちゃんと一緒に『堕ちる』か」
改蔵の手が、ホノカのブラウスのボタンにかかる。 プチッ。 ボタンが弾け飛ぶ音が、静寂に響いた。 姉のノドカが、後ろで優しく、蕩けるような笑顔で手招きしている。
「ホノカちゃん。怖くないよ。……一緒に、気持ちよくなろう?」
ホノカの瞳から、涙がこぼれた。 それは絶望の涙か、それとも覚悟の涙か。 運命の選択が、彼女の目の前に突きつけられていた。 アジトの夏は、姉妹の情事という新たな熱気を孕んで、さらに温度を上げていくのだった。