※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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4話

 カメレオン怪人が聖剣姫キリハに両断されてから、数日。 悪の組織の黒幕(怪人作成担当)黒野改蔵(くろの かいぞう)のアジトは、今日も変わらず平和だった。 いや、平和というには、少々騒がしいかもしれない。

 

「あ、あ、ああんっ! 改蔵様! だめ、です! そこは、昨日『安定』させたばかりの……!」 「うるせえ。安定ってのはな、毎日メンテしてこそ保たれるもんだろ」 「そ、そんな理屈、訓練校では習って……ひぃいっ!」

 

 古びた六畳間の万年床の上。 朝の光が差し込む中、改蔵はサポート担当の小悪魔マナに、馬乗りになっていた。 昨日までの首席才媛の面影はどこへやら、マナはすっかり改蔵の巨根の虜となり、その身体は「契約の安定」という名の朝のセックスを貪欲に求めていた。 光沢のある黒いレオタードは、もはやその役目を果たしておらず、改蔵の激しい腰の動きに合わせて、白い肌が畳に擦れている。

 

「どうだマナ。この『メンテ』はよお。お前の魔力回路()も喜んでんだろ」 「あ、あああっ! き、喜んで……! びんびんですぅ!」

 

 マナは、完全にイッてしまった目で、改蔵の逞しい胸板に爪を立てる。 彼女の小さな身体が、改蔵の絶倫な魔力供給を受け、ビクビクと愛らしく痙攣した。 改蔵は、その反応に満足げな笑みを浮かべると、さらに深々と、容赦なく「神聖なる儀式」を叩き込んだ。

 

「ああんっ! だめ、だめです改蔵様! そんなに朝から『注入』されたら、私……! 任務(スカウト)に行けなく、なっちゃ……イクううううっ!」

 

 小鳥のさえずりをかき消す、甲高い嬌声。 数分後。 改蔵は、スウェットのズボンを履き直し、すっきりとした顔で居間に向かった。 一方のマナは、布団の上で白目を剥き、手足を小さく震わせたまま、完全に動かなくなっていた。

 

「……はふぅ。今日も、『安定』、完了、です……」

 

 ぜえぜえと肩で息をしながら呟くマナ。 改蔵は、そんなマナを振り返りもせず、台所(と呼ぶのもおこがましい土間)で、適当にヤカンを火にかけた。

 

「おいマナ。ラーメン食うか。味噌と醤油、どっちがいい」 「……しょ、醤油で、お願いします……」

 

 数分後。 居間のちゃぶ台では、Tシャツ姿の改蔵と、よろよろと起きてきたマナが、どんぶりに入ったインスタントラーメンをすすっていた。 壁にかけられた古いブラウン管テレビが、朝のニュースを伝えている。

 

『……先日、駅前広場で保護された縞田チアキさん(二十歳)ですが、怪人に誘拐されていた間の記憶は、一切ないと証言しており……』

 

 画面には、少しやつれた顔のチアキが映っていた。

 

「お、カメレオンじゃん」 「あ、本当です。記憶、無くなっちゃったんですね」

 

 マナが、少し残念そうにラーメンのナルトをつついた。

 

「怪人化の際に受ける魔力ショックで、儀式前後の記憶は封印されるんです。まあ、悪の組織の機密保持(秘密厳守)としては、合理的ですけど」 「ふーん。せっかくあんなにイイ顔でイッてたのによ。もったいねえ」 「改蔵様!」

 

 改蔵の下品な感想に、マナが頬を膨らませる。 その時だった。 マナの懐に入れていた魔術スマートフォンが、けたたましく震えだした。 ホログラム通話ではなく、組織からの定型メッセージだった。

 

「あ、サイトウさんからです」

 

 マナが、ラーメンの汁を飛ばしながら画面を開く。

 

『首領より通達。先日のカメレオン怪人による威力偵察、正義側に動揺を与えたとして高評価である。ついては、黒野黒幕には、間髪入れずに『次』の怪人作成を要請する。首領も大いに期待されている。以上』

 

「……だ、そうです」 「うへえ。高評価かよ。キリハにボコボコにされてたけどな」 「い、いいんですよ! ジャスティンジャーをあれだけ翻弄したんですから! それに、改蔵様の『怪人作成能力』が、首領に認められたんです!」

 

 マナは、自分のことのように興奮している。 だが、改蔵は、残ったスープを飲み干し、面倒くさそうに呟いた。

 

「期待ねえ。要するに、さっさと次の女をヤれって催促だろ。ブラック企業かよ、悪の組織」 「そ、そんなことありません! 光栄なことですよ! さあ、改蔵様、今日も張り切って『儀式』の準備を!」 「はいはい。んじゃ、いつものアレ、頼むわ」 「はいっ! お任せください!」

 

 マナは、食べ終わったどんぶりを改蔵の前に差し出した。

 

「……じゃなくて! 『スキャナー』です!」 「わかってるよ。ノリが悪いなあ」

 

 マナは、ぷんすか怒りながらも、魔術スマホを取り出し、『潜在的怪人因子(ポテンシャル)スキャナー』を起動させた。

 

「えーと、今日の高ポテンシャル素材は……お、出ました! すごい反応です!」

 

 画面が切り替わり、一人の少女の写真が表示された。

 

 ***

 

 日本のどこかにある、高級住宅街。 その一角に、周囲の豪邸と比べても、ひときわ目を引く白亜の御殿がそびえ立っていた。 水玉財閥。 古くからこの国の経済を牛耳ってきた一族の、本邸である。

 

 その二階。 天蓋付きの豪奢なベッドが鎮座する、広すぎる子供部屋。 水玉リン(みずたま りん)は、アンティークなドレッサーの前で、不機一色な顔をしていた。

 

「……」

 

 鏡に映るのは、完璧な美少女。 透き通るような白い肌。ツンと上を向いた勝ち気な鼻。翠色の瞳。 そして、彼女の何よりもの特徴である、物理法則を無視したかのように完璧な巻きを誇る、金髪の縦ロールツインテール。 いわゆる「ドリル」だ。 使用人が、リンの許可もなく部屋に入り込み、紅茶のセットをテーブルに置いた。

 

「リンお嬢様。本日のイングリッシュ・ブレックファスト・ティーでございます」 「……下げてちょうだい。今はそんな気分じゃないわ」 「ですが、奥様から、いつものお時間にと……」 「耳が聞こえないの? 下げて、と言ったのよ!」

 

 リンが、金切り声を上げる。 使用人は、ビクリと肩を震わせ、慌てて紅茶を下げていった。 パタン、と重い扉が閉まる。 部屋に一人残されたリンは、鏡に映る自分の「ドリル」を、忌々しげに掴んだ。

 

「……なんなのよ、これ」

 

 水玉財閥の令嬢、水玉リン。 彼女は、生まれながらにして、すべてを持っていた。 金も、家柄も、誰もが羨む美貌も。 だが、彼女は、心の底から満たされていなかった。 何一つ、不自由のない生活。 それは裏を返せば、何一つ、自分の力で選び取ったものがない、ということだった。

 

 親が決めた服。親が決めた学校。親が決めた友人。 そして、母親の趣味で、物心ついた時から強制され続けてきた、この滑稽なドリルヘアー。 誰もが「素敵なお髪ですわね、リンお嬢様」と褒めそやす。 だが、リンにはわかっていた。 彼らが見ているのは、自分ではなく、「水玉財閥の飾り人形」でしかない。

 

(私の力じゃない。全部、この家の力) (このドリルが、私の象徴だなんて、冗談じゃないわ)

 

 鬱屈していた。 焦燥感が、彼女の胸を焦がしていた。 テレビでは、今日も聖剣姫キリハが、その剣一本で怪人を討伐していた。 ああいうのが、羨ましい。 家柄や親の七光りではなく、自分自身の「力」で、世界と戦っている。

 

(……力) (私だけの、力が欲しい)

 

 この退屈な日常を、この忌々しいドリルごと、すべてを粉砕できるような、圧倒的な力が。 リンは、ギリ、と奥歯を噛み締めた。 その、鬱屈した欲望の波動が、悪魔のスキャナーに感知されていることなど、知る由もなかった。

 

 ***

 

「うお、すげえドリル」

 

 アジトの居間。 改蔵は、魔術スマホに映し出されたリンの写真を見て、感嘆の声を上げた。

 

「本物、初めて見たぞ。どうなってんだ、あの巻き」 「それより、データを見てください、改蔵様!」

 

 マナが、興奮気味に画面を指差す。

 

『水玉リン。十七歳。女子高生。表層意識:完璧主義(プライド)。深層意識:強烈な自己顕示欲、及び、現状破壊願望(鬱屈)

 

「……クソ生意気そうな顔してんなあ」 「はい! この『鬱屈』こそ、高ポテンシャル素材の証です! 彼女の歪んだ自尊心と破壊願望……素晴らしい怪人になる素質があります!」 「こういうプライド高そうなツンツン女がよお」

 

 改蔵は、ニヤリと下品な笑みを浮かべた。

 

「俺の『儀式』で屈服させられて、涙目で腰振る姿を想像すると……たまんねえよな」 「改蔵様!」

 

 マナが、顔を真っ赤にして抗議する。 だが、その瞳は、なぜか改蔵の言葉に同意するように、うっとりと潤んでいた。

 

「あ、あくまで神聖な儀式です! 私情を挟んではいけません!」 「どっちがだよ。ほら、さっさと行ってこい。俺は『儀式』の準備運動でもしてるから」 「準備運動!? ……あ、そ、そうですね! 儀式の精度を高めるためにも、マスターの魔力経路は常に万全(ビンビン)にしておかないと!」

 

 マナは、なぜか自分が期待されたような顔をして、ビシッと敬礼した。

 

「では、マナ、行ってまいります! 最高の『素材』を、必ずや調達してまいります!」

 

 黒い煙と共に、マナの姿が消える。 改蔵は、一人残された居間で、ニヤニヤしながら、魔導書の「あの」ページを眺め始めた。

 

 ***

 

 豪邸の自室。 リンは、窓の外を眺めながら、自らの無力さに苛立っていた。 この窓から見える景色は、完璧に手入れされた庭園だけ。 まるで、美しい鳥かごだ。

 

(……どこか、遠くへ行きたい)

 

 そう思った、その時だった。 コン、コン。 窓ガラスを、外から叩く音がした。 リンは、眉をひそめた。 ここは二階だ。バルコニーもない。鳥がぶつかったのだろうか。 だが、音は、もう一度、はっきりと響いた。 コン、コン。

 

 リンが、警戒しながら窓に近づく。 そして、息を飲んだ。 窓の外。 ありえないことに、空中に、金髪の少女が浮かんでいた。 黒いレオタード。小さな悪魔の翼。

 

「……な」

 

 リンは、驚きのあまり声も出なかった。 少女は、にっこりと微笑み、口をパクパクと動かしている。 リンが、恐る恐る、重い窓のロックを外し、少しだけ開けた。 鈴を転がすような、しかし妙な威圧感のある声が、部屋に流れ込んできた。

 

「ごきげんよう、お嬢様。水玉リンさん、ですね?」 「……貴女、なんなの」

 

 リンは、動揺を必死で隠し、努めて冷静に問いかけた。 目の前の現象は、明らかに人知を超えている。 だが、水玉財閥の令嬢としてのプライドが、彼女に悲鳴を上げることを許さなかった。

 

「私はマナ。悪の組織の使い魔、悪魔です」 「悪魔……」

 

 マナは、フフンと胸を張った。

 

「貴女の『願い』、聞こえましたよ」 「……!」 「『私だけの力が欲しい』『この退屈な日常を破壊したい』。そう、強く願っていましたね?」

 

 すべてを、見透かされていた。 リンは、翠色の瞳を、目の前の小さな悪魔に向けた。

 

「……それが、本当なら。貴女は、私に『力』をくれるというの?」 「話が早くて助かります!」

 

 マナは、訓練校首席の営業スマイルを浮かべた。

 

「ええ、もちろん。貴女のその鬱屈した『渇望』、私たちが解放して差し上げます。貴女を、この退屈な世界を破壊する、最強の『怪人』にして差し上げましょう」 「怪人……」

 

 テレビで見る、あの異形の怪物。 だが、リンの口元には、いつの間にか、不敵な笑みが浮かんでいた。 怪人。 なんと甘美な響きだろうか。 『水玉財閥の令嬢』という、親に与えられた記号ではなく、『怪人』という、自分自身の力。

 

「面白いじゃない」

 

 リンは、フフ、と喉を鳴らした。

 

「いいわ。その話、乗ってあげる」 「えっ」

 

 今度は、マナの方が驚く番だった。 「儀式」の説明も、改蔵様とのセックス(婉曲表現)の説得も、まだ何もしていない。

 

「よ、よろしいのですか? 『儀式』は、結構その……神聖で、過激なものですが……」 「構わないわ。私をここから連れ出しなさい。貴女たちの『力』とやら、この私が、直々に見定めてあげる」

 

 リンは、その完璧なドリルを揺らし、傲然と言い放った。 そのあまりの潔さとプライドの高さに、マナはゴクリと生唾を飲む。 (こ、この人……カメレオンさんとは別の意味で、高ポテンシャルすぎる……!)

 

「りょ、了解しました! では、アジトへ転移します!」

 

 マナが、リンの手を掴む。 一瞬の浮遊感。 次の瞬間、リンが立っていたのは、豪奢な自室ではなく、埃っぽくカビ臭い、古びた民家の土間だった。

 

「……なによ、ここ」

 

 リンは、あまりのギャップに眉をひそめた。 こんな場所が、悪の組織のアジトだというのか。 その時、奥の居間から、気の抜けた声がした。

 

「お、来たか」

 

 Tシャツにスウェット。 寝癖だらけの男が、インスタントラーメンの空き容器を片手に、姿を現した。

 

「……すげえドリルだな。本物、初めて見たぞ」

 

 改蔵は、まるで珍獣でも見るかのように、リンの髪をジロジロと眺めた。 リンの額に、青筋が浮かんだ。 悪魔に、力に、怪人に、と期待していた。 それなのに、目の前に現れたのは、こんな庶民的で、品のない、スケベそうな男。

 

「……なんなのよ、アンタは!」

 

 リンの金切り声が、悪の組織のアジトに響き渡った。

 

「この私が、わざわざ来てあげたのよ! 案内なさい! 責任者を出しなさい!」

 

 高飛車な令嬢の怒声に、改蔵は、ただニヤリと笑うだけだった。

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