※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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44話

 古びた木造アジトに、いつもとは違う清潔な朝が訪れていた。 万年床の六畳間。 そこは相変わらず肉色の欲望が渦巻く場所ではあるが、漂う香りが少し変化していた。 アルコールと体液のむせ返るような匂いに混じり、清涼感のある消毒液と、上品な石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。

 

「おはようございます。定期健診の時間ですよ」

 

 鈴を転がすような、しかし有無を言わせぬ声が響く。 七瀬レンだ。 先日『医療怪人』として覚醒し、悪の組織本部の医療局長に就任した彼女だが、こうして定期的にアジトへ『往診』に来るのが新たなルーティンとなっていた。 彼女は今、極限まで丈を詰めたナース服に身を包み、黒野改蔵(くろの かいぞう)の枕元に跪いていた。

 

「ん……。朝から熱心だな、婦長。本部(むこう)の仕事はいいのか?」

 

 改蔵が重い瞼を開ける。 その視界いっぱいに、レンの慈愛に満ちた笑顔と、はだけた胸元の深い谷間が飛び込んでくる。

 

「ええ。部下に指示は出しておきました。貴方は私の『最重要管理対象』ですから、直接診ないと気が済まないんです」

 

 レンの手が、布団をめくった。 スウェットのズボンがテントのように盛り上がっている。

 

「それに……この下半身の『鬱血』。放置しておくと危険です。直ちに排毒処置を行います」

 

 彼女はゴム手袋をはめた手で、慣れた手つきでズボンを下ろした。 朝の光に晒される改蔵の剛直。 レンはそれを診察するように指先で弾力を確かめ、熱さを測る。

 

「硬度、熱量ともに異常値です。……かわいそうに。私が楽にしてあげますね」

 

 レンは口に含んだ消毒用アルコール(という名のただの度数の高いジン)を、霧吹きのようにプーッと吹きかけた。 ひやりとした冷感と、その後に続くレンの口腔内の熱。

 

「あ、ああんっ! 治療です! これも治療なんです!」

 

 左腕にしがみついていた小悪魔マナが、レンに対抗するように改蔵の腕を胸に押し付ける。

 

「ずるいですレンさん! 週に一度の往診だからって、朝のフェラチオを独占しないでください!」

 

「担当などありません。より高度な医療技術を持つ者が施術を行う。それがトリアージです」

 

 レンはマナを一蹴すると、改蔵の先端を深くくわえ込んだ。 舌先で尿道を刺激し、吸い上げる。 その技術は、医療器具のように正確で、娼婦のように淫らだった。

 

「……んぅ。マスター。あし、なめる」

 

 足元ではサキュバス怪人のメイが、我関せずと改蔵の足指をチュパチュパと吸っている。 右腕の五十嵐イスズは、まだ夢の中なのか、改蔵の二の腕を抱き枕にして幸せそうな寝息を立てていた。

 

「はっ、はっ、はっ……! 抽出完了まで、あと三十秒……!」

 

 レンが頭を激しく振る。 改蔵の腰が浮く。 アジトの朝は、完璧な健康管理(性処理)によって幕を開けた。

 

 ***

 

 賢者タイムの気だるさと、イスズ特製の朝粥の優しさに包まれた昼下がり。 処置を終えたレンがお茶を飲んでいると、マナの魔術スマートフォンが震えた。 サイトウからの定時連絡だ。 ホログラムに映るサイトウは、背景にレンが送り込んだであろう医療用ドローンが飛び交うオフィスにいた。

 

『おはよう諸君。……レン君のおかげで、組織の健康診断受診率が100%になったよ。もっとも、彼女の『強制検診』を恐れて、仮病を使う戦闘員も減ったがな』

 

「それは重畳。で、今日は何の用だ?」

 

 改蔵が縁側で爪楊枝を使いながら尋ねる。 その膝にはメイが乗り、背中はイスズがマッサージをしている。

 

『うむ。実は、ある『廃墟』の調査を頼みたい』

 

「あん?調査は珍しいな」

 

 サイトウが地図データを送信してきた。 表示されたのは、山奥にひっそりと佇む古い洋館だった。 かつては貴族の別荘か、あるいは劇場のようにも見える荘厳な建物だ。

 

『ここは古くから『人形の館』と呼ばれていてな。最近、ここから強力な魔力反応が観測された。それも、二つ同時にだ』

「二つ?」

 

『ああ。まるで鏡合わせのように、全く同じ波長の魔力が二つ。共鳴し合い、増幅している。放置すれば空間が歪みかねないレベルだ』

 

「へえ。面白そうじゃねえか」

 

 改蔵の目が光った。 同じ波長の魔力。共鳴。 それはつまり、互いを求め合い、依存し合う魂があるということだ。 強烈な『渇望』の匂いがする。

 

『現地調査に向かってくれ。もし怪人の素質があるなら確保を。危険なら排除を頼む』

 

「了解だ。ピクニックにはちょうどいい天気だしな」

 

 改蔵は立ち上がった。 膝の上のメイが転がり落ちて「むぅ」と声を上げる。

 

「マナ。行くぞ」

 

「はいっ! お供します!」

 

「私も同行します。患者さんの外出には付き添いが必要です」

 

 レンが名乗りを上げる。

 

「いや、レンは本部に戻れ。医療局長がいつまでもサボってちゃ、サイトウさんが泣くぞ」

 

 改蔵が諭す。

 

「えぇ……。わかりました。今日のところは『往診』終了とします。ですが、無理は禁物ですよ? 帰ったら、また全身消毒(セックス)させていただきますからね」

 

 レンは不満そうに、しかし大人しく引き下がった。 彼女は荷物をまとめると、転送ゲートを通って本部へと帰還していった。

 

「さて、行くか」

 

「はいっ! いざ『人形の館』へ!」

 

 改蔵とマナは、別のゲートを開き、調査へと向かった。

 

 ***

 

 転送ゲートを抜けた先は、鬱蒼とした森の中だった。 湿った苔の匂いと、静寂。 その奥に、蔦に覆われた巨大な洋館が鎮座していた。 入り口の鉄門は錆びつき、『立ち入り禁止』の看板が傾いている。

 

「うわぁ……。雰囲気ありますねぇ。お化け屋敷みたいです」

 

 マナが改蔵の背中に隠れるようにしてあたりを見回す。

 

「お化けなんざ、俺たちの方がよっぽど質が悪いだろ」

 

 改蔵は構わず鉄門を蹴破った。 ガシャアアン! という音が森の静寂を引き裂く。 二人は敷地内へと足を踏み入れた。 洋館の中は、意外にも綺麗だった。 埃は積もっているが、調度品は破壊されておらず、まるで時間が止まっているかのようだ。 広大なエントランスホール。 その中央に、螺旋階段が続いている。

 

「……聞こえますか? 改蔵様」

 

 マナが耳を澄ませる。 微かだが、歌声が聞こえてきた。 高く、澄んだ、少女の声。 いや、一人ではない。 二つの声が、完璧なハーモニーを奏でている。

 

「上か」

 

 改蔵は階段を登った。 歌声は最上階の『音楽室』から聞こえていた。 重厚な両開きの扉。 改蔵はそれを無造作に押し開けた。

 

 ギイィ……。

 

 部屋の中は、ステンドグラスから差し込む光で満たされていた。 グランドピアノが一台。 そして、その前に二人の少女がいた。

 

「……!」

 

 マナが息を呑む。 そこにいたのは、まるでフランス人形のように美しい、瓜二つの少女たちだった。 一人は、月光のような銀髪を縦ロールにし、深い青色のドレスを纏っている。 もう一人は、太陽のような金髪をなびかせ、鮮烈な赤色のドレスを纏っている。 顔立ちは全く同じ。 陶磁器のように白い肌に、大きな瞳。 ただ、その瞳の色だけが違っていた。 銀髪の少女は右目が青、左目が赤。 金髪の少女は右目が赤、左目が青。 左右対称のオッドアイ。

 

 彼女たちは、侵入者に気づくと、歌うのをやめた。 そして、ぴったりと身を寄せ合い、警戒するようにこちらを睨んだ。

 

「……誰? 私たちの聖域(ステージ)に入ってきたのは」

 

 金髪の少女(赤ドレス)が、凛とした声で問う。

 

「……こわい。ルイーズ、こわい」

 

 銀髪の少女(青ドレス)が、金髪の少女の背中に隠れる。

 

「俺か? 俺は観客だよ。随分と綺麗な歌声だったからな」

 

 改蔵は悪びれもせず、部屋に入り込んだ。

 

「観客……? 私たちの歌を、聴いていたの?」

 

 ルイーズと呼ばれた少女が、訝しげに眉をひそめる。

 

「ああ。だが、ちと寂しいな。こんな埃っぽい部屋で、二人だけで歌ってても誰も拍手してくれねえだろ」

 

「……私たちは、二人だけでいいの。二人で一つの世界なの。他人が入る隙間なんてないわ」

 

 ルイーズが強く言い放つ。 その手は、背後の少女の手を痛いほど強く握りしめていた。

 

「そう。マリーと私は一心同体。誰にも邪魔させない」

 

 マリーと呼ばれた銀髪の少女も、震える声で同意する。 マナがスキャナーを向ける。 数値が跳ね上がった。

 

「改蔵様! すごいです! この二人、常時魔力が『循環』しています! お互いの魔力を交換し合い、増幅させている……まさに『共依存』の極致です!」

 

「なるほどな。二人で一つ、か」

 

 改蔵はニヤリと笑った。 彼女たちは人間だ。 だが、その魂はすでに半分ずつ融合しかけている。 世間から隔絶され、二人だけの世界に閉じこもり、互いだけを求め続けた結果。 彼女たちは人間であることをやめ、『双子』という一つの概念になろうとしているのだ。

 

「いいぜ。その歪んだ絆、気に入った」

 

 改蔵が一歩踏み出す。

 

「来るな! 私たちに近づかないで!」

 

 ルイーズが叫び、手をかざした。 すると、部屋にある椅子や楽譜がひとりでに浮き上がり、改蔵に向かって飛んできた。 ポルターガイスト現象。 魔力の暴走だ。

 

「おっと」

 

 改蔵は飛んできた椅子を片手で払いのけた。 バキィッ! 木片が飛び散る。

 

「……っ!? 弾いた!?」

 

 ルイーズが驚愕する。

 

「……うそ。おじさん、つよい」

 

 マリーが目を丸くする。

 

「挨拶代わりにしては手荒だな。だが、そんな玩具じゃ俺は止まらんぞ」

 

 改蔵は止まらない。 無駄にデカい身体はお子様用グッズ程度には揺るがない。その圧倒的な威圧感が、少女たちを壁際へと追い詰めていく。

 

「嫌……! 来ないで! マリー、逃げて!」

 

「だめ! ルイーズと一緒じゃなきゃ、嫌!」

 

 二人は抱き合った。 恐怖と、それ以上の『離れることへの拒絶』。 彼女たちは死ぬことよりも、離れ離れになることを恐れていた。

 

「美しい姉妹愛だな。だが、お前ら、本当にそれで『満たされて』いるのか?」

 

 改蔵の言葉に、二人の動きが止まった。

 

「二人だけの世界。誰も知らないステージ。聞こえの良い言葉だが、要は『孤独』を二人で分け合ってるだけじゃねえか」

 

「……!」

 

 図星だった。 彼女たちは寂しかった。 誰かに見てほしい。 誰かに認めてほしい。 でも、傷つくのが怖いから、二人だけの殻に閉じこもった。 互いを慰め合うことで、その飢餓感をごまかしてきたのだ。

 

「俺なら、お前らのその『殻』をぶち壊してやれるぜ」

 

 改蔵は二人の目の前まで迫った。 その巨大な手が、二人の頭上に伸びる。

 

「もっと広い世界を見せてやる。お前らの歌を、世界中に響かせてやる。そして何より……」

 

 改蔵は獰猛な獣のように笑った。

 

「お前らのその『隙間』を、俺が埋めてやるよ」

 

「隙間……?」

 

「ああ。二人で一つ? 笑わせるな。お前らは二人だ。一人ずつじゃ半人前だが、二人が合わされば最強だ。だが、それをつなぐ『(クサビ)』が必要だろ?」

 

 改蔵の指先が、ルイーズの顎を、そしてマリーの頬を撫でる。 熱い。 火傷しそうなほどの、圧倒的な『陽』の魔力。 冷え切っていた二人の世界に、灼熱の太陽が割り込んできたような感覚。

 

「……熱い。この人、熱いよ、ルイーズ」

 

「……ええ。身体の奥が、痺れるみたい」

 

 二人の瞳が潤み始めた。 彼女たちの共鳴する魔力が、改蔵の魔力に惹かれ、反応している。 第三の因子。 二人だけの閉じた円環を貫き、繋ぎ止める、絶対的な柱。

 

「来いよ。俺の人形(ドール)になれ。寂しさなんて忘れさせてやる。毎日がカーニバルだ」

 

 改蔵が手を差し出す。 左右の手を、それぞれの少女に向けて。

 

「……私たちを、見てくれるの?」

 

 マリーが恐る恐る尋ねる。

 

「ああ。穴が開くほど見てやる。使い潰してやる」

 

「……後悔させないわよね? 私たちは、二人分……いいえ、それ以上に重いわよ?」

 

 ルイーズが強気に、しかし期待を込めて睨みつける。

 

「ハッ。俺を誰だと思ってる。悪の組織の黒幕だぞ? お前らごときの重さ、小指一本で支えてやるよ」

 

 その傲慢さ。 その力強さ。 二人の少女は、顔を見合わせた。 言葉はいらなかった。 双子の魂は、同じ結論を導き出していた。

 

「……わかったわ。貴方の『劇団』に入ってあげる」

 

「……うん。おじさんについていく」

 

 二人は同時に、改蔵の手を取った。 瞬間、部屋中に眩い光が溢れた。 青と赤、そして黒い魔力が混じり合い、螺旋を描いて昇っていく。

 

「契約成立だな」

 

 改蔵は二人を同時に引き寄せ、その華奢な腰を抱いた。 左右に美女。 背徳的な双子。

 

「マナ。撤収だ。新しい『歌姫』のお持ち帰りだ」

 

「はいっ! 素晴らしい収穫です!」

 

 マナが転送ゲートを開く。 双子の少女、マリーとルイーズ。 彼女たちは洋館での孤独な生活を捨て、より騒がしく、より淫らな、悪の組織での生活を選んだ。 彼女たちの『共鳴』が、改蔵という触媒を得てどのような変貌を遂げるのか。 それはまだ、誰も知らない。

 

 ***

 

 アジトの土間。 転送されてきた三人を、エプロン姿のイスズが出迎えた。

 

「おかえりなさい神主様。まあ、可愛らしいお客様ですねぇ」

 

「マスター。また、ひろってきたの?」

 

 メイが改蔵の足にしがみつく。

 

 マリーとルイーズは、初めて見る『他人』たちに、怯えたように改蔵にしがみついた。

 

「……人がいっぱい。こわい」

 

「……フン。どいつもこいつも、品がないわね」

 

 ルイーズが虚勢を張る。 だが、その手は改蔵の服を強く握りしめて離さない。

 

「仲良くしてやれ。今日から家族だ」

 

 改蔵が言うと、イスズは優しく微笑んだ。

 

「ふふ。わかりました。ちょうどおやつの時間ですよ。ホットケーキ、焼けてますからね」

 

「ホットケーキ……?」

 

 マリーの目が輝いた。

 

「……食べる」

 

「あ、マリーったら、卑しいわよ。……でも、少しなら食べてあげてもいいわ」

 

 騒がしい歓迎。 温かい匂い。 二人だけの冷たい洋館にはなかった『熱』が、ここにはあった。

 

「へへ。面白くなりそうだ」

 

 改蔵はニヤリと笑い、双子の頭をポンポンと撫でた。 さて、今夜の『歓迎会(儀式)』はどうしてくれようか。 双子ならではの連携。 共鳴する感度。 想像するだけで、改蔵の股間は疼きを増すのだった。

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