蝉時雨が降り注ぐ、本格的な夏の午後。 古びた木造アジトの庭では、入道雲を背負ったひまわりが暑苦しそうに首を垂れていた。 だが、家の中の『熱気』は、外気温を遥かに上回っていた。
「……んぅっ! 神主様……! お昼から、激しすぎます……!」
六畳間の中央。 万年床の上で、五十嵐イスズが甘い悲鳴を上げていた。 彼女は今、黒野改蔵の下で、その豊満な身体を波打たせている。 汗ばんだ肌と肌が密着し、ペチャリ、ペチャリと淫らな音を立てる。 双子の人形怪人たちが本部へ送られ、アジトには再び『三人』の女たちが残された。 人数が減った分、改蔵の寵愛は密度を増し、一人一人への『割り当て時間』は大幅に増加していた。
「おう。夏バテ防止だ。精つけねえとな」
改蔵はイスズの腰を掴み、容赦なく剛直を打ち付ける。 その表情には、底なしの精力と征服欲が漲っていた。
「ずるいです! 次は私です! 私の番です!」
枕元で順番待ちをしている小悪魔マナが、じりじりと身を乗り出す。 彼女はすでにレオタードを脱ぎ捨て、全裸で待機していた。 その股間は、目の前で繰り広げられる情事への興奮で、ぐっしょりと濡れている。
「……マスター。わたし、ここ」
改蔵の顔の横には、サキュバス怪人のメイが張り付いていた。 彼女は改蔵の耳たぶを甘噛みし、首筋に吸い付きながら、隙あらばその唇を奪おうと狙っている。
「わかってるよ。全員まとめて相手してやるから、大人しく待ってろ」
改蔵は唸り、イスズの最奥へ渾身の一撃を叩き込んだ。
「あ────っ!」
イスズの絶叫と共に、アジトの午後の部、第一ラウンドが終了した。
***
事後。 扇風機がぬるい風をかき回す中、賢者タイムの静寂が訪れていた。 改蔵はランニングシャツ一枚に、腰ゴムの緩んだステテコという、どこにでもいる中年オヤジの格好で、団扇をパタパタと仰いでいる。 その周りには、満足しきった女たちが死屍累々のごとく転がっていた。
「……ふぅ。平和だな」
改蔵は呟いた。 平和だ。 世界征服を企む悪の組織の
その時、マナの魔術スマートフォンが震えた。 サイトウからの定時連絡ではない。 地域情報のニュースアプリの通知だ。
「……ん? なんだこれ」
マナが気だるげに起き上がり、画面を覗き込む。
「『教育実習生の奮闘日記』……? なんですかこれ、ローカルブログ?」
「ああん? なんだそりゃ」
「近所の高校に来ている実習生が、日々の悩みや意気込みを綴っているブログみたいですね。……うわ、アクセス数がすごいです」
マナが画像をタップし、空中にホログラムとして投影した。 そこに映し出された写真を見て、改蔵の目が釘付けになった。
「……ほう」
写真の中の女性。 前島マイ(まえしま まい)。 黒板の前に立ち、チョークを持って緊張した面持ちでこちらを見ている。 黒髪をきっちりと後ろでまとめ、銀縁の眼鏡をかけた知的な顔立ち。 いかにも真面目そうな教育実習生だ。 だが、改蔵の視線が捉えたのはそこではない。 彼女が身につけているリクルートスーツだ。 明らかにサイズが合っていない。 ジャケットのボタンは胸のボリュームに耐えかねて弾け飛びそうで、タイトスカートは豊満すぎるヒップと太ももにパツパツに張り付いている。 生地が悲鳴を上げているのが写真越しでもわかるほどだ。 真面目な顔と、淫らな身体。 そのアンバランスさが、強烈な色香を放っていた。
「いいケツしてんじゃねえか」
改蔵がニヤリと笑った。 求めていた『刺激』が、そこにあった。
「データ解析の結果……ド天然です。真面目すぎて、自分の身体の破壊力に無自覚なタイプですね」
マナが補足する。
「念のため、いつもの『魔術スキャナー』で内面のポテンシャルも解析しておきますね」
マナが画面をスワイプし、解析アプリを起動した。 ピピピ、という電子音と共に、ホログラムのマイの身体に幾つものグラフとキーワードが赤く浮かび上がる。
「……うわぁ。これ、見てください改蔵様。数値が振り切れてます」
「あ? なんだこりゃ」
「検出された因子は『厳格な指導』『過剰な締め付け』そして『逃れられない束縛』です!」
マナが興奮気味に解説する。
「生徒を校則やルールでガチガチに縛りたいという教師としての欲求が、自身のパツパツのスーツによる物理的な圧迫感とリンクして、『獲物を長い身体で締め上げたい』という蛇の捕食本能に変換されています! 適合する怪人タイプは『ラミア』! 獲物を丸呑みにする大蛇です!」
「なるほどな。真面目な先生が、生徒の視線に悩みながら、それでも厳しく振る舞おうとする……」
改蔵は想像した。 パツパツのスカートで教壇に立ち、チョークを拾おうとして屈んだ瞬間の、スカートの張り詰める音。 生徒を叱りながら、興奮で顔を赤らめる様子。 そして、その『先生』という殻を、俺の手で内側からこじ開けてやったら、どんな顔をするだろうか。
「マナ。コイツだ」
改蔵は指を鳴らした。
「え?」
「次の『素材』だ。この先生を、俺たちの
「は、はいっ! 承知しました!」
マナが慌てて起き上がり、敬礼する。 改蔵の目に宿る光を見て、彼女もまた興奮を覚えたようだ。 新たな獲物。 新たな快楽の予感。
「イスズ、メイ。準備だ。お客様が来るぞ」
改蔵が声をかけると、まどろんでいた二人もパチリと目を覚ました。
「あら、新しいお友達ですか? お茶とお菓子を用意しなきゃ」
「マスター。わたしも、あそんでいい?」
アジトの空気が、けだるい日常から、獲物を待ち受ける狩人のそれへと変わっていく。
***
夕暮れ時。 県立高校の職員室。 前島マイは、一人残って日誌を書いていた。 カツカツとペンを走らせる音が響く。 彼女は溜息をついた。
「……はぁ。今日も上手くいかなかった」
マイは眼鏡の位置を直した。 今日の授業中、また男子生徒たちがざわついていた。 黒板の高い位置に文字を書こうとして背伸びをした時、教室中が静まり返り、熱っぽい視線が背中に集中するのを感じたのだ。 振り返ると、男子たちは慌てて目を逸らす。
(私の授業、そんなにつまらないのかな……)
彼女は自分の容姿に無頓着だった。 安月給の実習生ゆえ、大学入学時に買ったスーツを無理やり着続けていることが原因だとは、夢にも思っていない。 ただひたすらに、教師としての威厳が足りないのだと思い込んでいた。
「もっと厳しくしないと。生徒を管理して、指導して、立派な大人にしないと」
彼女は自分に言い聞かせた。 その瞳には、真面目さゆえの『支配欲』にも似た歪んだ炎が灯っていた。 生徒を思い通りに動かしたい。 自分の言葉で縛り付けたい。 それは教師としての責任感だが、一歩間違えれば危険な『怪人』の資質でもあった。
「よし。帰って明日の教材研究をしなきゃ」
マイは立ち上がった。 その瞬間。 ビリッ。 嫌な音がした。 スカートのスリットが、限界を超えて少しだけ裂けた音だ。
「えっ……!?」
マイは顔を真っ赤にしてスカートを押さえた。 誰もいなくてよかった。 こんなところを見られたら、教師の威厳もへったくれもない。
「……サイズ、合わなくなってきたのかな」
彼女は恥じらいながら鞄を持った。 廊下に出る。 夕日が差し込み、校舎は茜色に染まっている。 誰もいないはずの廊下。 だが、その突き当たりに、人影があった。
「……誰?」
逆光で顔が見えない。 小柄な影だ。 生徒だろうか。
「そこの生徒。もう下校時間は過ぎていますよ。早く帰りなさい」
マイは教師らしく、厳格な口調で注意した。 影がゆっくりと近づいてくる。 黒いレオタード。 背中には小さな羽。 生徒ではない。
「こんばんは、先生」
影の主……小悪魔マナが、にっこりと微笑んだ。
「貴女に『特別補習』のお知らせに来ました」
「と、特別補習……? あなた、部外者ですね? ここに入ってはいけません!」
マイは後ずさりした。 本能的な警鐘が鳴り響く。 この少女は危険だ。
「ふふ。先生、とってもいい『教材』をお持ちですね」
マナの視線が、マイのパツパツのヒップに注がれる。
「その張り詰めたスーツの下に、どんな淫らな本性が隠されているのか……。うちの
「な、何を言って……! 不審者として通報しますよ!」
マイがスマホを取り出そうとする。 だが、マナの方が早かった。
「課外授業の時間です! 転送!」
マナが指を鳴らす。 マイの足元に魔法陣が展開された。
「きゃあっ!? なにこれ!?」
「さあ、行きましょう。貴女の『本当の生徒たち』が待つ場所へ!」
黒い光がマイを飲み込む。 悲鳴と共に、彼女の姿は学校から消え失せた。 残されたのは、床に落ちた一本のチョークだけだった。
***
ドサッ。 アジトの土間に、マイが転がり落ちてきた。 衝撃で眼鏡がずれ、スカートがめくれ上がる。 露わになる黒いストッキングと、ムチムチの太もも。
「いっ……! ここは……!?」
マイは慌ててスカートを直しながら周囲を見渡した。 古びた日本家屋の土間。 カビと土の匂い。 そして目の前には、一人の男が仁王立ちしていた。 黒野改蔵。 彼はヨレヨレのランニングシャツにスウェットという、ひどくラフでだらしない格好をしていた。 片手には飲みかけのビールの缶、もう片手でボリボリと腹を掻いている。 だが、そのだらしない外見からは想像もつかないほど、彼自身の肉体は岩のように分厚く、そして巨大だった。 特にスウェットの股間部分は、布地が悲鳴を上げるほどに盛り上がり、凶悪な存在感を放っている。
「ようこそ、前島先生。お待ちしてたぜ」
改蔵はマイを見下ろし、値踏みするように視線を舐め回した。 その目は、教育者が生徒を見る目ではない。 肉屋が上等な肉を見るような、あるいは雄が繁殖相手を見るような、不躾で貪欲な目だった。
「あ、あなた……誰ですか!? 私を誘拐して、どういうつもり!?」
マイは震える声で叫んだ。 恐怖。 だが、それ以上に彼女を襲ったのは、目の前の男から発せられる圧倒的な『雄』のオーラだった。 生徒たちとは違う。 同僚の教師たちとも違う。 暴力的で、理不尽で、そして抗いがたい魅力を持った『オス』。
「誘拐? 人聞きが悪いな。俺は『教育委員会』の特別査察官だよ」
改蔵は嘘八百を並べながら、一歩ずつ近づいていく。 ドス、ドスと床が軋む。
「お前の指導方針に問題があるって通報があってな。特にその……服装の乱れについてだ」
改蔵の手が伸びる。 マイの肩を掴み、強引に引き寄せる。
「きゃっ! は、離して! 私は真面目にやってます!」
「真面目? そのパツパツのケツでか?」
改蔵の手が、マイの尻を鷲掴みにした。 スーツ越しに伝わる、弾力と熱。
「ひゃうっ!?」
マイの身体がビクリと跳ねる。 教師として、誰にも触らせたことのない聖域。 そこを、こんな粗野な男に蹂躙されている。
「い、いけません! セクハラです! 訴えます!」
「ハッ! 訴えられるもんならやってみな。だがその前に……」
改蔵はマイを抱え上げ、奥の土蔵へと歩き出した。 まるで米俵でも運ぶかのような軽さだ。
「お前には『個人指導』が必要だな。俺がたっぷりと、大人の教育ってやつを教えてやるよ」
「いやぁぁぁ! 降ろして! 生徒たちが待ってるのよ!」
「安心しろ。これからお前は、もっと大勢の『下僕』たちを指導することになるんだからな」
土蔵の扉が開く。 そこには怪しげな魔法陣と、それを囲むようにして待機するマナ、イスズ、メイの姿があった。 彼女たちはニタニタと笑いながら、新たな
「観念しな、先生。今夜の授業は長いぜ?」
扉が閉まる。 教育実習生・前島マイの、長く激しい夜が始まろうとしていた。 彼女の奥底に眠る『支配欲』と『被虐願望』。 それが改蔵の手によって暴かれた時、彼女は恐るべき怪人へと変貌することになる。