※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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51話

 真夏の太陽が容赦なく降り注ぐ午後。 古びた木造アジトの居間では、けだるい熱気と共に、ピコピコという電子音が延々と響き渡っていた。 扇風機がぬるい風をかき回す中、黒野改蔵は畳の上で大の字になり、その腹の上には一人の少女が乗っていた。 小悪魔マナだ。 彼女は極小面積の黒いビキニ(暑いからという理由で着替えた)姿で、改蔵の腹をクッション代わりにし、手にしたスマートフォンを凄まじい速度で連打している。

 

「あーもう! そこでスキル撃たないでくださいよ! ヒーラーが先に落ちたら全滅じゃないですか!」

 

 マナが画面に向かって文句を垂れる。 彼女の指先は残像が見えるほどの速さで動き、画面上のキャラクターたちに指示を飛ばしている。

 

「おいマナ。いつまでやってんだ。腹が重いぞ」

 

 改蔵がマナの腰を軽く叩く。 むにゅん、とした柔らかい感触。 だがマナは振り返りもしない。

 

「今、レイドバトルの救援中なんです! このボス、ドロップ率が激渋なんですから、一回も無駄にできません!」

 

「レイドだかドロップだか知らねえが、たかがゲームだろ」

 

「たかがゲームじゃありません! これは『生活』です! ログインボーナスを取り逃がすことは、人生の損失と同じです!」

 

 マナが鼻息を荒くして力説する。 魔界の首席卒業生であり、高度な魔術を操る彼女が、今は人間界のソーシャルゲームにどっぷりと浸かっている。 その順応性の高さには呆れるばかりだ。

 

「ふうん。デジタルの女に入れ込むなんざ、健全じゃねえな」

 

 改蔵は興味なさそうにあくびをした。 彼はアナログ人間だ。 画面の中の美少女よりも、目の前にある生身の(そして汗ばんだ)女体の方が百億倍価値があると思っている。

 

「ほら、邪魔だ」

 

 改蔵はマナのビキニのボトムに指を掛け、食い込ませるように引っ張り上げた。

 

「ひゃうっ!? 改蔵様、やめてください! コンボが途切れます!」

 

「俺のコンボも途切れそうだっつーの」

 

「んもう! 後でたっぷり相手してあげますから! 今はこの『虚無周回』を終わらせてください!」

 

 マナは身をよじりながらも、決してスマホから目を離さない。 その執念たるや、ある意味で見上げたものだった。

 

「……マスター。わたし、ひま」

 

 足元で、サキュバス怪人のメイがゴロゴロと転がってきた。 彼女は暑さで伸びた猫のように、床にぺたりと張り付いている。

 

「イスズは買い物に行っちまったしな。……マナが終わるまで、俺と遊ぶか?」

 

「あそぶ。……でも、あつい。うごきたくない」

 

 メイはぐったりと呟きながらも、その顔はすでに改蔵の股間に埋まっていた。 身体は暑さで溶けたスライムのように畳に張り付いてピクリとも動かないが、口だけは別だった。 ジュル、チュプ、ジュプ……。 湿った水音だけが静かに、そして絶え間なく響く。 彼女は動くのを放棄しつつも、口内に招き入れた改蔵のモノを、舌先だけで巧みに転がし、吸い上げ続けているのだ。 サキュバス怪人としての本能が、暑さによる倦怠感すらも性欲(食欲)へと変換している。 額からダラダラと汗を流し、目はトロンと半開き。 その姿は端から見れば熱中症寸前だが、その口元だけは貪欲な捕食者のそれだった。

 

 今年の夏は暑すぎる。 エアコンのないこのアジトでは、激しい運動(セックス)をするにも気合が必要だが、この『動かざる奉仕』ならば、延々と続けられるらしい。

 

「だらしない連中だな。……まあいい、俺も少し寝るか」

 

 改蔵は諦めて目を閉じた。 平和だ。 刺激的な怪人製造の日々が過ぎ去り、今は凪のような時間が流れている。 だが、改蔵の勘が告げていた。 この退屈な時間は、次の『獲物』が現れるまでの充電期間に過ぎないと。

 

 ***

 

 同時刻。 駅前の雑居ビルにある、薄暗いネットカフェ。 タバコの煙とカップラーメンの匂いが染み付いたその狭い個室ブースに、一人の少女がうずくまっていた。

 

「……あー。死んだ。また死んだ」

 

 桐藤ネム(きりふじ ねむ)は、死んだような目でモニターを見つめていた。 彼女はゲーミングチェアの上で膝を抱え、だぼだぼのグレーのパーカーに身を包んでいる。 フードを目深に被り、その下から覗く髪はボサボサで、目の下には濃いクマが刻まれていた。 典型的な、生活リズムの崩壊した『ダウナー系女子』だ。

 

 彼女の目の前にあるモニターには、FPSゲームの画面と、配信用のコメント欄が表示されている。 だが、コメント欄は凍りついたように動かない。 視聴者数、3人。

 

「……ねえ。誰か見てる? 生きてる?」

 

 ネムがボソボソとマイクに囁く。 反応はない。 彼女はため息をつき、フリードリンクのコーンポタージュを啜った。 ぬるい。 そして薄い。

 

「はぁ……。お腹すいた」

 

 ネムはパーカーのポケットを探った。 出てきたのは、十円玉が数枚と、丸まったレシートだけ。 財布の中身は空っぽだ。 所持金、三十五円。 このネットカフェのパック料金も、あと一時間で切れる。

 

「詰んだ……。ガチで詰んだ」

 

 彼女は天井を見上げた。 家出をして一ヶ月。 親の財布から抜いた金も底をつき、ここ数日はネットカフェを転々とする生活を送っていた。 働きたくない。 学校に行きたくない。 人と関わりたくない。 ただ、薄暗い部屋でゲームだけして生きていたい。 そんな怠惰な願いは、現実という壁の前に粉砕されようとしていた。

 

「誰か……養ってくんないかなぁ」

 

 ネムは独り言を漏らした。 配信のタイトルを『誰か養って。何でもするとは言わないけど』に変更してみる。 視聴者が一人増えたが、すぐに「ブス」「働け」というコメントを残して去っていった。

 

「うっさいわね。働くくらいなら餓死するわよ」

 

 ネムは悪態をつき、椅子の上で丸まった。 パーカーの裾から、ジャージのズボンと、健康的な素足が覗く。 不摂生な生活をしている割に、彼女の肌は白く、身体つきも妙に肉感的だった。 特に、だぼだぼの服の下に隠された胸や腰つきは、男好きのする柔らかさを持っているのだが、本人はその価値に気づいていない。 あるいは、気づいていても活用する気力すらないのか。

 

「……眠い。このまま永眠したい」

 

 ネムは目を閉じた。 彼女が求めているのは、活動的な生ではない。 ただ静かに、誰かに守られながら、蜘蛛の巣にかかった獲物を待つ捕食者のように、じっとしていたいのだ。 動かずに、口を開けていれば、誰かが餌を運んできてくれる。 そんな都合のいい『飼い主』を、彼女は心の底から渇望していた。

 

 ピロン。 不意に、彼女のスマホが通知音を鳴らした。 何かのアプリの通知だろうか。 確認するのも面倒くさい。 だが、その通知音は、遠く離れたアジトにいる『悪魔』の耳にも届いていた。

 

 ***

 

 アジトの居間。 ゲームに没頭していたマナの手が、ピタリと止まった。

 

「……ん?」

 

「どうした。またガチャ爆死か?」

 

 改蔵が片目を開ける。

 

「違います。スキャナーに反応がありました。……微弱ですが、すごく『粘着質』な波長です」

 

 マナはゲームを中断し、魔術スキャナーのアプリを起動した。 画面上の地図、駅前エリアに、ドロドロとした灰色の光点が明滅している。

 

「場所は……駅前のネットカフェですね。解析します」

 

 マナが指を走らせる。 空中にホログラムウインドウが展開され、店内の防犯カメラの映像(ハッキング済み)が映し出された。 そこには、薄暗いブースで死体のように丸まっている少女、ネムの姿があった。

 

「うわぁ……。見事なまでの『陰』のオーラですね」

 

 マナが顔をしかめる。

 

「目の下のクマ、ボサボサの髪、そしてこの脱力感。……生気が全く感じられません」

 

「死んでんのか?」

 

「いえ、生きてます。ただ……『生きたくないけど死にたくない』『誰かに寄生して生きたい』という、強烈な『怠惰』と『依存』の波動を出しています」

 

 マナがデータを読み上げる。

 

「渇望パラメータ……『養われたい』『動きたくない』『拘束されたい』。……改蔵様、これはある意味、逸材かもしれません」

 

「ほう。動きたくない、か」

 

 改蔵は興味深そうに身を起こした。 今まで相手にしてきた女たちは、皆エネルギーに溢れていた。 生徒を指導したい教師、患者を管理したいナース、歌いたい双子。 だが、この少女は違う。 エネルギーが内側に向かって沈殿している。 その澱んだ欲望は、扱いようによっては面白い『毒』になるかもしれない。

 

「それに、見てください。この服の下」

 

 マナが映像を拡大し、透視モードに切り替える。 だぼだぼのパーカーの下には、意外なほど豊かな胸と、むっちりとした柔肌が隠されていた。

 

「宝の持ち腐れですねぇ。こんなにいい身体をしているのに、本人は全く手入れをしていない。……磨けば光る、というより、汚したまま犯したくなるような『原石』です」

 

「へえ。わかってるじゃねえか」

 

 改蔵がニヤリと笑った。 不健康で、だらしなくて、やる気がない。 そんな女を、無理やりこじ開け、快楽漬けにして、俺なしでは生きられない身体にする。 その背徳感に、改蔵の股間が反応した。

 

「よし。マナ、出番だ」

 

「はいっ! スカウトですね!」

 

「ああ。その薄汚い野良猫……いや、野良蜘蛛か。ウチで飼ってやることにしよう」

 

「承知しました! ちょうどゲームのスタミナも切れましたし、一仕事してきます!」

 

 マナはビキニ姿のまま立ち上がり、黒いレオタードへと一瞬で変身(装備変更)した。

 

「メイ。お前も来るか?」

 

「いく。……あたらしいペット、みる」

 

 メイもむっくりと起き上がる。 彼女の野生の勘が、新たなライバルの出現を予感していたのかもしれない。

 

 ***

 

 ネットカフェのブース。 ネムは浅い眠りの中にいた。 夢を見ていた。 柔らかいベッドの上で、何もせずに、ただ甘い蜜を舐めさせてもらう夢。 そこには顔の見えない『ご主人様』がいて、ネムの頭を優しく撫でてくれている。

 

「……んぅ。もっと……」

 

「もっと? 何が欲しいんですか?」

 

 不意に、頭上から声が聞こえた。 夢の中の声ではない。 もっとクリアで、悪戯っぽい少女の声。

 

「……え?」

 

 ネムは重い瞼を開けた。 そこには、狭いブースには不釣り合いな、黒いレオタード姿の美少女が浮いていた。 背中には小さな悪魔の羽。 幻覚だろうか。 お腹が空きすぎて、ついに頭がおかしくなったのか。

 

「こんにちわ、お姉さん。随分と居心地が悪そうですね」

 

 マナがニコニコと笑いかける。

 

「……誰? 店員さん? 延長料金なら、ないよ」

 

 ネムは力なく答えた。

 

「いいえ。私は『スカウト』です。貴女のような、才能あふれる『怠け者』を探していたんです」

 

「才能……? 煽ってんの?」

 

「まさか。貴女のその『誰かに寄生したい』という強い願い……私たちのボスなら、叶えてあげられますよ」

 

 マナが手を差し出した。

 

「衣食住完備。労働の義務なし。必要なのは、ボスの『ペット』として可愛がられることだけ。……どうですか?」

 

 ネムの目が少しだけ開いた。 労働なし。 衣食住完備。 それは彼女が夢にまで見た理想郷の条件だ。

 

「……怪しい。新手の宗教? それとも風俗?」

 

「まあ、似たようなものです。でも、ここ(ネットカフェ)で干からびるよりは、ずっとマシな未来をお約束します」

 

 マナの言葉は、甘い毒のようにネムの耳に入り込んだ。 断る理由はなかった。 ここにはもう、居場所はないのだから。

 

「……ご飯、出る?」

 

「はい。とっても美味しいご飯と、極上の『デザート』が出ます」

 

「……ネット回線は?」

 

「世界最高峰の回線速度をご用意します」

 

「……じゃあ、行く」

 

 ネムはマナの手を取った。 その手は冷たく、そして少し汗ばんでいた。

 

「契約成立ですね。桐藤ネムさん」

 

 マナが指を鳴らす。 ブースの床に、魔法陣が浮かび上がった。

 

「ちょ、何これ……!?」

 

「転送ゲートです。さあ、行きましょう。貴女の新しい『飼い主』が、首輪を持って待っていますよ」

 

 黒い光が溢れ出す。 ネムは驚く気力もなく、その光に身を委ねた。 どうせ詰んだ人生だ。 悪魔に魂を売るのも、悪くないかもしれない。 薄れゆく意識の中で、彼女はそんなことを考えていた。

 

 ***

 

 アジトの土間。 黒い光と共に、パーカー姿の少女が転がり落ちてきた。 受け身も取らず、ドサリとゴミ袋のように倒れ込む。

 

「……いった」

 

 ネムが呻く。 その視線の先に、一人の男の足があった。 スウェットのズボンに、素足。 彼女は視線をゆっくりと上げていった。 太もも、股間の膨らみ、そして……凶悪な笑みを浮かべた顔。

 

「よう。随分と活きのいい死体だな」

 

 黒野改蔵が、面白そうにネムを見下ろしていた。

 

「……あんたが、飼い主?」

 

 ネムは寝転がったまま尋ねた。 起き上がるのも面倒くさい。

 

「ああ。ここが今日からお前の巣だ。好きに使っていいぞ」

 

「……ふーん。ボロいね」

 

「中身は極楽だぜ。……おいイスズ、飯だ。コイツに何か食わせてやれ」

 

「はいはい。お腹空いてるでしょう? すぐにお粥作りますね」

 

 奥からエプロン姿の美人が出てきた。 優しそうな匂い。

 

「……お粥。食べる」

 

 ネムのお腹がグゥと鳴った。 改蔵は笑い、しゃがみ込んでネムの頭を鷲掴みにした。

 

「食ったら、代金を払ってもらうぞ」

 

「……お金、ない」

 

「金なんかいらねえよ。お前のその『身体』で払ってもらう」

 

 改蔵の手が、パーカーの上からネムの胸を揉みしだいた。 無遠慮で、乱暴な手つき。 だが、不思議と嫌ではなかった。 むしろ、誰かに触れられるという感覚が、冷え切っていた彼女の身体に熱を灯した。

 

「……ん。……好きにして、いいよ」

 

 ネムは抵抗しなかった。 されるがまま。 それが彼女の生きる術であり、彼女の『因子』だった。

 

「いい心がけだ。たっぷりと可愛がってやるから覚悟しな」

 

 改蔵はネムを小脇に抱え上げた。 荷物のように軽い。

 

「マナ、準備だ。今夜は『蜘蛛』の巣張りといこうぜ」

 

「はいっ! ネットの海から捕獲した獲物を、魔力で縛り上げましょう!」

 

 アジトに新たな住人が加わった。 怠惰で、ダウナーで、そして誰よりも快楽に溺れやすい素質を持った少女。 彼女が『アラクネ怪人』として覚醒するのは、そう遠くない未来の話だ。 今はただ、温かいお粥と、改蔵の体温に包まれて、久しぶりの安眠を貪るだけである。

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