「……なんなのよ、アンタは!」
埃っぽい土間に、水玉リン(みずたま りん)の甲高い金切り声が響き渡った。 彼女の完璧に手入れされたエナメルの靴が、薄汚れた床を汚物でも踏んだかのように忌々しげに睨んでいる。
「この私が、わざわざ来てあげたのよ! 案内なさい! 責任者を出しなさい!」
自らの屋敷の、広大な玄関ホールとは似ても似つかぬ、カビ臭いボロ屋。 そして、目の前に立つ、Tシャツにスウェットという、およそ品性のかけらもない男。 悪魔のアジト。最強の力。 その言葉から想像していたものとの、あまりのギャップ。 リンのプライドは、すでに沸点に達していた。 だが、その怒声を受けた男、黒野改蔵(くろの かいぞう)は、気怠そうに耳をほじるだけだった。
「あー、うるせえ。責任者っつーか、黒幕なら俺だが」 「……は?」
リンの、翠色の瞳が、驚愕に見開かれる。 この、下民。 この、そこらのコンビニで立ち読みしていそうな男が、黒幕。
「ふ、ふざけないで! 私を誰だと思っているの! 水玉財閥の……!」 「ああ、そう。金持ちのお嬢様なんだろ」
改蔵は、リンの言葉を遮った。 その態度は、リンが生まれてからずっと向けられてきた「畏怖」や「へつらい」とは、まったく無縁のものだった。 ただ、純粋に「面倒くさい」という感情だけが、その目に浮かんでいる。
「帰れば? 無理にとは言ってねえよ。俺も暇じゃねえんだ」 「なっ……!」
リンは、言葉に詰まった。 帰れ。 この男は、水玉財閥の令嬢である自分を、あっさりと「帰れ」と言った。 それは、リンにとって未知の屈辱だった。 だが、それと同時に、胸の奥で、あの鬱屈した焦燥感が再び燃え上がる。 (……帰る?) (帰って、どうするの) (あの、完璧に整えられた鳥かごに、また戻るの?) (そして、明日も、明後日も、親の決めた『私』を演じ続けるの?) 嫌だ。 それだけは、絶対に。
「……待ちなさい」
リンの声は、怒りとは別の何かが混じり、震えていた。
「『力』をくれると言ったわね。それは、どういうことか、きちんと説明なさい」
その必死さを、改蔵は見逃さなかった。 ニヤリと、捕食者の笑みが浮かぶ。 彼は、何も言わずに、傍らの薄汚れた畳の上に置いてあった、あの黒い魔導書を掴んだ。 そして、まるで古雑誌でも投げるかのように、リンに向かって放り投げた。
「ひゃっ!?」
リンは、咄嗟にそれを受け止める。 黒い革の表紙。不気味な感触。 おそるおそるページを開いたリンの顔が、次の瞬間、カッと真っ赤に染まった。
「な、な、な……!」
そこにあったのは、魔法陣の中で、裸の男女が獣のように交合している、およそ下品極まりない挿絵だった。
「ば、馬鹿にしてるのっ!?」
リンは、魔導書を床に叩きつけた。
「私に、こんな、春画まがいのものをやれと!?」 「いや、だから! 神聖な『儀式』です!」
なぜか、サポート担当の小悪魔マナが、顔を真っ赤にして必死に弁解を始めた。
「リン様の心の奥底にある、鬱屈した『破壊願望』! それを、この改蔵様の、莫大で濃密な『魔力』によって刺激し、解放するのです!」 「……どういう、ことよ」 「要するに」
改蔵が、面倒くさそうに割り込んだ。
「俺とセックスするんだよ」 「なっ……!」 「その挿絵の通り、俺の魔力(チンポ)を、お前の子宮に直接ぶち込む。そうすりゃ、お前のその鬱屈したモンが『力』に変わって、お前は怪人になれる。そういうこった」
あまりにも、直接的。 あまりにも、下品。 リンは、怒りでわなわなと震えた。
「……最低」 「ああ、最低だ。で、どうする? やるのか、やらないのか」
改蔵の目が、リンを射抜く。 それは、彼女のプライドも、家柄も、美貌も、何もかもを通り越して、その奥にある『欲望』だけを真っ直ぐに見つめる、どうしようもなくスケベな目だった。 リンは、ギリ、と奥歯を噛み締めた。 この男に、抱かれる。 この、下民に。 水玉リンとしての、すべてが汚される、絶対的な屈辱。
だが。
(……力が欲しい、あの退屈な日常を、この忌々しいドリルごと、粉々にする力が)
屈辱と渇望。 二つの相反する感情が、リンの中で激しくぶつかり合う。 数秒の沈黙。 やがてリンは震える手で自らの制服の第一ボタンに手をかけた。
「……いいわ」 「えっ」 「やってあげる。その、下品な『儀式』とやら」
リンは、顔を上げ、改蔵を睨みつけた。 その翠色の瞳は、屈辱ではなく、新たな決意の炎に燃えていた。
「ただし」
彼女は、ゆっくりと、一つ、また一つとボタンを外していく。 白い肌が、薄暗い土間に晒されていく。
「この私を、満足させられなかったら……」
スカートのホックが外れ、床に落ちる。
「ただじゃおかないわよ、この下民!」
***
場所は、昨日と同じ、埃っぽい土蔵だった。 中央には、淡く紫に光る魔法陣。 その中央に、リンは、生まれ持ったままの姿で立たされていた。 完璧なまでに美しい、白い肌。 華奢だが、女性らしい曲線を描く肢体。 そして、そのアンバランスな頭部を飾る、巨大な金髪のドリルツインテール。 それが、彼女に残された、最後のプライドの象徴だった。
「さあ、儀式の開始です!」
蔵の隅で、マナが興奮した様子で魔導書を構え、詠唱を始めた。 改蔵もまた、服を脱ぎ捨てていた。 その、男としての威容を目の当たりにし、リンの白い肌が、恐怖に粟立った。
「な……なに、それ……」
教養として、知識としては知っていた。 だが、本物の、それも、あんな規格外の『暴力』を、彼女は見たことがなかった。
「……いくぞ、お嬢様」 「ま、待ちなさい! 下民のくせに、私に触れ……!」
リンの制止は、無意味だった。 改蔵は、リンの華奢な身体を、まるでゴミ袋でも扱うかのように無造作に掴み、魔法陣の中央に押し倒した。 冷たい床の感触と、埃の匂いに、リンの頭が真っ白になる。
「や……いやっ!」
抵抗する間もなく、改蔵はリンの足を開き、その中心に、自らの『力』を押し当てた。 リンが、水玉財閥の令嬢として、誰にも汚されたことのない、聖域。 そこに、下民の熱い鉄杭が容赦なくねじ込まれていく。
「い、いああああああああっ!」
裂けるような痛み。 リンの絶叫が、蔵の中に響き渡った。 涙が、翠色の瞳から、ぼろぼろとこぼれ落ちる。
「痛い! 痛い! 抜いて! この、下衆が!」 「うるせえ。お前が望んだんだろ。『力』が欲しいってな」
改蔵は、一切の躊躇なく、その巨体を動かし始めた。 ガツン、ガツン、と、リンの身体の奥の、一番柔らかい場所を、無慈悲な質量が抉っていく。 水玉財閥の令嬢としての、完璧なプライド。 それが、今、この薄汚い蔵の中で下品な男の腰使いによって粉々に打ち砕かれようとしていた。
「あああああっ! やめ、やめて……! 私は、水玉、リン……!」 「ああ? 聞こえねえな」
改蔵はその巨大なドリルを、まるで嘲笑うかのように激しく腰を振り続けた。 マナが、恍惚とした声で実況している。
「ああっ! 始まりました! リン様の、高くそびえ立つプライドの『殻』が! 改蔵様の、圧倒的な魔力(ペニス)によって、粉砕されていきます!」
(いや……いや……!)
リンは、必死で抵抗しようとした。 だが、その時。 痛みと屈辱の中に、異質な『熱』が流れ込んできた。
「あ……? なに、これ……?」
魔法陣が、眩い紫電の光を放ち始めた。 改蔵の巨根を通じて、膨大な『魔力』が、リンの子宮に直接流れ込んでくる。 痛みが、熱に変わる。 屈辱が、快感に塗り替えられていく。
「あ、あ、あつい……! なにか、身体の、中が……!」
改蔵の手が、リンの小さな胸を、遠慮なく鷲掴みにした。
「ひゃっ!?」 「どうした、お嬢様。これが、お前の欲しがった『力』だぜ」
改蔵の腰の動きが、さらに激しくなる。 リンの身体は、もはや彼女の意志とは関係なく、ビクン、ビクン、と痙攣し始めた。 思考が、溶けていく。 水玉財閥も、プライドも、親の顔も、すべてがどうでもよくなっていく。 今、彼女のすべてを支配しているのは、この、下民の男から注ぎ込まれる、圧倒的な『力(快感)』だけだった。
「あ、あ、あああっ! も、もっと……!」 「あん?」 「もっと、ちょうだい……! その、『力』を……! 私に、全部……!」
リンは、もはや自分が何を言っているのか、わからなかった。 ただ、本能が、この快感を、この力を、もっと貪れと叫んでいた。 彼女は、自らの意思で、改蔵の首に腕を回した。
「ハッ! 随分素直になったじゃねえか!」
改蔵は、その細い腰を掴み、さらに深く、激しく、魔力を叩き込んだ。 リンの象徴であった、金髪のドリルツインテールが、快感の衝撃に、激しく揺れ動く。
「あ、ああ、あああああっ! いく! イっちゃう! 力が、私の中で……! あふれ、るううううっ!」
リンの絶叫。 それと同時に、改蔵もまた、最後の一撃を叩き込んだ。 膨大な魔力が、リンの身体の中で、弾けた。
「イイイイイイイイイッ!」
リンの身体が、大きく弓なりにしなり、痙攣する。 そして、異変が起きた。
「オ……オオオオオ……!」
リンの身体を、紫の魔力光が包み込む。 だが、何よりも異常だったのは、彼女の『髪』だった。
ギュルルルルルン! 金髪のドリルツインテールが、まるで生命を得たかのように、高速で回転を始めた。 柔らかかった髪が、瞬時に、光沢のある硬質な『金属』へと変質していく。
「最終変態、開始!」
マナが、歓喜の声を上げた。
「ポテンシャル、『破壊願望』、因子、『ドリル』に確定です!」
リンの白い肌が、瞬く間に、冷たい鋼鉄の装甲に覆われていく。 華奢だった手足は、太く、無骨な、しかしどこか気品のある戦闘フォルムへと変わっていく。 そして、何よりも。 彼女の頭部にあった二本のドリルは、もはや髪ではなく、敵を粉砕するためだけの、巨大な『破壊兵器』へと姿を変えていた。
やがて、光が収まった。 そこに立っていたのは、もはや水玉リンではなかった。 全身を鋼の装甲で覆い、頭部と両腕に、巨大なドリルを備えた、恐るべき女怪人。
「……」
怪人は、ゆっくりと、自らの『腕』……鋼鉄のドリルを見下ろした。 そして、スイッチが入ったかのように、そのドリルが、けたたましいモーター音と共に回転を始めた。
「……オホホ」
最初は、小さな笑い声だった。 それが、次第に、大きく、甲高くなっていく。
「オホホホホ! オッホホホホホホ!」
リンの、高飛車な笑い声。 だが、その音圧は、もはや人間のものではなかった。
「これよ! これが、私の『力』!」
彼女は、蔵の隅に積まれていたガラクタの山に、腕のドリルを向けた。
「消えなさい、退屈なガラクタ!」
ズガガガガガガガ! 耳をつんざく轟音と共に、ドリルがガラクタの山を粉砕する。 木片が、埃が、蔵の中に舞い上がった。
「素晴らしいわ! 最高よ! これで、あの退屈な屋敷も、世界も、全部、全部、粉々にしてあげられる!」
怪人は、狂ったように高笑いを続ける。 その姿を、改蔵は、服を着ながら、満足げに眺めていた。
「おう。そりゃよかったな。お前の名前は、今日から『ドリル怪人』だ」 「ドリル怪人! いいわ! 覚えておきなさい、下民!」
ドリル怪人は、改蔵を指差した。 その顔は、鋼鉄の仮面に覆われていたが、その奥にある翠色の瞳は、間違いなく笑っていた。
「アンタは、この私に『力』を与えた、最初の下僕よ! 光栄に思いなさい! オホホホホホ!」 「はいはい」
高飛車な令嬢は、自らの鬱屈した欲望を解放し、最強の『破壊』の怪人へと生まれ変わった。 その誕生の雄叫びは、長閑な田舎のアジトに、うるさいほど響き渡っていた。