朝日が差し込む土蔵の中は、昨夜の狂宴の熱気がまだ抜けきらず、甘ったるい腐熟した果実のような匂いが充満していた。 煎餅布団の上。 黒野改蔵は、奇妙な拘束感の中で目を覚ました。 重い。 そして、ぬめる。 彼の身体には、人間の腕や脚とは異なる、ピンク色をした半透明の触手が幾重にも巻き付いていた。
「……んぅ。おはよう、
改蔵の胸元から、天野ユキが顔を上げた。 彼女は全裸であり、その背中や髪の毛先からは、無数の触手がうねうねと伸びている。 イソギンチャク怪人。 昨夜の儀式で生まれ変わった彼女は、一晩中改蔵の精気を吸い続け、肌は艶やかに輝いていた。
「おはよう、大女優。随分と寝起きがいいじゃねえか」
「ええ。最高の気分よ。……まだ足りないくらいだけど」
ユキは妖艶に微笑み、触手の一つを動かして改蔵の股間を愛撫した。 吸盤が吸い付き、粘液が潤滑油となって刺激する。 改蔵のイチモツは、休む間もなく再び硬直を始めた。
「元気ね。朝の『発声練習』、付き合ってくれる?」
「ハッ。その前に仕事だ。マナ、いるか?」
改蔵が天井に向かって声をかけると、梁の上から小悪魔マナがひょっこりと顔を出した。
「おはようございます改蔵様! バイタルチェック完了してますよ! ユキさんの魔力値、安定して高水準です!」
「おう。サイトウから連絡は?」
「来てます! 『都内のテレビ局で生放送中の情報番組がある。そこを占拠して、公共の電波で恐怖と快楽をバラ撒いてほしい』とのことです!」
マナがタブレットを見せる。 画面には、朝のニュース番組の予告が映っていた。 真面目腐ったキャスターたちが、昨今の社会情勢を報道している。
「テレビ局か。……おいユキ。お前がいたAV業界とは違うが、派手なステージだぞ」
改蔵が尋ねると、ユキは目を細めた。 彼女は業界のトップだったが、地上波のテレビには縁がなかった。 そこは彼女にとって、清廉潔白を演じる偽りの世界。 だからこそ、汚し甲斐がある。
「いいわね。お堅いニュース番組を、私の色で染め上げてあげる。……全国のお茶の間に、本当の『快楽』を教えてあげるわ」
ユキは立ち上がった。 その瞬間、彼女の姿が変化する。 人の肌がピンク色の粘膜質に変わり、触手が膨張する。 完全に人外の姿、イソギンチャク怪人への変身だ。 もはや、誰も彼女が「天野ユキ」だとは気づかないだろう。
「行ってきます、監督。……録画予約、忘れないでね?」
「おう。特等席で見ててやるよ」
マナが転送ゲートを開く。 ユキは優雅に一礼し、光の中へと消えていった。 新たなステージ、そして狩場へと。
***
都心のキー局、テレビ
ドガアアアアン!
スタジオの壁が内側から弾け飛んだ。 悲鳴を上げるスタッフ、逃げ惑う出演者たち。 噴煙の中から、ピンク色の粘液を滴らせながら、異形の怪人が現れた。
「ごきげんよう、愚民の皆さん。……朝の体操の時間よ」
マイクを通さずとも、その甘く響く声はスタジオを支配した。 彼女の背中から伸びる太い触手が、生き物のように鎌首をもたげる。
「な、なんだ君は! ここを生放送中だと……!」
男性プロデューサーが怒鳴りながら近づこうとする。 シュルルッ! 触手の一本が、プロデューサーの足首を捉えた。
「うわぁっ!? な、なんだこれ! ぬるぬるして……!」
「うるさいわね。エキストラは静かにしてて」
ユキはプロデューサーを引き寄せると、その顔面に自身の顔を近づけた。 そして、怪人の口から伸びる管を、男の口に押し当てた。 チュプ……ジュルルッ……。 プロデューサーの身体がビクンと跳ね、見る見るうちに萎びていく。 精気を吸い取られたのだ。
「ん……。おじさんの味。脂っこいけど、エネルギーはあるわね」
ユキは男をゴミのように放り捨てた。 彼は白目を剥いて倒れ込んだが、その顔はどこか幸せそうに緩んでいた。 それを見た他の男性スタッフたちの足が止まる。 恐怖よりも先に、本能的な何かが刺激されたのだ。
「次の方。もっとイキのいい男はいないのかしら?」
ユキがスタジオを見渡す。 彼女の全身から放たれるフェロモンは、理性を溶かし、恐怖を上書きするほどの快楽物質を含んでいた。 カメラマン、照明、音声。 スタジオにいた男たちの目が虚ろになり、ふらふらとユキの方へと吸い寄せられていく。
「あぁ……。ピンク色の……」
「俺を……俺を使ってください……」
「ふふ。いいわよ。全員、私の糧になりなさい」
ユキが両手を広げる。 無数の触手が放射状に広がり、男たちを次々と絡め取っていく。 衣服を溶かす粘液。 肌に吸い付く吸盤。 スタジオは瞬く間に、酒池肉林の触手地獄へと変貌した。 カメラは倒れ、しかしそのレンズは残酷なまでに鮮明に、この狂宴を全国に生中継し続けていた。
***
「ヒャハハ! すげえ絵面だ。放送事故なんてもんじゃねえぞ」
アジトの居間。 黒野改蔵は、ステテコ姿で寝転がりながら、大画面テレビに映る惨劇を肴に酒を飲んでいた。 画面の中では、ピンク色の怪物が男たちを蹂躙している。
「さすがプロですねぇ。見せ場を分かっています」
天井からぶら下がった小悪魔マナが、感心したように言う。
「ああ。だがあの触手……見てるとムラムラしてくんな」
改蔵が股間をボリボリと掻く。 ステテコが大きく盛り上がっている。
「お任せください! ユキさんの活躍に合わせて、こちらもセットを用意しました!」
マナが指を鳴らす。 ボンッ! アジトの畳の上に、巨大な魔法陣が出現した。 そこから召喚されたのは、ユキの触手と同じ質感を持つ、ピンク色のスライム触手たちだった。 うねうねと蠢く無数の触手が、狭い居間を埋め尽くす。
「うわっ、なんだこりゃ。本物そっくりじゃねえか」
「『イソギンチャク・シミュレーター』です! さあイスズさん、メイさん! 負けてられませんよ!」
マナの掛け声と共に、台所からエプロン姿の五十嵐イスズと、昼寝をしていたサキュバス怪人メイが現れた。
「まあ……。お家の中が水族館みたいですね」
「マスター。これ、ぬるぬる。きもちいい」
二人は躊躇なく触手の海へと足を踏み入れた。 ぬちゃり。 粘液が足に絡みつく。 触手たちは意思を持ったように二人の着物に潜り込み、素肌を這い回る。
「ああんっ! こ、こら! そんなところに入って……!」
イスズが崩れ落ちる。 触手が彼女の太ももを割り開き、秘所へと殺到する。 吸盤が吸い付き、粘液が潤滑油となって摩擦を高める。
「神主様ぁ……! 助けてください……! 食べられちゃいます……!」
イスズが潤んだ瞳で改蔵に救いを求める。 だが、その表情は明らかに期待に満ちていた。
「助けるどころか、俺も混ざるぜ」
改蔵はランニングシャツを脱ぎ捨て、触手の海へとダイブした。 ぬめぬめとした感触が全身を包む。 そして、彼自身もまた、一人の捕食者として女たちに襲いかかった。
「イスズ、こっち向け。口開けろ」
「は、はいぃ……んむっ!」
改蔵はイスズに覆い被さり、深いキスをした。 同時に、マナが操る触手がイスズの胸を揉みしだき、メイが改蔵の足に絡みついて吸い付く。 画面の向こうの狂宴とリンクするように、アジトでも粘着質な乱交が始まった。
「んっ、んぐっ! 改蔵様の舌と……触手の動きが……一緒ですぅ!」
イスズが喘ぐ。 ユキが男たちから精気を吸い取るように、改蔵たちは互いの快感を貪り合う。
「いいぞ。もっと粘れ。もっと絡みつけ」
アジトの湿度は急上昇し、硝子戸が白く曇り始めた。 外の世界ではユキが暴れ回り、内の世界では改蔵たちが溺れる。 二つの宴は、終わりの見えない絶頂へと向かっていた。
***
テレビ局のスタジオ。 ユキの支配領域は、フロア全体に広がっていた。 数十人の男たちが繭のように触手に巻かれ、床に転がっている。 彼らは皆、精気を吸い取られて意識を失っていた。
「あぁ……。満ちていく。力が、快感が、私の中で渦巻いてる」
ユキは恍惚の表情で自身を抱きしめた。 その時、スタジオの天井ガラスが割れ、五色の影が飛び込んできた。 正義戦隊ジャスティンジャーだ。
「そこまでだ! 悪の怪人め!」
リーダーのジャスティンレッドが叫ぶ。 彼らは触手の隙間に着地し、武器を構えた。
「放送をジャックして、あんな破廉恥な映像を流すなんて! 子供も見ている時間だぞ!」
「あら。正義の味方さんたち。……貴方たちも、私の虜になりに来たの?」
ユキは舌なめずりをした。 特に、レッド、ブルー、グリーンの男性陣に向ける視線は、極めて卑猥だった。 彼女の触手がうねり、一斉に襲いかかる。
「くっ! 斬り払え!」
レッドが剣を振るう。 だが、触手は軟体動物のように剣撃を受け流し、逆に剣に絡みついた。
「無駄よ。硬いだけの棒なんて、私には通じないわ。もっと優しくして?」
「なっ!?」
「捕まえた」
シュルルッ! レッド、ブルー、グリーンの三人が同時に捕獲された。 触手が彼らのスーツに吸い付き、強力な吸引を開始する。
「うわぁぁぁ! 力が……抜ける……!」
「ダメだ……! 身体が……熱い……!」
ユキの放つフェロモンと、直接的な精気吸収。 男性ヒーローたちは、抗う術を持たなかった。 生物としての根本的な弱点を突かれ、戦意を骨抜きにされていく。
「ふふ。いい声で鳴くじゃない。もっと吸ってあげる」
ユキは三人を吊り上げ、弄ぶように触手を這わせた。 彼らの目は虚ろになり、口元からは涎が垂れている。 完敗だ。 男という生物である以上、彼女の前では無力だった。
「レッド! ブルー! グリーン!」
残されたジャスティンイエローとジャスティンホワイトが叫ぶ。 彼女たちは女性だ。 ユキの対男性用フェロモン攻撃が効かない。
「許さない……! よくも仲間を!」
ホワイトが拳を構え、イエローがハンマーを振り上げる。
「あら。女もいたのね。……可愛くないわね」
ユキの表情が曇った。 彼女は女に対しては冷淡だった。 自分より目立つ女、自分に楯突く女は、ただの敵だ。
「消えなさい!」
ユキが触手を叩きつける。 だが、ホワイトはその軌道を読み切り、華麗に回避した。
「効かないわ! 貴女の攻撃は、男を捕まえるためのもの。私たちには通じない!」
「イエロー、今よ!」
「はいっ! ジャスティン・ハンマー!」
ドガァッ! イエローのハンマーが、ユキのわき腹に直撃する。 物理的な衝撃。 男相手なら通用した「受け流し」も、本気で殺しに来る同性の攻撃には耐えきれなかった。
「ぐっ……! 痛い……!」
ユキが吹き飛ぶ。 捕らえていた男性陣が解放され、床に落ちる。 だが、彼らはピクリとも動かない。 完全に骨抜きにされている。
「しっかりしてよ男子! 起きて!」
ホワイトが叫ぶが、レッドたちは夢見心地で寝息を立てている。 戦力半減。 いや、ユキの触手は再生し、数を増して二人を取り囲む。
「くそっ……! 私たちだけでやるしかないわ!」
イエローとホワイトが再びユキに迫る。 だが、ユキの物量は圧倒的だった。 無数の触手が壁となって二人を阻む。
「いや……! 数が多すぎる……!」
ホワイトが触手に足を絡め取られる。 イエローもハンマーを弾き飛ばされた。 じりじりと追い詰められていく女性ヒーローたち。 このままでは、彼女たちも捕らえられてしまう。
その時だった。
ザシュッ!
鋭い風切り音と共に、ホワイトを拘束していた触手が切断された。
「え?」
スタジオの入り口に、一人の影が立っていた。 凛とした立ち姿。 手には白銀に輝く長剣。 かつては魔法少女として名を馳せ、今は剣の道に生きる孤高の戦士。
「……見苦しいな、ジャスティンジャー」
キリハは冷たく言い放つと、一足飛びに間合いを詰めた。 その動きは風のように速く、迷いがない。
「キリハさん!?」
イエローが声を上げる。 キリハは答えない。 ただ、その切っ先を怪人に向けた。
「貴様か。街に淫らな空気を撒き散らしているのは」
「なによアンタ……! 邪魔しないで!」
ユキが触手を殺到させる。 だが、キリハは表情一つ変えずに剣を振るった。
「遅い」
閃光。 一度の剣閃で、迫り来る触手が全て切り落とされた。 魔法を忘れたとはいえ、その剣技は達人の域に達している。 いや、魔力を剣に乗せる『魔法剣』の威力は、物理攻撃の比ではない。
「ぎゃあああああ!」
ユキが絶叫する。 再生が追いつかないほどの速さで、身体を刻まれていく。
「な、なんなのよこいつ……! 強すぎる……!」
ユキはその場に膝をついた。 もう限界だ。 せっかく手に入れた力も、あの甘い時間も、ここで終わってしまうのか。
(嫌……。まだ、足りない。もっと……愛されたいのに)
キリハがトドメの一撃を振りかぶる。 ユキが絶望に目を閉じた、その時だった。
ドォォォォン!
スタジオの床下から爆発が起きた。 黒い煙と共に、無数の影が湧き出してくる。 黒いタイツに身を包んだ集団。 悪の組織の戦闘員たちだ。
「イ──ーッ!」
「イ──ーッ!」
戦闘員たちがキリハとユキの間に割って入り、人海戦術で壁を作る。
「何!? 増援!?」
キリハが舌打ちをして距離を取る。 煙の向こうから、冷静な声が響いた。 ホログラム通信機を持った指揮官クラスの戦闘員だ。
『回収班、到着。対象、イソギンチャク怪人を保護せよ』
「え……? 助けてくれるの?」
ユキが顔を上げる。 戦闘員たちが彼女を囲み、守るように陣形を組んだ。
『本部より通達。その個体は、対男性ヒーロー兵器として極めて有用であると判断された。また、組織内の士気向上のための「福利厚生」要員としての適性がSランクと認定された。絶対に持ち帰れ』
「福利厚生……?」
『そうだ。君の活躍の場はここだけではない。日本支部には、君の慰めを待っている男たちが山ほどいる。戦闘だけではない、夜の戦いこそが君の戦場だ』
戦闘員が手を差し出す。
『来るか?』
ユキはその言葉に、ゾクリとするような興奮を覚えた。 山ほどの男たち。 全員が、私を求めている。 それは、テレビ局のスタジオよりも遥かに広大で、魅力的なステージに思えた。
「……ええ。行くわ。私を必要としてくれるなら、どこへでも」
ユキは戦闘員の手を取った。
「イ──ーッ! 撤収!」
戦闘員たちが煙幕を張り、ユキを抱えて撤退を開始する。 屋上で待機していた輸送ヘリへと向かう。
「待て! 逃すか!」
キリハが追おうとするが、爆煙と、次々と特攻してくる戦闘員たちに阻まれる。 その間に、ユキたちを乗せた輸送ヘリが夜空へと消えていった。
「……チッ。逃げられたか」
キリハは剣を納めた。 彼女は倒れているジャスティンジャーの男性陣を冷ややかな目で見下ろした。
「鍛え直せ。見苦しい」
それだけ言い残し、彼女は風のように去っていった。 残されたのは、骨抜きにされた男たちと、状況についていけず呆然とするイエローとホワイトだけだった。
***
数分後。 アジトのモニターを見ていた改蔵の元に、サイトウからの通信が入った。
『……黒野君。作戦は成功だ。イソギンチャク怪人は無事回収した』
「おう。キリハまで出てきて冷や汗かいたが、なんとかなったな」
改蔵はマナの身体から身体を離し、タオルで汗を拭った。
『彼女はそのまま組織の日本支部基地へ移送し、治療を行う。その後は……「特別慰安部隊」の隊長として、日本支部の精鋭たちへの「ご
「ご褒美担当か。あいつにぴったりの役職だな」
改蔵は笑った。 あの貪欲な女優なら、組織中の男を骨抜きにしてしまうかもしれない。 彼女のテクニックで抜いてもらうために、戦闘員たちが死に物狂いで成果を上げる姿が目に浮かぶようだ。
『もちろん、君へのサービスも最優先で行わせる。彼女自身、「監督には特別濃厚なやつを」と希望しているからな』
「そいつは楽しみだ。いつでも呼んでくれ」
通信が切れる。 改蔵は、満足げに伸びをした。 アジトの住人は増えなかったが、いつでも呼べる強力な「外注スタッフ」が手に入った。 これでまた、悪の組織の福利厚生は充実するだろう。
「さて。俺たちも仕上げといくか」
改蔵はヌルヌルになった床を見渡し、そして、まだ火照ったままの女たちを見た。
「掃除の前に、もう一回戦だ。お前らも『ご褒美』が欲しいだろ?」
「はいっ! 欲しいです!」
「マスター。わたしも」
アジトの夜はまだ終わらない。 テレビの向こうの祭りは終わったが、ここの祭りは日常だ。 改蔵は女たちを引き連れて、風呂場へと向かった。 湯気の中で交わされる肌と肌の触れ合いは、どんな高画質の映像よりも鮮明に、彼らの記憶に刻まれていくのだった。