重厚な土蔵の扉が、ズズズという地響きのような音を立てて閉ざされた。 アジトの裏手にひっそりと佇むその空間は、外界の猛暑とは異なる、ねっとりとした湿気と、カビと、そして幾多の情事によって染み付いた濃厚な男女の体液の匂いが澱んでいた。 床に描かれた魔法陣が、心臓の鼓動のようにゆっくりと明滅し、薄暗い室内を怪しげな紫色の光で照らし出している。 そこは、数々の女たちが常識を捨て、欲望の化身へと生まれ変わった『孵化場』。 テニス部の部長、坂倉アヤにとって、そこは生理的な嫌悪感と、本能的な恐怖、そして正体不明の熱っぽさが同居する異界だった。
「な、なによここ……。暗いし、変な匂いするし……」
アヤは魔法陣の中央で、へたり込みそうになる足に力を込めて立っていた。 彼女はまだ、部活帰りのテニスウェア姿だ。 白とブルーの爽やかなユニフォームは、激しい練習による汗でぐっしょりと濡れ、肌に張り付いている。 健康的な小麦色の肌には、玉のような汗が浮き、動くたびに甘酸っぱい青春の匂いを撒き散らしていた。
「変な匂い? こいつは『生命』の匂いだぜ。お前のその汗臭い身体とおんなじだ」
闇の奥から、ペタペタと素足の音をさせて男が現れた。 黒野改蔵。 彼は決して、威厳ある魔王のような格好ではなかった。 黄ばんだランニングシャツに、腰ゴムの緩んだステテコ姿。 無精髭を生やし、片手でボリボリと腹を掻いているその姿は、昼間からワンカップ片手に競馬中継を見ていそうな、うだつの上がらない中年オヤジそのものだ。 だが、そのだらしない外見からは想像もつかないような、暴力的なまでの『雄』のオーラが全身から立ち昇っている。 特に、ステテコの前部分がテントのように大きく盛り上がっている様は、アヤのような健康優良児にとっては、生物としての規格の違いをまざまざと見せつける恐怖の対象でしかなかった。
「あんたがボス? ……冗談でしょ。ただのスケベそうなオッサンじゃん」
アヤは強気に言い放った。 彼女は勝気だ。 部員たちを束ね、厳しい練習にも音を上げない根性がある。 こんな得体の知れない状況でも、簡単には屈しない。
「スケベなオッサンか。正解だ。だが、ただのオッサンじゃねえぞ」
改蔵はニヤリと下卑た笑みを浮かべ、アヤの目の前まで歩み寄った。 至近距離。 男の体臭と熱気が、アヤのテリトリーを侵食する。
「……っ! 近寄らないでよ!」
アヤは反射的にラケットを構えるポーズをとったが、手には何もない。 それでも彼女は拳を握りしめ、睨みつけた。
「ほう。いい目だ。怯えるどころか、威嚇してきやがる」
改蔵は感心したように頷いた。 そして、アヤの肩に無造作に手を置いた。
「ひゃっ!?」
ビクリとアヤの身体が跳ねる。 熱い。 改蔵の手のひらは、まるでアイロンのように熱く、ユニフォーム越しにアヤの肌を焼いた。
「いい筋肉してんな。毎日走り込んでる証拠だ」
改蔵の手が、肩から二の腕、そして汗ばんだ背中へと滑る。 ジョリ、という粗野な手触り。 アヤは鳥肌が立つのを感じたが、同時に身体の奥がカッと熱くなるのを覚えた。
「触んないでってば! ……離して! 警察呼ぶよ!」
「呼べばいい。ここには電波も届かねえし、警察なんて来ねえよ。ここにあるのは、俺とお前と、畳一枚だけだ」
改蔵はアヤの顎を掴み、強引に上を向かせた。
「お前、あだ名は『太陽の申し子』だっけか? 随分と眩しい名前だが……その中身は、随分とドロドロしてそうだな」
「はぁ? 何言ってんの……」
「見りゃ分かる。お前は『女王様』だ。部員たちを従えて、命令して、自分の思い通りに動かすのが快感なんだろ?」
図星だった。 アヤは部活のキャプテンとして、厳しく部員を指導していた。 それは勝利のためだと信じていたが、心のどこかで「他人を支配する喜び」を感じていたことも否定できない。 汗まみれになって自分の指示に従う部員たちを見る時、背筋がゾクゾクするような興奮を覚えていたのだ。
「……それが何よ。部長なんだから当たり前でしょ」
「だがな、真の女王ってのは、強い雄に『種付け』されて初めて完成するんだよ」
改蔵の顔が近づく。 アヤは息を呑んだ。 逃げなきゃ。 でも、足が動かない。 目の前の男の瞳にある、底なしの食欲に魅入られてしまったかのように。
「い、いや……!」
ペロリ。 改蔵の舌が、アヤの首筋を這った。 流れる汗を、一舐めする。
「……んっ!?」
「しょっぺえな。だが、悪くねえ。極上のスポーツドリンクだ」
改蔵は舌なめずりをした。 アヤの顔が真っ赤になる。 汚い。気持ち悪い。 そう思うはずなのに、背筋に電流が走り、膝がガクガクと震えている。
「テメェのその有り余る体力、俺との『試合』で使い切らせてやるよ」
改蔵はアヤを抱え上げると、煎餅布団の上に放り投げた。 ドサッ。 アヤは受け身を取ることもできず、仰向けに倒れ込んだ。
「な、何すんのよ! ふざけんな!」
アヤはすぐに起き上がろうとしたが、その上に改蔵が覆いかぶさってきた。 重い。 岩のような重量感。 そして、股間に押し当てられる硬い異物感。
「試合開始だ。ルールは簡単。俺がお前を泣かせるか、お前が俺を満足させるか。……一本勝負だ」
「ハッ! 舐めんな! 体力なら負けないんだから!」
アヤの負けん気に火がついた。 彼女はスポーツマンだ。 勝負と言われれば、受けて立つ。 それが例え、ベッドの上のレスリングだとしても。
「いい度胸だ。その強気な顔が、いつまで持つかな?」
ビリッ! 改蔵の手が、アヤのテニスウェアを引き裂いた。 悲鳴のような布の裂ける音と共に、健康的な肢体が露わになる。 スポーツブラと、アンダースコート。 そして何より目を引くのは、くっきりと残る『日焼け跡』だった。 ユニフォームで隠れていた部分は驚くほど白く、露出していた小麦色の肌とのコントラストが鮮やかだ。 白と黒の境界線。 それは見る者の加虐心を煽る、最高にエロティックな芸術だった。
「ほぅ……。いい眺めだ。白黒はっきりつけてやるってか?」
改蔵の指が、白い肌と黒い肌の境界線をなぞる。
「ひゃうっ! そ、そこ……くすぐったい……!」
アヤが身をよじる。 だが、改蔵は止まらない。 スポーツブラを強引にずり上げ、白く弾力のある果実を露出させる。 先端の突起は、恐怖と興奮ですでに硬く尖っていた。
「い、いやぁ! 見ないで! 恥ずかしい!」
「隠すな。太陽の下で晒してた身体だろ? ここじゃ俺だけの太陽だ」
改蔵は剛直を取り出し、アヤの秘所へと押し当てた。 アンダースコート越しに伝わる熱と硬さ。
「うそ……でっか……」
アヤの目が点になった。 人間のサイズではない。 こんなのが入ったら、壊れる。裂ける。
「ま、待って! タイム! タイムだってば!」
「この試合にタイムはねえ!」
改蔵はアンダースコートを引きちぎり、一気に腰を沈めた。 ズプンッ! 濡れていない窄まりを、強引にこじ開けて侵入する。
「ぎゃあああああああっ! 痛いぃぃぃぃっ!」
アヤは絶叫し、改蔵の背中を爪で引っ掻いた。 激痛。 身体が引き裂かれるような衝撃。 だが、改蔵は止まらない。 強引に、暴力的に、最奥までを貫通する。
「入ったな。……キツくていい締め付けだ。さすが現役アスリートだな」
改蔵は荒い息を吐きながら、アヤの耳元で囁いた。 獣の匂い。 アヤは涙目で改蔵を睨んだ。
「さ、最低……! 痛いだけじゃん……! こんなの、セックスじゃない……!」
「そうかい。なら、気持ちよくなるまで素振り千本だ」
改蔵は腰を動かし始めた。 最初はゆっくりと、次第に激しく。 パン、パン、パン、と肉がぶつかる音が蔵に響く。 アヤの身体は、嵐の中の小舟のように揺さぶられた。 痛い。苦しい。 でも。 突き上げられるたびに、身体の奥底から熱い痺れが広がっていく。 脳みそが揺れる。 視界が白くチカチカする。
「あ、ぐっ! んあっ! は、激し……っ!」
「どうした! 根性見せろ! まだまだ序盤だぞ!」
改蔵のピストンは、正確無比で、そして重い。 アヤの鍛え上げられた腹筋が痙攣し、太ももが改蔵の腰に絡みつく。 逃げたいのに、身体が勝手にしがみついてしまう。
「くっ……! 負けない……! 私、負けないもん……!」
アヤは歯を食いしばって耐えた。 だが、その表情はすでに苦痛から快楽へと歪み始めていた。 汗が飛び散る。 改蔵の汗と、アヤの汗が混ざり合い、ヌルヌルとした潤滑油となって身体を滑らせる。
「そうだ! その目だ! 悔しがれ! そして感じろ!」
改蔵はアヤの乳房を鷲掴みにし、激しく揉みしだいた。 指が肉に食い込む。
「あぁっ! おっぱい! ちぎれるぅ!」
「改蔵様! アヤさんの数値が急上昇しています!」
天井から観察していたマナが叫ぶ。
「彼女の『負けず嫌い』な性格と、潜在的な『被支配願望』が化学反応を起こしています! 彼女は、自分より強いオスに屈服し、その子供を宿すことを本能レベルで望んでいます! 適合因子は……『
「女王蜂か! 働き蜂どもを統率する絶対的な女帝! だが、その女王も夜は王の慰み者ってわけだ!」
改蔵はラストスパートに入った。 ガン! ガン! ガン! 腰を打ち付けるたびに、アジトが揺れるような衝撃。
「あ、あ、あ、イくっ! イっちゃう! 負ける! 私、負けちゃうぅぅぅ!」
アヤのプライドが崩壊する。 勝てない。 この男の暴力的な生命力には、どうあがいても勝てない。 なら、いっそ。 この強さに飲み込まれて、支配されてしまいたい。
「負けを認めろ! お前の全てを俺に捧げろ!」
「はいっ! 負けです! 私の負けぇ! 捧げますぅぅぅ!」
アヤが絶叫し、腰を高く浮かせた。 子宮口がパクリと口を開け、改蔵の侵入を歓迎する。
「受け取れ! ロイヤルゼリー(魔力)だ!」
ズドォォォォン! 改蔵はアヤの最奥に、膨大な魔力を解き放った。 ドピュッ! ドピュルルルッ! 白濁した熱流が、アヤの胎内を灼熱で満たし、全身の細胞を書き換えていく。
「イギィィィィィィィッ! 熱いぃぃぃ! お腹、いっぱいになるぅぅぅ!」
アヤの身体が弓なりに反り、激しく痙攣した。 その瞬間、彼女の身体に異変が起きた。 小麦色の肌が、黄金色に輝き始める。 背中の肩甲骨あたりが盛り上がり、バサッという音と共に、半透明の薄い
「あ……あぁ……。身体が……熱い……。力が……湧いてくる……」
アヤは恍惚とした表情で、自分の変化を受け入れた。 人間としての限界を超え、新たな種族へと生まれ変わる快感。 手足の爪が鋭く伸び、瞳が複眼のように妖しく輝く。
「最終変態、完了します!」
光が収まると、そこには異形の怪人が横たわっていた。 上半身は豊満な美女のままだが、その肌は黄金の蜂蜜のように艶めき、背中には四枚の翅、下半身は蜂の意匠を取り込んだボンテージのような外殻に覆われている。 『クイーンビー怪人』。 フェロモンで無数の下僕を操り、王のために蜜を捧げる女王。
「はぁ……はぁ……。すごい……。これが、新しい私……」
アヤはゆっくりと身を起こした。 背中の翅がブブブッと羽音を立てる。 彼女は自分の身体を見下ろし、うっとりと撫で回した。 汗の匂いが消え、代わりに甘く濃厚な蜂蜜の香りが漂っている。
「どうだ、女王様。試合の感想は」
改蔵が汗を拭いながら尋ねる。 アヤは妖艶に微笑み、改蔵の首に腕を回した。 その表情には、かつての勝気さは残っていたが、それは今や改蔵への忠誠心と独占欲へと変換されていた。
「完敗よ、マスター。……貴方の強さ、身体に刻み込まれちゃった」
アヤは改蔵の耳元で囁き、長い舌で耳たぶを舐めた。 その舌先からは、甘い蜜が滴っている。
「これからは、私の
彼女は改蔵の胸に顔を埋めた。
「貴方にだけ、舐めさせてあげるわ」
アジトの夏に、新たな女王が誕生した。 彼女はこれから、組織の戦闘員たちを統率し、死ぬ気で働かせ、その成果を全て愛する王へと捧げることになるだろう。 汗と蜜にまみれた夏は、まだまだ終わらない。