※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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63話

お盆を過ぎ、ツクツクボウシの鳴き声が夏の終わりを告げ始めても、アジトを包む熱気は一向に冷める気配がなかった。 ジジジジジ……。 アブラゼミの合唱が、脳みそを直接揺らすような音圧で降り注ぐ午前。 エアコンのない古びた木造アジトの居間では、扇風機がぬるい風をかき回し、ちゃぶ台を囲んでの朝食が行われていた。

 

「神主様、はい。あーん、してください」

 

五十嵐イスズが、甲斐甲斐しく卵焼きを箸でつまみ、黒野改蔵の口元へと運んでいる。 彼女の服装は、改蔵から借りたブカブカの白いTシャツ一枚だけ。 動くたびに裾がまくれ上がり、ノーパンの健康的な太ももや、下着をつけていない無防備な胸のラインがチラチラと主張している。 彼女に悪気はない。ただ純粋に「暑いから」「楽だから」という天然の理由で、この挑発的な格好をしているのだ。

 

「んむ。……甘いな。砂糖入れたか?」

 

「はい! 神主様が疲れているみたいだったので、甘めにしてみました! 愛情もたっぷりですよ」

 

イスズはニコニコと微笑む。 その平和な光景を、貧乏ゆすりをしながら睨みつけている女がいた。 黄金色の肌と、背中の翅を持つクイーンビー怪人、坂倉アヤだ。 そしてもう一人。改蔵の左腕に、まるで樹木に張り付く蝉のようにしがみついているのが、サキュバス怪人のメイだ。

 

「……マスター。わたしも、あーんして」

 

メイは改蔵の二の腕に頬ずりしながら、とろんとした目で訴える。彼女のキャミソール姿も、この暑さでは下着同然だ。

 

「お前は自分で食え。……ったく、どいつもこいつも朝から暑苦しいな」

 

改蔵は鬱陶しそうに腕を振るが、メイは吸盤のように張り付いて離れない。

 

「……タルいわね。いつまでイチャイチャしてんのよ」

 

アヤは箸で煮物を突きながら毒づいた。 彼女は苛立っていた。 せっかく女王蜂として覚醒したのに、この狭いアジトでくすぶっている現状が我慢ならなかったのだ。 もっと暴れたい。もっと支配したい。 そして何より、もっと大きな成果を上げて、マスター(改蔵)に褒められたい。

 

「あら、アヤさん。カルシウム足りてないんですか? 牛乳飲みます?」

 

イスズが天然ボケをかます。

 

「いらないわよ! 私が欲しいのは牛乳じゃなくて……もっとドロドロした濃いヤツなの!」

 

アヤが叫んだその時、小悪魔マナの懐にある魔術スマホがけたたましく鳴り響いた。 サイトウからの緊急ホットラインだ。

 

『緊急指令だ! 聞こえるかね、諸君!』

 

ホログラムで投影されたサイトウの顔は、いつにも増して切羽詰まっていた。

 

「朝からうるせえな。またジャスティンジャーか?」

 

改蔵が面倒くさそうに尋ねる。

 

『違う! 今回の目標は、都心の聖域……「中央大聖堂」だ!』

 

「大聖堂?」

 

『うむ。そこは世界最大の宗教組織が管理する重要拠点であり、聖乙女(ホーリーメイデン)ヒカリが強力な結界を張っている難攻不落の要塞だ。我々も手出しできずにいたのだが……』

 

サイトウが地図を表示させる。

 

『本日、聖乙女ヒカリが「定期検診(という名の婚活パーティー)」のために結界の出力を弱めているという情報を掴んだ! この隙に大聖堂を制圧し、そこに眠る聖遺物を奪取してほしい!』

 

「聖女が守る大聖堂、か。……面白え」

 

改蔵がニヤリと笑う。 聖なる場所を汚す。 それは悪の組織にとって、最高の余興だ。

 

「マナ、誰を行かせる?」

 

「そうですね……。聖女様の結界は『邪悪』を弾きます。純粋な暴力や破壊衝動では突破できません。必要なのは……内部から蝕むような『甘い毒』です」

 

マナの視線が、アヤに向けられた。 アヤはビクリと反応し、そして獰猛な笑みを浮かべた。

 

「……私ね?」

 

「はい。アヤさんのフェロモンなら、聖なる結界すらも『誘惑』して溶かせるはずです。男たちを洗脳し、聖域を愛欲の巣窟に変えてしまいなさい」

 

「上等じゃない。……マスター。行ってきてもいい?」

 

アヤが改蔵に詰め寄る。 その瞳は、獲物を見つけた肉食獣のように輝いていた。

 

「おう。行ってこい。あの気取った教会を、お前の蜜でベタベタにしてやれ」

 

「はいっ! ……最高のお土産、待っててね!」

 

アヤは改蔵の頬に濃厚なキスをすると、ベランダから空へと飛び出した。 背中の翅が激しく羽ばたき、黄金の軌跡を描いて都心へと消えていく。 女王の進撃が始まった。

 

***

 

都心、中央大聖堂。 白亜の巨塔は、聖乙女ヒカリの法力によって守られ、清浄な空気に包まれていた。 本来なら、悪しき怪人など一歩も近づけない聖域。 だが、今日の空は少し様子が違った。 太陽を遮るように、黄金色の粉が舞い降りてきたのだ。

 

「なんだ……? 金粉?」 「いい匂いがする……」

 

大聖堂を守る警備兵たちが、空を見上げる。 甘い。 脳が蕩けるような、芳醇な蜂蜜の香り。

 

「ごきげんよう、働き蜂の皆さん」

 

上空から、鈴を転がすような、しかし絶対的な命令権を含んだ声が降ってきた。 警備兵たちが驚愕する中、クイーンビー・アヤが舞い降りた。 聖堂の尖塔の頂点に立ち、太陽を背に受けて輝くその姿は、冒涜的なまでに美しかった。

 

「き、貴様! 何者だ! ここは聖域だぞ!」

 

警備隊長が銃を構える。 だが、アヤはふふっと笑い、指先から滴る蜜を弾き飛ばした。

 

「聖域? つまらない言葉ね。ここはこれから、私の『(ハイヴ)』になるのよ」

 

アヤの放つ『ロイヤル・フェロモン』が、警備兵たちの鼻腔を、肺を、そして脳髄を侵食する。 カラン、カラン……。 銃が地面に落ちる音が響いた。

 

「……あぁ……女王様……」 「美しい……」 「お仕えしたい……」

 

屈強な男たちの目がハート型に変わり、次々と膝をついていく。 彼らの理性は書き換えられた。 聖女を守る騎士から、女王に蜜を捧げる働き蜂へと。

 

「いい子たち。さあ、働きなさい。この白くて味気ない壁を、甘い蜜蝋で塗り固めるのよ!」

 

「イ、イ──ーッ! (仰せのままに!)」

 

洗脳された警備兵たちが一斉に動き出した。 彼らは大聖堂の資材を使い、あるいは自らの服を引き裂いて、聖堂を巨大な蜂の巣へと改造し始めた。 礼拝堂には六角形の部屋が作られ、聖水盤にはローヤルゼリーが満たされていく。

 

「な、何事ですか!?」

 

騒ぎを聞きつけ、聖堂の奥から一人の女性が飛び出してきた。 聖乙女ヒカリだ。 純白の法衣に身を包み、聖杖を構えている。

 

「貴女は……怪人!? なぜ私の結界を抜けられたのです!?」

 

ヒカリが愕然とする。 彼女の結界は『悪意』を弾く。 だが、アヤが持ち込んだのは悪意ではない。 『愛欲』と『奉仕』。 歪んでいるとはいえ、それは人間の根源的なプラスの感情であり、聖女の結界では完全に防ぎきれなかったのだ。

 

「あら、聖女様。ごきげんよう」

 

アヤが空中から見下ろす。

 

「貴女の結界、隙だらけよ? 『愛されたい』っていう貴女自身の願望が、穴を空けていたみたいね」

 

「なっ……!?」

 

ヒカリの顔が赤くなる。 図星だった。 最近、婚活がうまくいかず、ムラムラしていた心の隙を突かれたのだ。

 

「不潔です! 神聖な場所を汚すなんて!」

 

「不潔? これが『生命』よ。貴女みたいな温室育ちには分からないでしょうけどね!」

 

アヤが翅を震わせ、突撃する。 ヒカリは聖杖を展開し、光の盾を作り出した。 激しい攻防が始まった。

 

***

 

一方その頃、アジト。 六畳間には、大聖堂の監視カメラ映像をハッキングした中継が大画面で映し出されていた。 そして、そのテレビの前では、画面の中の戦いとは別の、しかし同じくらい激しい『戦い』が繰り広げられていた。

 

「はっ……はっ……! アヤさん……すごいですぅ……っ!」

 

五十嵐イスズの甘い声が響く。 彼女は今、あぐらをかいた改蔵の上に跨り、向かい合った状態で腰を振っていた。 Tシャツは汗で肌に張り付き、胸の形を露わにしている。 彼女の身体は、テレビの向こうのアヤの動きとシンクロするかのように、激しく上下に揺れていた。

 

「いいぞ……。そこだ、もっと締めろ」

 

改蔵はイスズの柔らかな腰を掴み、自身の欲望を深々と突き上げていた。 目の前の大画面では、アヤが黄金の蜜を撒き散らし、聖女を追い詰めている。 その背徳的な光景が、最高のスパイスとなって改蔵の興奮を煽る。

 

「ああんっ! 神主様っ! ……がんばえ~! アヤさ~ん!」

 

イスズは快感に喘ぎながらも、健気に両手を上げてアヤを応援した。 その拍子に身体が大きく跳ね、結合部がズプリと音を立てて深く食い込む。

 

「ひゃうっ!? ふ、深いですぅ……!」

 

「ハッ。応援してる余裕があるなら、もっと腰を使え」

 

改蔵はイスズの豊満な胸を揉みしだきながら、突き上げの速度を上げた。

 

「改蔵様! 見てください! 聖女の結界出力、低下しています!」

 

興奮気味に実況しているのは、小悪魔マナだ。 彼女は天井からぶら下がるのではなく、改蔵の背中に密着し、肩越しにタブレットを操作しながら、改蔵の耳元に熱い吐息を吹きかけていた。 彼女の手は、改蔵の胸板を這い回っている。

 

「アヤさんのフェロモン攻撃、効果抜群です! ……ああっ、改蔵様の心拍数も上昇中です! 私も……我慢できません!」

 

マナはタブレットを放り投げ、改蔵の首筋に甘噛みした。

 

「マスター。わたしも、おうえんする」

 

足元ではメイが、改蔵の睾丸を飴玉のように転がしながら、舌先で愛撫している。 彼女もまた、テレビの戦況を見つめながら、ご褒美のエキスをねだっていた。

 

「くっ……! 聖女の野郎、粘りやがるな」

 

画面の中では、ヒカリが必死に防戦していた。 だが、アヤは洗脳した警備兵たちを盾にして、じりじりと距離を詰めていく。

 

「いけっ! そこだ! 刺せ!」

 

改蔵が叫ぶと同時に、腰を打ち付ける。 パン! パン! パン! 肉がぶつかる音と、テレビの爆発音が重なる。

 

「あぁっ! いけぇ! アヤさん、負けないでぇ……っ! んんっ! きもちいいっ!」

 

イスズは白目を剥きかけながらも、テレビに向かって手を振る。 その無防備で、淫らで、そしてどこか抜けている姿が、改蔵のサディズムを強烈に刺激した。

 

「そうだ! もっと鳴け! 戦闘員どもに聞こえるようにな!」

 

「はいっ! ああんっ! すごいっ! お腹突き破られちゃいますぅ!」

 

マナも改蔵の背中で悶えている。 「んくぅ……! この振動……伝わってきます……! 改蔵様、もっと激しく!」

 

アジトの熱気は最高潮に達していた。 画面の向こうの暴力と、アジトの中の性愛。 二つの興奮が混ざり合い、カオスな宴が繰り広げられる。

 

***

 

大聖堂。 アヤは勝利を確信していた。 ヒカリは膝をつき、肩で息をしている。 結界はボロボロで、今にも砕け散りそうだ。

 

「終わりね、聖女様。貴女も私の蜜に溺れなさい!」

 

アヤが毒針を構え、ヒカリの喉元へと迫る。 チェックメイトだ。 誰もがそう思った。 だが。

 

「……溺れるのは、貴女です!」

 

ヒカリが顔を上げた。 その瞳には、聖女としての慈愛ではなく、もっと根源的な『女の意地』が燃えていた。

 

「私はまだ……結婚するまでは、死ねないんですぅぅぅぅ!!」

 

ヒカリが絶叫し、聖杖を地面に突き刺した。 ドォォォォン! 大聖堂の床が光り輝く。 それは結界術の応用ではない。 地下に眠っていた聖遺物、古代の浄化装置を無理やり起動させたのだ。

 

「な、なによこの光!? 熱い……!?」

 

アヤが悲鳴を上げる。 聖なる光の奔流が、大聖堂全体を包み込む。 それは『邪悪』や『不純物』を強制的に浄化する、神の裁きの光だった。

 

「いやぁぁぁ! 私の翅が! 蜜がぁぁぁ!」

 

アヤの黄金の肌が焼かれ、剥がれ落ちていく。 怪人としての力が、根こそぎ浄化されていく。 フェロモンが消え、洗脳されていた警備兵たちが正気を取り戻す。

 

「はっ!? 俺たちは何を……?」 「怪人だ! 撃て!」

 

形成逆転。 アヤは光の中で悶え苦しみ、そして墜落した。

 

***

 

アジト。 クライマックスを迎えていた改蔵とイスズの動きが、ピタリと止まった。

 

「あ」

 

イスズが間の抜けた声を上げた。 画面の中、強烈なホワイトアウトの後、煙の中から現れたのは、ボロボロになったテニスウェア姿の少女、坂倉アヤだった。 怪人化が解け、ただの人間の姿に戻ってしまっている。

 

「うそ……。負けちゃった……」

 

アヤはその場に力なく座り込んだ。 そこへ、正気を取り戻した警備兵たちが殺到する。

 

「確保! 身柄を拘束しろ!」 「いや、待て! ただの女子高生だぞ!?」 「被害者か!?」

 

アヤは抵抗する力もなく、担架に乗せられ、救急車へと運ばれていった。 彼女の野望は、聖女の婚活パワーの前にあえなく散ったのだ。

 

「……おい、マナ。あれマズくねえか?」

 

賢者タイムに入りかけた改蔵が、煙草に火をつけながら画面を指差した。 画面の端に映るアヤは、虚ろながらも意識があるように見える。

 

「あいつ、俺たちのこと全部覚えてるぞ。アジトの場所も、俺の顔もな」

 

「はっ! そうでした! 警察に喋られたら一巻の終わりです!」

 

背中にしがみついていたマナが飛び起きた。 彼女は慌ててレオタードを整えると、真剣な表情で指を鳴らした。

 

「改蔵様! 私が行ってきます! 証拠隠滅は小悪魔の嗜みですから!」

 

「おう、頼んだぞ」

 

「はいっ! 即行で終わらせてきます!」

 

マナの足元に魔法陣が展開される。 シュン! という音と共に、彼女の姿がかき消え、数分後。

 

「ただいま戻りましたー!」

 

空間が歪み、マナが元気よく飛び出してきた。 彼女は改蔵の前に着地すると、えっへんと胸を張ってVサインをした。

 

「どうだ?」

 

「バッチリです! わたしがっ! 記憶操作しておきました!」

 

マナはドヤ顔で報告する。

 

「アジトや改蔵様の記憶は綺麗サッパリ消去して、当たり障りのない偽の記憶(カバーストーリー)に書き換えておきましたよ! これで警察も手出しできません!」

 

「でかした。さすがだな」

 

改蔵が頭を撫でてやると、マナは嬉しそうに目を細め、尻尾をパタパタと振った。

 

「えへへ……。もっと褒めてください。有能ですから!」

 

「よしよし。今日は特別手当も追加してやるよ」

 

改蔵はマナを引き寄せ、その唇にキスをした。

 

「んっ……! 改蔵様……!」

 

事後。 賢者タイムの静寂の中、ニュースキャスターの声だけが響いていた。

 

『……現場からの報告です。怪人は浄化され、消滅した模様です。現場では人質の少女が無事保護されました。彼女はショック状態で記憶が曖昧であり、警察は彼女を被害者として保護し、詳しい事情を聞く予定ですが……』

 

「……とりあえず、俺たちのことはバレてねえみたいだな」

 

改蔵は気だるげにタバコに火をつけた。 膝の上では、イスズが幸せそうな顔で気絶している。 マナはぐったりと寄りかかり、メイは足元で丸くなっている。

 

「ま、生きてりゃまたチャンスはあるだろ。……いい見世物だったぜ」

 

改蔵は煙を吐き出し、テレビの電源を切った。 外ではまた、セミがうるさく鳴き始めていた。 女王蜂の夢は終わったが、このアジトの堕落した日常は、まだまだ終わる気配がなかった。

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