※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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7話

 ドリル怪人がオオテマチ金融街を更地(物理)にしてから、およそ一週間が経過した。 世間は、その圧倒的な破壊力と、突如として人間に戻った怪人(水玉リン)の話題で持ちきりだった。 水玉財閥は、即座に「令嬢は悪の組織に誘拐され、マインドコントロールを受けていた被害者である」との声明を発表し、莫大な資金力でマスコミを黙らせた。 だが、その騒動の「黒幕」がいるアジトは、今日も日本の片田舎で、どうしようもなく長閑な朝を迎えていた。

 

「……はふぅ」

 

 古びた六畳間の万年床。 その布団の海から、黒野改蔵(くろの かいぞう)が、満足げなため息と共にもそりと起き上がった。 昨日までの激しい「儀式」の連続による魔力消耗。 それを補うため、今朝もサポート担当の小悪魔マナと、入念な「契約の安定」作業を行った直後だった。 隣では、マナが、小さな身体をシーツに絡ませ、恍惚とした表情で天井を見つめている。

 

「あ、改蔵様……今朝も、完璧な『安定』、ありがとうございました……」 「おう。お前も、だいぶ『安定』してきたじゃねえか」 「はいぃ……改蔵様の魔力(ちから)、毎日いただかないと、私……」

 

 改蔵の軽口に、マナは、もはや首席才媛の面影もない、とろりとした瞳を向ける。 すっかり改蔵の絶倫な魔力の虜となった彼女は、任務(怪人作成)よりも、この朝の儀式(セックス)の方に情熱を注いでいるようだった。 改蔵は、そんなマナの頭を雑に撫でると、スウェット一つを引っ掛け、居間へと向かった。

 

 居間のブラウン管テレビでは、ワイドショーがまだオオテマチの特集を組んでいた。 『専門家によりますと、ドリル怪人の破壊活動による経済的損失は、実に三兆円に上ると見られており……』

 

「うへえ。派手にやったなあ、あのお嬢様」

 

 改蔵は、台所のヤカンからぬるい白湯を湯呑みに注ぎながら、他人事のようにつぶやいた。 画面には、瓦礫の山と化した金融街と、泣き叫ぶアナウンサーが映っている。 そこへ、マナが、よろよろとレオタード姿でついてきた。

 

「いえ! あれは素晴らしい『成果』です!」

 

 マナは、まだ腰が砕けそうにふらつきながらも、魔術スマートフォンを取り出し、誇らしげに画面を改蔵に見せた。

 

「ドリル怪人が収集した戦闘データ、ジャスティンジャーの必殺武器の解析。すべて首領に提出し、サイトウさん経由で、最高評価『S』をいただきました!」 「ふーん。ボコボコに負けたのによ」 「だ、ダメですよ改蔵様! 結果が全てではありません! あのプライドの高い『素材』が、改蔵様の魔力で屈服し、あれだけのポテンシャルを発揮した。その『プロセス』こそが重要なんです!」

 

 マナが、なぜか自分の手柄のように胸を張る。 だが、その熱弁も、すぐに「はふぅ」という、妙に色っぽい吐息に変わった。 彼女は、そのまま、ごく自然な動作で、改蔵の胡坐をかいた足の間にちょこんと座り、その背中に身体を預けてきた。

 

「……マナさん。今、朝のメンテ終わったばっかですよね」 「はい……でも、改蔵様の『大元』の魔力に触れていると、私の魔力回路も、とっても『安定』するんです……」

 

 マナは、うっとりと目を閉じ、改蔵の逞しい腹筋に頬ずりを始めた。 完全に、ただの色狂い小悪魔である。 改蔵は、ため息をつきながら、その金髪のドリル(リンのそれとは比べるべくもない、可愛らしいツーサイドアップ)を雑に撫でた。

 

「まあ、いいけどよ。で、首領様からの『最高評価』ってのは、結局、どういうことだ」 「はい! つまり……」

 

 マナは、改蔵の体温にすり寄りながら、スマホの次のメッセージを読み上げた。

 

「『黒幕(改蔵)の能力は、我が軍団の千年計画の要である。一刻も早く、次なる怪人を作成し、納品せよ』……だ、そうです」 「……やっぱり、ただの催促じゃねえか」

 

 世界征服などどうでもいい改蔵にとって、それは、単なる「次のセックスの相手を探せ」という業務命令でしかなかった。

 

「光栄なことです! さあ、改蔵様、今日も張り切って、高ポテンシャル素材、探しちゃいましょう!」

 

 マナは、改蔵の膝の上でくるりと向き直ると、『潜在的怪人因子(ポテンシャル)スキャナー』のアプリを起動させた。 画面に、アジト周辺の地図と、いくつかの光点が浮かび上がった。

 

 ***

 

 その頃。 アジトからほど近い、私立大学のキャンパス。 昼休みの喧騒の中、その学生は、一人だけ時間の流れが違うかのように、ゆったりと歩いていた。

 

 五十嵐イスズ(いがらし いすず)。 柔らかそうな黒髪のボブカット。 常にふんわりとした笑顔を浮かべた、少し垂れ目の、いわゆる『癒し系』の女子大生だった。 特筆すべきは、その身体つきだ。 身長は百六十二センチと平均的だが、ゆったりとした白いセーターを着ていても、隠しきれない胸の膨らみ。 歩くたびに、その豊かな双丘が、ぽよん、ぽよんと、柔らかな主張を繰り返している。 数字にすれば、B89。 服の上からでもわかる、見事なボインちゃんだった。

 

「あ、イスズー! こっちこっち!」

 

 中庭のベンチで、友人たちが彼女を手招きした。

 

「ご、ごめんね。研究室の先生のお手伝いが長引いちゃって」 「もー、またイスズは。どうせ、タダで資料整理とかやらされてたんでしょ」 「ううん。お茶とお菓子、ごちそうになっちゃったから」

 

 イスズは、えへへ、と困ったように笑った。 彼女は、おとなしく素直で、やや天然ボケ。 そして、致命的なまでに、お人好しだった。 誰かに頼み事をされると、断れない。 というより、相手が困っているのを見ると、放っておけない性分だった。 友人が、呆れたようにパンをかじる。

 

「あんたねえ。その『お人好し』、いつか痛い目見るよ。この前も、変なアンケートに引っかかって、高そうな美容液のサンプル買わされそうになってたじゃない」 「あ、あれ? でも、お肌が綺麗になるって……」 「なるわけないでしょ! アレ、典型的な勧誘の手口だから!」 「ええーっ!? そうだったんだ……」

 

 イスズは、心底驚いたように、ぱちぱちと大きな目を瞬かせた。 その、あまりにも純粋な反応に、友人たちは、それ以上何も言えなくなってしまう。 彼女には、悪意というものが、まるで通じないのだ。

 

「……まあ、イスズはそのままでいいけどさ。変な男にはマジで気をつけなよ。あんた、その『武器』、自覚ないんだから」

 

 友人が、じろり、とイスズの胸元に視線を送った。

 

「え? 武器? 私、なにも持ってないよ?」

 

 イスズは、不思議そうに、きょとんと小首を傾げた。 その仕草で、セーターのVネックがわずかにたわみ、豊かな谷間が、さらに深く強調される。

 

「「……(確信犯か? いや、天然だ)」」

 

 友人たちは、揃ってため息をつくしかなかった。 彼女の日常は、そんな、悪意のない、平和なやり取りで満たされていた。 彼女自身、自分が『怪人』の『素材』になる可能性など、夢にも思っていない。

 

 ***

 

「……ん?」

 

 アジトの居間。 改蔵の膝の上で、マナが、スキャナーの画面を食い入るように見つめていた。

 

「どうしました、改蔵様。すごい反応が出ました!」 「ほう」

 

 マナが、地図上の一点をタップする。 大学のキャンパスに、ひときわ眩い光点が灯っていた。 写真が表示される。 ふんわりと笑う、黒髪ボブの、癒し系。

 

『五十嵐イスズ。二十歳。大学生』

 

「お」

 

 改蔵の目が、写真の胸元に釘付けになった。

 

「こいつは……『高ポテンシャル』だ。いろんな意味で」 「もー! 改蔵様は、すぐそうやって!」

 

 マナが、ぷんぷんと頬を膨らませる。 だが、彼女自身も、画面に表示されたデータを見て、ゴクリと生唾を飲んだ。

 

『表層意識:極めて平穏(ピースフル)』 『深層意識:不明(アンノウン)。測定不能なほどの『空白(ブランク)』』 『総合潜在魔力(ポテンシャル)測定限界突破(エラー)

 

「……エラー?」

 

 マナは、魔術スマホを振ったり、叩いたりしてみた。 だが、表示は変わらない。 カメレオン怪人(チアキ)の時は『変身願望』。 ドリル怪人(リン)の時は『破壊願望』。 必ず、その人間の鬱屈した欲望が『因子』として表示されるはずだった。 だが、この『五十嵐イスズ』には、それがない。 あるのは、ただ、異常なほどの『潜在能力(ポテンシャル)』の数値だけ。

 

「……どういうことでしょう」 「さあな。欲望がねえ女なんて、いんのかよ」 「いえ……あるいは、『欲望』が強すぎて、スキャナーの測定限界を超えているのかも……! 見た目はあんなに『癒し系』なのに、内面では、ドリルさん以上の破壊衝動を秘めているとか……!」

 

 マナは、首席才媛だった頃の分析能力(今はだいぶポンコツ)を必死で回転させた。

 

「……これだわ!」

 

 マナが、ポン、と手を打った。

 

「『嵐の前の静けさ』です! あの平穏な表層意識は、深層に眠る強大な『何か』を抑え込むための『蓋』に違いありません!」 「へえ。そうか?」 「はい! 間違いないです! この『素材』、もし解放できれば、今までの怪人とは比べ物にならない、とんでもない『傑作』が誕生しますよ!」

 

 マナは、すっかり興奮していた。 改蔵は、正直どっちでもよかった。 ただ、写真に映る、あの豊かな『ボインちゃん』と、『儀式』ができる。 それだけで、彼のモチベーションは十分だった。

 

「よし。じゃあ、いっちょ、その『蓋』とやらを、俺の魔力(チンポ)でこじ開けに行くか」 「はいっ! お任se……ああっ!」

 

 改蔵が、そのままマナを抱き上げ、寝室(万年床)の方へ向かおうとする。

 

「か、改蔵様!? 今から『素材』の調達に!」 「その前に、景気づけの『安定』だ。傑作を作るには、こっちのコンディションも万全にしとかねえとな」 「そ、それは、合理的、ですけど……! あ、ああんっ! ま、待って! せめて、転移魔法で、現地に、行ってから……!」 「うるせえ。アジトでたっぷり『安定』させてから、お前が一人で調達してこい。どうせ、あんなお人好しそうな顔、丸め込むのなんざ簡単だろ」 「そ、そんな! 私一人じゃ……! ああっ! でも、改蔵様の『儀式』への情熱、しかと、受け取り……ましたぁ!」

 

 マナの悲鳴じみた嬌声が、長閑なアジトに響き渡った。

 

 ***

 

 夕暮れの帰り道。 五十嵐イスズは、大学近くの公園のベンチで、一人、缶のお茶を飲んでいた。 友人たちと別れ、一息ついているところだった。 (……今日の特売、間に合うかなあ。卵、安くなってるといいな) そんな、平和なことを考えていた、その時だった。

 

「あの、すみません」

 

 不意に、可憐な声が降ってきた。 見上げると、そこに、金髪の、天使のように愛らしい少女が立っていた。 背中には小さな悪魔の(イスズには天使の翼に見えた)翼。 黒いレオタードという、奇抜な(イスズには神聖な衣装に見えた)格好。

 

「わあ……!」

 

 イスズは、思わず、ぽーっと見とれてしまった。

 

「すごい……! コスプレ、ですか? とっても、似合ってます!」 「(……よし、食いついた!)」

 

 マナは、内心でガッツポーズをした。 改蔵との『安定』作業で、すっかり腰はガクガクだったが、任務は任務だ。 彼女は、訓練校で習った「最も信頼を得られる営業スマイル」を顔に貼り付けた。

 

「これは、コスプレではありません。私は、天界(魔界だが)からの使い、『マナ』と申します」 「ええっ!? て、天使様……ですか!?」

 

 イスズの目が、キラキラと輝きだした。 (ちょ、チョロすぎる……!) マナは、あまりの手応えの良さに、逆に少し戸惑った。 チアキの時のような警戒も、リンの時のような反発も、一切ない。

 

「は、はい! そうです! そして私、困っているんです……!」

 

 マナは、しゅん、と悲しそうな顔を作ってみせた。

 

「ええっ!? 大変! 私でよければ、何でもお手伝いしますよ!」

 

 イスズが、ベンチから勢いよく立ち上がった。 その反動で、豊かな胸が、ぽよん、と大きく揺れる。 (な、なんて『高ポテンシャル』……!) マナは、ゴクリと生唾を飲んだ。

 

「あ、ありがとうございます! さすが、私が選んだ、この街で一番『清らかな魂』を持つお方!」 「そ、そんな! 私なんて、全然……」 「いえ、貴女しかいないんです! 今、私たちの『聖域』で、世界平和のための、とっても大事な『神聖な儀式』が行われようとしているのですが……」

 

 マナは、そこで言葉を区切り、潤んだ瞳でイスズを見上げた。

 

「儀式を完成させるための、『巫女』様が、足りないんです!」 「巫女……様?」 「はい! 五十嵐イスズ様! どうか、私たちと一緒に来て、世界を救う『儀式』の、お手伝いをしていただけませんか!」

 

 マナが、深々と頭を下げる。 世界平和。神聖な儀式。巫女。 そんな、壮大な(しかし具体性のない)言葉に、イスズの「お人好し」スイッチは、完全に入ってしまった。

 

「わ、私で、いいなら……! 喜んで!」

 

 イスズは、マナの手を、両手でぎゅっと握りしめた。

 

「や、やります! 世界平和のために!」 「……ありがとうございます!」

 

 マナは、この任務(スカウト)の、あまりのイージーさに、嬉しさと同時に、一抹の不安さえ覚えていた。 (本当に、この人で、大丈夫かしら……?) だが、スキャナーの『エラー』表示を思い出す。 (いえ、この『純粋さ』こそが、強大なポテンシャルの『蓋』! 間違いないわ!)

 

「では、巫女様! 我が『聖域(アジト)』へ、ご案内します!」 「はいっ!」

 

 マナは、イスズの手を引いた。 イスズは、何の疑いもなく、むしろ、ワクワクした顔で、その小さな天使(悪魔)の後に続いていく。 特売の卵のことは、すっかり頭から抜け落ちていた。

 

 アジトの玄関。 ギイ、と重い引き戸が開けられる。

 

「わあ……。なんだか、おばあちゃん家みたいで、落ち着く『聖域』ですね」 「え、ええ。歴史がありますから」

 

 マナが、冷や汗をかきながら、イスズを居間へと案内する。 居間では、黒野改蔵が、Tシャツ一枚で、畳に寝転がりながら、漫画雑誌を読んでいた。

 

「ただいま戻りました、改蔵様! 新たな『素材』、いえ、『巫女』様をお連れしました!」 「おー。ご苦労……」

 

 改蔵は、漫画から目を上げ、そして、固まった。 そこに立っていたのは、写真で見た通りの、黒髪ボブの、癒し系の少女。 そして、セーターの上からでもわかる、あの、圧倒的な『ポテンシャル(ボイン)』。

 

「……」

 

 イスズは、改蔵の姿を見るなり、その場で、深々と、完璧なお辞儀をした。

 

「はじめまして! 五十嵐イスズと申します! マナちゃんからお聞きしました! 貴方が、儀式を執り行う『神主』様、ですね!」 「……神主」

 

 改蔵は、数秒間、ぽかんとしていたが、やがて、口の端が、ニヤリと吊り上がっていくのを止められなかった。

 

「……ああ」

 

 改蔵は、ゆっくりと立ち上がった。

 

「俺が、ここの『神主』の、黒野改蔵だ」 「わあ! よろしくお願いします、神主様!」 「おう。よろしくな、『巫女』様」

 

 改蔵の目が、これから始まる「神聖な儀式」を想像し、ギラギラと、どうしようもなくスケベに輝いていた。 イスズだけが、何も知らず、にこにこと、ふんわりとした笑顔を浮かべていた。

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