※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

80 / 110
71話

 秋の夜長。  庭先の草むらからは、コロコロ、リリリと、スズムシやコオロギたちの涼やかな合唱が聞こえてくる。  昼間の残暑が嘘のように冷え込んだ風が、古びた木造アジトの隙間風となって入り込み、六畳間の温度を下げていた。  だが、その部屋の中心だけは、異様な熱気と、硬質な牌がぶつかり合う音、そして男の勝ち誇ったような低い笑い声に支配されていた。

 

「……ツモ。国士無双。役満だ」

 

 黒野改蔵が、バシンッ! と畳が凹むほどの勢いで牌を叩きつけた。  ちゃぶ台の上に無造作に並べられたのは、麻雀における最高難易度の手役の一つ。  一九字牌が全て揃った、美しくも暴力的な並びだった。

 

「ええっ!? またですか神主様! さっきも四暗刻でしたよね!? 天和(テンホウ)も二回ありましたし!」

 

 対面に座る五十嵐イスズが、目を丸くして驚きの声を上げた。  彼女は改蔵のTシャツ一枚という、いつもの扇情的な部屋着姿だ。  あぐらをかいた足の間からは、健康的で白くなめらかな内太ももが露わになり、前屈みになって牌を覗き込むたびに、Tシャツの襟元から豊満な谷間がこぼれ落ちそうになっている。  だが、麻雀のルールはいまいち分かっていないらしく、彼女の手牌は字牌と数牌が意味不明に並べられた、芸術的なまでのバラバラ状態だった。

 

「マスター、すごい。……わたし、まだテンパイしてない。チーとかポンとか、いっぱいしたのに」

 

 下家のサキュバス怪人メイが、尻尾で牌をいじりながら不満そうに口を尖らせる。  彼女は牌の絵柄を「かわいい」「かわいくない」という独自の基準で集めており、手元には花牌や赤ドラ、そしてなぜかピンズの1(丸い模様)ばかりが集まっていた。  これでは勝負になるはずもない。

 

「……イカサマ乙。魔力で牌を書き換えてる。ログに残ってる」

 

 部屋の隅、少し開いた押し入れの隙間から、ボソボソとした声が聞こえる。  そこには、サーバー機材とPCモニターの青白い明かりに照らされた、リス耳と尻尾を持つ少女、小森クルミがいた。  彼女はネット麻雀の画面と、アジト内の魔力波形モニターを交互に見ながら、冷ややかに指摘した。

 

「うるせえ。バレなきゃイカサマじゃねえんだよ。結果が全てだ」

 

 改蔵はあぐらをかき、ステテコの腹をポリポリと掻きながら煙草に火をつけた。  紫煙が天井へと昇っていく。  圧倒的な魔力と、現実改変能力に近い強運を持つ彼にとって、素人相手の麻雀など幼児の戯れに等しい。  配牌の時点で役満が確定しているような、予定調和の勝利。  刺激がない。  もっとヒリつくような、魂を削り合うような、命懸けの勝負がしたい。

 

「ああ、つまんねえ。どいつもこいつも雑魚ばかりだ。少しは俺を楽しませてくれる奴はいねえのか」

 

 改蔵が牌をジャラジャラとかき混ぜながらぼやく。  その退屈しきった横顔を、上家(カミチャ)で牌を整えていた小悪魔マナが、妖艶な笑みで見つめていた。

 

「退屈そうですね、改蔵様。刺激、足りてませんか?」

 

「おう。酒も進まねえよ。このままじゃ寝ちまいそうだ」

 

「ふふ。……実は私、面白い噂を仕入れてきたんです。今の改蔵様にぴったりの、『極上の獲物』の情報を」

 

「噂?」

 

「ええ。新宿の裏カジノ界隈に、とんでもない『雀鬼』が現れたそうです。台湾から来た美女で、その美貌と神がかった腕前で、日本の裏プロたちを次々と葬り去り、身ぐるみ剥いでいるとか」

 

 マナが懐から魔術タブレットを取り出し、空中にホログラム写真を展開した。  そこには、深いスリットの入った白いチャイナドレスを着た、陶器のように白く透き通る肌を持つ美女が写っていた。  切れ長の瞳は涼しげで、手には愛おしそうに『(ハク)』の牌が握られている。

 

「ほう。いい女じゃねえか。……腕は確かなのか?」

 

「『(ハク)』の牌を愛し、敵を真っ白に燃え尽きさせることから、通称『白き死神』と呼ばれているそうです。……どうします? スカウト(拉致)してきましょうか?」

 

 改蔵の目がギラリと光った。  麻雀の強敵、そして極上の美女。  食指が動かないはずがない。  退屈な秋の夜長を彩る、最高の余興だ。

 

「行ってこい。俺の『積み込み』が通用するか、試してやる。……負かした暁には、その白い肌に俺の刻印を打ち込んでやるからな」

 

「了解です! 最高の獲物を一本釣りしてきますね!」

 

 マナはウィンクをすると、背中の黒い翼をバサリと広げた。  窓枠を蹴り、夜の闇へと溶け込んでいく。

 

 ***

 

 欲望渦巻く眠らない街、新宿・歌舞伎町。  ネオンの海に沈む雑居ビルの地下深く、さらに秘密の扉を抜けた先にある会員制の裏雀荘。  そこは、紫煙とアルコールの匂い、そして男たちの脂汗と殺気が充満する、鉄火場だった。

 

 その一角に、異様な人だかりができていた。  ギャラリーの視線は一点、卓を囲む一人の女性に注がれている。

 

「……ロン。大三元、字一色(ツーイーソー)。ダブル役満ネ」

 

 鈴を転がすような、しかし氷のように冷徹な声と共に、純白の牌が倒された。  白白(パイパイ)。  台湾出身の麻雀プロにして、裏社会を渡り歩く流浪の賭博師。  艶やかな黒髪をシニヨンにまとめ、身体のラインを扇情的に強調する白いチャイナドレスを身に纏っている。  深く入ったスリットからは、組まれた足の、雪のように白く滑らかな太ももが惜しげもなく露わになり、男たちの視線を釘付けにしていた。

 

「ば、馬鹿な……! 積み込みも、すり替えも完璧だったはずだぞ! 貴様の配牌はクズ手だったはずだ!」

 

 対面のヤクザ風の男が、顔面を蒼白にして絶叫した。  彼の指先は震え、隠していたイカサマ用の牌が袖口からポロリとこぼれ落ちた。

 

「貴方のイカサマ、動作が遅いアル。私の目、誤魔化せないヨ」

 

 パイパイは扇子で口元を優雅に隠し、蔑むように笑った。  その瞳は、宝石のように美しく、そして底知れない深淵を覗かせていた。

 

「手品は幼稚園でやるヨロシ。ここは命のやり取りをする場所ネ」

 

「くっ……! 化け物が……!」

 

「さあ、支払いの時間ネ。……金はいらないアル。身ぐるみ置いて、出ていくヨロシ」

 

 男たちが悲鳴を上げて逃げ出していく。  パイパイは卓の上に積み上げられた札束や宝石、権利書には目もくれず、手元の『(ハク)』の牌を愛おしそうに指先で撫でた。  つるりとした牌の感触。  何も描かれていない、純白の世界。

 

「……つまらないアル。日本の男、口ほどにもないネ」

 

 彼女は強さを求めていた。  麻雀とは、運と実力、そして心理戦の芸術。  それを極めた彼女にとって、小手先のイカサマや、彼女の身体目当ての男など、敵ですらなかった。  欲しいのは、魂が震えるような恐怖と歓喜。  自分を支配し、屈服させてくれるような圧倒的な『雄』の存在。

 

「もっと……私の心を震わせてくれる、熱い男はいないアルか? 私を真っ白になるまで愛してくれる男は……」

 

 彼女がため息をつき、長い睫毛を伏せた、その時。

 

「お困りのようですね、お姉さん」

 

 頭上から、悪戯っぽい声が降ってきた。  パイパイが顔を上げると、雀荘の天井に、まるで蜘蛛かコウモリのように逆さまに張り付いている少女がいた。  黒いレオタード姿のマナだ。

 

「……誰ネ? 忍者カ? それともサーカスの団員カ?」

 

 パイパイは驚きもせず、冷静に牌を握ったまま見上げた。  場数を踏んだ彼女の胆力は、常人のそれではない。

 

「ふふ。私は『悪の組織』のスカウトマン。……貴女、退屈してまうすね? その乾いた瞳が語っていますよ」

 

 マナが音もなくふわりと卓の上に降り立つ。  周囲の空気が一変した。  雀荘の煙たい空気が、異界の瘴気に塗り替えられる。

 

「ウチのボスが、貴女と一局お手合わせ願いたいそうです。貴女が求めている『強さ』と『刺激』……ウチにありますよ」

 

「ボス? ……どうせまた、金と権力だけの豚アルか?」

 

「いいえ。豚というよりは……『魔王』ですね。この世で最も理不尽で、強欲で、魅力的な」

 

 マナが妖しく微笑む。

 

「賭けるものは……そうですね。『世界の半分』と『貴女自身』でどうですか?」

 

「世界の半分……? フフ、大きく出たネ」

 

 パイパイの目が興味深げに細められた。  この少女から漂う、人外の気配。  そして「悪の組織」という響き。  それは、退屈な日常を壊してくれる予感がした。

 

「いいヨ。その勝負、受けて立つアル。……ただし、私が勝ったら、貴女たちの組織、私が貰うネ。そしてボスを私の下僕にするアル」

 

「交渉成立ですね。では、特等席へご案内~!」

 

 マナが指を鳴らすと、黒い霧が卓を包み込んだ。  一瞬の浮遊感。  世界が反転する。  次の瞬間、パイパイの視界は、煙草の煙る地下室から、カビと畳の匂いがする和室へと切り替わっていた。

 

 ***

 

 アジトの六畳間。  ちゃぶ台の上には、最新式の全自動麻雀卓(マナがどこかから調達してきた)が鎮座している。  その向かい側には、ステテコ姿の中年男が、不敵な笑みを浮かべて座っていた。  黒野改蔵。  彼から放たれるオーラは、先ほどのヤクザたちとは桁が違った。  重く、黒く、そして熱い。

 

「ようこそ、雀姫。俺がここの支配者、黒野改蔵だ」

 

「……随分とむさ苦しい支配者ネ。でも……嫌いじゃないアル」

 

 パイパイは扇子で鼻を覆った。  男臭い。  生活感と、野生の獣のような匂いが充満している。  だが、それが逆に彼女の本能を刺激した。

 

「ここが私の戦場ネ? ……悪くないアル」

 

 パイパイはチャイナドレスの裾を払って椅子に座った。  深く入ったスリットから、白い太ももが惜しげもなく晒される。  照明を受けて輝くような美脚。  ノーパンかと思わせるほど際どいラインだが、彼女は気にする素振りも見せない。  これは彼女の武器の一つ。  男の視線を誘導し、思考を鈍らせるハニートラップだ。

 

「ルールは簡単だ。サシウマ(一対一)勝負。持ち点は2万5千。トビ(破産)あり。イカサマ……バレなきゃOKだ」

 

 改蔵がニヤリと笑う。

 

「望むところネ。私の目、節穴じゃないヨ。貴方の手元、全部見えてるアル」

 

 ジャララララ……。  全自動卓の中で牌が混ざり合う音が響く。  観戦するのは、興味津々のイスズとメイ、そして押し入れから顔を出したクルミ。  マナは審判として立会う。

 

「東一局、ドラは白。……始め!」

 

 勝負が始まった。  序盤は静かな立ち上がりだった。  だが、すぐにパイパイの実力が露わになる。

 

「ポン。チー。……ロン。タンヤオ、ドラ3。満貫ネ」

 

 速い。  的確な鳴きと、流れるような捨て牌。  改蔵の手作りを封じ込め、最短ルートで和了(アガ)り続ける。  彼女の指先は、まるでピアノを弾くように牌を操る。

 

「ふん。やるじゃねえか」

 

 改蔵が点棒を投げる。  点差じりじりと開いていく。  だが、改蔵に焦りはない。

 

「貴方の手、透けて見えるヨ。……力任せだけの麻雀ネ。美しくないアル。運だけで勝ってきた男の打ち方ネ」

 

 パイパイが挑発する。  彼女は場の空気を支配していた。  牌の流れ、相手の呼吸、そして運気。  全てを読み切り、完全にコントロールしている。

 

「南三局。……これで終わりネ」

 

 パイパイの手牌が開かれる。  国士無双、13面待ち。  ダブル役満の聴牌(テンパイ)だ。  あとはどの牌を引いても和了れる。  勝利は確信していた。  この男の運も、ここで尽きる。

 

「……リーチだ」

 

 その時、改蔵が低く呟き、リーチ棒を置いた。  場の空気が凍りついた。  国士無双13面待ちに対して、リーチ?  狂気の沙汰だ。

 

「リーチ? 無駄な抵抗ネ。私、もう張ってるヨ。どの牌が出ても私の勝ちアル」

 

「勝負は下駄を履くまで分からねえぞ。……見せてやるよ、本当の『魔王の麻雀』ってやつをな」

 

 改蔵が牌山に手を伸ばす。  その瞬間、パイパイの「目」が捉えた。  改蔵の手から溢れ出す、漆黒の魔力。  それが牌山に浸透し、物理法則をねじ曲げ、確率を書き換えていく様を。

 

(……来るッ! すり替えじゃない! 牌そのものを変質させてる!?)

 

 パイパイの白い肌が粟立った。  イカサマのレベルを超えている。  これは魔法だ。

 

「ツモぉぉぉッ!」

 

 改蔵が牌を叩きつけた。  バシンッ!  強烈な衝撃で、他の牌が飛び跳ね、卓が軋む。

 

「……天和(テンホウ)? いえ、違う。これは……」

 

 パイパイが目を見開く。  改蔵がゆっくりと倒した手牌。  そこには、麻雀の歴史上、誰も見たことのない、あり得ない絵柄が並んでいた。

 

【白】【白】【白】【白】【白】【白】【白】【白】【白】【白】【白】【白】【白】【白】

 

 全てが『(ハク)』。  麻雀牌の中に4枚しかないはずの白が、14枚揃っている。  純白の暴力。

 

「な、なんネこれ!? イカサマにも程があるヨ! 白は4枚しかないアル! ルール違反ネ!」

 

 パイパイが立ち上がって抗議する。

 

「役満『白一色(ホワイト・オール)』だ。……文句あるか?」

 

 改蔵が不敵に笑う。  その笑顔には、反論を許さない絶対的な自信と威圧感があった。

 

「俺がルールだと言ったはずだ。このアジトじゃ、俺が白と言えば黒も白になる。4枚しかないなら、14枚に増やせばいい。……それが『悪の組織』のやり方だ」

 

 圧倒的な理不尽。  論理も技術も通用しない、暴力的なまでの自己肯定。  パイパイは呆然とした。  怒りよりも先に、そのデタラメな強さに、身体の奥が熱くなるのを感じた。  ああ、これが。  これが私が求めていた『理不尽な暴力』。  私の全てをねじ伏せる力。

 

「……負け、ネ」

 

 パイパイは扇子を畳み、力なく席に座り込んだ。  完敗だ。  麻雀のルールでは勝っていたかもしれない。  だが、この場の『支配権』争いにおいて、彼女は完全に敗北し、そして心を奪われたのだ。

 

「潔いな。……さて、支払いの時間だ」

 

 改蔵が立ち上がり、パイパイに近づく。  巨大な影が、彼女の白い肌を覆い隠す。  むせ返るような男の匂いが、彼女を包み込む。

 

「賭けの対象は『私自身』……だったネ」

 

「ああ。身ぐるみ剥いで、骨の髄まで俺のモンにさせてもらうぜ」

 

 改蔵の手が、パイパイのチャイナドレスの襟元にかかった。  ビリッ。  小気味良い音と共に、高級なシルクが引き裂かれる。  ボタンが弾け飛び、白い布地が床に滑り落ちた。

 

「あ……ッ」

 

 露わになったのは、陶磁器のように白く、そしてマシュマロのように柔らかな肌。  彼女は下着をつけていなかった。  胸元も、そしてスリットの奥も。  完全な『無』。  あるのは、つるりとした白磁の肉体だけ。  陰毛の一本すら存在しない、徹底的な『白』の世界。

 

「ほう。……『(パイ)』が好きとは聞いてたが、まさか『パイパン(白板)』とはな。全身ツルツルじゃねえか」

 

 改蔵が下卑た笑みを浮かべ、彼女の秘所を指差す。

 

「うっ……! 見るなネ……! これは私のポリシーあるヨ! 無駄な毛は美しくないアル! 私は『白』を愛してるネ!」

 

 パイパイは顔を真っ赤にし、両手で秘所を隠そうとした。  だが、その羞恥に濡れた瞳は、期待に潤んでいるようにも見えた。  隠せば隠すほど、見られたいという欲望が鎌首をもたげる。

 

「美しいぜ。……この真っ白なキャンバスに、俺の『役』を刻み込んでやる。俺色に染めてやるよ」

 

 改蔵はパイパイを麻雀卓の上に押し倒した。  ジャラジャラと牌が崩れ落ち、背中に当たる。  冷たい牌の感触と、熱い男の手の感触。  背徳的なコントラストが、パイパイの理性を溶かしていく。

 

「覚悟するネ。……私の身体、高いヨ? 半端な代償じゃ満足できないアル」

 

「払ってやるよ。たっぷりと『現物支給』でな! 俺のロン(剛直)を喰らえ!」

 

 アジトの夜は、麻雀の音から、肉体がぶつかり合う音へと変わっていく。  台湾から来た最強の雀鬼が、魔王の卓上でどのように鳴かされるのか。  嶺上開花(リンシャンカイホウ)のような絶頂の花が咲くのは、もうすぐだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。