※この作品はR-18です。

ヤッて改造! 〜悪の組織の黒幕です〜   作:ろくさん

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73話

 

 東京湾の沿岸部に広がる、巨大な物流センター地区。

 無機質な鋼鉄のコンテナが山のように積み上げられ、大型トレーラーが唸りを上げて行き交うこの場所は、首都圏の食卓と経済を支える心臓部だ。

 オイルと潮風、そして排気ガスの匂いが混じり合う、男たちの荒々しい職場。

 だが今日、その無骨な風景は、異様な「白」と、甘く柔らかな大豆の香りに侵食されようとしていた。

 

 一方、地下深くに潜む悪の組織のアジト。

 六畳間のちゃぶ台の上に置かれたPCモニターには、中間管理職サイトウの、疲労とストレスで彫りが深くなった顔が映し出されていた。

 

『作戦指令だ! 聞いているかね、黒野君!』

 

 サイトウが画面越しに唾を飛ばす勢いで叫ぶ。

 

『最近、長雨の影響で野菜の高騰が続いている! 世間の主婦たちは悲鳴を上げているのだ! そこでだ、敵対する政府系物流センターを襲撃し、さらなる流通の混乱を招くのだ! 人々に「食」のありがたみを再認識させ、恐怖と飢餓感を植え付ける……これぞ悪の組織の経済戦略だ!』

 

「要は、ただの嫌がらせだな。……相変わらずセコい作戦だぜ」

 

 黒野改蔵は、朝食の味噌汁(賽の目切りの豆腐入り)をズルズルと啜りながら、興味なさそうに呟いた。

 彼の膝元では、五十嵐イスズが甲斐甲斐しくおかわりのご飯をよそっている。

 

『嫌がらせではない! 高度なハラスメントだ! ……頼んだぞ、新入りの「豆腐怪人」君! 君の能力が頼りだ!』

 

「任せるネ。私の『白』で、この薄汚い世界を塗り替えてやるアル」

 

 ちゃぶ台の前に座っていた白白(パイパイ)が、ゆらりと立ち上がった。

 彼女の姿は、昨夜の改蔵による「調理(改造)」によって劇的に変化していた。

 頭には麻雀牌の『白』を模した、巨大で四角い髪飾りが鎮座している。

 身に纏うのは、湯葉のように薄く、半透明でとろりとした質感のドレス。それは彼女の動きに合わせて揺れ動き、下の肌を悩ましく透かせて見せている。

 そして何より異様なのは、彼女が歩くたびに「プルンッ、プルンッ」と全身が震え、水風船のような、あるいは上質なプリンのような弾力を見せつけていることだった。

 

「行ってきます、マスター。……お土産は、真っ白でフワフワになった世界ヨ」

 

「おう。冷奴になって帰ってくんなよ。キリハの聖剣は切れ味鋭いからな」

 

「ふふん。剣なんて、豆腐の前では無力ネ」

 

 パイパイは窓枠に手をかけ、身軽に飛び出した。

 着地の瞬間、普通の人間なら「ダンッ」と鳴るところだが、彼女の場合は違った。

 ボヨンッ。

 軟着陸。

 彼女はゴムまりのように、いや、高弾力の食材のように軽やかに弾みながら、決戦の地へと向かっていった。

 

 ***

 

 湾岸物流センター、第3倉庫前。

 ヘルメットを被った作業員たちが、フォークリフトを操作して荷下ろし作業に追われている最中だった。

 突如、空から白い影が降ってきた。

 

 ボヨヨヨォォォンッ! 

 

 アスファルトに着地した衝撃で、周囲の空間がゼリーのように揺れる。

 

「な、なんだぁ!? 女……か?」

「おい、危ないぞ! ここは立ち入り禁止だ!」

 

 警備員が駆け寄ろうとする。

 だが、パイパイは優雅に微笑み、彼らに向かって投げキッスを送った。

 チュッ。

 口から吐き出されたのは、白い粘液状の弾丸。

 

「うわっ!? なんだこれ、ベトベトする!?」

「豆腐……? 豆腐の匂いがするぞ!?」

 

 粘液に触れた警備員の制服が、みるみるうちに白く変色し、ふやけ始めた。

 

「これぞ『物質変換・絹ごしタッチ』ネ。硬いものは美しくないアル。全て柔らかくしてあげるヨ」

 

 パイパイは滑るように移動し、近くにあった大型フォークリフトに触れた。

 彼女の白魚のような指先が、冷たい鋼鉄のボディを撫でる。

 その瞬間。

 グニャリ。

 数トンの重量を誇る鉄の塊が、一瞬にして巨大な豆腐の塊へと変貌した。

 タイヤはがんもどきのように潰れ、車体は木綿豆腐のように崩れ落ちる。

 

「うわぁぁぁ! 俺のリフトがぁぁ! おからになったぁぁぁ!」

 

 運転席にいた作業員が、豆腐の山に埋もれて悲鳴を上げる。

 パイパイの侵食は止まらない。

 コンテナ、トラック、倉庫の壁。

 彼女が触れるもの、あるいは彼女から放たれる白い霧に包まれたものは全て、白く、四角く、そして柔らかい大豆製品へと置換されていく。

 潮風の匂いが消え、辺り一面に甘く濃厚な大豆の香りが充満する。

 

「そこまでよ! 食べ物を粗末にする悪党!」

 

 その時、凛とした声が響き渡った。

 コンテナの上に立つ、一人の少女。

 白銀の甲冑を纏い、手には輝く聖剣。

 聖剣姫キリハだ。

 

「現れたネ、聖剣姫。……私の真っ白なキャンバスに、貴女のような硬い異物は不要アル」

 

 パイパイは冷ややかに笑い、両手を広げて待ち構えた。

 その背後には、すでに豆腐化した物流センターが、シュールな現代アートのようにそびえ立っている。

 

「日本の物流を豆腐に変えるなんて、許せないわ! 天誅!」

 

 キリハが跳躍し、上空から急降下斬りを放つ。

 聖剣が閃光を放ち、パイパイの頭上へと振り下ろされる。

 岩をも両断する必殺の一撃。

 

 スパァンッ! 

 

 聖剣は吸い込まれるようにパイパイの肩口に食い込み、そのまま斜めに胴体を切り裂いた。

 手応えがない。

 まるで水を斬ったような感触。

 

「もらった!」

 

 キリハが着地し、残心をとる。

 だが。

 

 ヌルッ……。

 

 切り裂かれたはずのパイパイの身体が、離れることなく、粘液のように繋がっていた。

 断面は白く滑らかで、血の一滴も出ていない。

 そして、まるで切った豆腐同士がくっつくように、ピタリと元通りに癒着した。

 

「なっ……!? 斬れない!?」

 

 キリハが目を見開く。

 

「ふふっ。いい太刀筋ネ。でも……私の身体は最高級の『絹ごし』アル。柳に風、豆腐に聖剣。物理攻撃は一切通じないヨ」

 

 パイパイは傷一つない肌を撫でて見せた。

 

「くっ! ならば突く!」

 

 キリハが連続突きを放つ。

 シュシュシュシュッ! 

 無数の刺突がパイパイの身体を貫くが、穴が開いたそばから「ぷるるん」と震えて塞がっていく。

 逆に、剣を引き抜く際の抵抗で、キリハのバランスが崩れそうになる。

 

「私のターンネ。……ロン! 大三元・豆乳ビーム!」

 

 パイパイが両掌を突き出すと、そこから高圧縮された白い液体が激流となって発射された。

 ドピュッ! ドピュルルルッ! 

 

「しまっ……!」

 

 キリハが聖剣で防御しようとするが、液体は剣に絡みつき、さらに彼女の全身へと降り注いだ。

 ドロリとした白濁液が、聖なる甲冑を、そしてキリハの顔を覆い尽くす。

 

「うわぁっ!? 何これ、ベトベトする! 前が見えない!」

 

 キリハが悲鳴を上げる。

 豆乳ビームは急速に凝固し、湯葉のような膜となってキリハの動きを封じていく。

 

「や、やだ! 気持ち悪い! 離れなさいよ!」

 

 聖剣姫が、白い粘液まみれになって悶える。

 その光景は、戦いというよりは、何か背徳的な儀式のようだった。

 

 ***

 

 一方、地下のアジト。

 六畳間の巨大モニターでその様子を眺めながら、黒野改蔵はニヤニヤと笑った。

 

「やるじゃねえか、豆腐。あの堅物の聖剣姫が、あんなにドロドロにされてらぁ」

 

 改蔵はあぐらをかき、その股間には五十嵐イスズが侍っていた。

 彼女はモニターの、特にキリハが粘液にまみれるシーンを見ながら、興奮で頬を紅潮させている。

 

「すごいですねぇ。あの聖剣を受け流すなんて……。キリハちゃん、可哀想だけど、なんだかエッチです」

 

「お前も受け流す練習するか? ……ほら、こっちも『実戦形式』で応援してやらねえとな」

 

 改蔵がイスズのTシャツを捲り上げた。

 露わになった豊満な胸は、パイパイの冷たい豆腐のような白さではなく、ほんのり桜色がかった、温かい人肌の白さと柔らかさを持っている。

 

「神主様……っ。優しく『調理』してくださいね」

 

 イスズが甘い声を漏らし、改蔵の首に腕を回す。

 部屋の隅では、マナが改蔵の背中に張り付いてマッサージをし、メイが足元で指を舐めている。

 そして押し入れの隙間からは、クルミが「……聖剣姫、粘液拘束中。スクショ保存完了。素材として優秀」と淡々と実況している。

 

「パイパイが外で頑張って白くしてるんだ。俺たちも中から白くしてやろうぜ」

 

 改蔵はイスズを抱き寄せ、その柔らかな乳房を両手で包み込み、餅を捏ねるように揉みしだいた。

 ムニュッ、ムニュッ。

 モニターの中のパイパイが敵の攻撃を受け止める柔らかさと、イスズの柔らかさがシンクロする。

 

「あ……んっ! 神主様の手、熱い……! 私も……お豆腐みたいに崩れちゃいそうです……!」

 

「崩れるまで愛してやるよ。マナ、お前は俺の『ツモ運』を上げてくれ」

 

「はいっ! 改蔵様の『一発ツモ』、期待してますよ!」

 

 マナが改蔵の耳元で囁き、首筋を甘噛みする。

 物流センターでの戦いと、六畳間での情事。

 破壊と快楽がリンクし、アジトは背徳的な熱気に包まれていた。

 

 ***

 

 再び戦場。

 キリハは追い詰められていた。

 全身にへばりついた湯葉を引き剥がし、なんとか体勢を立て直すが、肩で息をしている。

 聖剣の輝きも、豆乳の汚れで鈍っている。

 

「くっ……。斬っても突いても再生するなんて……。どうすればいいの!」

 

 キリハが歯噛みする。

 パイパイは余裕の笑みで近づいてくる。

 

「諦めるネ。貴女の剣は、私には届かないアル。……大人しく私の『具』になるヨロシ」

 

「誰が具になんて……! 待って、具……?」

 

 キリハの脳裏に閃きが走った。

 豆腐。

 成分のほとんどは水分。

 水があるから柔らかく、形を変えられる。

 ならば、その水を奪ってしまえば? 

 

「そうか……! 貴女の弱点は『水分』ね!」

 

 キリハが聖剣を構え直す。

 その瞳に、決意の炎が宿る。

 

「聖剣よ、太陽の如き熱を宿せ! 属性変換・プロミネンス!」

 

 キリハが詠唱すると、聖剣の刀身が赤熱し、激しい炎を纏い始めた。

 周囲の空気が揺らぎ、アスファルトが熱で溶け出す。

 

「な、なんネ!? その熱気は……!」

 

 パイパイが足を止めた。

 本能的な恐怖。

 瑞々しい彼女の肌が、熱気だけでチリチリと痛み始める。

 

「豆腐は水分が命……。だったら、干からびさせてあげるわ! 食らいなさい、灼熱の斬撃!」

 

 キリハが聖剣を振りかぶり、一気に薙ぎ払った。

 

「聖剣奥義・陽炎(かげろう)一閃!」

 

 ゴォォォォォォォッ! 

 剣圧と共に、猛烈な熱風が嵐となってパイパイを襲った。

 それは物理的な斬撃ではなく、水分を蒸発させるための熱波攻撃。

 

「い、いやぁぁぁ! 熱いアル! 潤いが! 私のプルプルの美肌がぁぁぁ!」

 

 見るも無残な変化が始まった。

 水風船のように張りのあった肢体が、みるみるうちに萎み、収縮していく。

 白い蒸気がシュゥゥゥゥと立ち昇り、白かった肌は茶色く変色し、スポンジのようにスカスカの穴だらけになり、表面に細かいひび割れが走り始めた。

 

「や、やめるネ……! 私、カサカサになるの嫌アル……! 高級絹ごしが……安物の特売高野豆腐になっちゃうヨォォォ!」

 

 パイパイは悲痛な叫びを上げた。

 防御力自慢の柔肌は、いまやカチカチに乾燥し、指で押せば砕けそうなほど脆くなっていた。

 関節が動くたびに、ギシギシと乾いた音がする。

 

「チェックメイトよ! 水分を失った豆腐なんて、ただの乾物だわ! これで終わり!」

 

 キリハが跳躍し、とどめの一撃を放つ。

 

「聖剣・インパクト!」

 

 ガシャァァァァァァン!! 

 

 陶器……いや、乾パンが割れるような乾いた破砕音と共に、高野豆腐化したパイパイの身体が粉々に砕け散った。

 無数の茶色い破片がキラキラと舞い散る中、彼女を構成していた改蔵の魔力も霧散していく。

 

「ロン……。振り込み、ネ……。水分補給……したかったアル……」

 

 パイパイは最後にそう呟き、白い光の中に消えていった。

 

 ***

 

 アジト。

 モニターの映像が砂嵐に変わる。

 

「あちゃー。干からびさせられちまったか。高野豆腐にされるとはな」

 

 改蔵は、事後の気だるさの中で煙草を吹かした。

 彼の腕の中では、汗ばんだイスズが満足げに眠っている。

 部屋には、情事の熱気と、ほんのりと香ばしい大豆の匂いが残っていた。

 

「さすが聖剣姫ですね。弱点を即座に見抜きました。水分過多が仇になりましたね」

 

 マナが着衣を整えながら冷静に分析する。

 

「ま、いいさ。あいつも十分暴れただろ。物流は止まったし、サイトウも文句ねえはずだ。……最後の散り際、カサカサでちょっと笑えたけどな」

 

 改蔵は悪びれもせずに笑った。

 彼にとって、怪人は使い捨ての駒ではないが、負けたならそれはそれ、というドライな関係だ。

 楽しませてくれた礼は、昨日の夜にたっぷりと身体で払った。

 悔いはない。

 

「クルミ、あいつはどうなった?」

 

 押し入れに向かって声をかける。

 

「……浄化確認。人間に戻った。……現在、羽田空港のロビーにいる」

 

 クルミがモニターを切り替えると、空港のロビーで呆然と立ち尽くす女性の姿が映し出された。

 白白(パイパイ)だ。

 彼女は普通の私服姿で、手にはパスポートと、なぜか麻雀牌の『白』を握りしめていた。

 

「……私、何してたアルか? 日本のカジノで……負けて……? 夢を見てた気がするネ」

 

 彼女はキョロキョロと周囲を見渡し、首を傾げた。

 記憶は、雀荘でマナに会う直前まで巻き戻っている。

 アジトでの日々も、改蔵との濃密な夜も、豆腐になって聖剣姫と戦った記憶も、全て白紙に戻っている。

『白き死神』は、再び純白の記憶を手に入れたのだ。

 

「……まあいいネ。とりあえず、台湾に帰って熱い小籠包でも食べるアル。……豆腐は、しばらく見たくない気分ネ」

 

 彼女は小さく肩をすくめると、搭乗ゲートへと歩いていった。

 その足取りは軽く、憑き物が落ちたように清々しかった。

 ただ、無意識に股間を押さえる仕草に、昨夜の快楽の余韻が微かに残っているのかもしれなかった。

 

 ***

 

 その日の夕食。

 アジトの食卓には、これでもかというほどの豆腐尽くしの料理が並んでいた。

 冷奴、湯豆腐、麻婆豆腐、揚げ出し豆腐、豆腐ハンバーグ。

 白一色の食卓だ。

 

「……おい。しばらく豆腐は見たくねえって言わなかったか?」

 

 改蔵がげんなりした顔で箸を持つ。

 あの白い肌の感触、崩れる肉体、そして最後の干からびた姿を思い出してしまい、妙に生々しくて箸が進まない。

 

「あら、勿体ないですよ? 美容にいいんですから。たくさん食べて、また夜の『特訓』のために元気(魔力)をつけてくださいね♡」

 

 イスズがニコニコと麻婆豆腐を取り分ける。

 彼女の笑顔は、どんな怪人よりも、そして聖剣姫よりも手強い。

 

「……へいへい。食えばいいんだろ、食えば」

 

 改蔵は観念して、豆腐を口に運んだ。

 平和なアジトの夜。

 だが、改蔵の魔手は、また次の獲物を求めて動き出すだろう。

 食欲と性欲の秋は、まだ終わらないのだから。

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