日本のどこにでもある、長閑な田舎町。その町外れ、木枯らしが吹き抜ける寂れた風景の中に、ひっそりと佇む古びた一軒家があった。瓦屋根は苔むし、庭には重厚な扉を閉ざした古い蔵(くら)がある。一見すると、ただの空き家か、偏屈な隠居老人が住む家屋にしか見えない。だがこここそが、悪の組織・極東支部の秘密アジトである。
その家屋の奥にある六畳間。色褪せた畳と、煤けた天井。裸電球の頼りない光が照らすその空間で、褐色の肌を持つ考古学者・アナメスは、畏怖と感動に打ち震えていた。
「……素晴らしい。なんという濃密な空気……。この鼻腔をくすぐる澱んだ匂い、湿り気を帯びた
アナメスは分厚い眼鏡を中指でクイと押し上げ、周囲を見渡した。彼女の極度な近眼と、エジプトへの異常な愛着が生み出すフィルターを通せば、ただのゴミ屋敷も聖域と化す。乱雑に積み上げられた古雑誌の山は『叡智を記したパピルスの塔』に。食べ散らかしたカップ麺の空き容器は『神へ捧げられた供物の壺』に。そして、煎餅布団の上に胡座をかき、ステテコ姿で腹をかいている中年男・黒野改蔵こそは、現世に蘇った偉大なる『ファラオ』そのものに見えていた。
「ようこそ、真理の探求者よ。俺の眠りを妨げたからには、それ相応の覚悟があるんだろうな?」
改蔵が低い声で威圧する。単に寝起きで機嫌が悪く、煙草が切れてイライラしているだけなのだが、アナメスにはそれが王の威厳ある試問として響いた。
「ハッ! 愚かな民草が、あろうことか王の
アナメスがその場に崩れ落ちるように平伏する。額を床に擦り付ける、最敬礼のポーズだ。だが、その勢いが良すぎた。
ゴツンッ!
「あ痛っ!?」
彼女の額が、ちゃぶ台の角に激しく激突した。その衝撃で、彼女の視界を支える生命線──牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡が、顔から弾け飛んだ。
チャリン、コロコロ……。
軽快な音を立てて、眼鏡は部屋の隅、先日マナが買ってきた五万円の
「め、眼鏡が……! 眼鏡がないと、何も見えません……!」
アナメスが悲痛な声を上げ、四つん這いで床をまさぐる。彼女は生活に支障をきたすレベルの、重度のド近眼だ。眼鏡を失った途端、世界は輪郭を失い、極彩色の
「おいおい、ドジな学者先生だな。……まあいい。見えねえほうが、都合がいいこともある」
改蔵がゆっくりと立ち上がった。彼はニヤリと笑うと、穿いていたステテコの紐を解き、それを無造作にずり下ろした。
ボロンッ。
彼の股間に鎮座する凶暴なイチモツが、外気に晒され、ムクリと鎌首をもたげる。日頃の魔力供給で鍛え上げられたその逸物は、血管が脈打ち、先端から欲望の先走り液を滴らせながら、裸電球の光を浴びてテラテラと
「あ……っ!?」
アナメスが気配を感じて顔を上げた。彼女のぼやけた視界の中心に、改蔵の股間が映る。白くボヤけたステテコ(彼女には大理石の台座に見えている)の上に、天を衝くように聳え立つ、太く、逞しく、そして脈動する一本の柱。先端の亀頭は、怒張して赤黒く膨らんでおり、それはまるでコブラが鎌首をもたげた王権の象徴のようだ。
「こ、これは……! まさか……!」
彼女の脳内で、考古学の知識と、長年の妄想が化学反応を起こしてショートした。見えない部分は、彼女の情熱が勝手に補完する。それはイチモツではない。生物の器官などという卑俗なものではない。
それは──伝説に謳われる『復活したツタンカーメンの黄金像』、あるいは『オシリス神の聖なるオベリスク』。生命の根源を象徴する、生きたアーティファクト。
「ああ……! なんて神々しい……! 黄金の光が……部屋中を満たしていく……! 王よ、貴方はついに完全なる復活を遂げられたのですね……!」
アナメスは涙を流し、改蔵の股間に向かって、祈りを捧げるように両手を合わせた。その瞳は焦点が合っていないが、恍惚とした熱を帯びている。
「ほう。こいつの価値が分かるか。博物館のガラスケースにあるガラクタとは違うぞ?」
改蔵は腰を突き出し、その「ご神体」をアナメスの目の前に晒した。
「分かりますとも! この反り、この艶、そして内からドクンドクンと溢れ出る生命の
アナメスは震える手で、白衣のポケットから何かを取り出した。それは発掘現場で出土品の保護や、怪我の手当てに使うための、長い
「……王よ。その荒ぶる魂、どうかお鎮めください。この卑しきアナメスが、古代の作法に則り、正式な『鎮魂の儀』を執り行います」
「儀式だと? 俺をその布で縛るつもりか?」
「滅相もございません! 神聖なる王の御身を拘束するなど、万死に値する不敬の極み! ……縛られるべきは、
アナメスは手際よく包帯の端を口に咥え、自分の身体に巻き付け始めた。シュルシュルと白い布が、褐色の肌を締め上げる。手首を後ろで交差させて拘束し、豊かな胸を強調するようにたすき掛けにし、太ももに食い込ませるようにきつく巻き付ける。考古学者としての知識を総動員した(?)その縛り方は、肉体の自由を奪うと同時に、肢体のエロティシズムを極限まで強調するものだった。あっという間に、彼女は自らを『供物』としてラッピングしてしまった。
「ふむ。古代エジプトには亀甲縛りの文化があったのか。勉強になるな」
天井からぶら下がったマナが、ポップコーンを食べながら感心したように見下ろしている。台所のイスズは「怪我をしたんでしょうか? 包帯、足りてますか?」と心配そうにお茶を啜っている。
「王よ……。どうか、この身をお納めください。……『入魂の
アナメスは縛られたまま、芋虫のように床を這いずり、改蔵の足元に辿り着いた。そして、目の前の「
「熱い……。まるで砂漠の太陽のようだわ……。血管の一本一本が、まるでヒエログリフのように脈打っている……」
彼女は像の先端、カリの部分に唇を寄せ、聖遺物に口付けをするように、優しくキスをした。チュッ。
「まずは、穢れを祓い清めます……」
彼女はゆっくりと口を開き、その巨体を受け入れた。
「んむッ……。はむッ……。じゅるるッ……」
いやらしい音ではない。彼女にとっては、国宝級の神具をメンテナンスする神聖な行為だ。舌先で丁寧に裏筋の汚れを舐め取り、亀頭の溝を掃除し、喉の奥深くまで飲み込むことで、王の力を体内に取り込もうとする。ザラリとした舌の感触と、吸引の強さが、改蔵の背筋をゾクゾクさせる。
「くぅ……。真面目な顔して、すげえバキュームだ。掃除機みてえに吸い付きやがる」
改蔵が思わず唸り、アナメスの頭を掴む。アナメスの奉仕は、快楽への渇望ではなく、信仰による献身だった。だからこそ、一切の手加減も妥協もない。窒息しそうなほど深く咥え込み、白目を剥きながらも決して離そうとしない。
「んぐッ、おっ、おぐッ……! ぷはっ……! 王よ、清めの儀は完了しました。……準備は整いました」
アナメスは口から離すと、口元についた銀色の
「どうか、聖なる
「おう、こじ開けてやるよ。とびきりの盗掘開始だ」
改蔵はアナメスの腰をガシリと掴み、自身の剛直をその入り口にあてがった。濡れた秘肉が、待ちきれないように吸い付いてくる。
「いくぞ!」
ズプッ、ズヌヌヌヌンッ!
一気呵成。改蔵は遠慮なく、最深部まで貫いた。
「ああっ……!!」
アナメスが背中を弓なりに反らせ、
「入った……! 王が……私の中に……! 黄金の魂が、肉体を満たしていく……! これが……数千年の重み……!」
「どうだ、博物館のミイラとは違うだろ! この熱さがよォ!」
改蔵が激しく腰を打ち付ける。パンッ! パンッ! パンッ! 肉と肉がぶつかる音が、儀式の太鼓のようにリズミカルに響き渡る。アナメスの胎内は、侵入者を歓迎するように熱くうねり、改蔵のモノを締め上げた。
「ああ、ああ……っ! 素晴らしい……! 教科書が……歴史が……書き換わる……! 私の身体が、王の器として作り変えられていく……!」
アナメスは快感に喘ぎながらも、その表情はどこまでも真剣で、学術的ですらあった。彼女にとって、これはただの交尾ではない。神との合一。古代の神秘との融合。未知なる快楽の発見。
「もっと……! もっと奥へ! 王家の谷の最奥まで、貴方の証を刻み込んでください!」
「望み通りにしてやるよ! イくぞ! ナイルの
改蔵のピストン速度が限界に達する。アナメスもまた、包帯で縛られた身体をよじり、改蔵を迎え入れる。
「おおぉぉぉぉぉッ!! 王よぉぉぉぉッ!!
ズドォォォォォン!
改蔵の剛直から、膨大な魔力が濁流となって解き放たれた。
ドピュッ! ドピュルルルッ! ドプッ!
アナメスの子宮という名の玄室に、白濁した「聖なる水」がたっぷりと注ぎ込まれる。熱い。焼けるように熱い魔力の奔流。アナメスは白目を剥き、口を半開きにして、全身を激しく痙攣させた。
「あがっ、あひぃぃぃっ! 入るぅぅ! 王の魂が、私を塗り潰すぅぅぅ!」
その瞬間、アジトに異変が起きた。アナメスの身体を巻いていた包帯が、注入された魔力に反応して黄金色に発光し、生き物のようにシュルシュルと増殖を始めたのだ。
ザザァァァ……ッ!
幻聴ではない、砂嵐の音が響く。包帯は彼女の褐色の肌を覆い尽くし、手足には古代の装飾具のような黄金の腕輪や足輪が出現する。頭部にはコブラの頭飾りが輝き、その背後には蜃気楼のように揺らぐピラミッドの幻影が立ち上る。
「……復活……。完全なる、復活……」
事後の余韻の中で、儀式を終えたアナメスが、ゆらりと立ち上がった。その姿は、もはや人間の考古学者ではない。全身を聖なる包帯で巻かれ、黄金の装飾を纏った、妖艶にして神聖なる『ミイラ怪人・アナメス』となっていた。包帯の隙間からは、褐色の肌と豊満な肢体が見え隠れし、扇情的な魅力を放っている。
「おめでとうございます! 歴史的発見ですねぇ! 立派なミイラ怪人の誕生です!」
マナがパチパチと拍手する。アナメスは眼鏡のない瞳で、ぼんやりと自分の黄金色に輝く手を見つめた。
「私は……選ばれたのね。王の伴侶として、この腐敗した現世を浄化し、新たなる『王家の谷』へと変える使命を帯びたのね……」
彼女は改蔵に向かって、再び深く、優雅に跪いた。その姿は、王に仕える忠実な神官であり、愛妾であった。
「我が
「へっ、話が早くて助かるぜ。労働力は現地調達しろよ。予算はゼロだ」
「御意に。……民草をミイラ化させ、永遠の労働を与えましょう。全ては、王のために」
アナメスは恭しく礼をした。彼女の視界は相変わらずぼやけているが、その心には確固たる(誤った)使命感が燃え上がっていた。アジトの片隅では、忘れ去られた五万円の壺が、心なしか「やっと本物が来た、これで俺もただの壺じゃなくなる」と安堵しているように見えた。