冬晴れの乾燥した空気が肌を刺す、ある日の午後。悪の組織・極東支部のアジトである、築数十年の古民家の六畳間には、いつものようにPCモニターから中間管理職サイトウの怒号が響き渡っていた。
『作戦指令だ! 聞いているかね、黒野君!』
サイトウの脂ぎった顔面アップが画面を埋め尽くす。
『先日のピラミッド計画の失敗により、我が軍の地上拠点は未だ増えていない! そこで今回は、より収容人数の多い施設を狙う! 都内にある国立スタジアムを制圧し、そこを悪の演説会場とするのだ! 観衆を人質に取り、我々の力を世界に誇示せよ!』
「……スタジアムだぁ? 寒い中、わざわざ外に出るのかよ。こたつから出たくねえなぁ」
黒野改蔵は、こたつに入ったまま、みかんの白い筋を丁寧に剥きながら気のない返事をした。こたつの中には、すでに五十嵐イスズと小悪魔マナも潜り込んでおり、改蔵の足に絡みつきながら暖を取っている。
「ふふふ……。ご安心ください、マスター。その作戦、この『リボンイノリ』にお任せを」
部屋の隅で、人間離れした柔軟体操をしていた少女が、しなやかに立ち上がった。朝倉イノリ。鮮烈なローズピンクのハイレグ・レオタード姿の怪人だ。
「スタジアム……。五万人の観衆……。最高の
イノリがうっとりと自身の股間を撫でた、その時だった。
「ちょっと待ちなさいよ! コンサート会場ですって!?」
バン! と襖が開き、派手な衣装の美女が入ってきた。大きなリボンで括ったポニーテール、ボンテージ風の過激なアイドル衣装。悪の組織・第五の四天王、『魔人ミスティ(石川カスミ)』だ。彼女は定期的な
「スタジアムでショーをするなら、現役アイドルの私が黙ってるわけないでしょ! あの新入り(イノリ)一人じゃ客席は埋まらないわよ。私が『メインボーカル』として華を添えてあげるわ!」
「お、やる気だなミスティ。ちょうどさっき注入してやったばかりだし、コンディションは抜群か」
「当たり前でしょ! 改蔵のドロドロの魔力で、お肌もツヤツヤよ♡ ……あ、コホン。というわけで、私も出撃するわ!」
ミスティは改蔵にウインクを投げると、イノリに向き直った。
「アンタはバックダンサー兼パフォーマーよ。私の歌に合わせて踊りなさい。いいわね?」
「ふふっ、光栄ですわ、先輩。……私のリボンで、最高のステージ演出をしてみせます」
露出狂の新体操怪人と、目立ちたがり屋のアイドル魔人。
***
国立スタジアム。その日は人気アイドルのコンサートで、五万人の観衆が埋め尽くしていた。熱気とペンライトの光が揺れる中、突如として空からピンク色の流星と、黒い雷光が降り注いだ。
シュルルルルッ! ズドォォン!
「きゃぁぁぁっ!?」 「なんだ!? ステージに誰か降りてきたぞ!?」
爆煙が晴れると、そこにはスポットライトを浴びてポーズを決める二人の美女がいた。
「ごきげんよう、愚民の皆様! 本日のメインアクトは、私たち『ヴィラン・シスターズ』ですわ!」 「私の歌を聴けぇぇぇッ! 破壊のシンフォニーをねッ!」
イノリが無数のリボンを放ち、観客席の人々を捕縛する。同時にミスティがマイクを握り、魔力を込めた
***
一方、アジトの六畳間。改蔵たちは、その様子をテレビ
「やるじゃねえか。ミスティの歌に合わせてイノリが踊る。……なかなかエロい絵面だ」
改蔵は感心しつつ、こたつ布団を跳ね除けた。画面の中の二人の淫らな動きに、彼自身のイチモツも限界まで膨れ上がっていたからだ。
「私たちも負けてられませんね! 神主様、私たちも『
イスズがエプロンを外し、やる気満々で立ち上がる。マナもレオタード姿になり、改蔵の背中に飛び乗った。
すると、こたつの下から「んぅ……」という弱々しい声と共に、小柄な少女が這い出してきた。高い位置でツインお団子にした髪、困り眉に潤んだ瞳。姪浜メイだ。彼女は改蔵のスウェットの裾をギュッと握りしめ、上目遣いで訴えかけてきた。
「マスター……。ごはん……」
彼女の視線は、改蔵の股間の盛り上がりに釘付けだ。画面の中の豪華なショーなど彼女には関係ない。ただ、マスターが興奮している匂いを嗅ぎつけ、おこぼれをもらいに来たのだ。
「わたしも……ほしい……。マスターの、ほしい……」
メイは改蔵の足にすり寄り、腰をヘコヘコと揺すり始めた。尻尾の先のハートマークがピコピコと動いている。
「たくっ、ミスティたちの活躍を見て少しは学べよ……と言いたいが、お前はそれでいいか」
「まなぶ……? ううん、いらない。わたし、マスターの、たべるだけでいい」
メイは意味もわからず首を振り、その場でペタリと開脚して床に座り込むと、改蔵の股下に潜り込んだ。そして、頼まれてもいないのに、改蔵のイチモツの根本に顔を埋め、舌を出して必死に舐め始めた。
「んちゅ……、れろ……。マスターのにおい……。おいしい……」
「よし、合体だ。……マナ、お前は背中からエビ反りだ」 「はーい! ぐにゃーん!」
「イスズ、お前はY字バランスだ。……いや、俺が支えてやるからI字を目指せ」 「は、はいっ! 私、身体が硬いんですけど……神主様のためなら!」
改蔵はマナと結合したまま、前方のイスズの片足を持ち上げ、無理やり垂直まで押し上げた。下からはメイが、必死にイチモツの根元を愛撫している。
「くぅ……! どいつもこいつも! ……メイ、邪魔だ! そこくすぐったい!」 「ふぇぇ!? ご、ごめんなさいぃ! でも、とまらないのぉ……じゅるっ♡」
アジトの六畳間は、汗と熱気と、メイの甘えた鳴き声に包まれた。遠隔地でのシンクロナイズド・セックス。改蔵の魔力が、画面を通じてイノリとミスティにも供給されていく。
***
スタジアム。ショーが最高潮に達しようとしたその時、スタジアムの屋根から数人の影が飛び降りた。
「そこまでよ! 神聖なスポーツと歌の殿堂を、悪の宴で汚すなんて!」
正義戦隊ジャスティンジャー。そして、その中心には白銀の甲冑を纏った凛々しき少女、聖剣姫キリハ……ではなく、清らかな法衣に身を包んだ『聖乙女ヒカリ』の姿があった。
「悪しき魔女たちよ! 私の祈りで浄化してあげます!」
ヒカリが錫杖を構える。
「あら、お客様? チケットはお持ちかしら? ……って、またアンタたち?」
ミスティがマイクを持ったまま不敵に笑う。
「ふん、アイドル気取りの魔人なんて、私の聖なる光で焼き尽くしてやるわ!」 「生意気ね! 格の違いを教えてあげる! イノリ、やるわよ!」
ミスティの合図と共に、イノリがリボンを振るう。シュパッ! リボンがジャスティンジャーたちの武器を弾き、動きを封じる。
「くっ、このリボン、変幻自在か!」
「オーッホッホ! 私の柔軟なリボンからは逃れられませんわ! ……さあ先輩、どうぞ!」
「ナイスアシストよ! 食らいなさい、新曲『ラブリー・デビル・バースト』!!」
ミスティが歌うと同時に、マイクから破壊光線が発射される。ドガァァァン! ジャスティンジャーとヒカリが吹き飛ばされる。
「きゃぁぁっ! 強すぎる……! 連携が完璧だわ!」
ヒカリが地面に倒れ込む。イノリとミスティのコンビネーションは圧倒的だった。だが、追い詰められたヒカリの目が、イノリの「ある一点」を捉えた。同じ女性として、ヒカリはずっと気になっていたのだ。
(あのリボン怪人……露出が異常すぎる。……もしかして、そこが弱点なんじゃ?)
ヒカリは立ち上がり、叫んだ。
「ねえ、ちょっと貴女! ……その格好、恥ずかしくないんですか!?」
「……はい?」
舞っていたイノリの手が止まった。
「だってそれ、お尻が半分以上出てるじゃないですか! しかも、動くたびに前の方が……その、食い込んで……形が丸わかりですよ!?」
ヒカリの指摘に、スタジアムの空気が凍りついた。観客たちも、洗脳が解けたようにハッとする。「確かに……」「あれ、見えてないか?」「すごい食い込みだ……」
「な、何を言っているの? これは美しさの表現で……芸術で……」
イノリの声が震える。ヒカリはさらに、スクリーンを指差して畳み掛ける。
「芸術? ただの露出狂です! 見てください、あの巨大モニター! 貴女の股間が4K画質でドアップで映ってますよ! 恥ずかしくないんですか!? 日本全国に、貴女のワレメの形が放送されてるんですよ!?」
「えっ……?」
イノリが恐る恐る頭上の巨大スクリーンを見上げる。そこには、高画質で、彼女の股間に食い込んだレオタードのアップが、汗の一滴まで克明に映し出されていた。
ブワッ。
イノリの顔が、瞬時に茹でダコのように真っ赤になった。「怪人としての自信」という魔法が、現実の指摘によって解けた瞬間だった。
「ひ……っ!?」
彼女の脳裏に、本来の「朝倉イノリ」としての記憶と羞恥心がフラッシュバックする。清純な女子高生。恥ずかしがり屋の少女。そんな自分が、五万人の前で、こんな格好で、あんなポーズを……。
「い、いやぁぁぁぁぁぁッ!!」
イノリはその場にうずくまり、両手で股間とお尻を隠した。
「見ないでぇぇッ! お嫁に行けないぃぃッ! 変態ぃぃぃッ!」
彼女の全身から、凄まじい熱気が噴き出した。羞恥心によるオーバーヒート。
「ちょっとイノリ! 何やってんの! ステージの途中よ!」
ミスティが叫ぶが、もう遅い。
「もう……死にたいぃぃぃぃッ!!」
カッッッッ!!
イノリの羞恥心が臨界点を超え、大爆発を起こした。それは攻撃的な爆発ではなく、己の存在を消し去りたいという願いが生んだ、浄化の閃光だった。
ドカァァァァァァン!!
まばゆい光がスタジアムを包み込み、リボンが花吹雪となって消滅していく。その光の中で、イノリの身体から怪人の力が抜け落ち、ただの気絶した
「…………」
砂煙が晴れたステージに、ミスティだけが取り残された。彼女はマイクを下ろし、冷めきった目で、気絶しているイノリと、呆然とするヒーローたちを見回した。
「……はぁ。何よこれ」
ミスティはつまらなそうに髪をかき上げた。
「せっかく私が美声を披露してあげてたのに。途中で演奏放棄なんて、プロ失格ね」
彼女はくるりと背を向けた。
「興冷めね。帰るわ」
「待ちなさい! 逃さないわよ!」
ヒカリが呼び止めるが、ミスティは指先から黒い霧を放ち、姿を消した。後には、アイドルとしての不満と、勝利したはずなのに釈然としないヒーローたちだけが残された。
***
アジト。モニターがホワイトアウトし、砂嵐に変わる。
「……ありゃ。また自爆しちまったか。ミスティの嬢ちゃんも不完全燃焼だな」
改蔵は、絶頂の余韻の中で苦笑いを浮かべた。彼の下では、無理なストレッチでヘトヘトになったイスズとマナが、折り重なるように倒れている。そして足元では、メイが口の周りを白く汚したまま、幸せそうに丸まっていた。
「羞恥心ってのは、最高のスパイスだが……劇薬でもあるな」
「はぁ、はぁ……。神主様……。私の股関節……もう限界ですぅ……」 「マスター……。背骨が……パキパキ言ってますぅ……」 「マスター……。ごはん、おいしかった……。むにゃ……」
女たちは、全身筋肉痛になりそうだった。改蔵は彼女たちの頭を撫で、事後の一服をふかした。
「ま、いい特訓にはなっただろ。……お疲れさん」
日本のどこにでもある田舎町。アジトには、今日も平和で淫靡な時間が流れていた。