冬の日は釣瓶落としに暮れていく。日本のどこにでもある長閑な田舎町、その外れにひっそりと佇む古びた一軒家──悪の組織・極東支部のアジトは、とっぷりと夜の闇に包まれていた。隙間風がヒューヒューと鳴る縁側とは対照的に、アジトの中心である六畳間には、むせ返るような生活臭と、怪しげな魔力の気配が澱んでいた。
裸電球のフィラメントがジジジと音を立てて明滅する中、ちゃぶ台の横に置かれたミカンのダンボール箱。その中には、先ほどマナによって「
「……フンッ。なんだよ、ここ。最悪の環境だニャ」
ミヤは箱の縁から顔だけを出し、警戒心丸出しの鋭い瞳で室内を見回した。ボロボロに毛羽立った畳、タバコのヤニで変色した土壁、乱雑に積み上げられた雑誌の山、そして万年床。本来、猫のように潔癖でプライドの高い彼女なら、一秒たりとも居たくない場所だ。埃っぽい空気を吸い込むだけで、鼻がムズムズする。だが、彼女はなぜか、この薄汚い箱の中から逃げ出すことができなかった。いや、逃げ出したくなかった。
その理由は、この部屋に充満する、ある『匂い』にあった。
(……なんだ、この匂い。……鼻の奥が痺れる……。たまんないニャ……)
鼻腔をくすぐる、濃厚で甘く、そして脳髄を直接揺さぶるような
「……おい、野良猫。いつまで箱に入ってるつもりだ? そこが新しいマイホームか?」
改蔵が吸いかけの煙草の煙を天井に吐き出しながら、気だるげに声をかけた。その低く響く声が、鼓膜を震わせ、ミヤの背筋にゾクゾクとした電流を走らせる。
「う、うるさいニャ! アタシはペットじゃない! 気安く話しかけるな!」
ミヤは精一杯の虚勢を張り、唇をめくり上げてシャーッと威嚇した。髪の毛で作った猫耳のようなお団子がピンと立ち、全身の産毛が逆立つような感覚。爪を立ててダンボールの内側をカリカリと引っ掻く。だが、その身体は言葉とは裏腹に、正直な反応を示していた。彼女の瞳孔は興奮で大きく開き、黒目がちになった瞳は潤み、鼻はヒクヒクと忙しなく動き、その芳醇な匂いを貪欲に追い求めている。
「……生体反応、解析開始」
その時、部屋の隅にある押し入れの襖が、音もなく数センチだけ開いた。暗闇の中から、引きこもりハッカー・小森クルミの、モニタの光に照らされた青白い顔と、スマホのカメラレンズがヌッと覗いている。
「……対象:新名ミヤ。状態:極度の緊張と興奮の並存。心拍数140オーバー。瞳孔散大。……フェロモン感知による発情状態を確認。……結論:チョロい」
「だ、誰だ! 今どこから声がしたニャ!?」
ミヤがビクッとして押し入れを睨むが、クルミはすでに闇に溶け込んで気配を消していた。得体の知れない視線と、充満する匂い。ミヤの理性は「逃げろ」と警鐘を鳴らしているが、本能は「ここにいろ」「もっと嗅げ」と命令している。
「威勢がいいな。……だが、身体は正直みたいだぞ?
改蔵はニヤリと笑い、ゆっくりと手を差し出した。手招きする指先から、魔力の粒子が陽炎のように立ち上る。
「ほら、おいで。ここには美味い『餌』があるぞ。腹ペコなんだろ?」
「……っ!」
餌。その言葉に、ミヤの喉がゴクリと大きく鳴った。お腹が空いているわけではない。もっと身体の奥底、子宮という名の胃袋が、渇きを訴えているのだ。あの男に触れたい。あの匂いの元を確かめたい。あの太い腕に抱かれ、擦り寄りたい。
「だ、騙されないぞ……。人間なんて、どうせすぐに裏切る……。優しくするのは最初だけだ……」
ミヤは必死に理性を保とうと、ダンボールの縁を強く掴んだ。だが、改蔵の指先から漂う魔力の香りが、風に乗って彼女の鼻先を掠めた瞬間。
プツン。
彼女の中で、理性の糸が焼き切れる音がした。
「……にゃぅ……」
ミヤはふらりと立ち上がった。足がもつれ、ダンボール箱を蹴倒す。彼女はそのまま四つん這いの姿勢になり、まるで獲物を見つけた肉食獣のように、畳の上を這って改蔵へと近づいていく。その動きは、しなやかで、音もなく、そして妖艶だった。
「……いい匂い。……もっと、近くで……嗅がせろ」
彼女は改蔵の足元まで辿り着くと、そのスウェットの生地に顔を押し付け、思い切り深呼吸をした。スーッ、ハァーッ……。
「んんっ……♡ クラクラする……。すごい……濃厚なまたたびの匂い……。頭がおかしくなりそうだニャ……」
ミヤの頬が紅潮し、吐息が熱を帯びる。彼女は改蔵の太ももに頬を擦り付け、自分の匂いをマーキングするように、グリグリと頭を押し付けた。制服のスカートがめくれ上がり、無防備な太ももが露わになるのも構わずに。
「マスター……! その猫、ずごい発情してますぅ……! 目つきがヤバいですぅ!」
改蔵の足元の反対側で、先住のペットである姪浜メイが、危機感を募らせてガタガタと震えていた。彼女は改蔵のズボンの裾を命綱のように握りしめ、侵入者であるミヤを涙目で睨みつける。
「ここは、わたしの場所……! ごはんはわたしの……! どいてよぉ……!」
「ああん? 邪魔だニャ、雑種。……弱い奴は隅っこで指でもしゃぶってろ」
ミヤがギロリとメイを睨み、喉の奥から低い唸り声を上げた。その野生の迫力に、気弱なメイは「ひぃっ!」と悲鳴を上げて、慌てて台所のイスズの背後に隠れてしまった。
「……縄張り争い、決着。勝者、野良猫。敗者、
押し入れからクルミの淡々とした実況が聞こえる。
「へっ、強いな。……気に入った」
改蔵は満足げに笑い、ミヤの頭に無造作に手を置いた。そして、猫の急所である耳の後ろを、太い指でガシガシと強めに掻きむしった。
「んあっ……!? そ、そこ……! 効くぅ……!」
ミヤが背中を弓なりに反らせ、とろけた声を漏らす。そこは彼女の性感帯だった。強めの刺激が、電流のように脊髄を駆け抜け、脳天へ突き抜ける。
「ゴロゴロ……ゴロゴロ……」
喉の奥から、自分でも止められない重低音が響き出した。恍惚。安らぎ。そして、爆発的な昂ぶり。彼女はもう、この手から逃れることなど考えられなかった。
「もっと……。もっと激しくして……! 壊れるくらいに撫でろ……!」
ミヤは改蔵の手を振りほどき、その胸に飛びついた。ドンッ! 勢い余って、改蔵を布団の上に押し倒す。マウントポジション。彼女は改蔵の上に馬乗りになり、その瞳をギラつかせた。
「捕まえた……。オマエは、アタシの獲物だニャ。骨の髄までしゃぶり尽くしてやる」
ミヤは制服のブラウスのボタンを引きちぎり、邪魔な布地を排除した。さらにスカートを捲り上げ、下着をずらす。露わになった肢体は、しなやかな筋肉と柔らかな脂肪が調和し、健康的で美しい。彼女は改蔵の首筋に顔を寄せ、ピンク色の舌を伸ばした。
ジョリッ。
「おっ……?」
改蔵が眉をひそめ、小さく呻いた。ミヤの舌は、普通の人間のように滑らかで湿ったものではなかった。まるで本物の猫のように、表面に無数の小さな
「痛いか? ……でも、気持ちいいだろ? この刺激が好きなんだろ?」
ミヤはニヤリとサディスティックに笑い、さらに激しく舐め上げた。ジョリ、ジョリ、ジョリ。濡れた紙やすりで擦られるような、痛痒く、しかし病みつきになる刺激。それが首筋から鎖骨、そして敏感な乳首へと這い回る。皮膚が赤く擦れ、ヒリヒリとした熱を持つ。
「……舌の表面構造、解析。微細突起多数。硬度高め。……ザラザラフェチにはたまらない仕様。レア度S」
クルミがスマホでズーム撮影しながら、興奮気味に呟く。
「くぅ……。変わった舌してやがる。皮膚が削れるような感覚だ。……だが、悪くねえ」
「へへっ、もっと味見させろ……。一番美味しいところを……」
ミヤは改蔵のスウェットを強引に引き下げ、猛り立つ剛直を露出させた。魔力の源。またたびの香りの中心地。血管が浮き出たそれは、彼女にとって最高のご馳走に見えた。
「これだ……。これが欲しかったんだニャ……! 匂いが……濃いッ!」
彼女は剛直を両手で鷲掴みにし、その先端、カリの部分を舌先で舐め上げた。ザラリ。舌の突起が、敏感な粘膜を容赦なく擦り上げる。
「っぐ……!?」
強烈な刺激に、改蔵の身体が跳ね、腰が浮く。滑らかな舌での愛撫とは全く違う。まるでブラシで洗われているような、あるいは猫に毛づくろいされているような、強烈な摩擦感。
「あはっ♡ ビクビクしてる。……いただきまーす」
ミヤは腰を浮かせ、自身の秘所を剛直の先端にあてがった。彼女の下着はすでに愛液でぐっしょりと濡れており、準備は万端だった。彼女は改蔵の目をじっと見つめながら、一気に腰を下ろした。
ズプッ……ヌプンッ! ズヌヌヌヌッ!
「んんぅぅぅぅぅぅッ!!!」
ミヤが天井を仰ぎ、獣のような咆哮を上げた。太い楔が、彼女の狭い膣内を押し広げ、肉壁を擦りながら最奥まで貫通する。その瞬間、体内に「またたび(魔力)」が直接注入されたような、強烈な快楽の電流が走った。
「すごい……! お腹の中……いっぱい……! 匂いが……体内に溶けてくるぅぅッ! 脳みそが痺れるぅぅッ!」
「……結合確認。野獣のようなピストン運動。……データ量増大。サーバー容量注意」
クルミの指が高速でスマホをタップし、貴重な生態データを保存していく。
「いい締め付けだ。中が熱いぜ。……だが、乗ってるだけじゃ物足りねえぞ?」
「生意気言うなッ! アタシが主導権を握るんだよッ! オマエはアタシの椅子だニャ!」
ミヤは改蔵の胸板に手をつき、激しく腰を振り始めた。バンッ! バンッ! バンッ! 野性的で、奔放な騎乗位。彼女は腰を回し、上下させ、改蔵のモノを全方位から締め上げ、ザラついた膣壁で擦り上げる。
「あはぁッ! 気持ちいいッ! 最高だニャッ! 擦れるッ! ザラザラするッ! もっと奥までッ!」
興奮が高まるにつれ、彼女の手足の爪が伸び始めた。鋭く尖った、鉤爪のようなネイルが、改蔵の胸や肩に食い込む。
ガリッ! ズボッ!
「ッ……! 爪立てんじゃねえ! 痛ぇな!」
「うるさいッ! 気持ちいいんだから仕方ないだろッ! オマエはアタシのものだっていう印をつけてやるんだよ!」
ミヤは爪を立てて改蔵の身体にしがみつき、背中に赤い
「……マスター、流血確認。……でも、HPは減っていない。むしろ興奮でMP回復中。……ドM?」
クルミが冷静に分析する。台所の陰から覗いていたメイは、その激しさに「ひぃぃ……あんなの死んじゃうよぉ……」と震え上がっている。
「神主様……! 背中が血だらけですよぉ! 消毒しなきゃ……!」 イスズがオロオロと救急箱を探すが、改蔵は獰猛に笑っていた。
「へっ、これくらいのじゃれ合い、心地いいくらいだぜ! ……もっと激しく来いよ、野良猫! 俺を食い殺すつもりで腰を振れ!」
改蔵は下から突き上げるように、渾身の力で腰を打ち付けた。
ドガッ!
「ひグッ!? お、奥……! 突くなッ! 壊れるッ! イっちゃうッ!」
ミヤの動きが乱れ、白目を剥きかける。だが、改蔵は容赦しない。彼女の腰を両手でガッチリと掴み、強制的にピストン運動を加速させる。
「らめぇぇッ! 頭おかしくなるぅぅッ! 溶けるぅぅッ! 猫になっちゃうぅぅッ!」
「なっちまえ! 本能剥き出しの、俺専用のメス猫にな!」
「なるぅぅッ! オマエのペットになるぅぅッ! だから出してぇぇッ! 濃いのぉぉッ! またたびぃぃぃッ!」
ズドォォォォォン!
改蔵の剛直から、白濁した高濃度の魔力が爆発的に解き放たれた。
ドピュッ! ドピュルルルッ! ドプッ!
ミヤの子宮の奥底に、熱い「またたびエキス」がたっぷりと注ぎ込まれる。彼女の胎内が、注がれた魔力を一滴も漏らすまいと激しく収縮し、改蔵を搾り上げる。
「ニ゛ャアアアアアアアアアアッ!!!」
ミヤは絶叫し、全身の毛を逆立てて絶頂した。その瞬間、彼女の身体に劇的な変化が訪れた。
ボシュッ!
溢れ出た魔力が漆黒の煙となり、彼女を包み込む。破れた衣服が弾け飛び、代わりに光沢のある黒いボンテージのような、艶やかな
「……変身完了。種族:
クルミがカシャカシャとスクショを撮りまくる。煙が晴れると、そこには『猫怪人・ミヤ』が改蔵の上に跨っていた。アメコミのヴィランのようにセクシーで、しかし凶暴な野性味を帯びた姿。彼女はペロリと舌なめずりをした。その舌は以前にも増してザラザラとしていた。
「ハァ……ハァ……。……ごちそうさま。……美味かったニャ」
ミヤは満足げに目を細め、改蔵の胸についた自分の爪痕と、そこに滲む血を愛おしそうに舐め取った。
「とんだ猛獣を拾っちまったな。背中がヒリヒリするぜ」
改蔵が苦笑する。
「フン。拾ったんじゃない。アタシがオマエを選んでやったんだよ。……いい餌場を見つけたってな」
ミヤは改蔵の胸から降りると、音もなくしなやかに着地し、その場で伸びをした。全身に力が漲っている。もう、バイト先の嫌な客に媚びる必要はない。彼女は自由で、誰にも縛られない最強の「野良猫」になったのだから。
「さて……。腹ごなしに、夜の街へ散歩でもしてくるかニャ」
彼女は軽い身のこなしで窓枠に飛び乗り、月明かりを背にして振り返った。
「安心しろよ、飼い主。……お腹が空いたら、また『ご飯』をもらいに帰ってきてやるからさ」
ウィンクを一回。ミヤは夜の闇へと消えていった。
「……マスター。あの子、生意気ですぅ。わたしの場所とらないでほしいですぅ……」 布団の端で、メイが涙目で訴える。
「……心配無用。あのタイプは、外で遊んで帰ってくる『通い妻』。メイは『座敷犬』。……住み分け可能。それに、あの爪と舌はマスター専用」
クルミが押し入れから慰めるように声をかけた。改蔵は傷だらけの身体を起こし、煙草に火をつけた。
「ま、賑やかになっていいじゃねえか。……どっちも手のかかるペットだがな」
アジトの夜は更けていく。床には数本の猫の毛と、激しい情事の痕跡が残されていた。そしてクルミのPCには、『猫怪人育成日記・1日目』というフォルダが新しく作成され、大量の画像データが保存されていた。