性処理係が導入されたのに、誰も使ってないらしい。〜しかたないのでクラスの女子はみんな俺が孕ませます。〜 作:ユリイカ
その日、朝一番の職員会議は重く張り詰めた空気に支配されていた。上座で不満げに腕を組み、真っ赤な唇をきつく結んでいるのは、校長、細波しおりその人である。それと対面するように席へ促された牛丘はるみは、お白洲の罪人のような気持ちに苛まれていた。
「困りますねえ。実に、困りますよ。牛丘先生」
「はぁ……」
上から睨みつけるように、狐めいた糸目を向ける校長。タイトスカートからすらりと伸びる美脚を組んで、その圧迫感は凄まじいものがある。
彼女は手元のタブレットを一瞥し、つい昨日はるみが上げたばかりの報告書をあらためて確認する。
「教育用ビデオの撮影と公開はしっかりと行われているのに、なぜこんなにも効果が薄いのです? 他の男子生徒にセックスのお手本を、ということだったはずでしょう」
知るかバーカ。などとは口が裂けても言えない。
ビデオの発案が校長の方であると指摘することもできない。全ては青交委員会の顧問であるはるみの責任にされてしまう。
細波しおりの提案という名の命令によって行われた、近藤リョウタと青交委員2名の生ハメセックス動画はばっちりと撮れていた。生データでは五時間以上もあるそれを、腕に覚えがある教師が編集し、30分程度のみっちり濃密なものにした。学年を問わず全クラスの授業でそれの視聴が行われ、その後は質疑応答の時間も設けられた。
これで、男子生徒がセックスのやり方を知らず、物怖じするという事態は解消されたはずだった。
だが、現実はそううまくはいかない。
「近藤リョウタ以外の男子生徒がセックスを行った件数は?」
「ゼロです」
「では、2年1組以外の青交委員が妊娠した件数は」
「ゼロです」
当然、わかりきっていることだ。
セックスしなければ妊娠するはずもない。キャベツ畑やらコウノトリやら、そんなことで子供が産まれるのなら、この国は少子化に喘いでいない。
校長による、他の教師たちの面前での詰問。心身ともにタフな自覚のあるはるみにとっても、少なからず堪える。
「それに、最近は2年1組も」
キリキリと胃が悲鳴を上げるなか、更にしおりは弱いところを突いてくる。
「三人目の青交委員が妊娠したところまではいいですが、その後はどうですか? 風の噂では……四人目の青交委員がまだ決まっていないとか」
風の噂もなにも、全て手元のタブレットに明記されている。
そう、2年1組の青交委員は三人連続の懐妊という快挙を成し遂げながら、その後継となる四人目の青交委員が空席のままなのだ。はるみもなんとか次の実績を作ろうと近藤リョウタおよび女子生徒たちをけしかけているのだが、なかなか思うようにいかない。
「しかし、そのぉ。近藤本人は宮木と小梨の二人と、毎日のようにセックスに励んでいるわけで……」
「実績となるのは妊娠した数よりも、妊娠した人数です。近藤君が二人にゾッコンならば、他の男子生徒に協力を仰げばいいではないですか。何のための教育用動画ですか?」
わざとらしく肩をすくめて首を振る校長に、テーブルを囲む他の教職員は口を噤んだままだ。ここで下手に何か言えば、自分に矛先が向きかねない。
他の男子に青交委員との子を作らせろと言うのは簡単だ。しかしそれができないから皆困っているのだ。男は誰も彼もが女性に苦手意識を持ち、何かと理由をつけて性的な行為から遠ざかろうとする。押しても引いても離れていく彼らを見れば、少子化もやむなしという感想が出る。
「つ、次の青交委員さえ決まれば……近藤がなんとかしてくれるはずなんですが」
「いつ決まるんです?」
「うぐぅ」
容赦のない追及に、はるみは唇を噛む。大の大人が公衆の面前で叱られるとは。屈辱の極みであった。
そもそも2年1組の女子たちは青交委員になりたがっている。むしろお互い競うように、近藤リョウタに接近している。だが、彼の両脇を固める存在が強すぎるのだ。
四六時中、文字通り朝から晩までずっとあの二人が目を光らせている。誰か他の女が色目を使おうものなら、すかさず近藤に胸を押し付け、耳元で囁き、夢中にさせる。おかげで誰も近藤に近づけない。
「いっそ、牛丘先生が強制的に青交委員を選出すればいいのでは?」
重苦しい空気を破って提言したのは、養護教諭の頬白みさだった。青交委員会顧問であり、2年1組担任であるはるみなら、それくらいの強権は許されるだろう、という理屈であった。
「いや、その、私も学級崩壊はしたくないので……」
しかし、はるみは眉を寄せる。
あそこはもはや、飢えた肉食獣たちの巣窟だ。近藤リョウタという唯一の新鮮な獲物がありながら、硬い檻によって守られている。彼女たちの鬱憤は、日に日に高まっている。誰か一人を選んでしまえば、始まるのは獰猛な殺戮である。嫉妬と独占欲の渦巻く女の争いは、見るに堪えない。
「……ならば、しかたないですね」
こつん、と校長がテーブルをペンで叩く。
彼女は絶望的な状況を打破するため、唯一の策を命じた。
「牛丘先生。あなたが青交委員としての手本を見せるのです」