笑って。泣いて。奴隷。 作:鬱ライク
笑う声に吊られて笑ってしまうのです
笑われても 嗤われても
君の笑顔に 顔がにやけてしまうので
「あはッ! あッははッ! アッハハハハハハッ!!!」
輪舞の烏 揺れる
腹を抱えて笑う
待ち望んでいたその笑顔が
嬉しくて
嬉しくて
嬉しくて
「取引成立だ」
男は手元の鎖を引っ張った
鎖の先には少年がいた
焔の先には少年がいた
「逃げたって無駄だ お前はもう人間じゃない」
男は少年を見下ろして告げる
思ってもないことを告げる
男は少年に逃げる選択肢がない事を知っていた
ずっと見ていた この一幕を
飽きたらした観劇
あくびの絶えない脚本
だが終わった
もう終わった
物語は最期を迎えた
舞台は壊れ アンコールもない
主演に引導を 終わりの言葉を
男は言外に
女の声が聞こえる
少年は男の言葉など聞いていなかった
ただ一点を見つめていた
笑う魔女を見つめていた
「ぼくは ぼくは何ですか?
何をすれば良いですか?」
少年の瞳はただ一人
焔の熱を気にもせず
瞬きすら忘れてただ
「あぁ歪な子 お前は
せいぜい
ー私じゃ貴方を幸せにできない
せめて死ぬまで 幸せに生きてー
弧を描く口元は
声を抑えられず
取引が終わった男は 鎖を引いて歩いていく
燃える家屋を背にし 少年を連れ歩いていく
闇へ闇へと連れていく
男と少年は闇へと消えた
魔女は
燃える家屋に焔が残る
焔と死体だけが
「ようこそクソッタレな世界へ
歓迎するぜ
「つーコトはオメェよぉ?
惚れた女に売られて奴隷ってかぁ?」
「まーそうなりますねぇ」
「たはー!オメェの歳で早すぎるだるぉ!
贅沢ってもんだぜ!!ぜ・い・た・く!」
「あははそうなんですかねぇ」
檻の中で、薄汚い中年男と、
首輪を付けた青年が会話をしている。
少年が奴隷になってから八年。
少年は青年へと成長していた。
「オメェによぉ!そんなカワイイ時期があったなんてよ?
まっっったく想像つかねぇなあ!
それになんか嘘臭ぇぜ?
嘘のニオイがぷんぷんするぜ!
嘘だ!嘘だ!嘘つきだ!
奴隷で嘘つきなんて救えねぇやつだなオメェはよぉ!」
仕事の最中、俺は同僚に面白い話をせがまれた。
話のネタが思いつかなくて、奴隷になった時の話をした。
結構脚色して面白おかしくドラマチックで一途な純愛ストーリー的なナニカにできたと思ったけれど、どうやら彼はお気に召さなかったらしい。
『おい!!!うるさいぞ奴隷!!!
さっさと仕事しろ!!!!!』
「あ"ぁ!?仕事してんだるぉ!?
ただ突っ立って覗き見してる監視のテメェより!
バリバリ仕事、してるだるぉ!!?
うるせーっていう覗き野郎!
テメェの声の方がうるせーぜぇ!!!」
まぁ彼は何でも否定の言葉から入るし、そう考えたなら否定の中じゃなかなか好感度高めな感想だったのかも。
そうさ、上下があれば中があるし、中の下があるなら下の上もある。つまり中が上なら下の中は中の下ってコトだよな。
あれ?よくわからなくなってきた。
『奴隷ごときが口答え!
口答えをしたな!穢らわしい!
罰だ!罰をくれてやる!
今日こそお前を殺してやる!!殺してやるぞ!!!』
「あぁ"上等じゃあねぇか!
つまりはこうだ結論。俺の話は暇潰しにはぎりぎり合格をいったりきたりナジバンダリ。仕事の合間の憩いには丁度な有り寄りの
彼とは今日初めて会ったのだし。
半日やっと過ぎたくらいだし。
仲良くなる時間はまだある。
焦らずやろうさダーリン。
なんて、
そろそろ現実逃避はやめないと。
『殺す!!!殺す!!!殴り殺してやる!!!
奴隷の分際で!ワタシに楯突いたこと!!!
後悔させてやるからな!!!!』
ジャラジャラと鍵束を派手に鳴らし、
怒った監視の男は檻の扉を開けようとしている。
乱暴に鍵を扱うせいで、扉の錠はなかなか解かれない。
錠が開かないことに監視の男は、さらに苛立ち激昂する。
激昂した監視の目は吊り上げられ、浮き出る無数の血管。
頭に血が上ったのか顔が真っ赤になっていき、
とても恐ろしい、鬼のような
檻の扉のそばにいた青年は、
監視のその鬼のような形相を間近で見てしまった。
あまりの気迫に冷や汗が伝う。
ついさっき。
ホント、ついさっきまで平和だったのに。
なんで監視はこんなに怒ってるんだ。
なんで監視をこんなに怒らせられるんだ。
目を離した隙に、
こんな大事になってることあるか?
監視が俺達に注意して、
同僚が口答えをして、
次のセリフが殺すぞ?
喧嘩の売り買いが早すぎてついてけねぇよ。
即落ちってレベルじゃねーだろうが。
監視の言葉に反応した同僚を見て、
一線を超えそうなら止めようとは思ってたさ。
だれが1ターンで殺意抱けるほど沸点低いって分かんだ。
俺わかんないよ。わかる筈ないだろ。
いやわかってても1ターンでキルなら手遅れだよ。
兎にも角にも翼にも、
はやく何か手を打たないと。
このままだと殺される。
喧嘩を止めないと、監視に殺される。
同僚はもちろん。恐らく俺も
時間はもうない。
賄賂もない。道具もない。
なら出来ることは後一つ。
全力で媚びへつらって地を舐めて、
どうか許して下さいと懇願するのだ。
大丈夫、大丈夫。
この時のための取っておきの技がある。
やったことはないが、見たことはある。
東部から来たという奴隷がやっているのを見た。
確か、両膝をついて身体を綺麗に畳み、
頭を床に擦りつけ、両掌を前に揃える。
当時の監視長の怒りを、その身一つで沈下させた魅技。
『ははは!!!!
逃げ場はないぞ!奴隷め!!!」
監視が檻を乱雑に開け放つ。
解錠の喜びからか笑いながら踏み入る。
興奮からか、怒りからか。
汗かなにか分からない液体がびちゃびちゃと跳ねた。
その液体は、比較的近い位置にいた青年にかかる。
青年の顔は少し歪み、口角がひくつく。
さぁ、覚悟を決めろ。
東部の秘技、それは
失敗すれば、俺の命はない。
よしやるぞ。すぐやるぞ。
同僚がさらに怒らせる前に。
監視がさらに怒ってしまう前に。
土下座をするため、
俺は1歩踏み出して、
次の瞬間、
「テメェ!!!ガキ殴るこたねえだろーが!!!」
「奴隷に
お前らは奴隷だ!奴隷だ!
お前が避けるごとにガキを殴る!!!」
監視の拳は、青年を壁まで吹き飛ばした。
吹き飛ばされた青年は、構えることもできない。
背中を壁に打ちつけられて、全身に衝撃が走る。
全身へと走る衝撃は、青年の感覚を一時的に麻痺させた。
一体、なにが、起きて…
視界が、真っ暗だ、いや、違う、
眩しいのか、だって、チカチカしてる、星がみえる。
声がきえた、耳鳴りが酷いのに、
ほかの音は全部、くぐもって聞こえる。
青年が喧嘩をどうにか止める為、
巡らしていた思考は、衝撃が放棄させた。
諦めた青年はすぐ、現実逃避をしていた。
なんてこった。パンナコッタ。
手遅れってか。出遅れってか。
私語で死後なんか行きたかないなぁ。
そもそもなんなんだよぉ。
なんなんだよアレはよぉ?
嘘だろ、無理だろ、早すぎるよ…
土下座に失敗して殴られる覚悟はしてたさしてた。
でも
手が早すぎるし、
やっぱり沸点が低すぎる。
どうしろっていうんですか俺に。
どうしたら良かったっていうんです。
おしまいだぁ。おしまいだぁ。
しまいにするから気絶させてくれよなぁ。
だが、青年の現実逃避はすぐに終わりを迎える。
痛みと共に、現実から迎えがくる。
聴覚が、視界が、痛覚が青年の元に帰ってきたのだ。
思考が
ぐらぐら揺れる視界に、酔いそうになる。
俺を横目に睨み合う男二人。
監視の男は、今にも同僚へ殴りかかりそうだ。
死んだフリをするか?
2人で監視の男を殺すか?
起き上がって走って檻の外に逃げるか?
いや待て待て。
俺の鎖は部屋の奥に繋がってるし。
逃げてもさ、他の監視に見つかったら殺される。
ふと気づいた。
同僚が俺を見てる。
口を魚のようにパクパクして、俺を見ている。
魚みたいな口しやがって、ちょっと面白いのに腹が立つ。
そもそもテメェが喧嘩売らなきゃこんなことには…
ん?
なんだよ。
なんて言ってるんだよ。
に
げ
ろ
………逃げろ?
え、え?
たった半日の仲だよな?
今日初めて会ったよな?
なのに逃げろ?
逃げろって?
擦れに擦れ切った、
この奴隷社会で俺に逃げろって?
ちくしょう。
ちくしょう。
魚唇なんて思ってごめん。
俺、同僚のことなんも分かってなかった。
そうだった。
そうだった。
同室になった俺に話しかけてくれたのは同僚だった。
話を回してくれたのも彼だった。
気さくで気の良い奴の
どことなく面倒見の良さそうなオーラがでてた
だというのになんてこったいショコラッタイ。
俺は彼を罵倒して、さらには恨んで。
そんな俺を気にかけてくれるなんて。
俺史上初のダチだぜ、アンタは。
でもごめんな。
逃げられないんだ。
俺は首輪付きの奴隷だから。
首輪の鎖の端が部屋の奥に繋がれてて、
俺は簡単には檻の外にはいけないようになってるんだ。
だから相棒。
ここは任せな
あとはオレに任せぐぇッ」
「逃げるのかこの卑怯者!!!」
「ハッ!俺はいいぜぇ!?
逃げてんのはテメェだぜぇ!!!
俺と殺りあいたくなくてガキ殴ってんだるぉ!!?
ガキ殺してさっさと俺にかかってこいや!!!」
「貴様ぁああああ!!!!!」
俺の身体を踏み越えて。
同僚は檻の外で威嚇した。
監視は激怒し、
そんなバナナと意識は途切れた。
「いやぁ、生きてるなんてすげぇキメェなお前」
「よく普通に話しかけられますねテメコノヤロ」
血塗れで目覚めたら、
自分の身体を見てみたら、
雑に巻かれた男の衣類だったモノ。
包帯変わりのつもりか?
これ途中で巻くの諦めてるし。
中途半端に緩く巻かれたせいで、
動きずれぇったらありゃしない。
俺至上初のダチ。
そんな風にコイツを想った俺は、もういない。
踏み越えるなんて酷いじゃないか。
さっきのは涙ぐみながらさ?
俺を置いていくことに良心が痛みながらさ?
すまねぇ!とかナンとか言って檻の外へ、みたいな。
置いていけるわけないだろ馬鹿とか言って共闘とか。
そうゆう展開じゃないんですか情はないのか。
…相棒って一瞬でも考えた俺も消しておこう。
「たーはっはっはっ!
話しかけてなんかねぇよ!感想をいったまでだぜぇ!
良いじゃねぇか!傷は勲章!男は愛嬌!
わかってるだろオメェは特によぉ!!!」
「あはは、はあ…でもホント俺死んだと思いましたよ?
あんな死に方は嫌なので、大きな声は控えてください
あと、服は返しますので全裸はやめてください」
「生きてたんだからいいだるぉ?」
「生きてるから目に毒なんですよ」
「…いやーん」
「褒め言葉じゃないですからね?」
薄暗い檻の中、二人の言葉と鎖の擦れる音が響く。
カチャカチャと何かをいじる音が響く。
男と青年は仕事を続ける。
会話を咎める監視は、ここにはいない。
少し態度の冷たくなった青年に、
先程おこった出来事を、男は笑いながら話した。
同僚の男の挑発を受けて、
言葉通りに青年を殴り続ける監視の男。
青年の意識がなくなっても
監視は愚直に殴り続けた。
だが青年はなかなか死なない。
そのしぶとさに苛立ち、
挑発を繰り返す男に苛立ち、
ついには顔を赤黒く変色させて、
監視の男は終いには、泡を吹いて倒れた。
巡回に来た監視長に、監視の男は回収され、今に至る。
同僚の男は目尻に涙を貯め、ケラケラと笑う。
顔を真っ赤にして泡を吹き、
青年を
男の
「いつもあの監視を怒らせて、からかって遊んでたと?」
「ちげぇよ!話聞いてたか!?
アイツがずっとずぅーーッと!
俺の檻に張り付いて絡んでくるんだよ!!
すぐ俺にいちゃもんツけてくるから応戦してるだけ!」
同僚はあの監視と、以前より面識があったという。
得意気に監視をいかに怒らせてきたか、
これまでどう挑発してきたか、
同僚は青年に語った。
「怒りすぎて倒れると、その日中は帰ってこねぇからよぉ!
今日ものんび~り仕事できるぜ!だっはっは!!!!」
「ははは、はぁ…喧嘩売る前に教えてほしかったですよ」
「教える前にアイツが喧嘩売ってきたんだよ」
「買い時ってもんがあるでしょ」
「売られたら即買だ、喧嘩は鮮度が大事だからな」
「鮮度ってアンタ」
「いやいや、まあな?
少しはすまねぇと思ってるんだぜ?
オメェが首輪付きなのすっかり忘れちまっててな!
けどな、
俺に他人様への愛はないぜッ!
次は上手くやれよなッ!!」
「勘弁して下さいよぉ」
青年はこの男と同僚になったことを、
ダチだと一瞬でもしてしまったことを、改めて後悔した。
これからこの先、男と監視の喧嘩が続くこと。
自分がそれに巻き込まれることが分かってしまったのだ。
喧嘩が起きても逃げきれる自信がなかったし、
そしてなにより
この先一緒なのかと憂鬱だった。
「そういやオメェ、名前あるのか?」
「俺ですか?俺はーーー」
ジリリリリリリリリリ
「お!時間だ!
今日の仕事はしめぇだなぁ!
おっしゃメシメシー!残飯の時間だぜぇ!
うっひょーい!!!』
青年が名前を告げる前に、終業のベルが鳴った。
同僚の男は飯の時間だと、檻から飛び出ていく。
青年は走り去る同僚を引き止めようとした。
だが青年は男の名前が分からない。
まぁいいか、と諦めた。
しかし逡巡、青年は後悔した。
曇った
男に対して名残惜しいと思ったのか、
名を名乗ればよかったと思ったのか、
それはやはり青年が、
心の内はわからない。
仕事をしていた手を止め、
青年が曇った
男は戻ってきた。
酷く息を乱しながら。
「ぜぃッ!ッはぁ!俺!名前ッ!!
ボル=ロウだからなっ!!!
さんッ!!敬称ッ!!絶対つけろよっ!!?
呼び捨てなんてしてみろッ!殺すぞ!!!」
青年は幻を見ているかと思った。
まさか戻って来ると思ってなかったのだ。
名前を聞いておけばと、丁度思っていた。
会いたいと、
すぐにまた会いたいと、
切実に想っていたのだ。
「明日はオメの番だかんなッ!!!
おもしれぇ名乗りを期待してるぜぇ!!!」
男は、それじゃお先に、と部屋を出ていく。
青年は、今度はそれを追いかけて。
檻の中、叫んだ。
「ロウさんアンタッ!!!
自分が真っ裸って忘れてるッてぇ!!!!」
青年の声は、男には届かなかった。
爽やかな笑顔と共に、男は走っていった。
走り去る背中が見えなくなった。
だが青年に悔いはなく、
今度はスッキリとした