※この作品はR-18です。

笑って。泣いて。奴隷。   作:鬱ライク

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残酷な暴力表現・拷問描写・性的暴行の示唆を含みます。



首輪付き奴隷2

 

 

 

 全裸の男、ボル=ロウは走り去った。 

 青年はその背を見送ると踵を返した。

 

 手元に残った、終わらなかった、

 今日の分の自身の仕事を見て考える。

  

 己の今後の行動を考える。

 

 

 

 明日も監視とあの調子で喧嘩するのかなぁ。 

 監視は明日には戻ってくるって言ってたし。

 

 また、喧嘩するんだろうなぁ。

 

 そしたら今日の分はやっておきたい。

 なんなら明日の分まで手をつけたい。

 

 今から食堂に行っても地獄だろうし、

 いつも通りに遅めに行こう。

 

 

 

 青年は残った仕事に手を付けながら、

 奴隷用に設けられた、あの(・・)食堂の光景を思い出していた。

 

 

 

 石造りの部屋。

 

 天井から廃棄口が首を伸ばし、口を開けて待っている。

 

 

  

 奴隷の食堂に机や椅子はない。

 

 むかし腹を減らした奴隷が食べたらしいと、

 奴隷が話しているのを、青年は聞いていた。

 

 青年はその話を、話半分に聞いていた。 

 半分は冗談だろと思い、半分は信じた。

 

 なぜなら。

 奴隷の食事の過酷さを、

 青年は身を持って知っていたからだ。

 

 

  

 今日の残飯はなにがあるのだろう。と思い馳せる。

 

 青年は、昨日も一昨日も、何も食べていなかった。

 

 

 

 奴隷商のお偉いさん達の食事で余った食材達。

 その余った食材で作られた、監視長や監理長の賄い。 

 余った賄いは監視たちにまわされる。

 

 食い残された賄いの残りが、

 食堂の廃棄口から落ちてくる。

 

 奴隷はこの残飯を拾ったり、奪ったり。

 食糧を必死に集めて食事をする。

 

 

 

 廃棄口の下を陣取る、腕に自信のある奴隷たち。

 

 集めた食糧を奪いに来る奴隷。

 人肉でも良いとコチラを襲ってくる奴隷。

  

 青年は思い出す。

 まだ少年だった時を。

 

 なるべく思い出したくない、

 自信の血塗れの記憶だった。

 

 

 

 青年は、過酷な食糧集めには参加しなかった。

 

 痛い思いをしたし、

 なにより勝てる気がしなかった。

 

 だからいつも青年は、ベルが鳴って待つ。

 

 一刻が経つか経たないか、時間が経った頃。 

 誰もいない時を狙って、食堂へ行く。

 

 誰かの踏んだ残飯の欠片や、

 廃棄口に詰まって見逃された残飯をたべていた。

 

 

 

 今日こそは、残飯が残ってるといいなぁ。

 

 青年はそう思いながら、仕事を片付けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリリリリリリ

 

 

 

 青年が檻から出たのは、二度目のベルが鳴った後だった。

 

 あぁ食べ逃しちゃったなぁ。

 なんて思いながら、ベルの音を聴いていた。 

 

 青年は仕事を切り上げ、部屋の奥へ進んだ。

 

 

 

 部屋の奥には、特殊な杭が壁に打ち付けられている。

 青年の首輪の鎖を固定しているのは、この杭だった。

 

 特殊な杭は、監視のみが外すことが出来るのだが、

 青年は特別、己で鎖を外すことが許されていた。

 

 奴隷を8年も続けていれば、

 杭の外し方くらい知っている。

 

 知っているなら自分でやれ、と。

 案外ゆるく許可されていた。

 

 

 

 鎖の端を持ち、青年は少し考えた。

 

 お腹が空いた。

 昨日と一昨日も食べれていない。

 だが奴隷の食事が許されるのは、ベルの間の時間だけ。

 

 

 

 暫く考えて。

 

 青年は鎖の端を、ゆっくりと地面に下ろす。

 

 

 

 右巻きなら、大人しく寝床へ。

 左巻きなら、こっそり食堂へ向かう。

 

 それは青年の編み出した。

 奴隷ならではの選択方法(コイントス)だった。

 

 結果を見て、青年は歩き始めた。

 

 

 

 結果は左巻き。

 

 青年はこっそりと食堂へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴隷の食堂の部屋。

  

 扉の前に青年はいた。

 

 いやに静かな薄暗い廊下を抜けて、

 誰にも気づかれず、目的地まで来れた事に安堵していた。

 

 

  

 だが時間は無駄にできない。

 

 

 

 青年は物音をたてない様。

 

 慎重に。慎重に。

 

 ゆっくり、

 

 静かに。

 

 扉を開けようとして、

  

 扉の隙間から此方を覗く監視長と眼があった(・・・・・・・・・)。

 

 

 

「おい奴隷、何故寝床に戻らない?

  既にベルが鳴った筈だが。

 …私の聞き間違いかね?」

「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!

 仕事を片付けていたらベルが2度鳴り終わった後で!

 欠片でいいから何か食べ物が欲しくて!」

 

「…それが寝床に戻らない理由になるのか?」

「なりません!!!」

 

 

 

 なんで、なんで、なんでっ

 

 なんで監視長ここにいるんですぅ

 アンタいっつも監視室いるだろぉ

 

 

 

 青年は絶望していた。

 

 監視にみつかっても、

 逃げる算段はあった。

 

 しかし、監視長に見つかるとは想定していなかった。

 

 

 

「はぁ...

 食堂の全裸の奴隷(・・・・・)の騒ぎに、奴隷の自由行動

 

 監視は職務を全うしているのか…?」

 

 

 

 全裸の奴隷と聞き、次の瞬間。 

 絶望一色の青年の頭は、ある男で埋め尽くされた。

 

 同僚の男、ボル=ロウ。

 

 彼の背を思い出す。

 爽やかな笑顔で食堂へ走り、向かっていくあの姿を。 

 

 青年は切実に、心の中で願った。 

 今度会ったら一発、殴らせてくれ頼むから。

 

 青年の心の中は、男への文句でいっぱいになった。

 

 

 

 監視長にジロリと睨まれ 青年の身体は固まる。

 

 

 

「…お前、どうしてそんなに血塗れ(・・・)なんだ」

 

「これは同室の奴隷と監視の喧嘩に

 巻き込まれて「汚いぞ、それに臭い

 血生臭い。奴隷だからと清潔を怠るな」

 

「はいッ!」

 

 

 

 青年はただ、従順であることに徹した。

 

 昼は監視の男に半殺しにされ、

 夜は監視長に鉢合わせる。

 

 運がない日であることを今、自覚した。

 

 

 

 ツいてない。

 ツいてないぞ。

 俺、今日ずっと。 

 鎖落とし(コイントス)で行先なんて決めるんじゃなかった。

  

 もう大人しくしよう。

 少しでも軽めの罰則になるように、従順になるのだ。 

 媚びて、平伏し、どうか慈悲をと懇願するのだ。

 

 いやまて。

 待つんだ俺よ。

 

 ただの監視ならばいざ知らず、

 この監視長に泣き落とし(お涙頂戴)は通用するのか?

 下手打てば、簡単に殺されるんだぞ。

 

 

  

 ならばどうする。どうすればいい。

 土下座か?土下座なら通用するか? 

 

 いや駄目だ、ダメダメだ。 

 俺の見よう見まねの土下座じゃあ、

 あの魅技は効力を発揮するまいて。

 

 ちくせう。

 ちくせう。

 

 二度とベルの時報を破るまい。

 

 

 

「返事だけは出来るようだ

 奴隷と監視の喧嘩に巻き込まれたと言ったな

 

 …私に心当たりがある

 あの監視は問題児なんだ

 運のない可哀想な奴だな

 

 仕方ないな仕方ない(・・・・・・・・・)

 あの監視のせいだというのなら、私が一肌脱いでやろう

 それに汚いお前を寝床に戻せば、また奴隷が騒ぐだろう

  

 だからお前を風呂(・・)に連れてってやる」

 

「ぇ?」

 

「感謝しろ、奴隷」

 

 

 

 監視長は青年の首輪の鎖を掴み、歩き始めた。

 

 風呂と聞き青年は、

 従順であれと誓った、

 己の決定をひるがえし、

 監視長に泣きついていた(・・・・・・・・・・・)。

 

 

 

 勘弁してください。 

 勘弁してください。

 

 そう何度も言い続けた。

 

 

  

 しかし監視長が青年の言葉を聞く訳もなく。

 

 青年の涙など眼中にない(奴隷に同情などしない)。

  

 やがて青年は諦めた。

 

 今日はとことん運がない。

 

 ツいてない。ツいてない。

 

 そう思いながら監視長とともに、

 

 奴隷の歩行浴場(・・・・・・・)へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青年は知っていた。

 

 風呂とは名ばかりであることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂につくと監視長の男は、

 青年の鎖の端を壁の装置にかけた。

  

 鎖は装置に固定されて、

 天井へ吊り上げられていく。

  

 やがて青年の背では、

 決して外すことの出来ない高さに昇ってしまった。

 

 

  

 装置は滑車と繋がっている。

 

 滑車のレールは壁に沿い張られ、

 ここへ来た奴隷たちが己の鎖を引っ張り、

 この部屋を一周出来るようになっていた。

 

 

  

 奥行きのある、煙の立ち込む部屋。

 

 奴隷の歩行浴場。

 

 監視たちの告げた数だけ、

 部屋を往復しなければ出られない部屋。

 

 

 

 月に一度くらいの頻度で命じられ入るこの部屋。

 青年にとって、一番に入りたくない部屋だった。

 

 

 

 通常であれば、他の奴隷たちと列をなし歩く。

 

 湯の中を進んで、部屋の奥へ行き、

 また、奥から入り口へ戻ってくる。

 

 奴隷の汚れの具合を見て、

 監視は数回の往復を言い渡す事があるが、

 部屋の湯に入り、奥へ行き、戻ってくる。

 

 たったそれだけの部屋。

 

 列を乱せば、折檻はある。

 

 暴れたり、反抗的でなければ、

 ただの湯浴みのできる部屋である。

 

 

 

 だが、青年の背は低かった。

 

 奴隷になった頃と比べ、

 成長して大きくなってはいたが、

 同種属の人間の、同年代の平均的な背には到底及ばない。

 

 背の足りない青年は、

 水底を蹴らなければ、水面に顔をだせない。

 

 水に沈み、床を蹴らねば、呼吸ができない。

 

 

 

 足の先が見えない、濁った液体。

 

 

 

 折り返して戻ってくる奴隷たちの作った波は、

 青年の身体を、後ろへ、左へ右へ、持って行く。 

 

 青年の身体が、波へ持っていかれる度、

 列を乱したからと、折檻が増えていく。

 

 前に進む奴隷に少しでも離れれば折檻。 

 うまく息ができず溺れたら折檻。

 

 前後の奴隷が厄介な奴だった場合、

 触れてしまえば、暴力沙汰になり拳をもらう。

 

 拳をもらい、列を乱せば折檻。

 

  

  

 青年にとってこの部屋は。

 

 避けられない、折檻の部屋だった。

 

  

 

「さっさと脱いで10、30…

 

 いや、100…100往復だ」

 

 

 

 青年は監視長の言葉に耳を疑った。

 

 耳を疑い、

 監視長の顔を見上げて、

 目の前にあった光景に、目を疑った。

 

 青年の目線の先には浴槽部があり、

 浴槽部は煮え湯(・・・)で満たされていた。

 

 

 

 ただでさえ。ただでさえ。

 

 死にそうな思いをしながら。

 

 いつもこなしていたのに。

 

 この熱湯に。

 

 入れと言うのか。

 

 

 

 グツグツと音を鳴らし、湯気を絶やさない煮え湯。 

 青年の顔から、サッと血の気が引いていく。

 

 

 

 これ、死ぬ…よな…?

 

 俺。これ。死ぬ。

 

 入ったら確実に。

 

 

 

 煮え湯を前に、青年の足は進まない。

 

 青年の全身に打撲傷がある。

 昼間、監視に殴られた跡だ。

 

 打撲傷とはいえ、今も血のにじむ傷もあった。

 

 

  

 無理だ。 

 無理だろ。

 

 絶対死ぬって。

  

 いやそもそも健康体でもこれは死ぬ。 

 一往復でも死にそうなのに。

 100、100、…100往復も?

 

 

 

 運がないにも程がある。

 

 

 

 俺なにかしたかな、

 

 なにか悪いことしたかな、

  

 心当たりは幾つかあるけれど、

 

 こんな死に方(おわり)に見合うほど、

 

 俺にできる悪事はない。

 

 ああそっか。

 

 わかった。

 

 良いことをした記憶がない。

 

 そうか。そうか。

 

 今日は俺の命日だったのか。

 

 それにあれか。

 

 そうか、思い出した。

 

 そうだ、

 

 そうだ、

 

 そうだった、

  

 俺(・)、誕生日(・・・)、今日(・・)じゃん。

 

 

  

 なんだ。

 

 なんだよ。

 

 それならさ、

 

 仕事なんてしてないで、

 

 残飯、食べに行けばよかったなぁ。

 

 

 

 動かない青年。

 それを見て監視長は動いた。

 青年を、煮え湯へ蹴り入れた。

 

 

 

「さっさとしろ、俺も暇じゃない

 

 15分だけ待ってやる」

 

 

 

 無茶な飲茶(やむちゃ)な

 

 

  

 咄嗟に脳内で軽口を叩いても、

 熱い熱い湯の中で現実逃避は叶わない(・・・・・・・・・)。

 

 青年の身体に煮え湯が触れる。

 すぐに悲鳴があがる。

 

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!

 

 あ"か"ッ!!か"は゜ぁ"!!

 

 あ"っい"!!あ"ッい"!!

 

 ん"ぁ"!!い"!!!」

 

 

 

 熱い熱い熱いッ!

 

  痛い痛い痛いッ!

 

 

 

 湯が傷に染みる。

 

 傷口が開いて血が止まらない。

 

 そんなこと(・・・・・)を気にしてられない程、

 

 煮え湯の熱さが、

 

 熱による全身への痛みが、

  

 青年に纏わり襲いかかる。

 

 

  

 熱は身体の、自由を奪う。

  

 それは火の粉に触れてしまった時。 

 触れてしまった手を、反射的に引いてしまうように。

 

 反射に意思は追い付かない。

 身体が勝手に動いてしまう。

 

 

  

 つまり煮え湯に落ちた青年は。

 

 全身を熱にさらされた青年は、

  

 全身が反射的に動いてしまう。

 

 勝手に動いてしまうのだ。

  

 意思ある足掻きであれば、前へ進むこともできただろう。

  

 後退して、浴槽部から抜け出すこともできただろう。

 

 だがそれは叶わない。

 

 

 

 青年の身体は反射によって煮え湯をかく。

 

 動いても動いても、青年は煮え湯の中で。

 

 背の足りない青年は、なす術もなく溺れた。

 

 

 

「そうかお前、背が足りないのか

 

 だからと言って待ってはやらん

 

 だが鎖を動かしてやろう(・・・・・・・・・)」

 

 

 

 青年に、監視長の声は届かなかった。 

 青年の意識は、とうになくなっていた。

  

 だがそれは幸福だったのかもしれない。

 

 強制的に湯浴みをさせるための自動滑車。

  

 ソレ(・・)の駆動音を、

 青年は既に聴いたことがあったのだから。

 

 

 

「本来は、拷問のために用意されていたものだ

 

 使わなくなって、

 奴隷用の風呂にされていたが、贅沢な奴だ…

 

 ただの奴隷1人の為の湯浴みに、

 自動滑車と限定治癒魔法(リミテッド・ヒール)のこの二つ

 

 本来の機能を使わせてやるんだ

 

 有り難く思え」

 

 

 

 滑車の滑る音と共に、青年の意識は戻った。

 限定治癒魔法(リミテッド・ヒール)が正常に発動したのだ。 

 動き始めた滑車もまた、監視長の設定した通りに動く。

  

 青年は意識が戻り、

 再び煮え湯の中で踠いていると、

 首に衝撃が走った。

  

 自動滑車によって、

 青年の首輪が引かれたからだった。 

 部屋の奥へ奥へと青年は進まされる。

 

 

  

 息継ぎもできず、

 なにが起こっているのかもわからず、

 なにも理解できぬまま、意識の浮き沈みを繰り返す。

 

 

    

 青年は幾度目かの限定治癒魔法(リミテッド・ヒール)で、

 治癒魔法が自身に使われていることに気づいた。

 治癒魔法が繰り返し使用された副作用か、

 青年の意識は安定していた。

 物を考えられるようになっていた。

 

 青年は考える。

 焦りながら考える。

 

 

 

 何回意識を失ってた? 

 どれくらいの時間が過ぎたんだ。

 

 首が引っ張られてるのはなんだ。

 

 この聞き覚えのある音はなんだ。

 

 この擦れる、回る、金属の音。

 

 …滑車だ、滑車が動いてるのか!

 

 

 

 煮え湯の致命傷や気絶は、

 治癒魔法で治り、青年を生かしていた。

 青年は悪意ある治癒魔法をありがたい(死なないのなら、なんでもいい)と思った。

 

 そんなことより、滑車だ。 

 滑車はまずい、と青年は焦る。

 

 部屋の奥には、浴槽部の終わりがある。

 

 部屋の奥を折り返すには、

 浴槽部から一度出る必要があった。

 

 

 

 青年は自動滑車の恐さを知っている。

 青年には経験があった。

 

 背が足りぬからこそ、

 自動滑車は恐ろしいものだと知っていた。

 

 

 

 やばい、死ぬ、

 

 このままだと死ぬ、マジで死ぬ、

 

 部屋の端に行くまでに足を床につけないと、

  

 準備をしないと、

 

 ひっかかって(・・・・・・)死んでしまう、

 

 

 

 青年は、必死に足を伸ばす。 

 床には、届かない。

 

 必死に、伸ばす。 

 床には、届かない。

 

 視界の隅に折り返せ(・・・・)の印が映った。

 

 

 

「ぐぎぃッ!!!ぃぃィ…ッ!!」

 

 

 

 身体は湯船の端に引っ掛かり、 

 首輪が自動滑車に引っ張られ、 

 首がしまって息ができない。

 

 喉が絞まっていく。

 

 息はできない、できない、できない。 

 それでも煮え湯の熱は絶え間ない。

 

 

 

 また…意識が…死…

  

 

 

 ああこんな死に方なのか。

 

 死んだと思ったら生きてて。 

 生きたと思ったら死ぬのか。

 

 俺はこんな風に死ぬのか。

 

 熱いのか。

 寒いのか。

 

 もうよく分からない。

 

 

 

 青年の死が、すぐそこまで来ていた。

 

 死は青年の目の前まで来て、

 

 滑車の音にかき消された。

 

 

  

 自動滑車は壁を伝い、

 青年の元まで帰ってきていた。

 

 青年の首への圧迫は、

 先ほどと比べれば軽いものへ変わった。

 

 青年の身体は、また煮え湯を泳ぐ。

 

 

 

 ああ。そっか。

 

 15分で100往復だもんな。

 

 滑車の動きが早いのか。

 

 

 

 なんだ

 

 よかった

 

 死なないみたいだ

 

 

 

 なんだ

  

 よかった

 

 ただ苦しいだけか

 

 

 

 死なないとわかった青年は、

 

 ただ自動滑車に、身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと終わったのか」

 

「あ"ぃ"」

 

 

 

 煮え湯の100往復を終えて、

 青年は監視長の前に倒れ込んだ。

 

 青年の感覚は、全身の痛みと内側の熱でいっぱいだった。

 青年の身体は、身じろぎ出来るかも怪しかった。

  

 死にはしなかったが、

 部屋の端につく度に、何度も首を絞められた。 

 上手くいけば鎖を掴んで身体を浮かせることもできた。

 

 だがそう何度も成功はしなかった。

 

 

 

 痛い、熱い、痛い、はやく外にでたい。

  

 湯気の熱さでさえ、今は逃げ出したい。

 

 はやく寝床にいきたい、

 

 むさ苦しいけど、

 

 ここより幸せだ。

 

 

 

「そうかそうか

 

 それでは礼として、私の趣味に付き合って貰おうか」

 

 

 

 満身創痍の青年に、監視長は礼を求めた(・・・・・)。

  

 

 礼…お礼…?

 

 風呂に入らせてやった礼…?

 

 な、なにを、言って…?

 

 勘弁、勘弁してほしい

 

 もうホントに

 

 ほんとうに動けないんだ

 

 熱いし、痛いし、眠いし…腹が減った

 

 

 

「お前は、飯を食べてないし(・・・・・・・・・)

 

 風呂に入って清潔(・・)となった

 

 しかも背も低く私好みだ(・・・・・・・・・・・・)」

 

 

 

 俺は耳を疑った。

 

 でも監視長が服をぬぎだして悟った。

 

 あぁ、そうか。

 

 最初からそのつもりで風呂に入らせたのか。

 

 

 

「私はキツくて熱い身体が大好きなんだ 

 なに、たった小一時間程だ、すぐ終わる」

 

 

 

 俺、ほんとに運がないな。

 

 

 

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