で、反でない方の魔人學園ですが、一応向こうでも半隠しという扱いにしておりますので、
ほんのちょっとだけ意地悪をさせていただきます。
でも読んで。
http://rinrin.saiin.net/~alcyone/index.html
が自HPでこの中にあります。
あ、ソース覗いたりとか変な知識とかそういうのは一切必要ありません。
以下次回。
真神學園の屋上は、昼休みと放課後に開放されている。
多くの高校は危ないという理由で閉鎖したままなのだが、真神學園は生徒を信用しているのか、
屋上に通じる扉の鍵も生徒たち自身が開けるようになっていた。
そのため放課後には吹奏楽部や演劇部が用い、昼休みは生徒達が昼食を取るために利用している。
青い空の下で数人ずつのグループに分かれて会話と食事を楽しむ彼らは、まさしく青春を謳歌していた。
だが、緋勇龍麻が蓬莱寺京一、醍醐雄矢、桜井小蒔、美里葵を屋上に呼びだしたのは、
彼らと昼食を共にするためではなかった。
龍麻は全員が揃ってから、人目につかない旧校舎側に移動する。
戦前に建設されたという旧校舎は、見ながら弁当を食べると腹をこわすという真神學園七不思議の
ひとつに数えられていて、あえて挑戦しようという生徒はほとんどいない。
教室ではできないような話をするにはうってつけの場所だった。
「おいおい、いったい何だってんだ? 野郎の呼び出しなんざ嬉しくもねえんだがな」
ぼやく京一の隣では、醍醐雄矢が難しげな顔をしている。
さらにその隣には桜井小蒔が、こちらは不審よりも好奇心が勝った表情をしていて、
そして小蒔の横には美里葵が無表情で立っていた。
「そうだな……」
どう話を切りだしたものか思案した龍麻は、いきなり京一の胸に正拳を繰りだした。
「……ッ!! てめえッ、何しやがるッ!!」
冷静になれば、速度も威力も本気の一撃ではなかったことが判っただろう。
しかし、不意を突かれたとはいえ全く反応できなかったこともあって、
京一は考えるより早く殴り返していた。
反射的な一撃にも関わらず、的確に龍麻の顎を捉えたのは、京一が喧嘩慣れしている証拠だろう。
龍麻は大きく仰け反ったが、歯を食いしばっていなければ昏倒していたかもしれない。
「やいてめえッ!! 昨日の友は今日の敵ってワケか、上等じゃねェかッ!!」
気色ばむ京一をあえて無視し、龍麻は顎を撫でながら醍醐と小蒔の方を見た。
「見えたか?」
「ああ……だが、今のは一体……?」
「何、今の……?」
驚く醍醐と目を白黒させる小蒔に、ひとり事情が飲み込めない京一が矛先を二人に向ける。
「やいてめえらッ、何ごちゃごちゃ言ってやがるッ!」
「自分で気づかなかったの、京一? 今、京一の手……光ってたよ」
小蒔の指摘を京一は鼻で笑い飛ばした。
「アホか、手が光るわけねえだろうが。腹が減りすぎて目ェ回ってんじゃねえのか?」
「お腹は空いてるけど違うもん! ね、葵も見たよね」
「え、ええ……」
小蒔は歯切れの悪い葵を不思議そうに見たが、すぐに龍麻に向き直った。
もともと生気にあふれた瞳が、好奇心で爛々と輝いている。
「緋勇クン、どういうこと!? 緋勇クンが手品でもしたの?」
手品、という表現に失笑を誘われながら、まだ怒っている京一をなだめるため、
龍麻は静かに真実を告げた。
「いや、俺じゃない。京一が自分で光らせたんだ……氣で」
「氣!?」
昨夕の葵に続いて非現実的な語句を聞かされた三人は、それぞれの表情で絶句した。
龍麻を凝視し、彼が嘘を言っていなさそうと見ると、今度はお互いで顔を見合わせる。
もちろんそこに答えはなかった。
「氣ってあの……手からなんか出るやつ?」
皆と一緒に居たのに一人だけUFOを見てしまったときのような、
困惑ともどかしさに支配された表情を浮かべて小蒔が訊ねる。
こういうときに必要なのは誇張や冗談ではない。
龍麻は、小さく笑って安心させつつ、小蒔の質問を肯定した。
「手から出せるようになるには相当修行しないといけないけどな」
「緋勇クンはできるの?」
「一応」
目と口で三つの丸を作る小蒔は、ずいぶんと少年めいて見える。
彼女の隣で腕を組んで唸っている醍醐が、信じられないといった顔のまま訊ねた。
「昨日俺に使ったのも」
「ああ。でなきゃあんな鍛えた身体を一発で倒せるわけがない」
醍醐もまた、得心せざるをえなかった。
確かに龍麻の一撃は、単に重い一撃ではなかった。
打撃を受けた腹から、全身を強く揺さぶられたような衝撃が広がったのだ。
格闘技や武術の知識から、発勁かそれに似た技だと見当はつけていたが、
体験するのは初めてだったし、まさかあれほどの威力だとは、醍醐の想像をはるかに超えていた。
今は光ってはいない、自分の拳を京一はうさんくさげに見る。
風が吹きそうだという予感は、間違っていなかった。
それも望み通り、台風に近いほどの激しい風だ。
三年の始業式からまだ三日だというのに、すでに波乱が起きまくっている。
これから先どのようなことが起こるとしても、退屈だけはしないで済みそうな一年に、
京一の口の端は知らず緩んでしまうのだった。
「こんな突拍子もない話、確かににわかにゃ信じられねえけどよ、
それにしたって、先に説明したっていいじゃねえか」
「言うより体感した方が早そうだったからな」
「けッ。で、お前は何を知ってる?」
「実を言えば、何も知らない」
「てめェ……」
京一の眼光から一度は消えた剣呑さが復活したのは、
自分の身に生じた変化に納得をしていないからかもしれず、
醍醐と小蒔の顔にも敵意でこそないものの、不審が浮かんでいた。
「京一達が氣を使えるようになったのは、昨日の旧校舎で間違いないだろう。
俺たちの身体が光った、あれがきっかけだと思う」
「……」
四人は再度顔を見合わせる。
確かにあの旧校舎内で、気絶していた葵を含めた、龍麻達五人の身体が発光した。
光はすぐに収まり、特に痛みや異変を覚えたわけでもなく、
校舎からの脱出と異様に大きな蝙蝠に気を取られていたので、失念していたのだ。
曲げた人差し指を唇に当てて小蒔が言う。
「ああ、そういえば、朝アン子に葵が無事だったよって言いに行ったんだけどさ、
あの時ちょっと揺れたじゃない? 時間は短かったけど結構激しく。
でもアン子はそんなの知らないって言うんだよ。旧校舎のすぐ外にいたのに、変だよね」
「あの揺れも……この氣とやらに関係しているというのか?」
「それはワカんないけどさ」
醍醐を見上げて答えた小蒔は肩をすくめる。
彼女は兄弟が多く、男性が好むマンガやゲームにもそれなりに詳しく、
その中には氣やそれに似た超能力が出てくるものもある。
しかし、それらは厳しい修行や受け継いだ才能によって発揮されるのが通例で、
旧い校舎に立ち入っただけで素質を授けられるなどとは聞いたことがなかった。
「あ、でも、緋勇クンは光る前から氣を使えたんだよね?」
「ああ」
異なる方向を見ていた四本の視線が、再び龍麻に集中する。
強いものもあればそうでないものもある、それらの視線を龍麻は真っ向からは受けとめず、
彼らの向こう側にあるフェンスと、その先にある旧校舎を見ながら答えた。
「俺が真神學園に来たのは、俺に氣の使い方を教えてくれた人が行けって言ったからだ。
ただ、とにかく行けって言うだけで、何があるのか、それともこれから起こるのか、
そういうことは一切教えてくれなかった。
だから、来てこんなすぐに何かが起こったんでびっくりしてる。
京一たちこそ、あの旧校舎について何か知らないのか?」
龍麻の問いに四人は顔を見合わせた。
およそ二年間、ほぼ毎日見ていながら、旧校舎についてはほとんど何も知らなかったのだ。
なんとなく気まずさを覚えるなか、最初に口を開いたのは醍醐だった。
「昨日話した、軍の研究が行われていたという以外に俺は知らんな」
「祖父さんの話だったよな。って言うと第二次大戦の頃か、その時も真神學園ではあったんだよな?」
「そうらしい。旧校舎、というより校舎はそこしかなかったんだが、
その一角を立ち入り禁止にして、軍の人間が出入りしていたそうだ」
「何の研究をしていたかは分からない……よな」
「ああ。訊けば教えてくれたかもしれんが、もう死んでしまったしな」
これでは情報もないに等しい。
難しげな顔をする龍麻に、小蒔が口を挟んだ。
「待ってよ、氣ってヤツと軍の研究が関係あるってこと?」
「そうだな……軍が氣を研究していた可能性はあるな。それが個人レベルの話なのか、
もっと大きな話なのかは何とも言えないが」
「もっと大きな話って?」
「氣っていうのは自由に使えるかはともかく、持っているだけなら全ての生命が持っている。
地球上にある一番大きな生命って何か知ってるか?」
「一番大きな……? クジラじゃないの?」
「もっと大きなのがある。……地球そのものだ」
小蒔は思わず足下を見た。
一寸の虫にも五分の魂ということわざを聞いたことはあるが、
全体を見ることもできないほど巨大な物体にも生命が宿っているなどという考えは、
簡単に受け入れるのは難しかった。
「もしも地球そのものが持つ氣を利用できたら、莫大なエネルギーになる。
俺みたいに氣を使えるように訓練するとか、氣そのものを敵にぶつけるとか。
軍が研究しようとするのも無理はない」
「……」
龍麻の話はあまりに突拍子もないように思え、三人は黙ってしまった。
とはいえ笑い飛ばすには自分たちの身に起こった出来事がある。
京一と醍醐、それに葵は身をもって体験しているのだから、信じないわけにはいかなかった。
ただ一人、まだ氣を体験したことのない小蒔が訊ねる。
「それで、氣って何ができるの? 京一を殴るときに便利なだけ?」
「なんで俺限定なんだよ」
笑いを押し殺して龍麻は説明した。
「本来は自分の身体を強くするために氣の使い方を学ぶんだ。
身体が強くなれば、殴るのはもちろん、足だって速くなるし、ジャンプ力だって増す。
それから、これは難しいけど、自分や他人の怪我を治したりもできる」
「骨とか折れてても?」
「それはさすがに無理かな。くっつくのを早くするくらいはできるだろうけど」
「ふーん……それで、どうやったら使えるの?」
「一番手っ取り早いのは、さっき京一がやったみたいに怒ればいい。
と言っても、怒ろうとして怒ったんじゃ足りないけどな。
それに、怒って生みだした氣はコントロールが難しい」
「なんか難しそうだね」
「コツを掴めば簡単なんだけどな」
小蒔が唸りはじめたのは、さっそく氣を使おうとしているのだろうか。
顔を赤くしてうんうん言っている小蒔を横目で見て、京一は龍麻に問いかけた。
「で、俺たちゃどうすりゃいいんだよ」
「何もしないでいいんじゃないかな。世界征服を企む悪の組織でも出てきたら、また考えればいいだろ」
「おいおい、そんな奴ら居るわきゃねェだろ」
「そりゃそうだ」
龍麻は肩をすくめる。
仮にそのような事態が発生したとしても、彼らと共に戦うつもりなど龍麻にはなかった。
ところが、この場で氣を使うのは諦めたらしい小蒔が、まだ少し上気した顔でぼやく。
「えーッ、いないのかなぁ。ボク達ちょうど五人いるしさ、なんかそういうのできそうじゃない?」
「お前、高三にもなってまだそんなの観てんのかよ」
「ボッ、ボクじゃないよ、弟たちだってば。そりゃボクもつきあって観るコトはあるけど」
京一に対してムキになって否定する小蒔の声に、金属質の声が被さった。
「私は……嫌よ」
「葵……?」
「私は傷つけられるのも、誰かを傷つけるのも嫌。戦うなんて絶対に嫌よ」
「そりゃ、そうだけどさ……」
葵の親友である小蒔は、彼女が生真面目で、このような怪力乱神を、
少なくとも居たら面白いな、などと考えている自分と違って本気では信じていないことを知っているから、はしゃぎすぎたと反省した。
それでも、葵の怒りようは少し度が過ぎているように小蒔には思えた。
屋上に来てから一言も発しなかった葵が、
客の目の前でシャッターを閉める店のような激しい態度を見せたことで、
京一と醍醐もどこか白けてしまったようだった。
京一が頭の後ろで両手を組む。
「まあ、緋勇の言う通り、何が起こるワケでもねえだろうし、
こんな『力』、使い道もねェんだからよ、普通に過ごしてりゃいいんじゃねえか?」
常識的な台詞は京一らしくなかったようで、醍醐と小蒔が驚いているが、
葵は目に見えて安堵し、急に顔を赤らめた。
「そ、そうね、私ったら、少し先走ってしまったみたい」
「へへッ、真神の聖女も時にはそういうのがあってイイんじゃねェか? なあ、緋勇」
葵にそんな別名があったとは初めて聞いた龍麻は、真顔で頷いて京一を更に笑わせ、
京一が笑ったことでようやく場の雰囲気も和らいだ。
龍麻から話を聞かされたときは驚いたが、そう、変な力に目醒めたとしても、
何も起こらなければ問題ないのだ。
高校生活もあと一年、わけのわからない超能力などに振り回されず、青春を謳歌すべきなのだ。
葵は強くそう思った。
「おッし、話も終わったことだしよ、とっとと教室に戻ってメシにしようぜ。食う時間がなくなっちまう」
先頭を切って教室に戻ろうとした京一を、小蒔の大声が呼び止めた。
「あッ、そうだ、せっかく揃ったんだしさ、今日学校が終わったら新宿中央公園に桜を見に行かない?
満開だって朝テレビで観たんだ。去年よりちょっと早いんだって」
小蒔の提案に意外そうな顔をした京一は、すぐに破顔した。
「おッ、いいねェ。桜を見ながら一杯呑るってのも乙じゃねェか。
んで隣のOLグループと仲良くなっちゃったりしてよ」
「このアホッ、ボク達は学生なんだからお酒なんて呑んじゃダメに決まってるだろッ!!」
「いいじゃねェか、ちょっとくらい。お前に呑めとは言ってねェよ」
「生徒会長も行くのに何考えてんだッての! ねえ、葵」
「え、ええ……」
葵の返事は歯切れが悪かった。
龍麻と距離を置きたいと思っている葵は、突如降って湧いた花見の提案を、
口実をつけて断ろうと考えていたのだが、その矢先、
小蒔に同意を求められ、やむをえず頷くしかなかった。
醍醐も承諾し、龍麻も応じたことで話が一応まとまり、
京一は今度こそ教室に戻ろうとする。
すると校舎へと戻る扉が、突然京一の方へと開き、
一人の少女が勢いよく出てきた。
「その話、乗ったわッ!」
「げッ、アン子ッ!! どっから湧いてきやがったッ」
非好意的な京一の視線を、現れた遠野杏子、通称アン子は全く意に介さず、
制服を斜め上方に押し上げる、豊かな胸を強調するように背を反らした。
「壁に耳あり障子に目あり、真神の校舎にアン子あり、よ。
この学校の内部であたしに暴けない秘密はないわ、心しておきなさい」
京一が制服をバタバタさせたのは、盗聴器でもつけられていないか疑ったのかもしれない。
それくらい絶妙なタイミングでの登場だった。
「アホは放っておいて、桜の下でインタビューってのも洒落てるわよね、緋勇君」
アン子は訊ねておいて返事を待たずに小蒔の方へと向き直る。
「というわけで桜井ちゃん、あたしも参加させてもらうからよろしく」
「う、うん」
さすがの小蒔もアン子の勢いに圧されているようだ。
あっという間に増えた参加者に、京一が軽く舌打ちした。
「ちッ……お前が来ると、なんかロクでもねぇことが起きそうなんだよな」
「あら、失礼ね。いい? 有能なジャーナリストは、己が本能の赴くままに行動するの。
あたしが事件を起こしてるんじゃなくて、事件の方があたしを求めてやってくるのよッ」
「……しょうがねェな」
熱弁を振るうアン子に、京一がそれ以上反論しなかったのは、腹がいい加減悲鳴を上げていたからだ。
これ以上時間を浪費したら昼飯を食べる時間がなくなってしまう。
学校生活の数少ない楽しみを放棄するつもりは、この男にはさらさらなかった。
「じゃ、公園の入り口に六時にしよっか」
小蒔の提案に頷いた醍醐が、重々しく言った。
「アルコールは無しだぞ、京一」
「しつけーな、保護者ヅラすんなよ」
「お前のあきらめの悪さを知る者としては、言いたくもなるさ」
「ッたくよ、花だけ見たって何にも面白くねェだろうが。なァ緋勇」
「そうだな」
龍麻の返事に京一はたちまち上機嫌になった。
「お、お前呑けるクチだな?」
人目につく場所でわざと喫煙して目立とうとする不良達とは異なるが、
龍麻はアルコールと無縁ではなかった。
それどころか、種類だけでいうなら世界に存在する酒は一通りたしなんだことがある。
決して積極的にではなく、氣の修行をしていたときに、師や先輩たちから勧められてではあるが、
拒んだこともなく、盃を出されれば当然のように呑みほした。
どうやらアルコールには強い体質らしく、周りの連中が驚くのが、密かな快感でもあった。
「まったく……悩みの種をこれ以上増やしてくれるなよ」
「お前が勝手に悩んでるだけじゃねェか。頼んだ覚えはねェぜ」
嘆く醍醐に、勢力を確保するつもりか、龍麻の肩に腕を回して京一が言い返す。
「どうでもいいけど、高校生が校舎内で堂々と飲酒の話をしないでよね。生徒会長もいるってのに」
アン子の正論にはぐうの音も出ず、男達は沈黙するしかなかった。
五人にアン子を加えた一行は教室へと戻る。
実家は酒屋でありながら、男達の酒飲み話には一切関わらないで先頭を歩いていた小蒔が、
向こうから来た少女に目を留めた。
「あッ、ミサちゃん」
「う~ふ~ふ~ふ~ふ~、皆揃ってどうしたの~?」
妙に間延びした、低く小さな声は、校舎内の喧噪に紛れてしまいそうなのに、
どういうわけか龍麻は、彼女の声が耳元で聞こえたような気がした。
小柄な桜井小蒔よりも、さらに指三本ほど背の低い少女は、肉づきも薄く、
真神の制服を着ていなければ中学生にも見間違えそうだ。
顔が見えればもう少し見分けがつくのかもしれないが、瓶底と見紛う厚い眼鏡をかけており、
しかもどうしたことかレンズ越しの眼が見えない。
光の加減かと思った龍麻が少し立つ位置を変えてみても、やはり眼をみることはできなかった。
不思議な現象に龍麻が首をひねっていると、少女が龍麻を見る。
にたり、という表現がふさわしい笑顔は、口だけが変化したため、たいそう不気味に見え、
大抵のことには物怖じしない龍麻も妙な寒気を覚えた。
龍麻が顔を強ばらせたことなど気づいた風もなく、小蒔が少女を紹介する。
「あのね、この子は隣のクラスの裏密ミサちゃん」
龍麻からミサへ、身体ごと半回転させて小蒔は続けた。
「この人……転校してきた緋勇クンって言うんだけどね、
歓迎会で今日お花見に行こうってコトになったんだ。そうだ、ミサちゃんもどう?」
小蒔の提案におそらく悪意はない。
だが、今ここで会ったばかりの少女に歓迎されると言っても龍麻は素直に喜べず、
そして、もう一人、ミサの参加に異を唱える人間がいた。
「げッ! 馬鹿野郎、余計なコト言うんじゃねェッ!!」
「何が余計よ、緋勇君の歓迎会なんだから、アンタの好き嫌いで人選しないでよね。ね、緋勇君?」
「……」
龍麻は無言でアン子を見つめただけで、何も言わなかった。
強い眼光にアン子はたじろいだが、龍麻が無言だったので、都合良く解釈することにしたようだ。
「ッてなわけでどう? 裏密ちゃん」
ミサを誘うアン子の後ろで、京一が呟くのが聞こえた。
「あいつが居ると妙な寒気がするんだよな……」
「うむ……」
どうやら醍醐もミサを苦手としているようだ。
確かにミサは風貌からして周りに合わせず、独自の道を行くのを好むタイプのようで、
京一の趣味とは合わないのかもしれないが、醍醐までもが苦手としているというのは不思議にも感じる。
さらに、京一が言った寒気という感覚は龍麻も感じたばかりであり、
相当に謎めいた少女であるのは間違いなさそうだった。
誘われたミサは、二つ返事で諒解はせず、アン子に訊ねなおした。
「お花見ってどこに行くの~?」
「え? 中央公園だけど」
「西の方角ね~」
そう言うとミサは抱えている人形の中からカードを取りだした。
単なるバッグと考えればよいのだろうが、すでに先入観が形成されてしまっているのか、
どうも禍々しい印象を受ける人形だった。
「7に剣の象徴あり~。……う~ん、止めた方がいいかもね~」
「……どういうこと?」
ザインがヘブライ語で七を意味すると知っている者は居なかったし、
居たとしても意味を理解できた者は皆無だっただろう。
「紅き王国に害なす剣。鮮血を求める凶剣の暗示~。……方角が悪いの~」
より具体的になった占いの説明を、今度は全員理解できはしたものの、
鮮血やら凶剣やら、花見に関係する言葉とはとても思えなかった。
「そんなぁ……せっかくのお花見なのに」
嘆く小蒔にミサは突き放したように言う。
「信じる信じないはみんなの勝手だけどね~。緋勇くんは、どう~?」
「無理に行かない方が、いいかもしれない」
訊かれた龍麻はミサに同意した。
彼女の占いを信じるわけではないとしても、友人達に嫌われるかもしれないのに、
臆せず不吉な暗示をしたのが気になったのだ。
「そう~。信じるのなら、きっと予言者の加護があるはず~」
「おいおい待てよ、カード一枚引いただけで何がわかるッてんだよ。
それに、注意ったって、せいぜい酔っぱらいが暴れるくらいだろ」
「どうかしらね~」
あくまでも含みを保たせるミサに、全員なんとなく薄気味の悪さを覚え、
小蒔でさえもそれ以上誘おうとはしなかった。
「それじゃ……ミサちゃんは行かないの?」
「悪いけど~、そういうことで~」
ミサはカードを人形に収納し、立ち去ろうとする。
悠然と歩く彼女を、アン子が不意に呼び止めた。
「待ってミサちゃん。剣ってもしかして、この前国立博物館で刀が盗まれたのと関係があったりする?」
「うふふふふ~」
我が意を得たり、と笑うミサに、全員が注目した。
「何、盗まれた刀って?」
「聞きたい?」
もったいつけるアン子に、小蒔でさえうんざりするなか、京一が龍麻の横腹をつついた。
「ほら緋勇、聞いてやれよ」
面倒だと思いつつも、聞きたいという気持ちは確かにあって、龍麻はアン子の望み通りにした。
「知ってるなら教えてくれよ」
「緋勇君の頼みなら仕方ないわね」
わずかに鼻を高くしたアン子は、目を閉じて情報を整理してから話し始めた。
「二週間くらい前から国立博物館で、全国から名刀を集めた日本大刀剣展っていうのをやってるんだけど、そこに展示してあった刀が一口、盗まれたのよ」
「あ、それ新聞で見たかも」
情報は知る者が少ないほど価値がある。
具体的には十四パーセントほど価値が下がったのだが、アン子は微塵も動揺しなかった。
「ええ、そこまではね。でもここから先はどの新聞にも載ってないんだけど、
盗まれた状況が異常だったのよ」
「どんな風に?」
「警備員も防犯装置も作動しないどころか、その刀が入っていたケースのロックさえ
解かれていなかったんだって」
「なんだそりゃ……で、その刀は有名なやつなのかよ」
「室町時代に鍛えられた、モノ自体は無銘の刀なんだけど、それが納められていた場所が……ね」
「なんだよ、今更勿体つけるなよ」
「三ヶ月くらい前にニュースであったでしょ? 日光の華厳の滝で、古びた日本刀が発見されたってやつ」
「覚えてねェよ、三ヶ月も前のことなんざ。なあ、醍醐」
「うむ……」
どれほど良い料理も食べる人間の舌が肥えていなければその真価は評価されない。
せっかくの情報が無価値になりかけて、アン子は思わず嘆いた。
「もう、アンタ達、一番記憶力が高いこの歳でそんなことでどうするつもりよ。
とにかく、盗まれた刀ってそれらしいのよ。ここまではあたしが裏を取った事実。
で、ここからはあくまで伝承と憶測の域を出ないんだけどね」
一気に喋って乾いた唇を舐めてアン子は続けた。
「戦国時代に、ある一口の刀があった。
その斬れ味は朝露を斬るが如く、刀身は曇ることを知らず。
まさに名刀、って刀なんだけど、その刀には曰くもあったの。
怨念に満ちた妖しの刀で、人の血を求め、持ち主の精を吸う、って。
室町時代に伊勢の刀工が鍛えたそれは、江戸に入ると徳川家に様々の悲惨な死をもたらした」
「徳川に? どういうこと?」
「まず、家康の祖父、松平清康が刀の持ち主に殺されたの。
次に父・広忠も傷を負い、更に家康の子、信康が切腹に使ったのもこの刀だったって。
それ以来、刀は徳川家を祟る妖刀として、その大半が処分された。
そして時代は巡り、その芸術性を認められた残ったうちの一口が、残されることになった」
「でもそれには条件があって、残す──いえ、封印する場所は徳川大権現の霊的支配が及ぶ、
東照宮の膝元だってことになったの」
「……てことは、その盗まれた刀は」
「その妖刀の可能性が高い、って学者先生は見ているわ」
アン子が話し終えた時、龍麻はある単語を思い出していた。
どこで聞いたのかは忘れてしまったが、祟りをもたらすその刀の名を。
「村正──」
「あら、緋勇君、知ってるの? そう、その刀はそう呼ばれていたわ」
杏子が龍麻の博識を誉めると、京一が手にした木刀で肩を叩いて呟いた。
「おいおい、そんなのが中央公園にあんのか?」
「さァ──あたしはミサちゃんが剣、って言ってそれを思い出しただけだから」
いくらなんでも日本刀が盗まれれば警察だって捜索するだろうし、
盗んだ方もその価値を知っているならば売るだろう。
何も花見で賑わう中央公園で振り回す道理はなく、こじつけの感が強い。
中でも猛烈に反発したのは京一だった。
「けッ、日本刀如きに俺の花見を邪魔されてたまるかッ!
おねェちゃんに注いでもらった桜の花片が浮く盃を、ぐッと呑みほしてこそ風流ってモンよ、なあ緋勇!」
「どんな花見だよ……」
呆れる小蒔に、自分の役目は終わったとばかりにミサが声をかけた。
「それじゃあ~、ミサちゃんはもう行くね~」
「あ、うん、また今度ね、ミサちゃん」
ミサの姿が見えなくなるまで、龍麻達はその場に立っていた。
お互いなんとなく顔を見合わせ、自分が浮かべているであろうものを相手の顔に見いだすと、
苦笑して忘れてしまうことにしたのだった。
ついでだからマリア・アルカードにも昼休み中に声をかけてしまおうということになり、
龍麻達は揃って職員室へと向かった。
だが、気がつけば京一の姿がない。
「どうせお腹が空きすぎて抜けだしたんでしょ」
「あのアホのことだから、職員室行くといろいろマズいんじゃないの?
犬神先生の呼び出しをすっぽかしてるとか」
一片の容赦もない評価を下す小蒔とアン子を、醍醐と葵も否定しないあたりに、
京一の人望のなさがうかがえてしまう。
職員室の机は半分ほどが主を迎えていたが、マリアの姿を探す必要はなかった。
金髪に赤いジャケットは、たとえ朝の新宿駅に居たとしてもすぐに見つけだせるだろう。
「せんせー」
「アラ、どうしたの? 皆揃って」
食事は既に終えていたらしいマリアは、龍麻達が訪れると気さくに応じ、身体の向きを変えた。
教師としては少し短いようにも見えるスカートから伸びる足を惜しげもなく組み、
生徒教師を問わず、真神の男垂涎の美脚を披露する。
「えっと、ボクたち今日、緋勇クンの歓迎を兼ねて中央公園にお花見に行くことになったんですけど、マリアせんせーもどうかなって。
六時からなんですけど」
マリアは考えこんだが、長い時間のことではなかった。
「ええ、いいわ。なんとか六時には仕事を終わらせて行くわ」
教師というのはあまり生徒とプライベートでは交流しないと思っていた龍麻は、
あっさり承諾したマリアに意外さを禁じ得なかった。
「ところで、蓬莱寺クンは居ないのかしら?」
「さっきまで一緒だったんですけど」
「そう……困ったわね。何人かの先生に彼を呼ぶよう言われているのだけれど」
小蒔とアン子はさもありなんと頷く。
後ろでは醍醐が苦渋の表情をしており、京一がどれほど迷惑をかけているか、
これで証明されてしまった。
「とにかく、お花見の件は了解したわ。それでは、また後でね」
「はーい、失礼しまーす」
職員室を出たとき、ちょうど予鈴が鳴った。
教室に戻りながら、小蒔が嬉しそうに言う。
「これでひととおり声はかけたね。マリアせんせーまで来てくれるなんて思わなかったよ。
それじゃ、ちゃんと六時に集まってね」
「ちょっと桜井ちゃん、まだ午後の授業が残ってるわよ」
「あッ、忘れてた」
アン子のツッコミに舌を出した小蒔は、もう待ちきれないとばかりにその場でくるりと回った。
「夜桜かあ、ああもう、早く見たいなあ……どしたの、葵?」
葵の表情がすぐれないのに気がついた小蒔が、心配そうに訊ねる。
彼女の楽しみを損ねたくないと考える葵は、自身の不安を口にはしなかった。
「ううん、なんでもないの。それじゃ、また夜にね。私、用事があるから先に行くわね」
まさか親友が歓迎する対象である主賓と因縁が生じているとは知る由もない小蒔は、
足早に去っていく葵の姿を、怪訝そうに見送っていた。
決められた集合時間である六時の、十五分前に葵は到着した。
葵にとってはあまり気乗りがしない花見だとしても、承諾した以上時間は守るのが当然だと考えていた。
だが、まだ誰も来ていないと思っていたのに、多くの人で賑わう公園の入り口に、
知人の顔を見たとき、葵は後悔していた。
もっと時間ぎりぎりに来るか、せめて親友である桜井小蒔と一緒に来れば良かった。
人混みに紛れて一旦離れようかとも思ったが、先に彼に気づかれてしまった。
「早いな、まだ十五分以上あるのに」
「……緋勇君も、早いのね」
葵は龍麻から五歩ほどの距離を置いて立つ。
友人ではなく知人だとしても、やや遠い距離の意味をすぐに看破したらしく、龍麻は声を立てずに笑った。
小馬鹿にされていると感じた葵の、胸中にかすかに火花が散る。
「昨日は、あれから何ともなかったか」
「……ええ」
葵の返事が遅れたのは、質問の意味を計りかねたからだ。
たぶん蝙蝠の毒か何かが回らなかったという意味ではないかと推測して答えた葵は、
龍麻の返事に憤慨することとなった。
「俺が初めて氣を使った夜は、サカっちまって眠れなかったけどな」
「……!」
吐気を催すほどの下劣さに、葵はさらに半歩下がる。
そんな葵を見て、龍麻は薄く笑った。
「別に、恥ずかしがることじゃねえさ。氣ってのは生命力だ。
それを使うってことは、消耗もするが活性化もするってことだからな。
まあ、普通は消耗の方が激しいからサカることはねえとしても、なったときは凄いぜ」
葵は龍麻の何もかもが嫌いになった。
大勢の人が居る前でこんな下品な話を平気でするのも、自分と二人の時だけ口調が変わるのも、
内心を見透かすように据えた眼をするのも、彼を受け入れられる要素は何一つなかった。
そもそも氣などという怪しい力を持たされたのも、彼が転校してきたからに違いないのだ。
平穏な生活を望む葵が、彼と歩調を合わせるなど不可能だった。
葵は今でさえ、何か口実を設けて帰りたいと思っている。
しかし、自分のための嘘さえついたことがない彼女にとって、
適当に理由を作るというのは難題で、
彼と目を合わせるのを避けて考えているうちに、小蒔が来てしまった。
「……あれ? おジャマだったかな?」
「もう、そんなのじゃないのよ」
友人の冗談にこの上ない真剣さで葵は答えた。
あらぬ誤解――絶対にあってはならない誤解をして欲しくなかったのに、
小蒔には笑って流されてしまった。
「それにしても、凄いなここの桜は」
「でしょ? エヘヘッ、ボクね、この季節にここ通るの大好きなんだ」
「名前が桜井だしな」
「そうなんだよね、もう一年中桜が咲いてたらいいのに」
「でも、一週間かそこらで散るからいいって気もするな。また来年って感じで」
「それもそうなんだよねえ。緋勇クンとは気が合うよ」
先ほどの下劣な会話が嘘のように、龍麻と小蒔は意気投合している。
葵は彼の本性を教えてやりたいが、そうしたところで小蒔が本気にするはずもなく、
むしろ葵が冗談を言ったと目を丸くするに違いなかった。
さらに公園の入り口に、真神の制服を着た女性が現れる。
「おっはよう」
「あ、アン子。おはようって、もう夜だよ」
小蒔の指摘に遠野杏子は全く動じなかった。
「いいのよ、業界じゃ何時でもこうやって挨拶するんだから」
「業界って……」
アン子が加わり、ほどなく醍醐も合流する。
こうなってしまっては、葵が嘘をついて帰るのは難しくなってしまった。
「あとは……マリア先生と京一だね」
「京一はともかくとして、マリア先生はどうしたのかしら」
アン子の語尾に重なるように、この人混みにあって異彩を放つ女性が早足で歩いてきた。
金髪に赤いジャケットとスカートを着た、長身の女性は龍麻達の担任であるマリア・アルカードだ。
龍麻達以外も含めたこの場の視線を一身に集める彼女は、龍麻達に真摯に頭を下げた。
「ごめんなさい、少し遅れてしまったわ」
「そんな、まだ集合時間には二分あるから大丈夫だよ、せんせー」
あまり時間ぎりぎりに来る習慣を教え子達につけさせたくないと考えるマリアは、
小蒔のフォローに苦笑いで応じた。
「んじゃ、揃ったことだし行こっか」
小蒔が宣告し、先頭を切って歩きはじめる。
ついていったものかどうか、龍麻がためらっていると、後方から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「待てこらッ!! 俺を置いていくなッ!!」
その声は、龍麻にとって聞き覚えのある声で、他の連中にも聞こえているはずなのだが、
足を止める者は誰もいない。
「待てって言ってるだろうがッ!! この薄情者どもッ!!」
再三にわたる怒声に、ようやく小蒔が足を止めた。
わずかに遅れて舌打ちの音が、アン子の方から聞こえてくる。
ようやく一行に追いついた京一は、息を切らしながら彼を置き去りにした首謀者を非難した。
「くそッ、てめェら、ちょっと遅れただけで血も涙もねェのか……」
「どうせおねェちゃんのお尻でも追っかけて遅れたんでしょ。そんなの待ってる義理なんてないモン」
「ぐッ……」
小蒔に図星を指された京一は、悄然と一行に加わった。
中央公園の桜は満開で、花見客も公園のほとんどを占めるくらい大勢来ている。
場所取りがさぞ大変だろうと思われたが、運良く空いた一角に、龍麻達三人が突進すると、
ガタイの良い高校生が三人、それも一人は木刀を担ぎ、一人は高校生離れした大きさの彼らに
対抗しようという者はおらず、三組ほどのグループが、ひきつった顔をして場所取りを諦めていった。
「それではァ、緋勇龍麻クンの真神への転校を祝ってェ、かんぱーいッ!!」
「かんぱーいッ!!」
小蒔達の唱和に混ざって、なぜかあちらこちらで声がする。
すでに酔った何組かの花見客のようで、調子の良い京一などは、
その中からめざとく女性のグループを見つけて手を振っていた。
「もうッ、いいかげんに座んなよ、恥ずかしい」
小蒔に制服の裾を引っ張られて、ようやく座った京一は、さっそくジュースを飲みほした。
「かーッ、やっぱりオレンジジュースじゃ風情がでねェな」
「京一の風情ってなんだよ……」
「そりゃあお前、花見酒に月見酒だろ」
小蒔に即答する京一に、複数のため息が漏れる。
「蓬莱寺クン。まさかとは思うけど、アナタ」
マリアが居ることをすっかり忘れていたらしく、京一は頭を掻いた。
「や、やだなあ、あくまでも想像ですよ、想像。だったらイイなっていう」
「どうだか……」
しみじみと呟く小蒔に、京一は指先を突きつけた。
「やい小蒔ッ!! さっきからネチネチ絡んできやがって、
言いたいことがあるならはっきり言いやがれッ!!」
「べーだ。制服着てお酒の話なんかするアホに言うことなんかないよーだ」
「ぐッ……」
言い負かされた京一は、ヤケを起こしてたこ焼きやら焼きそばやら、用意されたつまみを食べ始めた。
「ちょっと、全部食べないで少しは残しといてよ」
警告も無視してかきこむ京一に危険を覚えたのか、小蒔も食べ始めた。
元から食べている醍醐と三人で、片っ端から食べ進めていく。
マリアを含めた四人は、次々と空になっていく器に呆れるしかなかった。
「もう……お腹壊しても知らないわよ、アンタ達」
言い終えたアン子は、彼らが食べているものが相当にたくさん用意されていることに気がついた。
「ところでこれ、誰が用意したの? ずいぶんたくさんだけど」
「俺が」
全員が驚いて発言主である龍麻を見た。
「えッ、緋勇クンが買ったのコレ!? 緋勇クンの歓迎会なのに」
「そう思うんなら食うのを控えろよ」
「京一だってずっと食べっぱなしじゃないか」
「俺はいいんだよ、俺は。なあ緋勇」
「じゃあボクだっていいじゃない。ねえ緋勇クン」
もとより代金を請求するつもりなどない龍麻は、小さく頷いただけで二人の食欲を咎めなかった。
教師であるマリアは、それなりの金額になったであろうと察したのか、
やや複雑な表情で龍麻を見たが、東京を闊歩する、高級バッグを携えた女子高生のように
分不相応な金遣いとまでは言えないので、静観することにした。
代わって、新たなスポンサーになるとでも思っているのか、
愛想良く龍麻にジュースを注いでいるアン子に話しかけた。
「そういえば遠野サン、旧校舎に入って犬神先生に怒られたんですって?」
マリアに言われてアン子は肩をすくめた。
ただし表情から本気で反省してはいないのが明らかで、マリアもそれ以上咎めるつもりはないようだ。
「それで、何か見つけたのかしら?」
「いやそれが先生、見つかったのは埃ばっかりで。もう大変だったんですよ、
あたしいつもは早風呂なんですけど、あの時ばかりはじっくりたっぷり入って。
……コラ男性陣、あたしの裸想像したでしょ今!」
「馬鹿野郎、誰がお前の裸なんて想像するかッ! 飯がマズくなるだろうがッ!」
男性陣を代表したのは京一で、彼の怒声には疑いようのない凄みがあった。
一方で確かにスタイルは良いと思われるアン子は、しなを作って龍麻にウインクしてみせた。
「アラ、こう見えて脱いだら結構凄いのよ、あたし。
緋勇君にならと・く・べ・つに見せてあげてもいいわよ。ただってわけにはいかないけど」
「やめとけ緋勇、ケツの毛まで毟られんぞ」
意図してか否か、アン子は茶化してみせ、生徒達に釣られてマリアも笑った。
艶やかな微笑は桜にも劣らぬ美しさだったが、彼女の蒼い瞳が、一瞬だけ薄い刃のように閃いた。
それは夜の闇に紛れてすぐに消え、誰も気づいた者はいない。
否、たった一人、龍麻だけが、驚いたようにマリアを見ていた。
彼の視線に気づいたマリアは、年長者の老獪さで、彼が何かを口にするより早く、教え子達に話しかけた。
「とにかく、怪我がなくて良かったわ。立ち入り禁止にするのはちゃんと理由があるのだから、
これからは気をつけなさいね」
「はあい」
生徒達は神妙な顔で同意した。
一時的に周りの音量が下がったからなのか、遠くの声が聞こえる。
はじめは浮かれて羽目を外した花見客かと思ったが、どうも違うようだ。
低く近づいてくるどよめきに、龍麻は立ちあがって声の方を向いた。
「どうした? 可愛いお姉ちゃんでもいたか?」
京一を無視して龍麻は目を凝らす。
前方にある人だかりが、騒ぎの源のようだった。
人だかりは少しずつ移動してきていて、その向こう側に何かが居るようだ。
この場所からそれ以上は確認できず、靴を履いて直接見に行こうとする龍麻の耳に、悲鳴が弾けた。
飛びだした龍麻にやや遅れて京一達も続いた。
後退してくる人々をかき分けて、龍麻は前に進む。
やがて龍麻の前に現れたのは、一人のサラリーマンだった。
スーツの前ボタンを外し、ネクタイを緩めた姿は、今日この場にあっては珍しくはない。
彼の姿が一目で異常だと感じさせ、人々を騒がせていたのは、彼が右手に持つ、
一メートルほどの刃物の存在だった。
「おいおい、本物かよありゃ」
龍麻に追いついた京一が、彼の横に並んで、どこか面白そうに言う。
反対側には小蒔が、こちらは頭だけを出して呟いた。
「本物って……まさか、アン子が言ってた博物館から盗まれたってヤツ?」
「さァな……だが、日本刀なんてそんなポンポン落ちてるモンじゃねェだろ」
すると京一を押しのけて、さっそくカメラのシャッターを切りながらアン子がけしかけた。
「あんた、ちょっと行って聞いてきなさいよ。なんなら斬られてきたっていいわよ」
「馬鹿野郎ッ、あの目を見やがれ、話なんざ最初ッから通じねえに決まってるだろうがッ」
「何よ、その木刀は飾りなの?」
目を細めた京一は、しかしアン子の挑発に乗ったりはしなかった。
「ヘッ、言ってもわかんねェよ、お前にゃ」
京一らしくない達観に、さらにアン子が言い返そうとすると、野次馬達の方から叫び声が上がった。
親とはぐれてしまったのだろうか、二歳くらいの子供がふらふらと歩いている。
気づいた大人達が口々に叫ぶなか、子供はむしろ彼らから遠ざかるように、
すすんで日本刀を持った男の前に出て行ってしまった。
男を囲む輪から悲鳴があがるが、助けに行こうという者はいない。
全員が等しく呑んだ唾の音に、呼応するように男が子供に気づいた。
正気を失った目で子供を睨むと、狂気に感応した子供がたちまち泣き始める。
子供に近づいた男は、引きずっていた日本刀を両手で持ち直し、ゆっくりと頭上に掲げた。
これから繰り広げられる惨劇を哀れんでか、舞っていた桜の花片さえ沈黙する。
子供の泣き声は一層高まり、花見客達の中には早くも目を閉じる者もいた。
「まずいな、ありゃ……って、おいッ!」
京一の横から黒い塊が発射されたのは、彼が呻いたのと同時だった。
身を低くして飛びだした龍麻は、全速力で子供に近づくと、泣き叫ぶ子供を一気にすくい上げる。
その直後、日本刀が振り下ろされ、一際高い悲鳴が桜の木々を揺らした。
「あの野郎ッ……!」
木刀の包みを解きながら京一は飛びだした。
日本刀の男と龍麻の間に割って入り、油断なく木刀を構える。
子供を抱きかかえてそのまま群衆の輪まで走っていき、子供を預けた龍麻は、
一息もつかずに反転すると、日本刀の男に向かった。
子供の無事に沸き立った観衆は、注目を龍麻から日本刀の男へと戻す。
鈍色の刀の前には、茶色の木刀を構えた京一が立っていた。
「キシャアァァッッ!!」
子供を仕留め損なった苛立ちからか、日本刀の男は新たに現れた獲物に奇声を放つや否や斬りかかった。
上段、やや斜めから振り下ろされた日本刀を、木刀が迎え撃つ。
誰もが高校生を無謀だと思い、せっかく子供が助かったのに、無謀にも木刀で挑みかかった彼が、
真っ二つにされる光景を思って目を伏せた。
キン!
咲き誇る桜の中心で響いた、秋風のように澄んだ、
いささか場違いな音は、実は不自然だったのだが、
それに気づいた者は観衆の中にはいなかった。
おそるおそる顔を上げた彼らはただ、目の前で起こったはずの惨劇が、
ただの血の一滴すら流れていないことに、
思考力を失ったかのように目を丸くしている。
京一の友人達さえ、にわかには状況が把握できないでいるなかで、
ただ二人、当事者である京一と、
彼の後方にいる龍麻だけが京一の技を理解していた。
日本刀の男はまったく剣術を学んでおらず、
太刀筋はおろか日本刀の握り方さえ正しくなかったこと。
京一は使っている刀こそ木刀であるものの、
彼の剣術は日本刀を土台としたものであること。
そして、京一は氣に目醒めていたこと。
幾つかの要素が重なって、京一の木刀は日本刀を弾きかえしていたのだ。
大きく体勢を崩している男に再び構える隙を与えず、京一は攻勢に転じた。
「てやあァッッ!!」
裂帛の気合いと共に、木刀が打ちおろされる。
日本刀の男とは比較にならない疾さと正確さで繰りだされた剣撃は、
狙いを違えることなく男の右手首に命中した。
持ち手を痛打された男の手から日本刀が落ちる。
そこにもう一撃、京一が木刀を叩きこもうとした刹那、
戻ってきた龍麻が勢いを減じずに男の懐に飛びこんだ。
野次馬たちの中には、男の腹部に添えられた龍麻の手が光ったのを見た者もいたが、
激しい動きの最中だったので錯覚だと思った者がほとんどだった。
龍麻の氣による打撃を受けた男は、その場で腹から崩れ落ちる。
男が動かなくなってから三秒後、二人の高校生が勝利をおさめたと知った観衆は、
割れんばかりの拍手と歓声で二人をねぎらった。
二人のうち、木刀を携えた方の高校生は、あらゆる方向からの賛辞にひとつひとつ応じ、
特に女性に対しては実に愛想良く手を振ったりしている。
一方で先に飛びだした高校生の方は、
何度も頭を下げる子供の母親に軽く手を挙げて応じただけで、
さっさと仲間達のところに戻り、さらには仲間を連れて輪から抜けだし、去ってしまった。
木刀を携えた京一が、龍麻達のところに戻ってきたのは、三分ほどが過ぎてからだ。
「いやァ、善いことをすると気分がいいねェ」
「京一の場合はもてはやされたからじゃないッ、お調子者なんだから」
小蒔の嫌味にもまったく堪えない京一は、彼の武勲をアシストした男の隣にどっかり腰を下ろした。
木刀を小脇に抱いて紙コップを女達に差しだすさまは、中国の武侠小説に出てくる無頼漢のようだ。
真神新聞の売り上げ増間違いなしの特ダネを確保したアン子が、上機嫌で京一に注いだのは、
もちろんただのジュースだったが、京一はひと息に仰いで飲みほし、
酔っぱらったかのように龍麻の肩をなれなれしく抱いた。
「さすが、俺の相棒だけのことはあるってモンだ。けどよ、飛び出すんなら一言言ってけよな。
そうすりゃあ、もうちっとカッコいい見せ場が作れたのによ」
「そんな暇はなかった」
「そりゃまァ、そうだけどよ」
感情をどこかに置いてきたような冷静さで答える龍麻に、浮かれていた京一もやや鼻白んだが、
彼が顔をしかめたのはそれだけではなかった。
不意に刺すような臭気を感じたのだ。
京一が不審を口にしようとした矢先、小蒔が口を開いた。
「緋勇クン、怪我はないの?」
「大丈夫だろ」
小蒔にそっけなく答える龍麻の声が、徐々に小さくなる。
ふらふらと揺れる龍麻に、不審を抱いて背後に回りこんだ小蒔は、思わず叫び声をあげた。
「うわッ、ちょっとッ、血だらけだよッ!」
京一達も慌てて龍麻の背中を見ると、小蒔の言う通り、制服が斜めに大きく切り裂かれ、
そこから少なくない量の血が出ていた。
「そうか? 避けたつもりだったんだけどな」
「おいおい、のんきに答えてんじゃねェよ。氣じゃ治せねェのか?」
「手が届かない」
冗談で言ったのかと京一は思ったが、龍麻は真剣のようだ。
そもそも氣とは呼吸によって生成されるものであるから、
今の龍麻のように重傷を負っては氣を練ることも困難だった。
「じゃあ病院に」
「注射は好きじゃないな」
「ンなこと言ってる場合じゃねェだろがッ!!」
他人事のように語る龍麻の、顔がどんどん白くなっている。
こうなったら担いででも病院に連れていくしかないと考える京一の眼前で、ついに龍麻は倒れてしまった。
「ひ、緋勇クン……!?」
小蒔の呼びかけにも答えず、シートに滲んでいく血が怪我の深刻さを伝える。
「醍醐、緋勇を担げッ!! 病院に連れていくぞッ!!」
京一の指示に頷き、醍醐は龍麻を背負おうとする。
その彼を、葵が一歩進み出て制した。
「待って。……私が治すわ」
「葵……?」
一同が驚くなか、葵は龍麻の傍らにかがんで彼の傷口に手をかざす。
傷を治したいと強く念じていると、下腹部から強い熱を感じた。
球状に感じる熱は、葵の意志に応じて上昇し、肩から腕へと伝わっていく。
手の先端に到達した、と感じた直後、掌が熱くなり、何かのエネルギーが放出された。
昨日葵は、龍麻が葵自身を治療するところを見ていたが、彼の態度はともかく、
治療の後に疲れたようすは見せなかった。
しかし、葵は今、少なからぬ虚脱感を受けている。
龍麻を癒す前に、自分が倒れてしまわぬよう気を張らねばならなかった。
龍麻を治療することに、ためらいがなかったわけではない。
危うく純潔を散らされそうになった記憶もまだ生々しく残る葵は、
彼に死んで欲しいとまでは願わなくても、積極的に関わりたいとは思わなかった。
突如として身に宿すこととなった氣という怪しげな力も、使いたくはなかったけれども、
子供を助けようとする龍麻の行動は、葵の胸を強く打った。
同じ場に居合わせながら、怯えて声さえ上げられなかった自分と較べて、
誰の力も借りずに、日本刀の恐怖に竦むこともなく飛びだした龍麻の、何と勇敢なことか。
少なくとも、この傷は治す必要がある――そう決心し、葵は治療を始めたのだった。
「……」
葵の身体が淡く光っているのを、京一達は声もなく見ていた。
その輝きは昨日旧校舎で見たのと同じ輝きで、彼女が今使っている超常的な力が龍麻の説明通り、
旧校舎での出来事と密接に関係していると信じさせる。
それは、彼らにも間違いなく同種の力が宿ったのだという証明でもあった。
治療を開始して数分が過ぎた頃、龍麻の肩が動きはじめる。
呼吸が戻ってきたのは間違いなく、葵の『力』は龍麻を救ったのだった。
「う……ッ……」
身体を起こした龍麻は、葵を見て顔をしかめる。
だがそれは彼女に非があったからではなく、背中がつったからだった。
「治してくれたのか?」
「……ええ」
「そうか……助かったよ」
礼が返ってくると、葵は思っていなかったのかもしれない。
短く、武骨ではあっても素直な謝辞に、彼女は戸惑った顔をした。
そんな葵を黙って見ていた龍麻は、すぐに立ちあがった。
足どりに力強さはないが、ふらつきもしておらず、確かに回復したようだ。
これは葵の『力』が優れていることを意味していた。
「アナタ達……その力は……」
「あ、あのッ、これはね、せんせー」
マリアが険しい目をしているのは、全員で担いでいると疑っているのではないか。
そう思った小蒔は、慌てて事情を説明した。
「昨日、旧校舎に行ったら何か急に身体が光って、
緋勇クンが言うにはその時に氣が使えるようになったんじゃないかって」
「馬鹿、ペラペラ喋ってんじゃねェよ」
京一に肘でつつかれてようやく、余計なことを言ったと気がついた小蒔は、
慌てて両手で口を塞いだが、時既に遅かった。
だが、生徒会長まで立ち入り禁止の旧校舎に入っているという自白を聞いても、
教師であるマリアは咎めようとはしなかった。
「そう……信じられないけれど、実際に見てしまったら信じざるを得ないわね」
そう言ってマリアは、龍麻や葵の見せた『力』が、手品やトリックではないと納得した。
その態度は生徒達を信じる、堂々たる教師の姿ではあったものの、
いやにすんなりと納得したものだ、と疑問に思う者もいた。
龍麻はその一人だったが、これ以上事態をややこしくしても意味がないと考え、
マリアに何か言ったりはしなかった。
納得しなかったのはマリア以外にもう一人、この場にいて『力』を使えない遠野杏子だ。
「『力』って……あんた達、何よそれ。なんであたしにはないのよ」
「しッ、知らねェよ。お前は旧校舎には居なかっただろ、あん時」
「すぐ近くにいたじゃないッ!!」
まるで『力』を得られなかったのは京一が悪いとばかりにアン子は京一を難詰する。
これ以上詰め寄られてはかなわないと、京一は龍麻に話しかけた。
「それで、怪我の方はすっかりいいのかよ」
「ああ、痛みはないな。血が止まってるかどうか、見てくれないか」
龍麻が上着を脱ぐと、白いシャツは背中一面赤く染まっていた。
多量の血による臭気に京一は顔をしかめたが、新たな血は出ていないようだった。
「止まってるみてェだな。大したモンだな、美里の『力』は」
「ああ、本当に助かったよ」
葵は二人に褒められてもさほど嬉しくはなく、むしろ『力』などというものを
手に入れられなかったアン子が羨ましいくらいで、微妙な表情を保つのがやっとだった。
「キリが良い、というのもおかしいけれど、そろそろ帰りましょうか。緋勇クンは大変だったことだし」
マリアの常識的な提案に、一同は帰り支度を始めた。
大きく切り裂かれた制服を見て、龍麻は嘆いた。
「参ったな、また制服を買いに行かないといけない」
龍麻の台詞を聞いて、葵は内心でどきりとしたが、
彼は単純に転校してきた際のことを言っているらしかった。
「お、ならよ、短ランにしようぜ」
京一の提案をすかさず醍醐が一蹴した。
「こら京一、緋勇を悪の道に引きこんでどうする」
「短ランのどこが悪の道だってんだよッ! お前だって長ランじゃねェか」
「俺はサイズがないから仕方なくだ」
「外から見りゃ一緒じゃねェか、なぁマリア先生」
「え、そ、そうね……」
堂々と校則違反をしていると言われて、さすがのマリアも歯切れが悪い。
実のところ、彼ら以外にも桜井小蒔のスカートの丈も短いのをマリアは気にしていたのだが、
花見の席で指摘するのも野暮な気がして黙っていたのだ。
それにしても、とマリアは思う。
あの旧校舎には何かがあると思っていたが、まさかこのような秘密が隠されていたとは。
犬神杜人が知っていれば、もっと厳重に立ち入り禁止の措置を施しただろうから、
おそらくは彼でさえ知らないことだったのだろう。
都合の良いことに、旧校舎で『力』を授かった五人は全てマリアの受け持ちである。
監視するのはたやすく、男子生徒三人、中でも緋勇龍麻という転校生を中心に
動向を注視しておけば、何が起こっても対応できるだろう。
龍麻の背中――大きく斜めに切り裂かれた上着にさりげない視線を送る
マリアの眼光には、教え子に向けるそれとは異なった輝きが満ちていた。