「意外に歩きやすい……わね」
フェンリルの暮らす聖獣の森へ踏み入れて、しばらく。
ひんやりとした森の空気の中を全裸で歩きながら、あいも変わらず両の乳房の先端をその手で抑えたエクセリアは、そうぽつりと呟いた。
周りを見れば樹齢数百年か、それ以上は経過しているだろう巨木ばかり。
エクセリアとメアが二人して抱きついてなお、はるかに余るであろう幹の太さだ。
そんな木々が絡ませ合うようにして枝を伸ばし、陽光を遮っているからか、それとも別の理由か。
岩だらけの地面に下草の類はほとんど生えておらず、代わりにそのほとんどが分厚い緑の苔に包まれていて、上等な絨毯……とまではいかないにせよ、優しくエクセリアの裸足を受け止めてくれる。
歩くのが苦にならないのはありがたいことではあった。
ただ――
(さすがに
思っていたよりも歩きやすいとはいえ、道もない禁足地の中である。それに、少しずつではあるものの勾配もついてきた。
「まあ……誰もいないし…………よし」
辺りを見回して自分に言い聞かせるようにひとつ頷くと――両の手を乳房から外す。
瞬間、
――たぱん♡
と音を立てながら、最後の束縛からも解放された乳房がまろび落ち、彼女の細く引き締まった身体の
「んっ……去年から急に大きくなったけど、お母様に似たのかしら……」
自らの胸の肉を見下す。
肖像画でしか見たことがない母親――エクセリアを生んだあとに亡くなったと聞いている――の豊かな胸元をを思い出しながら、ふう、とため息を吐く。
エクセリアの顔よりも大きなそれは、
その中で若さと張りを表すようにツン♡と天を向くその
もしエクセリアが街の娼婦であれば瞬く間に売れっ子となれるであろう、男であれば誰しもがむしゃぶりつきたくなるような卑猥な造形だが――エクセリア自身は先立って
急に胸が大きくなったことで張って痛かったし。
重たい肉がついたことでそれまで身につけた動きにわずかなズレが生じて、訓練で苦労もした。
少し動けば激しく揺れて痛いし、乳房の下は蒸れて
服を着ていてもなお、若い騎士達の視線を集めてしまうのも、あまりいい気はしない。
それに――
(……いえ、考えてもしょうがないことだわ……集中しないと)
頭を振り、脳内に浮かんだしょうもない考えを頭から追い出す。
一人になるとこうして考え込んでしまうのは、昔からの悪いクセだ。
悩んだところでこの乳房が小さくなってくれるわけではなし。
まずは試練に集中しなくては――
「いきましょう」
一糸まとわぬ少女は、自由になった両手を使いながらも、森を進むペースを上げていく。
一歩ごとにゆさっ♡ ゆさっ♡と、その巨乳を重たげに揺らしながら。
………
……
…
ひんやりとした森の空気の中とはいえ、歩いていけばやがて体温も上がってくる。
陶器のように滑らかな肌を上気させ、その表面にわずかばかりに汗を浮かばせながら、苔ばかりの地面に注意を払いつつ一歩一歩着実に。
そうしてどこまで進んだかを測ろうと、ふと視線を上げたその瞬間のことである。
数歩先に――
「え?」
白銀の毛並みの
気配も予兆もなく、まさに突然現れたとしか言いようのないその出現に、エクセリアは戸惑いの声を上げた。
しかもそれは――
(狼……! しかも、なんて大きさなの……!?)
並の大きさの狼ではない。
エクセリアもこれまで何度か家畜を襲う森狼を狩ったことがあるが、その数倍はあろうかという体躯は彼女の愛馬と同じぐらいに大きい。
(これが――フェンリル?)
肉食獣の巨体が発する威圧感に、思わず後ずさりながら身構え――ようとして、その狼が敵意を見せていないことに気がついた。
その瞳にはただの狼にはない、知性の輝きがたしかに感じられる。
『――その銀髪、ペイズリア王家の人かイ?』
そんなエクセリアを見つめながら、狼が
「……! 喋った……!?」
エクセリアが驚く。
それも当然だろう。狼の口から発せられたのは――発音が少しいびつだが――流暢な大陸共通語であったのだから。
とはいえその驚きが
狼が少しかすれた、若い――幼さすら感じさせる少年の声で笑う。
『あはは、聖獣なんて呼ばれているんダ。人の言葉を喋るなんてワケないヨ』
「これは……失礼を」
その言葉に慌てて姿勢を正す。
考えてみれば人間と約定を交わすという聖獣だ。言葉を操れないほうが不自然である。
厳然たる裁定者であり、森を守る聖獣――事前に想像していたそんなイメージよりもいささか
エクセリアは改めて背筋を伸ばし右拳を胸に当て――巨大な乳房がぽよん♡と揺れた――騎士の礼をとった。
「私は……ガイウス・ラウル・ペイズリアが一子――エクセリアと申します。王族の試練を――受けにまいりました」
『エクセリア、ダね。僕の名はロヴォ。君らがフェンリルと呼ぶ、狼たちの王の末裔にして今代の森の主――二つ前の夏に父さんから役目を受け継いだ
「……はぁ」
フェンリル――ロヴォの言葉に戸惑い気味に――聖獣が代替わりするとは聞いていなかったので――頷くエクセリアに、フェンリルが再び笑う。
『安心しテ、父さんからペイズリア王家との約定については聞いてル。成人の儀――試練についてもネ。エクセリアが試練に合格すれば僕たちは対等な関係だ、畏まる必要はなイ』
「わかりまし――わかったわ、ロヴォ。早速なのだけれど……試練って何をすれば良いのかしら」
『そう、試練………………試練……試練、ネ』
「……?」
互いに自己紹介を終え、さてこれからどんな試練が……と内心で身構えるエクセリアであったが、なぜか巨狼はチラチラと横目に少女の身体を頭の先からつま先まで眺めるばかりで――ややあって深く息を吐き出した。
先ほどまでの闊達さとは打って変わって、逡巡すら感じさせるその仕草にエクセリアは首を傾げる。
そして待つことしばし――ロヴォが口を開いた。
『――じゃァ、その、エクセリアに、一つ頼みたいことが、あるんダ。僕の――
どこか戸惑ったように。あるいは恥じらうかのように言ったフェンリルが「おすわり」の姿勢になる。
その股間では
「……え?」
エクセリアの、本日二度目の戸惑いの声が、森の中に消えていった。