他人の空似を押し通そうとしていた円香が、身分を偽ろうとするのをやめた。現実逃避をしたいと口にする彼女へついていく野口。行先は、円香が一人暮らしする高円寺のマンションだった。
喧騒を背にして駅から遠ざかると、さらに気温が下がった気がした。雨は上がっていたが、アスファルトの湿り気が靴底を冷やす。
人通りの絶えた商店街のシャッターが、オレンジの街灯を鈍く反射していた。円香ちゃんは、そんな夜道を迷いなく歩いていく。
黒いパーカーのフードが、背中で揺れている。ミニスカートの裾が時折、風にあおられ、黒のタイツに覆われた長い脚が堂々と歩みを進めていく。
よそ行きの恰好ではないのだろう。アイドル樋口円香として見ると、飾り気のない服装だし、この気温では少々寒そうだ。だが、柔軟剤の香りに漂う生活感すらも、彼女を魅力的に見せていた。
握手会で向かい合った「雲の上の存在」が、隣を歩いている――現実感がまだなかった。夢であってほしい気持ちが、駅から離れるごとに積もっていく。
「けっこう、冷えるね。寒くないの?」
「このくらい平気です。もう五分ぐらいですし。――あぁ、そうだ」
コンビニの光を目にして、円香ちゃんが立ち止まった。雨に濡れた路面に、青と白のネオンが溶けている。ドアを開けて出てきた若い男が、湯気を立てる中華まんにその場でかぶりついていた。
「何か、
「大丈夫だよ」
ふ、と鼻で笑う音がした。質問の意図をつかみ損ねていたようだ。念押しするように、円香ちゃんが距離を詰めてきた。
「もしかして、常備してるんですか? 何とは言いませんが」
「え、っ……?」
「ここから先、コンビニもドラストもないんで。買うならここしかありません」
ダウナーな喋り方だが、冗談の香りがする。だが、彼女の目は笑っていなかった。試されている気がした。
「……いや、それは」
「ほら、おあつらえ向きにコンビニがありますよ。寄っていきましょう」
促されるまま、光に向かう彼女についていく。店内に入ると、衛生用品・日用品のコーナーに迷わず足を進めていく。
絆創膏、耳かき、マスク、制汗スプレー。僕にも馴染みのある物品に並んで、僕には馴染みのなかった物が陳列されている。黒のパッケージや、ピンクのパッケージ。何が違うのか、よく分からない。
「はい」
円香ちゃんはその中の一つを平然と手に取り、僕に委ねた。
「あ、えっと、これ……」
「ご安全に」
「あっ、はい……」
しどろもどろになる僕を見て、円香ちゃんがうっすらと口角を上げた。今までの話から、悟られてしまっているだろうか。僕には、女性経験がない。
彼女が僕を誘って何をするのかなんて、明言はされていない。そもそもどこに行くのかはっきりしていないし、もしかしたら僕を騙そうとしているかもしれない。
僕の隣にいるのは、あのノクチルの樋口円香なんだ。ファンの夢。ファンの理想。高嶺の花のそのまた向こうの存在だ。それが、四十歳のオッサンと一緒に一晩を過ごすだって? こんなことが誰かに知れ渡ったら、いったいどうなってしまうんだ。
それなのに僕は――栄養ドリンクの棚からまむしドリンクなんて拾い上げ、コンドームごと手に抱えてレジに向かった。
「……私は今、酔っています」
コンビニの駐車場で、唐突に円香ちゃんが口にした。
「行きずりの男性と、一晩の過ちを犯してしまう。記憶にございません、ひどく酔っていたので――そういう筋書きです」
円香ちゃんは、ウーロンハイ一杯の後はノンアルだった。ピッチャーの水を念入りに飲んで、何度かお手洗いにも立っていた。
「……お酒が便利って、そういうこと?」
「あなたにとっても、好都合でしょう?」
冷ややかでニヒルな眼光だった。街灯の明かりを受けて、瞳のピンクパープルが歓楽街のネオンサインを思わせる。
「取り繕わないんですね」
「何を?」
「直截な物言いで恐縮ですが――経験、ないですよね」
空気が止まった。コンビニの駐車場は、世界の隙間みたいに静かだ。遠くで車がエンジンを吹かす音だけが、妙に現実的に響いていた。
セックスの経験には、そこに至るまでの関係形成が付随する。
僕は異性と距離を縮められなかった出来損ないなのだ。
笑ってごまかすこともできた。
だけど、笑えばもっと惨めになる気がした。
いっそのこと、嘲笑された方がマシだった。
「……やっぱり、分かりますか」
「分かりますよ。挙動を見ていれば」
円香ちゃんが一歩、近づく。バニラのような甘い匂いがした。手に下げたレジ袋のビニールが微かに擦れる。
「経験のある人には、選択肢が生まれます。『この女をどうしようか』と、現実的な未来としてシナリオを立てるんです。それがちょっとした所作に表れ、綻びを見せないよう、余裕を見せつけます。でもあなたには、それがありません。ここまでずっと、私にリードを取られていますし」
「……観察眼が鋭いですね」
「職業柄、です」
彼女の声は淡々としていたが、そこに侮蔑の色はなかった。からかうでも、見下すでもない。ただ、確かに理解している人の声だった。
「最初から何もかもを経験している人なんていません」
「でも、四十にもなってだよ?」
「定年退職したおじいさんにも初めてはあります」
その言葉に、胸の奥がわずかに疼いた。
円香ちゃんが、こちらの反応を見透かすように視線を上げた。
「まぁ、ロマンチックなものじゃないですよ。レクチャーとかトレーニングとか、そんなご立派なラベルも貼れません」
「じゃあ、いったい……?」
「……一度きりの現実逃避です。──傷の舐めあいともいえますね」
言葉の選び方に、一瞬だけ間があった。言い慣れている風を装いながら、ほんの少しだけ呼吸が震えている。
ビニール袋の中から、黒いパッケージが僕を見上げた。駐車場から一台のバンが走り去っていくと、円香ちゃんの手がすっと伸びてきた。
「あ、え、ちょっと」
「この程度で動揺しない。これからあなたは、私の裸に触れるんですから」
対面で握手した手が、横並びに指を絡めてきた。昼間に触れたものよりも熱い手のひらが僕を暗がりの方へ引っ張っていく。
デコルテの上で踊るネックレス。
パーカーの隙間から覗くシャツの膨らみ。
スカートの襞が乗っかる丸いお尻。
美脚を覆うタイツの艶めかしい輝き。
僕はアイドルに向けてはならない目で、隣を歩く綺麗な女の子を見ていた。
それから先、円香ちゃんはマンションに辿り着くまで一言も喋らなかった。シチューが煮えるのを待つように、僕の、あるいは彼女の興奮が高まっていくのをじっくりと観察していた。
タイツの擦れる音を聞いていると、冷えた夜が熱帯夜になりそうだった。
* * * * *
駅から離れたオートロックのマンション。設備も比較的新しく、セキュリティ上のリスクはかなり低そうだった。エレベーターを昇って七階へ。弊社ビルの高層階にはさすがに及ばないけれど、東京の夜景を拝めるロケーションだ。
「……お邪魔します」
恐る恐る、靴を脱いで揃える。他人の家に上がることはそう珍しくもないが、それが異性の家となると話は別だ。
足の裏に伝わるフローリングの冷気が、緊張を増幅させる。スリッパは一人分しかないらしく、僕の分を差し出すと、円香ちゃんはぺたぺたと廊下を歩いて行った。
リビングに通された。公式プロフィールに「趣味や特技は別にない」と語られていた通りの、シンプルな部屋だった。学生が住むのに1LDKは広すぎるぐらいだが、芸能人の収入を考えれば特に不思議もない。
何もないというよりは、余計なものがない。本当に大事なものだけ、見える所に置いてある。そんな印象だった。リビングのソファーの向かいには浅倉透ちゃんのポスターが額に入れて飾ってある。フォトスタンドにはノクチルの四人がリラックスした様子で映っている。テレビ台の下にはCDがずらりと並んでいた。
「荷物は、とりあえずソファーの上にでも」
「きれいにしてるんだね」
「物を置いてないだけです」
円香ちゃんに促されて鞄を置き、ローテーブルにレジ袋をそっと乗せる。袋の中でコンドームの黒い箱が倒れ、部屋の静寂に水を差す。気まずさを覚えていると、彼女が視線を落とし、ほんの一瞬だけ口元を緩めた。嘲りでも気遣いでもない、単なる確認のような。
「……さて」
彼女も荷物を置き、一瞬だけ寝室の方に姿を消すと、すぐに戻ってきた。聞こえてきた電子音からするに、暖房を入れたのだろう。
「野口さん」
何をできるでもなくソファーに座っていると、隣に彼女が座った。文字通り、肩が触れ合う距離だ。息をしているだけで、濃密なシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐってくる。こんなに近い距離で顔を見上げられると、なんだか逃げ出したくなってしまうぐらいで。
「分かりますか。こういう時――どうやって始めるのか」
「い……一応、知識だけは」
「まぁ、そうですよね」
耳の裏を掻きながら、僕は目を逸らした。童貞に尋ねたってまともな答えが返ってくるわけがない。小さな悪態をつきたくなったけれど、円香ちゃんは僕の困惑に気づいているのかいないのか、蓋つきの缶を取り出した。
「メロンソーダとコーラ、どちらにします?」
脈絡のない質問だと思ったけれど、何か意味のある問いらしい。推しのアイドルが体温の感じられる距離にいて、僕はまだ混乱気味の頭で、メロンソーダと答える。缶の中から出てきたのは、二つのキャンディ。
「はい、あ~ん」
「んぇ……?」
クエスチョンマークを浮かべる僕の口に、ケミカルな甘みが広がっていく。メロンの名を冠していながら、ちっともメロンの甘さではない、あの緑色の液体が脳裏をよぎった。そんな僕の目の前で、円香ちゃんもキャンディを口に含む。
「まぁ、くさいのが好きって人もいるらしいですけど、少なくとも、私はそうじゃないです」
「な、なるほど……?」
臭い消し代わりの甘味で口臭を誤魔化す。どうやらそういうことらしい。何のためにそんなことを、と思っていると、円香ちゃんの手が僕の首に回ってきた。
「……っ……」
柔軟剤と、バニラと、飴の匂いが、混じり合って一気に濃くなった。唇に湿ったものが押し付けられたのに気づいたのは、その後で。頭を抱えられるようにして、身動きが取れない。彼女の冷えた手が、頬を撫でるように触れてくる。
円香ちゃんの唇は驚くほど柔らかくて、人の体であることにしばらく気づかなかった。冷えているかと思いきや、内側は意外なほど熱い。押しつけられた瞬間、頭の中に電撃が走り、体中の血液が沸騰したような錯覚に陥った。
「ん……」
彼女の手が僕の頭を支え、ゆっくりと離れると、透明な糸が名残惜しげに途切れる。
「……どうぞ」
短く息を継ぐと、今度は目を閉じて彼女が僕を待った。ふさふさした睫毛の下で、泣きボクロが僕を催促している。促されるままに、顔を押し付けてみた。そのまま、キャッチボールでもするように、静かなキスの応酬が続いた。
僕は頭の中で何度も確認した。
樋口円香とキスしている。
だけど、脳がエラーを起こしている。
これが現実の出来事だと認識できていない。
生々しい夢に足を取られているみたいだ。
微かに開いた唇の隙間から、メロンソーダの香りが流れてくる。同じフレーバーのはずなのに、彼女の吐息は僕の何倍も甘い。その香りに酔い痴れていると、ぬめったものが唇を掠めた。舌だ。驚き半分に開いた唇へ、ぬるりと入り込んでくる。
「……上手くやろうなんて、思わなくていいです。流れに任せて」
彼女の舌が、僕の舌を捉えた。溶けかけの飴が転がり込んできたと思えば、僕の口内から奪い取ろうとする。甘ったるい唾液が絡みあって、唇の間で糸を引く。僕の中で樋口円香がメロンソーダ味になっていく。
円香ちゃんの喉が鳴った。
僕も喉を鳴らす。
そうやって飴が溶け切るまでの間、初めてのキスに酔い痴れる。腕が勝手に彼女の体を抱き寄せて、ハグも交わしていた。腰のあたりに手を当てれば、しなやかさと硬さが共存している。背骨を撫でてあげれば、くすぐったそうに体が揺れる。
唇が離れる。近すぎて見えなかった顔が輪郭を取った。ほんのり頬は紅潮し、透き通る瞳は潤んでいた。僕の脳を透かすように覗き込んでいたけれど、その視線が手元に落ちた。膝に置いていた左手がそっと取られる。
「がっついてくるかも、と思ったんですが、大人しいですね」
「そりゃぁ、まぁ……」
行先のない手がぷらぷら揺らされる。
「ほら、どうぞ」
「さ……触ってもいいの?」
「――据え膳喰わぬは、男の恥」
低く湿った声が囁きかける。衝動が、頭の芯を炙っていく。二十代のような沸騰する興奮は起こらなかったけれど、柔らかい肌といい匂いに、自分がオスである事実を思い知らされる。全身に鳴り響く警鐘の中、タイツに覆われた脚に手のひらを重ねた。
「……なるほど」
「円香ちゃん、脚が綺麗だから」
「そうですか」
ぶっきらぼうな口調だったが、膝や腿を撫でまわす手を、彼女は振り払わなかった。許されているはずなのに、怖かった。それでも、伝わってくる体温は熱い。つるつるしたタイツの感触の裏から、弾力が指先を押し返してくる。
「NGあったら言うんで、お好きにどうぞ」
円香ちゃんが、ソファーに寄りかかって脱力した。その目は僕の挙動をじっと見ている。見守る温かさよりは、観察する無機質さがあった。
彼女から誘ってきて、この余裕だ。その時点で、アイドルについて回る処女性は幻想なのだと分かる。そこに幻滅はしなかった。
目の前にいるこの子は、現実の存在だ。匂いがあって、体温があって、味もした。手触りだってさらさらして柔らかくて気持ちいい。スレンダーな体型の割に太腿は意外とむっちりしているし、スカート越しに撫でたお尻はボリュームがあった。
役目を果たせず終わるはずだった愚息も、かつてないほどに張り詰めている。でも、その興奮の内側には空洞が広がっている。欲望が満たされていくはずなのに、どこか空しい。その空しさのことを考えたくなくて、初めて触れる女体に意識を向けた。
「ん……っ」
短く息を漏らし、円香ちゃんが口元を隠した。耳が赤く染まっていく。内腿を撫でまわしていると、彼女の呼吸が少しずつその間隔を狭めていく。それでも、咎められない。いつNGが出されるのか、気が気でなかった。許されて嬉しい以上に、失敗を恐れている。
「脚だけで、いいんですか」
「あ、えっと」
「――いえ、余計な一言でした」
促されて気づいた。黒いパーカーに隠れた上半身へ、手を伸ばす。呆れたような溜息が小さく漏れてきた。おそらく、僕ではなく、催促してしまった彼女自身に。厚手の裾を捲り上げようとすると、彼女が身じろぎした。
「あー……予防線、張っておきます。脱がして楽しい体はしてないんで」
「写真集は持ってるよ」
「……毎度」
また溜息。心なしか、肘が縮こまっている。だけど、ちゃんと腕を上げて協力してくれた。肌の匂いが濃くなった。薄手のシャツもめくれあがって、可愛らしい臍がちらりと顔を覗かせる。
目立って大きなバストでないことは、公開されているスリーサイズからも知っている。でも、寄せればクッキリ谷間ができる大きさではあるし、今だって白いシャツの表面に影はできている。
服の上から触るかどうか迷った挙句、ボタンに指をかけた。下から順に、一つひとつ。すっきりしたお腹には微かに腹筋の起伏がある。僕が思っていたよりも、アイドルは遥かにアスリートだ。彼女のウエストは「細い」というよりも、引き締まっていた。
そしてボタンを首元まで外し終えて、襟を開く。双丘が寄せられて、谷間を作っている。水着グラビアで見た大胆さは、遥か彼方にあったものだったと知る。立ち上る肌の匂いには生々しい温度があった。
「…………」
困った。男性には縁のないアイテムを前に、手が宙を泳ぐ。肌の白さを際立たせる黒いブラジャーのどこに手をつければいいのか。前にそれらしき機構がないと分かれば、背中だ。抱き締めるように手を回すと、円香ちゃんの顔が鼻先数センチまで近づいてくる。視界いっぱいに彼女の美貌が広がった。睫毛の長さが分かってしまう距離だ。
手探りで金具を探り当てたはいいものの、ほどけない。悪戦苦闘していると、今度こそ僕に向けて、呆れた溜息がつかれた。
「ステイ」
「ご、ごめん」
「上下じゃないです。左右にずらせば外せます」
言われた通りにしたら、あっさり金具が外れた。張っていた肩紐が緩み、下からカップをめくりあげる。アイドルの水着の下――思わず喉が鳴った。
目に焼き付く柔らかさだった。淡雪の乳白色は綺麗な半球状に膨らんでいて、膨らみの頂点には春が息づいている。
「……観賞用じゃありませんよ」
険しい目つきで促された。堂々としているように見えるが、さすがに恥ずかしそうだ。呼吸に合わせて上下するバストに手のひらをあてがい、下から包んだ。見た目以上に重く、手首にずしっと来る。軽く揺すってみると、膨らみが波打った。その振動を楽しんでいると、脇腹を肘で小突かれた。
「テンポ、大事に」
「……はい」
言葉のトーンは淡々としている。円香ちゃん自身はほとんど動いていないけれど、僕を観察し、モタつきや行きすぎがないかを監視している。僕の方が体が大きくて上になっていても、リードを握っているのは彼女だった。
ふにふにした膨らみに、指を沈める。不思議な感触だった。壊れないプリンという形容を聞いたことがあるけれど、まさにそれだ。底なしに柔らかいのに弾力もちゃんとある。僕の頭が、知的好奇心と興奮でいっぱいになっていく。
「――んっ……♡」
1オクターブ高い声。それが目の前の女の子から出てきたと気付くのに、数秒かかった。僕の指は、先端の蕾に掛かっていた。
指先でそっと撫でると、肩がぴくっと揺れる。乳輪の縁をなぞりながら指紋を擦りつけると、「あ」と吐息に混ざって声が漏れた。耳にかかる色っぽい吐息に、喉が干上がりそうになった。
「ふっ……ふぅ……」
小指の爪程度のスポットは、相当敏感なようだ。声を誤魔化す湿った吐息が、静まり返ったリビングに満ちていく。掌で乳房を包みながら、指先は先端へ。削ぎ落されていく理性で、痛くならないように力を抑える。
「っ…………!」
彼女の顔が歪んだ。眉根を寄せて、一瞬睨みつけてきたように見えたが、すぐに平静を取り繕う。でも、小さいながらも確かな反応が返ってくる。
指先に当たる弾力がコリコリと硬くなり始めたころ、円香ちゃんの両手が僕の手首をつかんだ。
「もう……そこは、おしまいっ」
「痛かった……?」
おそるおそる尋ねると、それはきっぱり否定された。
「シャワー、先に浴びてきます。続きはその後で」
首筋までほんのりピンクに染めて、円香ちゃんがソファーを立った。気分を害したわけではないらしいのは、何となく分かる。浴室に向かっていく内股の彼女を見送りながら、僕は飲み忘れていたまむしドリンクに手を伸ばした。
5.に続きます。5.の濡れ場は円香視点での展開となります。