あの男から受けた仕打ちへの復讐として、半ば無造作にファンの中からターゲットを絞った相手だったが、居酒屋での会話が、円香から毒気を抜いていた。
被害ぶった加害者にならず、踏みとどまれた。小さく安堵する円香は、「アイドルでもない、一人の女」として、自分自身を赦してあげるために、シャワールームを後にする。
シャワーの温度はいつもと同じなのに、やけに体が熱かった。特に、脚の間が火照っている。顔しか知らなかったおじさん相手にこうも「その気」になるなんて思っていなくて、水音を貫いて自分の鼓動が聞こえてくる。
どす黒いことを考えていた。
言語化すると「男への復讐」みたいな。
自分の傷を「男」って属性に転嫁して、行きずりの男性をターゲットにしていた。それも、(多少の下心はあるものと考えても)握手会に何度も来てくれる人を。
女性慣れしていないのはすぐに分かった。目に宿った卑屈さも。私を見つめる眼差しの中にどこか諦観があって、自分のやっていることに疑いを持っている。そんな相手を、憂さ晴らしの対象にしようとしていた。
「推しに媚びる情けないおじさん」だと見下していた。演出された虚構に酔い、アイドルという肩書に惹かれているだけだと思っていた。でも、遊び半分に聞き役に徹してみると、私のやろうとしていることの虚しさを改めて突きつけられた気がした。
被害者ぶった加害者になる前に、踏みとどまれた。
トラウマの上書きをすることにならなくてよかった。
野口さんにとっても、私にとっても。
私はもしかしたら「肩書きを脱いだ自分」を求めてもらいたかったのかもしれない。誰かの理想じゃなくて、誰かの現実になりたかったのかもしれない。居酒屋で感じた視線は、私のニーズに合っていた。彼を誘うという行動自体は計画通りだったけれど、その動機は変質していた。
幻滅すればいい。
そう思っていたけれど、今は。
幻滅させたくない――そう思う。
お湯を浴びる前から濡れていた。
許した肌には確かに快感が走った。
声なんて出すつもりはなかったのに。
シャワーを理由に中断していなければ、あのままなし崩し的にペースを握られてしまっただろう。それも悪くなかったかも、なんて思っている自分もいる。
揶揄って、上から見下して、初体験を台無しにするつもりだった。でも今は、もう少し
「……ふぅ」
お湯を止めた。
野口さんのシャワーが終わるまで、もう少し顔をちゃんと作っておこうかな。――せっかく、見てもらえるのだから。
* * * * *
今、ふと思い返す。
あの人が抱いていたのは、事務所の商品だった。
それを私は、見抜けずにいた。
いや、都合のいいように受け止めて、「私個人を見てくれている」なんて、滑稽な勘違いを起こしていたんだ。あぁ――バカだったな、私。
シャワーから戻ってきたばかりのこの人とは、一期一会になるだろう。推しのアイドルと同衾なんてしたら、きっといろんなことが変わってしまう。握手会には二度と来てくれなくなりそうだし、推し変だってされるだろう。
私は大炎上の火種を今まさに放っている最中だけど……それはいい。責められるべきは彼じゃない。何かあったら、私一人が燃えればいい。ノクチルがカルテットからトリオになったって。遠因は、下半身のだらしないあのミスタープレイボーイだけど。……ボーイはさすがに若すぎるか。
「四十歳って、どうなんですか?」
「どうって」
「大事な1ラウンドにするべきかな、と」
「ドーピングしたから、大丈夫だと思うよ……多分」
「コンビニで売られるような濃度だと、プラシーボ効果の方が大きそうですが」
ベッドで隣に腰を下ろした彼が苦笑した。緊張が顔に出ているけれど、怖がられてはいないようだ。おじさんの見た目にはちょっと似合わない、私と同じボディソープの匂いに、不思議な落ち着きを覚える。
「
「もう……だいぶ、なってる……」
「……ふぅん」
彼の太腿に手のひらを這わせた。前屈みになって隠しているつもりかもしれないけれど、股間が突っ張っているのはお見通しだ。まぁ、おっぱいまで触らせたんだから、その気になっていてくれないと流石に困る。
「拝見します」
「切符じゃないんだから」
「似たようなものです。初乗車するんですから」
スラックスのファスナーが引っ掛かる。この奥を覗きたい欲求がむくむくと膨らんでいく。
考えてみれば、人生で他人の『秘密』を覗き見るのはこれで二人目だ。頭の中で比較対象が思い浮かぶけれど、今はどっか行っててください、ミスター下半身。
「……そんなに恥ずかしがらなくても」
「それは、無茶だよ」
「立派じゃないですか。――あくまでも主観ですが」
窮屈だっただろう。定規をあてがいたくなる長さだ。これが標準サイズなのかそれ以上なのか、正直な所よく分からない。でも感じたままに「大きいですね」と褒めてあげる。
この人の性欲でパンパンに膨らんだおちんちん。ナカに迎える瞬間を思い描くと、内股が震えた。これがどうか、「女全般」でなく、「アイドルの樋口円香」でもなく「ただの私」に向けられたものでありますように、なんて虫のいいことを思ってしまう。
「5秒以内に答えてください。談笑しながら手でしてもらうか、特等席で見下ろしながら口でしてもらうか」
「えっ、え!?」
「――5」
「くっ、口……!?」
「ナイス即断」
ふっ、と笑いが零れた。野口さんも照れ笑いを浮かべた。合意成立だ。
「まぁ――期待はしないでください。こういうのはアマチュアなんで」
予防線を張りながら、亀頭と向かい合う。
臭くない。丁寧に洗ってくれたみたいだ。
スマイルを差し上げよう。
「痛かったら右手を、イきそうになったら左手を上げてください。オーケー?」
「お……オーケー」
歯を立てないようにゆっくり咥えてあげると、情けない声が頭上から聞こえた。口の中に独特の塩味が広がっていく。
どこの誰が、ペニスを口に含むなんて考えついたんだろう。男がやらせようと思ったのか、女がやろうとしたのか、どちらにしても、クレイジーだ。
「あっ……ん……ま、円香ちゃんが、こんな……」
そうですよ。あの樋口円香だってこんなことをするんです。ガッカリするでしょうか。それも仕方ありませんが、どうか朝までは我慢してほしいです。――丁寧にやりますんで。
彼の手を取って、頭に導いた。髪が乱れるから、頭を撫でられるのは好きじゃない。でも、そうさせてあげた方が喜んでもらえると思った。
上目遣いで様子を窺っていると、切なそうな顔が私を見下ろす。支配欲を否定したがっている――そんな表情だ。
裏筋を舌でぐりぐり圧迫すると、しょっぱい先走りがどばっと出てきて、彼が仰け反った。気持ちいいんだ。ポジティブなフィードバックに感謝します。
私一人が使うベッドルームに、男の人の喘ぎ声と、荒い吐息と、じゅぽじゅぽしゃぶる音が響き合う。下品な音だけど、こういう気分の時は悪くない。お臍の下がきゅんきゅん疼いて、私もどんどんその気になっていく。
くびれた部分に唇を当てて吸い上げると、びくんと竿が震える。舌に垂れてくる塩味はどんどん濃くなっていく。野口さんの左手がぴくぴくしていた。
頬を軽く窄めて、粘膜をぴったり張り付かせて、頭を前後に揺する。その間も、じーっと彼を観察する。気持ちよさそうにしているのを見ると、胸の内がくすぐったくなる。あぁ、こんな気分になるから、女の人は口でしてあげるんだな、きっと。
精液のまずさは身をもって知っているけれど、あのまずさがだんだん待ち遠しくなってくる。期待がペースを早めていく。
「ま、待って円香ちゃん。もう出ちゃうから、ストップ……!」
スッ、と左手が上がる。
私は指でバッテンを作った。
すみません、聞き分けの悪い子で。
「ダメだってば……!」
びくっ、びくっ、とおちんちんが脈動し始めた。私は根元を指で押さえながら、覚悟を決める。一滴も無駄にしたくない。全てを搾り出して、飲み干してしまいたい。肝心なことはこの後にまだ控えているけれど――あのドリンクに頑張ってもらうしかない。
「~~~~~~~っ!」
喉の奥まで迎え入れたタイミングで、弾けた。生ぬるいドロドロが流れ込んでくる。えづきそうになるのを堪えて、頭を沈める。噴き出してくる精液を逆に吸い上げると、凄い声がした。
「ゴメン、円香ちゃん! 大丈夫!?」
「…………」
ごくん、ごくん。
私は無言でサムズアップした。
最悪な後味が広がるけれど、いい気分だ。
お口でイかせてあげられた。
「……ゴチになります」
「いやぁ……な、なんというか――あっ」
コメントに困った様子の彼を差し置き、こびりついた白濁液を舐めとってあげた。裏筋の皺とか、お臍側の見えない所も。すぐにしんなりしてしまうかと思ったけれど、意外や意外。おちんちんはファイティングポーズを取ったまま。
「まだいけそうじゃないですか」
解放したおちんちんに、唾液の橋がつつっと伸びる。
この熱が冷める前に、先に進もう。
それとも、私が早く先に進みたいのかな。
「さて……さっきの続きですよ」
バスローブの結び目を、彼に向けた。ここを解けば、すぐに裸だ。このふわふわを剥ぎ取ってしまえば、生まれたままの姿になる。彼の手が結び目に触れた瞬間、生唾を飲み込む音がした。
「…………」
バスローブはすとんと落ちた。部屋の空気が素肌を撫で回す。ベッドランプの明かりが、私の裸を照らし出している。
「……綺麗だね」
「そういうの、いいんで……」
彼の目が体に釘付けなのは、都合が良かった。おっぱいやアソコを見られてよくたって、照れている顔はさすがにダメだ。
見られている。
裸を観察されている。
さっきは上半身の一部だけだったけど、今は全部。
「……観賞用じゃありませんってば」
「わっ、分かってるよ」
大きな手のひらが迫ってきた。不安が全くないといえば嘘になるけれど、期待が勝っていた。視線を浴びながら素肌を撫で回されて、ぞくぞくする。私は手を後ろに回し、無抵抗をアピールして身を委ねた。
熱い手だった。その熱い手が、おっぱいを揉み、お臍の周りをくすぐって、曲線の具合を確かめるように脇腹を撫でていく。やっぱりこの人は脚フェチのきらいがあるらしく、太腿はちょっとしつこく触られた。そのせいでアソコに意識が行ってしまい、脚へのタッチにばかり反応しがちだった。かと思えば、指先で乳首をこねこねしてきたり。
「っ……♡ うぅ……き――」
きもちいい。
そう口にしかけて、慌てて唇を噛んだ。
なんでだろう。バスローブと一緒に、いろんなものを脱ぎ捨てたからだろうか。難しいことなんて何も考えずに、ただおさわりされているだけで、全身が熱くなっていく。股間の疼きがいよいよたまらなくなってきて、反射的に彼の右手を掴んでいた。
「そろそろ、メインディッシュを」
息が上がっているのが、自分でも分かった。こんなところ、見せたくないのに。でも、今はいい。それよりも、早く先に進みたい。余裕たっぷりに導いてみせるつもりだったのに、私の方が余裕を失いつつあった。これ以上ペッティングされていたら、こっちから求めてしまいそうだったから――せめて、リードは握っていたい。
「あ、爪とか大丈夫ですよね。……うん、よし」
手入れはちゃんとしてあるようだった。それを確かめて、彼の手を股に導いていく。
「うわっ……!」
嬉しさ混じりの悲鳴が上がった。
驚いただろうか。私も驚いている。
こんなぐしょぐしょに濡らしたのは初めてかもしれない。
「もう準備は大丈夫だと思うんで、軽く、位置確認するぐらいで……」
ぬるっぬるっと指先が割れ目を滑っていく。そのたびに、ビリビリしたものが上ってくる。
穴の位置を教えてあげると、何度か入口を押してきた後に、指を入れてきた。第一関節が埋まっただけで、腰が浮きそうになる。
「なんか、狭そうだけど、本当に大丈夫なのかな……?」
「大丈夫じゃなかったら、大変ですよ」
軽口を装ってみせるけれど、装えていないかも。声が震えていた。指じゃ足りない。もっと長いのが欲しい。それこそ、そこで頭を振っているぐらい大きいのが。ちらちらと彼の顔を窺っていて、気付いた。女の本能に突き動かされている。
「さて、スタンバイしましょうか」
「うん、そうだね。えっと……」
説明書き、よし。
指さし確認、よし。
二人で確認しながら安全装置は装着完了。
さぁ、
ごろんと仰向けになり、彼の手に膝を託した。横に開かれると、アソコがにちゃっと糸を引いた気がする。早く入れたくて、つい身が捩れてしまう。
「あ、先に言っておきますね。お分かりとは思いますが、そんなに声は出すタイプじゃないです。演技も特にしませんけど、痛かったらちゃんと言います」
「うん、分かった」
「……そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。ここまでは合格点です」
こちらがやる気になっていたせいもあるけれど、乱暴にされなかったのは高評価。やっぱり歳が離れている分、気遣いが勝っていたのかな。まぁ、私の目論見があったとはいえ、女から誘わせた時点でスタンディングオベーションだ。
「じゃあ……」
「ええ、どうぞ」
彼が前屈みになった。
私の入口に、熱くて硬いモノが触れる。
位置取りは完璧だ。
目線で促すと、ゆっくり重みがかかってくる。
「ん……っ――」
ぐちゅり、と音がした気がする。
男の人が肉を掻きわけて入ってくる。
咄嗟に腰を引こうとしたけれど、体はむしろ勝手に彼を迎えに行っていた。
「うっ、狭い……本当にここで合ってる……?」
「大丈夫です、そのままで。も、勿体ぶらないで……!」
今、何を口走ったんだろう。それを考える前に、一番太いところがずるんと滑り落ちてきた。
内臓を押し上げられる感触に背筋がびりびり痺れる。深く吐いた息には、知らない女の声が混じっていた。
「っ……ふ~……」
「は、入った……?」
「そのようですね。ご卒業、おめでとう、ございます」
上擦った声のトーンを慌てて下げる。
入れられただけなのに、軽くイッてしまった。
推しのアイドルを組み敷く彼は、複雑そうに私を見下ろしていた。それもそうだと思う。立場とか、年齢差とか、いろいろあるから。20歳も離れた子におちんちんを膨らませた彼は、ロリコンになってしまうんだろうか。そこは弁護したい。誘ったのは私だから。
「……さぁ、動いてみましょうか。上手くやれなかったら、上下を交代しますんで」
彼が頷いた。ナカの異物がびくんと跳ねる。
なんだ。四十歳って元気じゃないですか。
セックスが始まった。入っていたものが外に出ていこうとする。被せたゴムの表面はテカテカだった。自分がどれだけ濡らしていたかを見せつけられるようで、耳が火照る。太いものがまたずぶずぶ入ってきて、甘い痺れが腰に広がっていく。
「っ……ふっ……」
入口の裏側。
膣の天井。
奥深く。
どこに当たっているかが、妙によく分かる。
いま入ってきたとか、奥を探ってるとか、そういうのが。
「ま、円香ちゃん。痛くない……?」
「平気です。ちゃんと気持ちいいんで、そのまま……」
一往復、二往復、三往復。
だんだん腰遣いがこなれていく。
私のナカをじっくり味わうように、ゆっくりと、でも大胆に。奥を圧迫してから、狭くなった膣をゴリゴリ抉って、また肉を割り開いて押し込んでくる。
お尻の方から、ねちょねちょと卑猥な水音が立っている。鳴らしているのは向こうだけど、濡らしているのは私の方。抜き差しされるたびに視界がチカチカして、シーツからお尻が浮き上がってしまう。
「ん……♡ んっ……♡ はぅ……♡」
「円香ちゃん、演技しないって、さっき」
「演技なんて、してません……。そんなの、興覚め、なんで、っ」
「でも、声をそんなに出して」
「
やばい。やばい。
なんてことだ。
墓穴を掘ってしまった。
演技なんてしない?
声なんて出さない?
それ何てフラグ?
「本気で感じてます。おちんちんを出し入れされて、気持ちいい声を我慢できません」って、つまびらかにアピールしているようなもの。
バカバカバカ。
恥ずかしすぎる。
訂正しないと。
でも、どうやって?
そんなことより、気持ちいい。
抜けていくのも、押し込まれるのも。
穴が勝手に締まって、起伏を味わってしまう。
なんでだろう。腰を振る彼を見ながら考える。
いや――考えられていない。
自分のアソコで立つ水音に、思考を中断させられる。
「はっ……♡ はぁっ、あっ……♡」
ちょっと、分かったかも。
心も体も、丸裸なんだ。
アイドルだからとか、そういうの何も考えずに、ただの樋口円香になる。いろんなものを手放して、身軽になって。しがらみのない時間が、私の快感神経を剥き出しにしている。だからこんな、行きずりの男の人との筆おろしセックスで、声をあげてしまうんだ。
別に、上手だとは思わない。イイ所には当たるけど、そこばっかり責めてくるわけでもない。でも、ツボを外された摩擦も全部が私の脳を焼く。
気にしなくていいか。
考えるのを止めよう。
今だけは、この瞬間だけは。
ただ気持ちいいことに浸ろう。
あぁ、楽だ。
でも、その解放感はちょっと怖い。
怖いけど、まぁいいか――
「円香ちゃん、気持ちいいの?」
「……そうですね。童貞の割に、落ち着いてて、んっ♡ なかなか、筋がいいんじゃ、ないでしょうか、っ」
彼がぶるっと腰を震わせた。
何かを堪えるように、歯を食いしばっている。
「……ごめん、も、もうイきそうで。円香ちゃんが、気持ちよさそうな顔をしてるから」
「あ~……そんな顔、してます?」
下からだとうっすらしか見えないけれど。
だらしない顔になった私が、彼の瞳に映りこんでいた。
あーあ。
取り繕うのは諦めよう。
「まぁ、その……ご一緒しますか? 私も、もうすぐなんで……」
「うん、じゃあ……」
律動が再開した。さっきよりも荒っぽい。犬みたいに息を吐きながら、彼が大きく腰を降り出した。快感が一気に膨れ上がる。私も腰を浮かせて、両脚を絡めつけた。
ぱんぱんと、肌を叩く音が弾ける。はしたない声をあげているのはどう考えても自分だけど、もういい。聞きたいなら聞けばいい。
「っっ♡ い、くっ……♡♡」
かろうじてそう絞り出した瞬間、膣奥をどすんと突かれた。頭の中が真っ白になって、目蓋の裏でばちばち火花が散る。このままどこかに飛んでいってしまいそうで、腰に巻きつけた足に力を込める。
彼もイッていた。太くて硬い肉が収縮して、どろっとしたものを吐きだしている。ドクドクと脈動して、ナカが押し広げられる。お互いの隙間を埋めるようにゴムが膨らんで、私たちは一つになった。
「うっ……く……」
「ふふっ……汗、かいてますね」
自分のことを棚に上げて、彼の顎を拭った。口の中に精液の味が残っていなければ、キスでもしてあげたいところだけど。
「いかがでしたか? 初体験は」
ぽかんと口を開けたままの彼に尋ねる。
「なんだか……夢みたいで……」
「そうですね。夢です。目が覚めたら、なかったことになる
お互い、確認を取らずとも分かっているはず。夜が明けたら、私たちは他人同士に戻る。今だって他人同士だけど、見知らぬ人レベルの――それこそ、会うという距離感になるのは握手会ぐらいのものになるだろう。
これからもイベントには来てくれるだろうか。そう聞きたい心理がなかったわけではないけれど、それは野暮というものだ。
外したコンドームの口をまとめていると、私のナカを堪能したお
(やるじゃん、まむしドリンク)
やられっぱなしで、恥ずかしいところをたくさん見られてしまった。
目には目を、歯には歯を。
コーランだって同等程度の報復は認めている。
やり返さない理由はない。
「……ということで、はい、今度はそっちが寝てください」
「えっ、僕が……?」
「私がお手本をお見せしますので」
口答えはさせない。
さっさとゴムを被せて、私が馬乗りになった。
腰を沈めた瞬間の野口さんの顔は、それはもう、見ものだった。
エピローグに続きます。