唯一無二の親友だった幼馴染が実は女で何かもうぐちゃぐちゃだ 作:山崎世界
寮に戻ってゆっくりしている時、俺は話題に困ったように切り出した。
「なあしのぶ。お前、そもそも何で男装して過ごしてるんだ?」
分かりあっていると思っていて実は何一つとして分かっていなかった幼馴染。
俺はそのことについて知りたいと思う。何の気なしに聞いているようで、実は何度も聞きそびれていたこと。今だって少し声が震えているのが分かるくらいだ。
しのぶは顎に手を添えて考え込んでいる。踏み込んだ話題だが、そこに触れてきたことに不満、は見受けられない。
「別にここで話してもいいんだけど……」
「けど?」
「気分が乗らないかな」
がくっと肩を落とす。
やはり話す気はなかったんだろうか、と落胆する。ついでに、そこまで信頼は無かったんだろうか、とも。
「ねえゆーと、週末の休みって空いてる?」
「ん? いや、バイトとか探しに外に出ようと思ってるんだけど」
実家から離れて、学費くらいは出してもらってるし寮でも朝・夕で飯は出るけどそれ以外は自分で稼ぐ。そういう条件で実家から出て行った。
「そう、ならちょうどいいかな」
落ち込んだ俺の顔を覗き込んでイタズラでも思いついたように、続ける。
「ここら辺の案内がてら、デートしようよ。そこで話もする」
※※※
デート。ってたしかにしのぶは言った。
『それじゃ、駅前で待っててね』
『一緒に出ればいいだろ?』
『『女の子』には色々と準備があるんだよ。これは、『デート』だからね』
幼いころ一緒に出掛けたのとはわけが違う。と、しのぶは念押ししてきた。
いまだ気持ちの整理もつかないまま、俺は初デートに臨んでいる。
「だーれだ」
後ろから目隠しされる。細くてしなやかな指。その声。間違えるはずもない、しのぶのものだ。
「はい正解」
しのぶは手を離して、そうして俺は後ろを振り返り……言葉を失う。
「あはは、どうかな? 似合うかな?」
そこにいたのは紛れもなく美少女だった。
白いブラウスにスカート姿。そのすらりとしながら女らしい曲線を描いた姿、胸のふくらみも腰のくびれも隠すことなく露わにしている。
顔にはうっすらと化粧をして、肩口まで伸ばした髪はウィッグだろう。付け焼刃のように不自然でなく、自分に合ったメイクを施しているのがよくわかる。
「それじゃ行こうか、ゆーと」
ウィンクしながら茶目っ気たっぷりに腕を取る。
確かにしのぶの顔そのものなのに、受ける印象は本当にまるで別人のようだった。
呆然として、見返すとしのぶの手に大き目の紙袋を持っているのが見える。どこかのブティックのものだろうか。こうして持っていても買い物帰りか何かに見える。
「ああ、これ? うん。まあさすがにこの格好のまま男子寮から出て来るわけにはいかないからね。途中で着替えたんだ。で、帰るときにはまた着替えるつもり」
当たり前のように言う。
多分、いや間違いなくと言っていい。こいつはこうしていつも、俺に気づかれないところでこうして振舞ってた。俺はそれに気づいてなかったんだと思い知らされる。
こうして少しずつ、こいつのことを、見ていなかった部分に触れたい。
「持つよ」
「……そう? ありがとう」
少しずっしりとした紙袋を俺が荷物持ちをして、デートは始まった。
※※※
「ここが男物の服とか売ってるとこだね。普段使いの服はここで買うといいよ」
駅前から移動して、色々歩いて回る。
「ここはスーパーだね。そういえばここでアルバイトを募集してたと思うから、一度面接に行ってみるといいんじゃないかな」
「そっか、なるほど」
そして一通り見て回って、少し疲れたので通りの喫茶店に入り、二人席に案内される。
「ああ、|わたし(・・・)は、イチゴのショートケーキのセットを。ゆーとはどうする?」
しのぶの雰囲気はいつもより柔らかい、というか女性そのものだった。
「……あーそうだな。じゃあ、モンブランで」
お冷でのどを潤しながら、しのぶの様子を窺う。
「さて、それじゃあどこから話し始めたものかな」
カラン、と氷の転がる音が響いて、喉をごくりと鳴らす。
「……どうにも、わたしはお爺さまが小さいころに死に別れた弟さんに似ていたらしいんだよ」
初めからそうであったわけではないが、どうにもしのぶのおじいさんは……言っては何だが段々とボケてきて、しのぶを亡くなった弟さんと混同するようになっていったらしい。
そこで、しのぶがおじいさんと会うときは男の格好をするように親戚中から頼まれたのだとか。しのぶのおじいさんは多少わけがわからなくなってはいても人格者で、幼いしのぶに手を上げるどころかむしろ弟さんに注ぐことのできなかった愛情を注ぐようにしのぶのことを大層可愛がってくれたという。
けれど、それでも人と付き合うのだ。心労がないわけはなかった。
「実はね。ゆーとと初めて会った時、あれね。それがイヤになって家出した時だったんだよ」
しのぶは元々、ごくごく一般的な女の子で、男の子と混じって遊ぶとかそういうタイプでもなかったらしい。
それでも男の振りをして、話を合わせるようにして……。それで後先考えずに逃げ出したくなった。
『ううん、ちがう。ぼくはきっとここから離れられない。けど、いやになることばっかりだ』
それがあの時のしのぶ。
「ぁ……」
俺は、そんなことも知らなかった。そんなことも知らずに、俺はしのぶに、しのぶの周りと同じようなことを強要したっていうのか。
親友のはずなのに、なんて……なんという思い上がりか。
「まあそういうわけでね。親戚には借りというか、負い目を作ってるから、色々と自由は利くんだ。限度はあるけどね。この街を離れられないとか。でも、幸いにしてうちの学園はもう引退したらしいんだけどうちのお爺さまが理事長をしていて、そのあたりのコネは利く。だから、頼み込んだんだ。わたしを、学園に入れてほしいって。
ま、お爺さまも学園の卒業生で、制服姿の写真とかそういうのを喜んでくれているみたいだけど。弟さんが一緒にいれば、一緒に過ごしてたんだろうなって、ね。だから、実家としても是非にって話ではあったんだ。だからおまけで色々と優遇してもらっちゃったけどね。ゆーとと一緒の部屋にしてほしい、とか」
「何で……」
「何でって……ゆーとが一緒に学園に行こうって言うから」
何で……そんな些細な約束なんて守ろうとしたんだよ。
「なぁ……」
「ん? 何?」
「髪、さ。伸ばしたいのか?」
「……ゆーとは、伸ばしてるほうが好き? なら、卒業したら伸ばしてみようかな」
しのぶは運ばれてきたケーキとコーヒーを笑顔で愉しみながらにこりと微笑んだ。
何言ってるんだ。俺のことなんてどうでもいいんだよ。
今こうして、女の子の格好して、それが素のお前じゃないのか。本来あるべきお前の姿なんじゃないのか。
俺の前でくらい無理すんなよって。ああそうだ。そう言ってやるべきなのに。そう言ってやらなければならなかったのに。俺はどれだけ……。どれだけこいつを傷つけて来たんだろう。
『……ぼくはね、ゆーとのこと友達だと思ったことなんて、一度もなかったよ』
そんなこと、当たり前のことだったんだ。
「ゆーと、食べないの?」
俺の目の前に差し出されたモンブランをじっと見つめる。
「食べたいなら食べろよ」
「……いや、さすがに二個まるごとはね。カロリーとか色々とね」
「そうか。そういうもんか」
じゃあどうすればいいのかな? どうすれば、こいつを幸せにできるのかな。せめて、解き放ってやれるのかな。
「はいゆーと、あーん」
自分の分のショートケーキをフォークで差し出す。
「んむ」
「ん」
面白そうに微笑む。
「んー」
今度はねだるように口を開ける。俺は自分の分のモンブランを差し出す。
少しでも喜んでくれればいいのか、と手探りながら。苦いコーヒーで無理矢理飲み込んだ。
※※※
喫茶店を出て、行きたいところがあると言われて電車に揺られる。どこまで行くのか、しのぶが手を引いて連れていく。
「ぁ……」
目的地。そこに辿り着いて、ようやく思い至る。
ここは……
「うん。そう。わたしたちが初めて会った場所だよ」
その公園はひどく寂れていて、遊具の錆びが目に入り、年月の経過を感じさせる。
「懐かしいとか、少しは感動してくれてもいいと思うんだけどな」
しのぶはスカート姿にもかかわらず、ジャングルジムをよじ登っていく。
「あ、いや……」
俺は慌てて後を追いかける。
「……ふーん……女の子扱いしてくれるんだね」
頂上で落ちないように腰に手を回して支えると、甘えるように身体を預けてくる。
「……ごめん」
「何で謝るの?」
可笑しそうにしのぶは笑う。今さら過ぎるのかもしれない。でも、謝って、ここから始めたい。
「俺、しのぶに無理させてた。しのぶのこと、追い詰めてしかいなかった。そうだよな。こんなんで、友達とか何言ってんだって話だったよ。俺、おれ……」
「ストップ」
人差し指で唇を抑えられて、言葉を止められた。
「何か勘違いしてないかな? ゆーとは」
「勘違いって……何だよ。俺は、お前に……恨まれても仕方ないこと」
「恨んだりしてないけど? 別に。まあ、恨めしくはあるけどね。大体、憎い相手を愛せるほど器用でもないし」
「……」
ますます分からない。俺は、お前のこと、お前の周りみたいに追い込んで。それなのに親友を自称してた最低だ。
「……ゆーとの罪悪感につけこんでもいいかなーってちょっと迷ったけど。でも、その勘違いは修正しておかないとダメだね」
「勘違い……?」
「これだけは勘違いしてほしくない。ゆーとは、ゆーとはいつでも、わたしを支えていてくれたよ。ゆーとがわたしに友情を感じてくれていたみたいに、わたしはゆーとのことが、女の子としてずっとずっと好きだったの。ゆーとがいたから、わたしは女の子でいられたの」
「意味が分からねえよ、そんなの……」
「そうかな? そうだね。ずっと騙してたわたしのこと、信じられないかもしれないけど。でも、形が違うとしてもわたしたちの間に絆あったって思うんなら、信じてほしいよ」
それは……卑怯だろう。そんなこと言われたら、俺は信じるしかない。すがるしかない。
「何で、俺なんて好きになったんだよ」
「……んー、そうだね。例えば、辛いなって思った時に、拒絶したりせずに話を聞いてくれたり……抱きしめてくれたり。恋に落ちる瞬間って言うのであれば、それは数えきれないくらいあるよ。ゆーとにとっては些細だったり、当たり前だったりすることでも。でもそれは全部核心じゃなくて……ゆーとだから、としか言いようがないかな」
それは今の俺の想いの形にも似ている。でも、それが違うのか、最初から、俺もこいつに恋をしていただけなのか。よく分からない。
「でも、お前だって、今日みたいに、女の子としてのびのびしていたいって思うんじゃないのか? そのウィッグだって、服装だって」
「これは変装用だよ。だって、いつもの姿でイチャイチャしてたらあらぬ疑いがかかるじゃない? こうしておけば誰にだってわたしのこと気づかれないしね。別に好みとは違うよ。ゆーとの好みかどうかだけが重要。それが、わたしにとっての、女の子らしさってこと」
「……女の子らしさ?」
「表面上は確かに男の子の振りをしていたけど、でも心の中ではずっとゆーとに恋する女の子だった。だから、女の子としての自分を、ゆーとに預けたままでいられた。恋って、そう言うものなんだと思う」
「わかんないよ……やっぱり」
「そうかもね。これは、女の子にしか分からないのかもしれないし……あるいは、他の誰にも分からない、わたしだけの想いなのかもしれない」
「……そっか」
「気持ち悪い?」
「そんなわけあるか」
分からない。むしろ思いの丈を聞けば聞くほどに、倉科しのぶという女の子が分からなくなっていく。
でも……俺の存在が本当にこの目の前の女の子の支えになれていたのなら、それを受け入れたい。
俺はしのぶを強く抱きしめた。
「……ん」
しのぶの頬から涙が流れていた。
「ねえ、ゆーと。少しずつ、少しずつ。ゆーとの思い出の中の|ぼく(・・)を、女の子にして」
※※※
ドーム型の遊具の中。一応、身を隠すようにくっつきながら肌を合わせる。
俺はジャケットを脱いで、しのぶをその上に促すように押し倒す。
「ほら、俺のジャケットの上に乗れって。女の子の服、って結構デリケートなんだろ」
「使い道なんてないし、洗った後にタンスの肥やしになるだけだから、別にいいんだけどね……でも女の子扱いは嬉しいからお言葉に甘えようかな……ん、ふぅ……」
キスをしながら、しのぶの身体に手を這わす。ブラウスからポツポツとボタンを外すと、どこか硬い感触が触れる。
「これ……」
「ああ、うん。ブラジャー。いつもはする機会はないけどね……えへへ、勝負下着、だよ。どうかな」
下着越しの整えられた胸を楽しんで、背中に手を回してホックを開ける。
「ん、ふぅ……んちゅ、ゆーと、すき……」
胸を揉みながらキスをして、どんどんと思い出が上書きされていく。
もしも最初から、俺がしのぶに一目惚れして、しのぶが俺の前でだけ女の子になって、そうなってたらどうなってただろう。
「ゆーと、来て……」
しおらしく、いつものような襲うような強引さではなくはにかむような可憐な魅力で、恥ずかしがるように誘う。
「ぁ、あん! ふん、んん!」
狭くて腰を上手く動かせず、深く突き刺したままゆっくりと腰を動かす。
「ん、ふふ、こうしたら、気持ちいいかな?」
ぎゅっと膣内が締まる感触。少し緩んだと思ったらまた奥から徐々に締め付けが強くなる。
「ん、ゆーと……ゆーと……!」
腰を掴んで持ち上げて、前後というよりも上下に串刺しにするように挿入する。
酸素が少し薄いように、息苦しくなる。
「はぁ、はぁ……膣奥に、出して、忘れる。忘れさせてやる。全部、もう」
「うん! 思いっきり! 全部、叩きつけて!」
そのまま膣内に射精し、頭の中が快感で弾ける。
「……ゆーと……」
キスはケーキの甘い残り香がした。
「だいすき」
甘くて柔らかい女の子の記憶。
それが思い出に、加わった。