1月○日
そこらに転がる死体の様な顔持ちの、小汚い格好をした人々が行き交う都市の裏路地にて、真っ白なサイドテールを垂らす少年が震えながら立っていた。
何も混じらない綺麗な黒のスーツ、そして汚れ一つ無く柔らかに揺れる純白の外套。例え学が無いネズミだとしても、それが高級なものである事は容易にわかるだろう。
しかし彼の立ち姿は、その服装とは些かながらもミスマッチだと言えた。
行き交う人々と比べると低い背丈、閉じた瞼の底から憂を馴染ませながらも幼さを残す容貌、外套との継ぎ目が見えないと錯覚する程に柔らかで繊細な肌。
ただの可愛げがある少年にしか見えぬ第一印象だけでは、彼が高級な服に値する強さを持っているとは思えない。
しかし、彼が誰かに襲われる事は無かった。
それは何よりも両手で構えている錠前付きの大剣と、一切の不純無き外套こそが理由だ。
彼の名はヤン・ヴィスモク、大剣と外套が示すは人差し指の伝令。即ち裏路地を支配する組織の一員である事だ。
そんな彼が今こうして震えている理由は、新年を迎えて一際寒さを増した空気…では無く、その手に持つ一枚の紙にあった。
赤い印と命令文が特徴的なその紙は"指令"。
文字通り人差し指に属する者が遂行すべき内容が載った紙であり、彼をはじめとした伝令によって届けられるもの。
時に残酷が過ぎる"指令"はかつてのヤンに酷い悪夢と希死念慮を植え付けたのと同時に、今や伝令となった彼に押し潰すような罪悪感を与えるものだが、それでも伝令であるヤンが届けるべき物である。
指令を届けた先に待つのは、かつての地獄を想起させる最悪の現実と何も変えられない無力感。
だから心を何度も何度も壊す悪夢を見るのだとしても、彼は現実から目を瞑り続け、目の閃光と悪夢だけで視界の全てを満たす様に努めていた。
だが珍しい事に、今回の指令に限っては無視できない程の衝撃を受けてしまったようだ。
これまで届けてきた指令の中でも特段奇妙なものでありながら、同時に彼にも関係する指令でもあったが故に、彼はその不可解な指令の意味を考えずにはいられない。
「…………」
周囲の雑踏の音が一際大きく聞こえ、世界に一人取り残された様な寒さが外套の中から湧き出る。
指令の意味を問う事など元より無意味だと、誰に問うたとて何も解決しない事は分かっていた。
だからこそ思わず助けを求めたくなる様な内容を前にした時より、彼は寒さを伴う孤独を感じ始めていた。
だが、どれだけ不可解であろうとも指令には逆らう事はできない。
結局のところ、彼はこの指令を届けることしかできなかった。
腑分けされた死体と血の池を隠す様に雪が降り積もる裏路地の一角にて、強さを増す北風が二つの外套を揺らしている。
一つは小さく、純粋な清潔さを保っているヤン伝令のもの。
そしてもう一つは彼よりも二回りは大きく、何処か血と鉄の匂いを漂わせるものだ。
吹き出す蒸気と共に、大きな外套の主はゆっくりと死体の山から向き直り、機械的な赤い目を彼へと向けた。
「あっ、ヤーン!!丁度いいところだね!」
「ついさっき、こっちの代行が終わったんだよ〜…このタイミングの良さも指令のお陰なのかな〜?」
「…グローリアさん。新しい指令…です」
「ん〜?ヤン、何か元気ないねぇ〜…お腹でも空いてるの?」
「まぁ、取り敢えず指令を〜………」
振り返った外套の中にあったのは白銀色の巨大な義体、その中から厳しい見た目に合わぬ元気な女児の如き声が飛び出してきた。
築き上げた惨状の山を背にしても、あっけらかんとした挨拶をする彼女はグローリア、人差し指の代行者だ。
義体とは思えない程の陽気さを見せる彼女に対し、ヤンの言葉は何処かぎこちなく歯切れが悪い。
そんな彼を気にしながらも、代行者として指令の確認を最優先したが、彼女もまたそれを見ては…
[グローリアへ。
今年の○日にヤン伝令を苦しめながら性的な快楽を与える(殺害の必要は無い)]
「…わぁ〜…」
その不可解にも程がある内容に、目の前の少年と同じく硬直してしまった。
いつもの様に指令は唐突で、その内容を予測する事など降り行く雪の積もる先を予測する様な行為である。
例え今日が○日で、何の準備が出来ないにしても、彼女らは指令を遂行するしか無い。
だから彼らは互いに何を言うまでもなく、日が沈み始めても雪を溶かさんばかりの光熱に溢れた地区へと足を運んで行った。
広々とした部屋に置かれたダブルベッド、空間全体を支配する妖しげなピンクの照明、小机の中にしまわれたローション。
空間拡張技術の賜物で隣部屋からの喘ぎ声が聞こえずとも、如何なる用途で使用されるか一目で分かるような部屋で、ヤンとグローリアが磨りガラス越しに話し合っている。
「この
「ヤンもそう思わない〜?」
「は…はい」
「指令って、本当に不思議だよね〜?」
磨りガラスの向こう側にいるのは、シャワーを浴びているヤン。
文字通りの滅菌加工を終えたグローリアがこれ以上の洗浄を行う必要は無く、暇を持て余したからか彼女は先からずっと話し続けている。
(グローリアさんも、こういう事知っていたんだ)
(…いや、そんな事どうでもいいじゃないか。早く終わらせよう…)
シャワーの音が混ざろうとも気にせずに話し続ける彼女に急かされるかのように、彼は体を洗う手を早め、早々にバスローブを羽織って浴室を出た。
「やっと終わったんだね〜」
「おぉ〜!!ヤンのこんな姿は初めて見るよ〜!」
「あ、あの…恥ずかしいので余り見ないでください…」
風呂から出たばかりで羞恥の熱をも帯びた彼の姿は、いつもとは一味違う印象を与えるものだった。
いつもの立派な黒スーツや外套は無く、その身に纏うのは柔らかい素材の白バスローブ…それは大人びた青年としての雰囲気を作らず、寧ろ彼自身の可愛らしい少年性と滲み出る様な妖艶を曝け出しているのだ。
普段は滅多に露出せずとも今だけはローブの隙間から漏れ出ている、純粋な絹とさえ称せる程に艶やかな柔肌、そんな柔肌に包まれているだけでなく健康的な肉付きでスラリとした手足は、美少年の枠に収まらぬ程の美しさに照り輝いている。
微かに湿った髪が纏められることなく、真白な細指でサラリと垂れ流されている様など彼自身にその気がなくとも容易に劣情を抱かせるものだ。
「じゃあ、始めよっか〜」
「お、お願いします…」
だが、あくまでも指令の上の行動であるのだから、今のところ彼女達の中に特別な感覚が湧く事は無い。いつもと変わらぬ笑顔を浮かべたグローリアは、半ば機械的にヤンをベッドへと寝かせた。
「これは私に来た指令だから〜ヤンはリラックスするだけで良いよ〜」
ベッド一杯に広がったヤンの髪に興奮する事もなく、彼女はゆっくりとバスローブを脱がせて行く。
まず初めに露わになったのは上半身。そこもまた彼の四肢に違わぬ絹のような柔肌に覆われているが、二つだけ違うところがあった。
「わぁ〜、ヤンのここ可愛いねぇ〜」
「…あっ…ぅぅ…」
「柔らかくてぇ…それでも少ぉしコリコリしていてぇ…本当に、可愛いねぇ〜」
それは彼の薄い胸板の頂点に位置する二つの薄桜色、即ちヤンの乳首である。
そして例え相手が厳しい義体であろうとも、グローリアの声はまるで溌剌とした女児であり、文字通り目を瞑ればその囁きは官能的で何処か背徳的だ。
瞼の中の暗闇で感じるそんな囁きに加え、誰にも触られる事なかった両峰が冷たい鉄の指でフニフニと押し込まれる感覚に、彼は顔が熱くなっていくのを抑える事が出来ない。
「…っ、も、う…やめて…ください」
「ん〜、でも気持ちよくなるなら前戯が大事だからね〜」
「ぜ、んぎ…?」
「そうそう〜…だから、もう少し我慢してね〜」
変わらぬ陽気さでヤンの乳首を弄る彼女に反して、味わった事がない感覚に襲われている彼は落ち着いてなどいられない。
暖炉の側で座り込むような暖かさとも、家族と幸せな食事をする様な暖かさとも、違う暖かさを今の彼は感じていた。
ジリジリと体の芯を焼くようで、一度欲すれば二度と歯止めが効かなくなる様な暖かさ…本来ならば知り得ていたはずのそれを、歪んだ思春期故に知り得なかった彼は唯々受け入れるしかないのだ。
「…んん…?…!」
「あぁ〜、ヤンのここ大っきくなってきたねぇ〜」
(え…何、で…?)
「そろそろかな〜?こっちも脱ごっかぁ〜」
そうして悶えていた彼であったが、いつしかその暖かさは下半身へと流れて、十分に暖かかったはずの部屋の空気が冷たく感じる程の熱に変わって行く。
そして彼がグローリアの声に釣られて見やれば、いつしかそこにはバスローブを押し上げる山があった。
更なる困惑と混乱に襲われる彼だが、彼女は待ってくれない。二本の腕で乳首を弄りながら、残った一本で器用にバスローブの下も脱がせ始め…
「お〜準備万端だね〜」
「…ッ!!あ、あの…恥ずか「でも、こうしないと終わらないよ〜?余り抵抗しないでね〜」
ローブという名の天井を失ったソレが、ピンと上を向いて反り勃った。露わになったのは、微かに生える薄銀色の下生えに、ツルツルしていながらもふっくらと膨らんだふぐり、そして…陰茎と言うよりはちんちんと呼ぶ方が適切だと言える様な彼の竿。
肌が地続きになっているかの様な白さは、正しく彼の性に対する無関心と純潔さを証明しており、それでも精一杯に勃つ様は背伸びをする少年の様で、青臭い性を表現している芸術品のそれである。
「ちょ〜っと、待ってねぇ〜」
「グローリア、さん。一体何を…?」
ちんちんを出されながらも、しかしそれが直ぐにしごかれる事はなかった。
僅かな期待を裏切られて何処か切ない顔をし始めたヤンを横目に、彼女が懐から出したのは特徴的なUの大文字が目立つボトル。
それの蓋を開けて中の液体を鉄の手に掛け、しばらく馴染ませると彼女はゆっくりと彼のちんちんへとその手を這わせた。
「…ひっ…!あ、あれ…?」
(…冷た…冷たく無くなった?)
人間的な暖かさを失った筈の彼女の手。部屋の空気さえ冷たく感じる筈の彼のちんちんには特段冷たく思える筈だったが、寧ろ彼女の手は心地よい暖かさで包み込んでいる。
「驚いた〜?これね〜U社の義体用ローションなんだ〜」
「これを使うと、義体でも人肌みたいになるんだよ〜」
「…よし、いくよ〜?」
異なる物質をまるで同一の物質であるかの様に繋げるU社の特異点、それは活用次第で鉄と肉の感覚的な融合でさえも可能にした。
故に今現在のグローリアの無機質な手は、ヤンの熱を帯びたちんちんと限りなく近い肉感と温度を再現しているのだ。
やがて完全に馴染み切った時、彼女はその手をゆっくりと上下に動かし始めた。
ぐじゅ、ぐじゅ、ぐじゅ
「…ぅ…っ…?」
「ん〜あんまり気持ちよく無いのかな〜?」
ぐじゅっ、ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ…
「え…と、すみません」
ローションを伴った腕部による機械的な上下運動が何度も繰り返されるが、しかし彼のちんちんは完全に勃起しないままだ。
上下に動かすペースを速めようとも、乳首から僅かに伝わる快感こそが勃たせ続けているだけでは、射精へと至るまでに大分かかるだろう。
そんな進展のない手淫が続き、段々と元々感じていた快感さえ薄まってきて…
「あぁ〜!!!そうだった!!」
「ゔぅっ!!?」
瞬間ヤンの気道が絞められ、無機質な冷たさが彼の喉へと与えられた。
グローリアが彼の首に手をかけて絞め始めたのだ。
その力は容赦なく、可憐な花の茎の様な彼の細首は力強い金属製の手によって圧迫されている。
「そういえば苦しめないといけなかったね〜」
ぐじゅ、ぐじゅ、ぐじゅ
「…か ぁっ…!」
「っ…!!!っ…!!!」
指令通りの行動である筈なのに、突如訪れた命の危機に対して彼は反射的に抵抗を始め…しかし、その細腕で必死に彼女の手を引き剥がそうと試みようとも、圧倒的な義体の力にはどうしようもできなかった。
脳は視界の明滅という形で酸欠を訴え始める。
必死に食いしばっていた力は抜け始める。
頭に霧がかかったかのような朦朧感が彼を支配し始める。
やがて綿の山に体を埋めるかの様な浮遊感までも感じ、暴れていた腕と足は無気力にベッドへと放り出されたが…却って、その様な命の危機は、彼の本能的な欲求を存分に引き出す事となったようだ。
(くるしいくるしいくるしいきもちいいくるしいきもちいい…!?)
「あ〜!しっかり大きくなってる〜!!」
「指令が言ってた事って、こういう事だったんだね〜」
命の危機に瀕しているからだろうか、この行為が本能的欲求の源泉を掘り起こしたからだろうか。
彼のちんちんは萎えるどころか寧ろ先よりも更に勃起して爆発しそうであり、その顔に帯びた羞恥の熱は色欲の熱となり表情を蕩けさせ始めた。
それは苦しみと同時に、凄まじい性的快楽を感じている証拠だ。
ぐじゅぐじゅっ、ぐじゅぐじゅぐじゅっ、ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ…
「も〜ちょっとだね〜…ヤン〜がんばれがんばれ〜」
指令を完璧に遂行するには今しかない。蒸気を上げて腕部の機能を更に上げた彼女は、正しくピストンの様な手淫を始める。
「…んんっ…っ…!!っ!!!」
「もうちょっと、もうちょっとだよ!頑張れ、ヤン〜!!」
ぐじゅっ!!
「…!!…っあ?……」
最後に鳴った一際大きな水音、それを機に膨張し切った彼の関門は破られた。
最初は僅かな白濁液が漏れるだけだったが、しかしそれは唯の予兆。
首を締めていた手が離されて新鮮な酸素が頭に回った瞬間…
「…ああっ!?な、なんっ、でぇっ!!?あっあっ、あ…ああああっ!!」
「わぁ〜ヤン凄い気持ちよさそうだね〜」
彼の膨張し切って先走りに塗れたソコから、大量の精液が放出された。
そして噴水を想起させる様な精の迸りとは真逆に、これまで堰き止められていた快楽が頭へと押し寄せる。
今や彼の視界は真っ白な光に満ちており、思考は快楽一色に染まり始めていた。
瞼の裏に植え付けられた悪夢も、差し込む様な最悪の現実も、全ての思考は膨大な快楽によって焼き切られてしまったのだ。
「いやぁ!!いやっい、い"っ…!?…あ"あ"あ"ぁぁっ!!!」
だから嫌がる様に顔を振って髪を乱れさせても、無心に毛布を強く握りしめても、これ以上ない程に足をピンと伸ばしても、遠ざけるかの様に体を限界まで反らしても…決して目の前の景色が白一色から変わる事は無かった。
普段は静かで無表情を貫くヤンが、今や吸ったばかりの酸素の全てと共に嬌声をあげながら乱れている。
当然のことながら、快楽にも限度はある。
しかし快楽の波が最高潮を過ぎても、蕩け切った顔と理性が直ぐに固まる事はない。
結局のところ彼が体を制御するだけの理性を取り戻す事ができたのは、そのちんちんが精を吐き出し切ってピクリとも動かなくなった時だった。
やがて嬌声が喉の奥に収まった時、またもやボンヤリとしてきた頭に酸素を送らんと彼は寝台の上で必死に息を吸い始める。
だが、先からずっと変わらぬ様子のグローリアは待ってくれなかった。
「……ぁっ!…はぁ、はぁ…げほっ、げほっ!!」
「お疲れ様〜急に首締めちゃってごめんね、ヤン〜」
「それで…どうだった〜?苦しかった〜?気持ちよかった〜?」
乱れ髪と瑞々しい汗を脱がされたバスローブに垂らし、荒い息をしながらその顔を興奮の余波で紅潮させている彼はこれ以上ない程に淫猥なのに、彼女がそれを気にする事はない。
大した間をおかずに放たれた彼女の言葉はヤンの快楽を喜ぶものでは無く、指令を完遂したかどうかの確認だ。
「…もう、もう十分です…十分、ですから。これ、以上は…」
「そっか〜それなら良かった〜」
「………良かったですね」
ヤンの頭に浮かぶのは先まで頭に流れ続けた感情の暴流、そしてずっと変わることが無いグローリアのあっけらかんとした話し方。
そんな彼女の不変に何か思うところが無いわけでは無かったが…ともかく彼は一秒でも早くこの事を忘れる為に、忌々しい部屋から出る準備を始めた。
汗、ローション、そして精液…すっかり穢れ切って官能的な香りを漂わせる体をこれでもかとシャワーで流し、伝令としての制服を着込み、元通りになった彼はドアノブに手をかけ…
「あっ、そうだ〜」
「…何ですか、これで終わりですよ」
そのまま苛立ちを込めてドアを開けようとしたところを、グローリアが呼び止める。
ドアへ向けられる筈の苛立ちが彼女への返答に乗せられていたが、しかしそれを気にする事も無く彼女は言葉を続けた。
「この指令なんだけどさ〜」
「今年の○日ってあるでしょ〜?」
彼の中で嫌な予感がし始める。
あえて目を逸らし続けていた最悪がその言葉の奥にあるのだと、彼は直感的に理解した。
「今年のってことは〜…」
「来月…というより、毎月やるよね〜?」
「これからよろしくね、ヤン〜」
その言葉を言い終えると、ヤンの体液で汚れた部分を拭き終わった彼女は彼を置いて部屋を出て行った。
一早く出たかった筈なのに、しかし彼は未だにこの部屋に残っている。
「え………」
「…………」
「………………うそだろ…」
やがて彼が彼女の言葉と指令を理解し、そして逃れられない最悪に絶望しながら部屋を出た時、都市の夜空には眩いネオンの星が輝いていた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。