目の前には半裸で腕を縛られた女。目元に少しだけ皴、そして重力に負けつつある胸。
「これを、…解きなさい」
睨みながら上位者として命令をするその姿は、芦川桔梗、つい先日その性癖を開放して一種の奴隷になった芦川白雪の母親だ。
ここに至るまでには少しだけ過程がある。それを今一度思い出す。
「お母様の都合つましたよ」
ガラガラと窓を開け放ちながら背に向けられた言葉。凛と決めた作戦の目的、その獲物。今同じ空間にいる芦川白雪の母親だ。官報そのた広報の資料を見ても相当にお偉いさんで、遺伝情報の管理官庁の人物として相当の位置にいる
「ああ、ありがとうございます。雪さん。それでいつ頃になりますか?」
「それが、本来の予定のキャンセルということでしたので来週の土曜です」
振りかえった返答に、少し困ったように眉をひそめながらの応え。先程までの行為ゆえに脱いでいた服のボタンを再び留めている。
「それは、…随分と時間がないですね。出来るだけ算段を詰めていきましょう、雪さんのお母さんを、芦川桔梗を落とす作戦を」
「ええ、そうですね」
自身の母親を狩るという密談だというのに嫌厭の意はない。それどころかむしろ望んで楽しんでいるような声だ。
それもそうだろう。あれから何度も彼女の、芦川白雪の身体を心を苛め抜いた。その一日毎何なら1時間1分毎でさえ花開くように、墜落していくように変化していく彼女は立派にマゾヒストとして完成した。そして毎日のように身体を重ねてきた。それはもう完全なる調教とも言っていい。もはや少しばかり俺が触れるだけでその股をしとどに濡らし、脚を拡げて誘いを始めるだろう。
そしてその彼女が俺に向ける視線は熱に浮かされ、そして信仰すら見えるようだ。どこか真直ぐで同時に混濁さえも。
だからこそ芦川桔梗を落としこちらの手の物とするのは彼女にとって、俺がそうすると決めた以上は当然の事象になる。
「ではまず、場所について。これはもう動きません。雪さんとお母様の自宅。そうですよね?」
「ええ。当日は家で相談という約束にしています
「なら問題はその後、ですね。確実性を重視したいので少し桔梗さんが眠っている時間が欲しいのですが、それも大丈夫そうですか?」
「もちろんです。昔から寝つきの悪い時の為にいくつか睡眠導入剤は置いてあります。これを少し昼食に混ぜるので、簡単ですよ」
「ありがとうございます。そこはお願いします。俺の方は昼食までにはマンションについておきます。眠りに入ったら連絡をください。ああ、もちろん平文ではなくて少しぼかしてください。適当に本の感想でも良いです」
「わかりました。本なら…そうですね、水奈瀬君は文学部ですからちょうどいいような本も選んでくれませんか?」
「それは少し、難題ですね…。時間があまりない以上は長編で固いものよりは短編でいくつか見ておきます。それなら本当に読むにしても間に合うでしょう」
ふふ、と笑う声。どうやら本気で読書も楽しむ算段らしい。
いや、むしろそういった徹底ぶりが成功の鍵なのかも知れない。細部に隙なく仕上げるとはこういうことを重ねることなのかも。
「それで、実際に眠らせた後で俺が部屋に入ります。その時に服を脱がして腕を縛るつもりです。意識の無い人間の服を脱がすのはやったことが無いので少々不安ですが、少し手伝ってもらえると助かります」
「わかりました。縛るのは何か用意しておきますか?」
「いえ、特に新しく用意するほどではないです。家にテープや、タコ糸、そういったものはあります? さすがにロープやワイヤーはないでしょうし」
「タコ糸くらいなら。たまに料理で使いますので」
雪さんは意外と家庭的だった。行政の中枢に務める人間の家庭ということで、上流階級的な暮らしを、使用人や専属の料理人がいるような生活を想像していたがそうでもないらしく、自炊もそれなりの頻度でするらしい。肌も知ったのにまだ知らないことの方が多い。
「なら、それを使います。タコ糸なら不自然さもないですしね」
そんな話を進めながら、暑い一日が過ぎていき、遠くに夕立を告げる雷鳴が聞こえた。
結構当日は朝からの雨が降っていて、駅前には傘の群れが出来ていた。そこから数分の徒で目的の場所にたどり着く。軒先で雨音と人の行きかう姿を鑑賞しながらただ、待つ。
強くもならず、それでいて弱まりもしない雨はほんの隙間から風で流されて髪を服を濡らしていく。この気温ならすぐに乾く。そんなことを思ってもまとわりつく湿度の上にさらに湿気を追加するのは鬱陶しく、嫌な気分になってきた。
そうして雨雲に文句を言いながら過ごしているうち、懐の端末に振動。
短編の感想メッセージ。近未来で月並みなテーマに思えたが、その裏にある真のテーマと細かな小ネタが面白い、と。それは打ち合わせの通りで彼女の任務が滞りなく遂行されたことを示すもの。読み終えて一度だけ深呼吸を。これからが山場だと。
エントランスに向かい、ロックを抜ける。このやり方は雪さんから聞いていた。エレベーターはさほど待たずにやってきた。休日に雨と重なると外に出ようとする人は少ないらしい。そこから1分ほどで階にたどり着く。その角に、その部屋に2人がいる。
鍵は開いていた。
「来ましたね。お母様は今眠っています。弱めのお薬ですが、1時間程度は起きません」
出迎えの声、そして首尾のいい報告。
「ありがとうございます。では早速、次の準備もしましょう」
そういって玄関から靴を揃えて家に上がり込む。後ろでかちゃりと音がした。オートロックがその存在を示す音らしく、強固なセキュリティの筈なのにここに侵入されたなとも思った。
雪さんに案内されたのはリビングで、丁度食事を終えたような様子の食卓。そこに一人女性が背もたれに体重を預けて眠っていた。
黒のミディアムヘアに、少しの化粧。雪さんにも似て鼻筋が通って冷たさも感じさせるような妙齢の美人。芦川桔梗がそこに居た。
ゆっくりと近づけば穏やかな息を音。寝息であることは疑いにくく、何より全く見知らぬ男がいるこの状況で狸寝入りは不自然に過ぎる。
「では服を先に脱がしましょうか。指先を縛るので上半身だけで」
はい、との返事だけで雪さんは俺の横に立って母親の服を脱がしていく。釦を外す動きがとても速い。
背もたれを使っている以上、少しだけ身体を浮かせる必要があるが、これは俺の担当。
椅子との隙間に手を入れて、ゆっくりと、持ち上げていく。寝息は変わらずにすぅすぅとしたままで、行われていることに違和感を覚える様子はない。
ゆっくりとだが滞ることなく袖を抜き、下着を剥いですっかりと肌を晒していく。
雪さんほどではないにしろ白い肌、白磁にも似た色。その主は眠りの中で、身に起こる凶状を知らぬまま。
浮かせていた身体を戻して、腕だけを後ろに回す。肩までは要らない。少しだけ指が、親指が触れ合えばいい。
「雪さん、タコ糸お願いします」
手渡されたそれを1メートルほどに切って、指に巻き付けていく。親指が同じ方向を向いた、その根元に。人は意外なほどに親指に頼っていてほんの少し親指が使えなくなるだけで手の使い道はどうしようもなく減ってしまう。その制限を課す。ぐるぐる巻きにした指はすっかり白の地が減って、糸のどこかすすけたような色合いに塗りつぶされた。
「さて、とりあえずはこれで動きは抑えられます。今の内に運びましょう、案内をお願いします」
「ベッドがある寝室が良いですよね、こっちです」
方向を示した案内を受けて、芦川桔梗の身体を持ちあげていく。この動作はこれまでよりずっと気が楽だった。手を縛ってしまった以上たとえ起きたとしてもできることはほぼない。最悪だとしてもこの場で始めてしまえば良いだけだ。
だからこれはあくまで少しだけ配慮なのかもしれない。どうせ身を汚すならよりよい場所だという。
人一人を抱えながらの移動は少しだけ疲れるものがあって、腕に甘い痛痒が走っている。先行した雪さんが扉をあけ放ってくれているがそれがなければ大分苦労しただろう。目的地に着けば、どこか殺風景なほどにまとまった部屋の様相。
ベッド、机、化粧台と最低限の家具が装飾もほぼなしの状態でおかれている。
これまた随分と極端なほどの生活らしい。
「お母様はあまり、華美なものは好みませんから」
それにしてもとも思うが、それより先にベッドに身体を下ろすことにした。重みを支えるその沈みは多分家の物よりずっとふかふかとしていて眠ったら間違いなく気持ちの良いものになるだろう。
「っと、後は目覚めてくれるのを待つ感じですね。これで大体40分も掛かってないくらいですか?」
「そうですね、もっと速いですよ、34分です」
初犯ではあるが随分と手際がよかったらしい。大部分は協力によるものだが。
「すると、遅いとあと一時間くらいは必要そうかな、二人で見ておきますか?俺の方はそこまでは良いかとも思うんですが」
「なら、水奈瀬君の服を乾かしておきましょうか。 雨でぬれたでしょう?」
「是非、お願いします。結構風もあっていつの間にか濡れてました」
いそいそと服を脱ぐ。それも乾かしましょうと言われていつの間にか一枚以外が取られていた。
「乾かしている間に色々済んでいるでしょうから、帰るころにはすぐ着られますよ」
そういってどこかに、おそらくは洗濯場に消えていく姿。それを少しだけ目で追って、影も見えなくなれば、ただ寝息とどこかで稼働するエアコンの音が静かに空間を埋めていた。
「ん、んぅ…」
眉根が寄って、声が漏れる。それが覚醒の合図だということはすぐに分かった。目配せを一度、それを持って俺たちはベッドに横たわるその人の傍による。
「おはようございます、芦川桔梗さん、よく眠れましたか?」
「ぅ、ん…?」
眠り眼、焦点が合わずにどこかぼんやりとした瞳が俺を見る。ぱちぱちと何度かの瞬きをして、霞も晴れたのだろう。ゆっくりと大きく目が開かれて、瞳孔もきゅっと縮むのが見えた。
「あ、あ、貴方、一体誰!? それになんでここにっ!?」
「娘さんにお世話になっている者で、水奈瀬というのですが、話は聞いてたりとかしませんかね?」
「し、知らないわっ。 だとしてもこんな人の寝起きなんて非常識よ!」
「でしょうね、そこは謝罪しますよ。ですが少々そうするだけの事情もありましたので。それと気付きませんか?」
慇懃な言葉だけの謝罪、そこに悪びれは存在しない。その言葉に少しだけ視線を上に上げる。
「な、に、これっ…。縛られて…。
これを、…解きなさい」
「慌てないあたり、流石という冷静さですね。でもだめです、それが目的で来たんですから」
「さっきから、何を、いっているの…」
強い視線の相貌、だがそこに疑問を持ってしまった以上は聞くしかない。聞いてその先がどうなろうとも。
「少々桔梗さんにはそのお立場を使ってやっていただきたいことがありましてね、その御願いに。言ってしまえば脅迫です」
「は…。きょう、はく?」
まだ覚醒は中途か、拘束の中だというのにその想定はないらしい。もしかしたら男がやる犯罪がとても少ないこともどこか先入観で判断して、俺がやっていることがバリバリの違法行為の先だとは思えなかったか。
「そう、脅迫ですよ。具体的には俺と数人の遺伝情報登録を提供まで含めて偽装していただきたい」
「そんなの、やるわけがない。私に何の得があるって言うの。それに警察だって呼ぶわよ?わかったらこれを解きなさい」
理解をしていないのか、もしくはそういう先天的な思想か。少し命令をすれば俺がそうすると信じている目だ。だが、そうはならない、しないんだ。
「できない、じゃなくてやらない、なんですね。
でもそれでいいですよ。メリットなら、正確にはデメリットの打ち消しですが、今から教えてあげますよ。
ただ、その前に、おかしいと思いませんか?
こんな状態なのに、白雪さん、貴方の娘さんはどうしているんでしょうね?」
娘の動向、その提示に目がカッと開かれた。
「…! 雪は、雪はどこに!?」
「そう慌てなくても平気ですよ。気づいてませんでしたか? ベッドの上側、そう、もう少し視線を上げれば見えます」
バッと音がするほどに頭を動かして、その視線の先には、壁によりかかる愛娘。
露骨なほどに安心の吐息が漏れる音。
「雪! 平気っ!? 何かされてない!?」
「大丈夫ですよ、お母様。 雪は平気です」
「そう、よか…」
「よかった、と思いましたか? この現場を見ているのに?警察なんて呼んでませんよ?」
「…は? 何、言って? 雪、どういうこと?」
問いかけに返答はない。優しく、妖しい微笑みだけが在る。
「わかりませんか?既に娘さんはこちらの手の内です」
その言葉に漸く危機感、ただならぬ緊迫を覚えたのだろう。わなわなと震える唇が幾分重さを増したような言葉を紡いでくる。
「雪に、何をしたの…」
「俺はさっき、言いましたよね?遺伝情報の登録を偽装してほしいと。
その中には雪さんも入ってるんですよ。ああ、もっと直接的な言葉の方が良いかな、雪さん」
目配せには首肯。雪さんの口が開く。
「お母様、雪は、水奈瀬君のちんぽでおまんこをたっくさん苛めてもらいました…
精子もたっぷり子宮に出してもらったんですよ?」
「な、何言って、ゆ、雪、うそ、よね? そんな、下品な言葉、使っちゃだめよ…」
それはこの半月の行為の端的な要約。想像など遥かに超越した現実に表情は白蝋のように青ざめていく。
「嘘じゃないですよ? ここのところ毎日ずっとセックスしてましたから。」
「そんな、そんな…」
絶望にそまった顔。今日がこの世の終わりだと言われてもこのような顔にもなるだろうか。だがそれもまだ序の口だ。
「それだけしたんです。もしかしたら、妊娠、しているかもしれませんよね?」
「あ、貴方はっ!?」
「だから、さっきの要求なんですよ。まさか自分の娘がその渦中にいるとは思わなかったみたいですが。それに、随分と色々な言葉を知ってるんですね、そういう立場の人は皆そうなんですか?」
「それは、余計な思想で汚染が社会に広まらないように…!
それよりっ、雪のことよ! 一体いつから! まさかもう兆候が!?」
「ああ、そういうのは後でまとめて話しますよ。それより先に、やっていただけるのか否かその答えの方を先に頂けますか?」
「やる、やるわよ! やらないと雪の将来、どうなるのかわからないのよ!?
やるしかないじゃないっ」
娘の将来を切り捨ててしまえば、その上で俺を犯罪者としてしまえば己の居場所は守れたかもしれない。だがそうはならなかった。
「でも、わかっているわよね? 偽装をしたからと言って貴方が雪の傍にいて良いわけじゃないわよ。」
「これは、予想外でしたね、まさか交際否定の言葉をここでとは。
でもそんなことはどうでも良いんです。俺の脅迫はまだ終わってないんですから」
「な…、まだ、あるって?」
「ええ、俺は慎重派ですから。やる、なんて言葉だけじゃ不安でしょうがないですよ。だからちょっとばかりその保証が欲しくてですね」
「やるって言ったじゃない、これ以上どうしようって言うの?」
「ええ、だから一番確実になる方法を選びます。
芦川桔梗さん、貴方にも孕んでもらいますよ。自分と娘の破滅を賭ければやらない、なんて選択はありえないでしょう?」
人間ぶつけられる情報が脳の理解を超えると反応というのは素朴になるらしい。芦川桔梗は返答すらできずに、口をパクパクと動かしながらその青白い顔で俺をみているだけ。
「それじゃあ、早速」
胸に触れる。大きさも張りも娘には劣る。重力に負けつつあるせいでどこか垂水さえ感じさせる乳房。だが明確に勝る点も多い。弾き返すのではなく、指先を包んで離さず吸い付くような肌。まさに餅肌だった。揉み込み動かせばそれに応じて形を変えて、パンよりもずっと柔らかで和菓子にも似たしっとりした触り心地を届けてくれる。
「うぅ、くぅ…っ…」
乳房をこね回すうちに、固くなっていく場所。そこは茶と少しの黒色に染まっている。年かさか、もしくは過去の妊娠とその後の影響か、いずれにせよ明確に色が淡いものとはかけ離れているのは確かだ。
指で転がせば、少しずつ太く固くなって立ち上がっていく。
「わかります? 乳首、固くなってますよ? こうして雪さんにも母乳出したんですか?」
「…ひぃ、い、いやぁ」
逃げるように身体をよじり、頭を振る姿からは返答は要領をえない。直接確認するとしよう。
乳房の先端をおおきく口に含む。まるで大福のように校内でやわやわとして震える感触が広がる。乳輪は膨らんでいて、どこか懐かしいような感覚もある。強く乳首も吸えばコリコリとしていて、啄むほどに充血を増していく。
「…雪がいくつだと…もう、出るわけないわ…」
「…流石にでませんか、ちょっと残念です。まあ今後に期待、ですね」
そうして視線は下へ、下半身へと移っていく。
まだ衣服に覆われた雌の場所へと。
「一応聞いておきますが、セックス、したことあります?」
「あるわけないでしょっ、そんな下品なこと!」
指先が腰へ伝い、そのパンツもショーツも下へ落としていく。
「下品ねぇ…他の生物も、数世代程度前なら自然だったのにそこまでとは…。
でももう随分と湿ってません?まさかそんな下品な行為で気分良くなりました?」
「そんなこと…ただの防衛反応よ」
触れたのはほんの表面だけ。だというのに指には粘液が付いて絡みついていた。
「まあ、そう思うならそうで良いですよ、自由に防衛、すればいい。…でも俺も少し試してみたいことがありましてね。」
ベッドの上、正面に座って、脚を割り開く。足先だけに掛かった服の残骸が空に持ち上がった。
目の前の女の肉は少し肉厚でまろび出るものも少し。形も崩れているわけではないのにどこかこれまでとは違う引力がある。あるいは匂いかも。甘く酸い匂いだけではない、深く熟成の中のような乳酸発酵臭、チーズにも似た香りが漂っている。
「女の人って子供産んでると変わるんですかね、それとも年齢?
でもまあどっちでもいいですか」
ただのひとり言には返答はない。睨んで、その目尻に涙を浮かべるだけだ。
指先も口も不要で、ただ入り口に固い槍を宛がう。
そして迷うことなく一突きで侵入を開始した。
「…ぐっ、くっう、か、かはっ…♡」
碌に刺激をしなかったせいか、思いのほか膣内は濡れていなかった。潤滑液のない挿入はまさに擦過としか言えず肉がぶつかりあう。少し、いや、かなり擦れによる過剰な刺激は痛みとして脳内に届く。それは相手も、芦川桔梗も同じで、だからこそ声にほんのり甘いものが混じっていた。
こんなところも遺伝するとは。そんな言葉は口には出さなかった。だがこちらを見る雪さんの視線はそんなことをとうにわかって、どこか慈しむような羨むような目をしている。
突き上げは何とか奥にたどり着いた。柔らかく受けて止めてくれるが互いに水分を得ていない分どこかつっけんどんな感じでもある。
だがそれももうすぐ終わるのだろう。こんなやり方で、痛みで感じてしまっている状況で少しずつ蜜が漏れてきているのがわかる。
「まさかこんなで感じるとは思いませんでした。結構痛いもんですね、これ。でももう相当濡れてますよ? これで随分楽になっちゃいますね、むしろそっちの方が嫌だったりします?」
「…さっさと、終わらせて…」
自身が喘いでしまったことはわかっていないのだろう。強情に、ただ気高くあろうとしている。だがそれはもうとっくに砂上の楼閣で、ただ崩れるのを待つばかりだ。俺が崩さなくてはならないとはいえ。
一度突き上げた男根をゆっくりと、1秒に1センチ、それよりもずっと遅く引き抜いていく。ただそれだけで少しずつ互いの性器は濡れていく。摩擦刺激ともしかしたら防御反応も。だがそれは次なる刺激を呼びやすくするだけ。
緩慢な動きのせいで却って肉の構造がよくわかる。まとわりついて包むような厚みも、大小さまざまなつぶつぶも、絡みつく襞も、随分と多くの種類がこの短い隧道の中にあるものだ。そして当然にそれらは違った個性で快感を与えてくれる。
たっぷりと時間を掛けて最初のように、先端だけが肉に埋まった状況。だが最初と同じなのはその構図だけだ。
肉の棒が焦らして、舐め上げた肉穴はその快楽への飢えを目覚めさせて、さらなる快楽を欲しがっている。濡れきった穴から漏れ出した水は俺もベッドもしとどに濡らそうと滴り、垂れている。ただ、その主だけが身体に起こる異変に気付かない。
ゆっくりとエンジンが動き出す。腰を前後に往復させていく。にゅちゅりと音を立ててまた潜っていく。潜行していく。暗く温かな女の海、ただその果てを目指して。
「…く、くふぅ…うぅ…うっ♡」
すっかりと濡れきった膣は柔らかに男を包む。だがその抱擁はこれまでとはずっと違っていた。ただただ温かく、どこまでも続くような厚い肉壁。どこか相反するほどに不思議な、巨大な一枚岩にも思えるほどに大きな肉に挟まれる。
「これは、経産婦という違いですね。桔梗さん、ここまではいってるのわかります?中凄いですよ、でっかい何かに挟まれるみたいで」
「そんなの、わかるわけ、ない、でしょっ…あっ…♡」
最早肉との擦れ合い、掘削という言葉では表せない。溶け合うような瞬間の連続。先端も半ばの竿の部分も、全てが一体になってしまいそうなほどに、優しく温かな空間がそこにあった。
「まさか、こんないいものをもってるのにセックスしたことないんなんて、でもそうしてこうなったと思うと感動です、ねっ」
少し強い突き上げ。その瞬間に先端は蕩けた空間からまた異質な場所へと飛び込む。
「おっ、おああっ♡」
子宮口へ。だがそこは固さもなく、柔らかさもどこか気の抜けたような何か違うような感触。
何か変だ、そう思いながらも何度も突いて確かめてみる。
「う…♡、うああっ♡、 おおっ♡ 奥に♡、奥にぃぃ♡」
「そうですよ、奥を突いてますからね。でも、桔梗さんの奥、子宮なんか不思議なんですよね。何ででしょう。何か心当たりありません?」
「ない、ないわよぉぉ♡ おおっ♡」
では何だろう、そう考え始めようとした時に閃き。自分はさっきなんて言っていただろう。
経産婦、年齢。もしかしたらそれは一つの可能性。
それに思い立ってしまえばすぐの話で、確かめるべく動きを止める。
「…う、ふぅ♡ …お、終わったの?」
中断された運動にどこか不満げですらある顔。いつの間にか理性の天秤は壊れつつある。
「いえ、まだです。少し風変わりなことをしたくて」
身体を繋げたまま、ベッドの下へ足を付ける。腰を掴んで彼女の腰もゆっくりとベッドから、その縁へと。
脚を曲げて少しずつ少しずつ地面が迫る。投げ出された脚は俺の身体を通り越して先の方で床に触れている。
「な、な、なにっ、これっ…」
「わかります? さっきと全然違いますよね? でもその先に用があるので」
重力は彼女の身体を落としていく。それは腰からしたを俺の下腹部へ向かって、ぴたりと凹凸がはめ込まれるように。だがそれだけではない、自重で男根はもっと深く深く最奥を抉っていく。優しい肉を越えて、その先の門扉という子宮口も超えて。
「まさか、こんなこともあるとは思いませんでしたよ。ほら、開いちゃいますよ?」
「ま、待って…、だめ、そんなの、本当に、妊娠なんて…、…いやよ…」
「だめです」
先程の違和感はこれだった。子宮口は突かれる度に受け止めるだけではなく少しずつ緩んで口を開けていた。だからその感触はずっと変な何かがあった。
気づいてしまえばすぐで、こうしてゆっくりとその中に本当の奥に全てを受け入れようとしている。先端のごくわずかな部分が少しずつ刺さっていく。腰もどんどんと落ちてくる。
「いっ…♡ くっ、くる…♡ 入って、きちゃう…♡」
そこからは一瞬だった。先端の半ばまで入ったとたんにぬるりと飲み込まれた。
残ったのはこれまでとはずっと違う熱いという感覚に、ひどくどの方向も狭いという圧迫感、そして竿の部分を締め付ける感覚。
「…あっ、あぁっぁ…♡」
声はもうほぼない。ただ震えて壊れた蛇口のように噴出される蜜が堕ちたのだと指し示している。
同時に自分ももう決壊が近いことを悟る。
子宮の中の熱さとぬめりは最早擦ることすらなしに容赦なく快楽を与えてくる。そこはただ空間そのものが気持ちいいという別格の場所。
自分の身体の筈なのに、そこから感じるあまりの快楽に気が狂いそうだった。
そしてやばい、と思った時には堰は切れてただぶちまけていた。
どびゅっ♥ びゅるるるるっ♥ どびゅるるる♥ ぐびゅ♥ びゅぅぅぅぅぅ♥どぶゅぅー♥ ぐぷっ♥ びゅー♥ ぶびゅーっ♥ どびゅー♥ どるるるる♥
「お…おおっ…♡」
目を見開いて半開きの口。つつと涙が溢れている。俺もおそらく似たようなもんだろう。それほどまでに燃えそうな時間だった。
放出がやんでも、むしろやんでからの方が真の幕開けだった。
あれほど優しげだった膣の肉は千切れんばかりに嚙みついて、子宮ももっとよこせと貪欲にその熱を高めている。精で溺れさせているはずなのに、溜まったその液のせいでこちらが窒息しているような状況。何よりキュッとしまった子宮口が逃がそうとはしてくれない。
もしかしたら俺の方が獲物だったのかもしれないと、そんな思考で理性が切れたのが最後にわかった。
それからはただ腰をぶつける時間だった。ほんの少しだけの往復。そのはずなのに身体の全てが、なにより屹立の全体が炎の中に居るような世界。狂いそう、狂っていたのかもしれない。ただ静かに、声もほぼなく、水音だけと肉のぶつかる音だけ。その中で幾度も幾度も出し続ける。
獣よりもずっと獣。ただどこまでも深く果てで交わり続ける。己が埋まっているのはただの女性器と子宮だけではなく、女の身体の全体ではないかとそんなことすら思うほどに、小さなはずの場所がもたらした激烈な快楽の渦は急に幕引きを迎えた。
「も、もうだめ♡…ぜったい…孕んだから♡…許して…♡、許して…♡ お願いです…♡」
頭上から聞こえた声にはっとした。目的はとっくに忘れてただ快楽に耽ってしまっていた。自分はどれだけの時間こうしていたのだろう。それもわからない。身体は熱く、流れる汗も結合部の雫も、なに一つが乾かないままで繋がっている。
だが確実なのは言を引き出せたということ。これで孕んでいればその身体そのものがどうしようもないくらい絶対の人質だ。
2人の身体をベッドに上げて、腰をゆっくりと持ち上げる。息が上がっているせいか少しばかり硬度を失ったような半身を引き抜いていく。まだ子宮は飲めるとばかりの締め付けをしてきたが及第点は得たのだろう、意外なほどにすんなりと帰参を許された。
そうして全てを抜いて、またも不思議なことに穴は拡がったままの姿を晒すことなく自然に小さくなっていた。まるで守るように痕跡を残さぬように、そんなひと時だった。
終わったというシンプルな感想が浮かんできて、全力疾走の後のような何とも言えない心地よさ、そんな気分に包まれる。
「お母様から言質は引き出せましたね」
「…! あ、ああ、はい。これで何とかなると、そう思います」
ぼうっとし始めた脳が雪さんの声で目覚める。彼女はずっと見て聞いていたのだ。母親が自身と同じ男に孕まされる、その光景を。
「ありがとうございました。雪さんの助けがなければとてもこんなことできませんでしたよ」
「良いんです。でも、水奈瀬君、お礼だと思うならたくさん、してくれますよね?
随分長く見ていて、私も中てられてしまいました…」
その表情は蛇にも似ていて一日はまだ終わるには早すぎるのだと、どこか諦めにも似た感覚があった。