「おかえり、翔」
帰宅して部屋に戻ってみたのは凛の姿。そこに居るというのは玄関の靴でわかっていた。合鍵も渡しているからそうなってもおかしくはないとは思ったが、互いの下校時間が違う時に上がり込まれていたのはずっと久しぶりの事だ。
「おう。帰った。…どうかしたか?」
「ううん、…でも、翔が何か、顔が明るくなった感じがしたから」
隠し事はできない。幼馴染だからこそ、というよりも凛だからという気がする。
「そう、だな。ちゃんとやってきた少なくとも当面の安全圏には居られるさ。その内全員で会うこともあるな」
「そう…、そう、だね。 みのりちゃんも、ね。したんでしょ?」
そこもか。むしろ何を知らないのかというくらいに何でも見抜いてくる。どきりとした心臓が変拍子にのっている。
「匂い、かな。確か梅雨の日にみのりちゃんの匂いがついているなって時があったの。それに、この部屋に上がったときもたまに違う匂いがしたからわかったよ」
「…うん、ま、そうだな。…みのりともしてるよ」
凛に、みのり、芦川親子と計4人との関係。その邂逅もその先ももしかしたら脳内で思索が巡っているのかもしれない。
「攻めるとかじゃないんだ。…ずっと翔、何か息苦しいような、つまんないって顔してたからそうじゃなくなったのが凄く嬉しい。」
ただほほ笑む。さっきの動揺で乱れていた心臓がもっと激しい鼓動を奏でる。いつも見ていた筈なのに、すぐ傍にあったはずなのに。
何より透明でずっと見てきたはずのその表情がとてもいとおしくて、そこに凛がいてくることが嬉しかった。
「…凛、俺正直よくわかんなかったんだ。将来とか、結婚するとか、そもそも男で義務とかで精子の提供したからどうとか全然わかんなかった。…でもさ、凛としてからずっと考えたんだ、多分一生で一番に、ずっと、考え続けた。」
それはそうしなければ自覚もせず心のどこかで眠っていたかも知れない感情。人に触れてようやく気付いたもの。
「順番もやってることもめちゃくちゃだと思うけど、俺、凛のこと好きだよ。
みのりも、それに芦川の白雪さんも桔梗さんも。…皆好きでさ、幸せになってほしいって思ってるんだ。」
歪んでいる。それはおそらく確実。ただ好きならまともな方法で結婚すれば良かった。それに子供だってもっと良いやり方があった。だけど、その肌の下を知ってしまったからこそどうしようもなく離れがたい思いが胸のうちに渦巻いている。
「それに、俺、将来も考えたんだ。高校で、その後なんか何にもないような気持だったけど、今はそうじゃない。大学行って星の事も凛のやりたいことも理解できるように勉強したい」
「…そう、そう…。良かった…本当に…。面白くないって、死んじゃう男の人ってたまにいるみたいなんだ…。だから翔がそうならなくて、本当に、よかった…」
微笑みの筈なのに、どこか泣いているような顔。もしかしたら、いや、確実に凛はずっと俺の内を知っていた。不安というより漠然とした無、ただ黒色が支配するような将来への虚無感を。多分そこに飲まれて死んでいく同性は多いのだろう、同じ道を辿ることをずっと怖がっていたんだろう。
「大丈夫、大丈夫だよ、凛。俺は死ぬつもりなんかない。やりたいことはいっぱいあるんだ、空しさなんかどこにもない」
「…本当はね、大学行っていっぱいお金も稼いで、みのりちゃんとも協力して翔に何不自由なんてさせないって思ってたの。でも、間に合わないかもってずっと、ずっと不安だった…」
いつの間にかに将来設計は相当に組まれていたらしい。多分相当先まで。だけどそれはもう破綻したし、何より必要はなくなった。
「…好き。好きよ、翔。絶対結婚するわ、当然子供も。…子供はちょっと予定より大分早まりそうだけど」
凛が絶対というときにそれが叶わなかったことはない。そう言ったときにはもう確定事項なのだ。凛の知性と何より努力がそれを現実にする。当然俺との結婚も。拒むつもりなどないが間違いなく逃げることなどできないものだ。
「だからね、…多分まだできてないから、…今日は確実だと思うから、また、しよう?」
清らかな微笑みはいつの間にか、欲望を湛えた女の笑みへと変わっていた。
あれだけしたというのにまだ凛の宝物を奪いきるには足りなかったらしい。
「いいぜ、それなら確実に今日こそ妊娠させる」
服はもう無用の長物だった。一秒すら惜しく、振り乱して、放って捨てるように脱ぎ捨てていく。獣よりも、どんな生物よりも今は激しくその身体を求めている。
何も遮るものがなくなった肢体を抱きしめる。強く強く、中心が自分の中心に届くように。
すべすべとした肌が腹から胸に擦れて、ただただ柔らかい。2つの球も潰れるように張り付いてモチモチとした感触を届けてくれる。
腕の中で目を瞑る凛。何をしてほしいかなどすぐにわかる。
「これ、好きだよな。…はまった?」
「…うん」
唇を触れさせる。相対速度が0に近しい極めてゆっくりとした動き。表面が、粘膜が少しずつ重なっていく。お互いの呼吸も感触も全てがわかっていく、熱を帯びた感覚。本の数センチだけの交わりの筈なのにセックスよりも溶け合っているようだ。
「…ん…♡、んぅ…♡、ふ♡…うっ…♡」
唇の世織り成す界はまた違った存在によって姿を変える。ぬるりと侵入してきた温かく濡れきった少しだけ固い大きな肉。唇を割り開いて舌が触れ合う。
唾液をたっぷりと含みながらお互いの舌先が交差して、幾度も回転しながら擦れていく。
凛の味を強く明確に感じられた。どこか甘く、ほんのりと酸い。舌の感覚器が開ききって凛を知りたいと分析を強めている。
「えぁっ…♡ ふぁ…♡」
舌先を吸い上げて唾液も啜る。とろとろとしながら口内にあふれていく。自身の唾液とも混じりながら、でも不思議なことにその液体のその分が凛のものかわかりそうだった。密度か成分でも違うのか、何かが違いそうで、そんな液を飲み込むと凛を体内に取り込むような気がしてどこか背徳みたいなぞくりとする感覚が脊髄を襲う。
その後は当然に返応を。
首を少しだけ上に向けさせて、舌を押さえつけてたらりと流しこんでいく。自分だったものが凛の中に入り込んでいく。口に食道に最後は胃。もっと後には凛の構成する一部にもなるだろう、それがたとえ一瞬でも。
身体はもう暖機などとっくに終えて臨戦態勢に移っている。激しく流れ込んだ血液でそこには鋼鉄が出来上がっている。
興奮の渦に落ちつつあるのは凛も同じで、胸の下ほどに感じていた柔らかさの中にずっと硬さがあった。胸を寄せればその主張の物とこすれ合って胸も少しだけ潰れる。しっとりとした肌の感触が少しずつ汗を浮かべているのがわかった。
「んぁっ♡」
指を伸ばす。ピンと立ち上がっているその小さな粒に触れて、つまんで、時折少しだけ引っ掻く。一つ一つの動作でピクリと身体が震えて、その度に喉から口から響く声は高く甘やかになっていく。
「…翔…♡ もう、したい…♡」
誘い水だけではもう足りないと言葉にしたのは凛が先で、でもそれもただの偶然。今凛が言っていなければ俺の方から出していた言葉だった。
「じゃあ、横になってくれ」
「…うん…♡」
ベッドにその身を横たえ、そっと脚を曲げて開いた姿勢。これも何度も互いを知ったがゆえに当然となった動作。本の数か月でこれほどになるとはとても予想のできないほどに妖艶で、一片の気恥ずかしさもなく期待と官能への欲が混ざったからだ遣い。
そんな小さな動きにどこか調教めいた影を感じずにはいられない。また疼くように血が滾る。
「…あ…♡」
自分の端を宛がいながら、指先でも凛の雌の部分に触れる。ただの数秒の接触でも渇きは消え去ってたれ落ちそうなほどに水に塗れる。
白い肌の中で朱を散らしたような肉が、そしてその中のわずかばかり小さな黒の空間が涙に似た水を流して誘っている。
指を外して、腰をそっと落とす。その動きで先端がずぷりと沈んだ。
「…あぁっ♡ …き、きたっ♡」
何度も同じことをしているはずなのに膣の歓迎はそのたびに新しく、男根の包み方も圧するリズムもどこか違って毎回が毎回一会の逢瀬になる。今日はただ優しくほんの少し触れあう程度の密で、そこからまた少しだけ潰してくる感触。先程の会話も効いているのだろう、本命はまだ先だと先導をするような、どこかそんな気配もある。
そしてたどり着くのは最奥、子宮へ。ほんのり固く、己を肉の中に埋め込めば最後に少しそこを押し上げる。
「そ、そこぉ♡ 子宮にっ♡」
連続で腰を動かし、往復が始まる。そして先端を掘削のように子宮口にぶつけ始める。
「あぁ♡、これ♡、これっ♡、好きぃ♡」
初めには細かく振動だけを与えるようにして、そこから少しずつ幅が大きくなって、ぶつけて、膣の全体で滑りながら投げ込むように突き込みをかけていく。
「おあっ…♡ それ、凄い♡ すごいいぃ♡ 子宮、潰れちゃいそう…♡」
濡れきった穴の中は潤滑油をまき散らした銃身のようで、その中を弾丸として肉の棒が動き回る。撃ち出され加速して着弾してまた装填される。子宮を標的とした銃撃。流れるのはただ新たな快楽の密、得るのも快楽。圧迫しない代わりに撫でるような刺激が全体を、しかも高速で襲う。
「凛っ、今日なんか、中、すげえぞっ」
「そ、そう? …わかんないよ、自分じゃあ♡」
喘ぎながら笑って応える凛。目尻の端に涙を浮かべていて赤みがさしているせいで純粋に綺麗なだけでなく色が見える。
「でも、それだけ妊娠したいってのがわかるでしょ?」
耳打ちのようにそっとした言葉。それがたまらなくぞくぞくと耳から脳を蕩けさせる。解けた脳は代わりに欲望をたっぷりと詰め込んで身体にもっと動けと、もっと固くと指令を送り出す。
「きゃんっ♡ はぁ…♡ また、動♡き、速くなった…♡」
ギアの上がった身体はさらに強く凛の身体を求める。奥も入り口もそのすべてを味わうべく動く。先端が抜けるギリギリまで引き抜いて、付け根をその奥の骨すら挿入れてしまいそうなくらいに突き込む。一回一回の動きで水が跳ねてじゅぷちゅぷと音が鳴る。
「…音も、凄い♡ こんな、こんな音、するんだ…♡」
凛と俺と、境界も失ってしまいそうなほど、熱が高まっていく。吐息もいつしかその湿った感覚さえ忘れてしまった。それだけに互いの息遣いがずっと揃って同調してきている。もしかしたら音と声だけが違いをほんの少しだけの距離を教えてくれるのかもしれない。でもそれももう意味のあることでもなかった。
「…凛、…凛っ」
叫ぶように、喉を裂くような呼びかけ。その後に来たのは身体全体が震えるほどの強烈な精の噴出。
止まることなどない。
ただ熱く、一回の射出に膨大な遺伝子と魂さえ詰め込んで放たれていく。
目の前は白く何も見えない。音もなくてずっと一点から生ずる振動と狂いそうな燃える奔流を感じ続けるだけ。
長く、長くのその時間は少しずつ弱まって、いつしか残滓までも撃ち出そうとする微かな震えだけが残る。
どこかやり遂げたような気持ちで眠りに落ちながら、頬への柔らかな感触と髪を撫でる感触を感じた。