うなじの痕がつくまで 作:自棄ノ原
原作2巻 コミック3巻読了後推奨
グスタフは気が長い方である。それは彼の先天の性質だが、王として過ごした期間が、それを強化したようである。そうでなければ、一国の改革は成し得ない。
その彼にして、今夜ばかりは焦れていた。夕食の時からである。
アンダリエル少将が珍しく普段着でいる――とは、執事に耳打ちされたことだ。当然、彼も平服に替えて食堂に向かった。ディネルースの衣装といえば、軍服の他は、初めて会った時の民族衣装姿しか知らない。好奇の気持ちは大きかった。
目にした彼女は、闇エルフの質朴な文化のあらわれか、何の衒いもない、村娘のようなワンピース姿だった。しかし、そのどうということもない娘姿がグスタフに強烈な印象を与えた。
ディネルース・アンダリエルは、一万二千の同胞を統べる指導者。グスタフが少年兵として参加したロザリンド会戦では、既に中佐として一氏族の軍兵を預かっていた。彼の幕下に収まって以降、真新しい騎兵将校服に身を包み、陸軍少将の階級章を襟につける姿は、一分の隙もない。研ぎ澄まされた刃のようだ。
その女が――いま、彼の前では、ただの素朴な娘のように、スカートの裾を揺らしている。顔つきまで常よりも柔らぎ、感情の起伏をあらわにしていると感じるのは、思い込みではあるまい。
女は彼と向かい合い、くるくると表情を変え、時に笑い、時に辛辣に語る。軍才の煌めきをみせたかと思うと、妹たちの素行や昔話やら、どうということもない話をひどく熱心に教え聞かせる。
紛うことなき軍事的英雄で、しかし、いまの服装通りの素朴な娘でもある。尊敬と愛情、双方を抱かずにはいられない。惹かれずにはいられない。
そして、そんな女が、この自分と恋仲なのだ――と思えば、世間話に相槌を打つ合間にも、指揮官の見識に膝を打ちつつも、後れ毛を直す指の美しさや、褐色の頬の瑞々しさ、瞳の澄明な輝き、彼女が動くたびに変わる布地のひだの重なりに、目を奪われてしまう。
ならば、女が膝に乗ってきてからは、もう欲望が堰を切ったように溢れた。
横抱きにして運び、寝台に座らせる。このところ連夜を共にして、すっかり慣れてきた女は、彼の激しい口づけに力強く応じてきた。
服の上から女の感触を確かめ、太腿の曲線を辿り、布地に隠された下肢の丸みに手をやる。いつもよりも急いで、いくらか荒々しく衣服をあばかれても、女にもう恥じらいは見えない。
早く素肌を合わせたいと、褐色の手が牡のシャツを取り去り、手際よくベルトを緩める。互いの衣服をすっかり取り去り合って、体温の熱さを確かめる。
いつものように、女の美貌のあちこちから、首に、鎖骨にと辿り、感度を増したように思われる双丘を舌でなぶりつつ、牡の手はまた下肢の丸みに伸びている。とうにスカートは剥がされ、あらわになったその曲線。ひとしきり撫でてから、ふと女を伺う。
瞳は潤み、唇は少し開いて、艶めく舌を覗かせている。もう、恐れや恥じらいの色は見えない。自らも、欲していると言ってくれた。それならばと、彼は躊躇いつつも口に出した。
「お願いがあるんだが」
女は好奇心をあらわにした。
「何だろうか」
「君が嫌でなければ、なのだが……」
言い淀んでいると、ディネルースはクスリと微笑んだ。
「いちいち、前置きがくどいぞ。私は嫌な事は嫌だと、ちゃんと断る」
それでも躊躇っていると、褐色の美貌が迫り、牡の肉厚な唇を割って、舌が侵入してきた。彼を咀嚼するようにしばし貪ってから離れる。そしてディネルースは言った。
「あなたがしたいことなら、私もしてみたい。何でも言ってみろ」
ほれほれ、というように耳を向け、流し目に見つめてくる。その可愛らしさにあてられ、グスタフはやっと口に出した。
「後ろ向きになってくれないか」
「うん……?」
女は小首を傾げながら背を向けた。寝台の上にぺたんと座っている。
直接的に言ったつもりだが、うまく伝わらなかったらしい。彼より遥かに年上のディネルースだが、この種の経験は皆無で、知識も持たないらしいのだ。
果断極まりない女将軍の未熟さを感じ、牡の獣欲は昂った。褐色の背中にオークの指を這わせる。背骨に沿うように撫でていく。
「……くすぐったいな」
座ったまま軽くよじり始めた女の身体を抑えるように、後ろから抱きすくめる。
上体を起こしていても形の崩れない二つの丘に手をまわし、裾野から絞るように撫でてから、濃い褐色の蕾を指先で転がすように刺激する。
「くっ……はぅっ……」
蕾は瞬く間にふくらみ、その存在を主張した。ダークエルフの腕が彼の頭部を誘い、横向きに口づけをかわす。その間も彼の指は、豊かな胸を責め続けている。
やがて口づけを続けられなくなったディネルースは、唇を離し、目を瞑って吐息とよがり声を漏らし続けた。
「はっ……あん。グスタフ……もう振り返っていいか?」
抱き合うことを求めているのが分かった。しかし、牡は、まだ今夜の欲望を満たしていない。身体から手を放すと、本題を切り出した。
「そのまま、前に手をついてくれないか」
「え?」
牡に言われるまま、少将は素直に上体を傾け、寝台に両手をついた。
「膝立ちになってくれ」
言われるままに膝をつき、そのまま腰を浮かしかけて、ディネルースは動きを止めた。グスタフの方を顔だけで振り返る。
「その、恥ずかしいんだが。だって……」
「嫌かい?」
「嫌じゃないが……」
勇敢な女将軍は意を決し、ゆっくりと尻を上げた。四足獣のような姿勢になるが、その膝はぴっちりと閉じられている。
ベレリアントの山岳で鍛えた逞しい太腿の上に、やはりよく発達し、引き締まった丸みが乗っている。
その美しさを目前にして、思わずついた牡の吐息が丸みにかかり、ディネルースはびくりと胴を震わせた。その振動で、二つの丸みは大きく震え、その合間を一瞬だけ覗かせた。
「み、見ないでくれ。もう、いいだろうか。満足したか?」
また顔だけで振り向いてディネルースは尋ねるが、その動作は牡の欲望をますます掻き立てた。答えるかわりに、左右の手で尻をかるく掴むようにすると、女は羞恥の声をあげた。
「はぅっ……」
構わず、丸みの頂点から四方に円を描くように撫でていく。外側の輪郭を縁取ってから内に返し、震える腰をなでてから、その合間に触れるか触れぬかという程度に指を這わせ、ゆるやかに下降する。
「ま、待って。待って」
女の言葉に即応して動きを止める。
褐色の太腿は閉ざされた門のように密着し、左右の丸みにも力が入っている。
しかし、丸みの内側の柔らかい皮膚に差し入れたままの指は、その場所を既にあばいている。夜目のきくオークの視力は、丸みの奥まで明瞭に捉えている。
女は、ただ全身を硬直させて息を震わせているばかりで、羞恥に身を委ねているようでもある。やがて、気丈な女は言った。
「そんな……ところは駄目だ。恥ずかし過ぎる」
グスタフは不思議に思った。
肌の黒白に関わらず、エルフは取り込んだ食物を全て消化できる。水分を摂り過ぎた時、稀に調節をとる必要があるだけ。いま彼の目に晒されている部分は、人間の尾てい骨のように、もはや不要となった進化の名残に過ぎない。
それなのに羞恥を覚えるのは、どういう本能の働きなのであろう。
「き、聞いてるのか。まるで馬か何かみたいじゃ……ないか……」
自らの言葉に刺激されたのか、鍛えられた褐色の下肢はびくりと震えた。
「はぁっ……」
吐息とともに下肢全体がもぞもぞと動き、丸みが左右に揺れた。滑らかな褐色の背中にうっすらと汗が浮いている。よく発達した背筋の線が腰に向けて引き締り、溢れるような臀部の丸みに続いている。
「綺麗だよ、ディネルース」
女は答えず、声も立てず、また太腿をもぞもぞとすり合わせ、そして僅かに開いた。
そこに許しを読み取って、グスタフは二つの丸みの内側、特に柔らかい皮膚に口づけを与えた。
「ひゃっ!?」
両手に舌まで加え、丸みの輪郭をなぞり、舐め上げ、転々と口づけ、点々と痕跡を残すように吸い付いていく。
「はっ……あ! そんなところ……あっ!」
息を飲み、震わせ、胴から尻まで痙攣が伝わるたび、緊張した太腿は開かれていった。
二つの丸みの下側に指を下らせると、肉厚な唇は既に口を開け、ぬめるように潤っている。未経験の向きからじっくりと見られる羞恥に、その唇は常よりも膨らみ、花弁は火照るように染まっている。
思わず唇を寄せ、滴る蜜を舐めとった。
「ひぁ!? グスタフ!? なに、何をしているんだ」
目前の尻と唇が震える様を目でも楽しみながら、オークの舌は潤いを絡め取り、また塗りつけていく。
「はあ! 駄目だ、そんな、そんな……ふあっ……あぁ……」
想像もしていなかったらしい行為に、ダークエルフは四肢を張った。発達した太腿の筋肉に力がこもる。すると、女の露わにされた部分はますます開き、牡の舌を招いた。
「あっ……ああっ……あああっ……」
単調な声で示す反応から、女が初めての感触に次第に慣れ、喜びを発見しつつあるのが分かった。牡は丹念に続けた。
「あ、あ、あ……は……」
褐色の尻が小さく痙攣し、牡が舌に感じる潤いの感触が変化した。粘性は減少し、さらさらとした清水が湧き出してくる。
雨垂れのように滴らせながら、女の部分は彼の顔を圧するように押し付けられる。彼はそれに応じ、舌に力を込めて細くすぼめ、目前に開いた空洞へと差し入れた。
「あああぁぁ!」
未知の侵入者を受け入れただけで、また下肢は痙攣した。それが収まるのを待ってから、牡は手で尻を固定しつつ、己の頭部をゆっくりと前後させる。
「あっ! ……あっ! ……ひぁっ」
その一定のリズム合わせ、女は素直な声をあげ続ける。グスタフの視界いっぱいに広がった丸みは、いつの間にか、彼の顔に叩きつけるように自ら動いて応じている。
ゆっくりと、しかし淡々と責め続けるオークは、ますます滴る湧水に左右の手の指を触れさせ、潤いをまとった。
両手を前に伸ばし、女の運動にあわせて盛んに揺れている下向きの双丘に這わせる。闇エルフは悲鳴のような歓声をあげた。
「ふあっ……あっ!……あっ!」
抗議の声を波打つ運動に制圧されると、女は為されるがままになった。牡は差し入れた舌を前後させつつ、下向きの双丘の蕾を左右の五指で柔らかく包み、潤いを塗り込めるように小さな円を描いた。
女はますます高まり、声を上げ続け、途切れては震えた。肘が力を無くし、上半身がシーツに倒れ伏す。女の腰の向きが変わり、牡の舌は自然と抜けた。
騎兵としての鍛錬で鍛えられた太腿だけはまだ健在で、牡の目前に丸みを高々と掲げている。女の秘密の部分は滑り輝きながらひくつき、特有の体香を振り撒いている。
日頃の凛々しい将帥ぶりからは掛け離れた淫猥な姿勢に、牡は堪え兼ねて腰をあげた。女の身体は、問題なく彼を受け入れてくれるだろうと、そして女も喜びを感じることができるだろうと、もう自信を持っている。
「ディネルース……いいかい」
女は啜り泣くような声で応じた。
「いい……早く……」
それだけ言うと、女は枕に顔を埋めた。それほどに恥じらいながらも、丸みを更に上げ、心持ち太腿を開いていく。意識してかは分からないが、あたかも溢れる部分を見せつけるような仕草だった。女が見せるようになった淫靡な素直さが、牡の最後の自制を取り去った。
腰を掴み、高さを合わせ、猛々しい杭を差し入れる。
「っ、ああぁ!」
女があげる声は、もう痛みの悲鳴ではない。存分に膨張した熱い杭は、包み込む瑞々しさに導かれ、苦もなく侵入していく。すぐに最奥まで達した。
「かっ……あっ……」
「大丈夫かい」
「うん……変な感じだが」
初めての時は痛みを伴う侵入であったものが嘘のようであった。幾夜もを重ねるうち、女の身体は彼に順応し、柔軟さを増しているのだ。
女に痛みがないとは、深い部分の感触によって、牡にも明白であった。なお尋ねたのは、だから確認のためではない。
「変な感じとは?」
「そ、それは」
「それは?」
「なんだか……すごい」
「すごいとは?」
「……いやぁ。聞かないで」
女がかぶりを振ると、美しい背中がよじれ、尻が左右に震え、繋がった部分も揺れた。
「あっ……はぅ……」
自らの動きの予期せぬ作用に、女は戸惑うばかりのようだった。彼は自分では動かず、尋ねることを続けた。
「いつもとは感じが違うかい」
「…………」
沈黙する褐色の背中は汗ばみ、その艶めきを増している。
「どうなんだ」
質問とともに僅かに身じろぎすると、女の豊かな丸みが彼の腰骨に圧されて歪んだ。
「ああっ……き、気持ちがいい……」
「前からとは違うのかい」
「うん……も、もう駄目だ、グスタフ」
「駄目かい? 続けては」
そう言って、ごくゆっくりと離れようとする。
「いやぁ! 駄目っ」
そう言って、包み込む女の肉が彼をきゅっと締め付けた。
「君が嫌がることはしない……」
「グ、グスタフ……」
怨じるような女の声は淫靡に昂り、溢れる潤いは咥え込んだ異物を伝わって、牡の脚部まで垂れている。
「君は、どうして欲しい」
「……して。早くして! 動いて!」
そう叫ぶと、女はぎこちなく前後に揺れ始めた。自らのリズムに合わせた歓声があがる。
「あっ! うっ! 早く、あっ!」
「君はとても可愛いな。ディネルース」
女の腰に両手をあてがい、彼もまたリズムを刻み始めた。女の声は立ちどころに高まり、小さく痙攣した。
しかし、高まった牡の欲望は、今夜ばかりは女に休息を許さない。
「あぅ! ま、待って。いま……あうう!」
緩やかな抽送を続ける。
「っ! うあ、ああ! うっ!」
女は枕に押し隠していた顔をあげ、豊かな栗色の髪を揺らしながら、猛り立つ獣のように声を上げ続ける。牡の緩やかなリズムに飽きたらず、自ら押し付け、引き、だんだんと動くことに慣れてくる。
「もっ……もっと。来て、来て!」
昂る女の要求に、グスタフも力任せに応じ始めた。女は闘争に荒ぶる獣のような喘ぎで答える。豊かな尻に打ちつける音と衝撃が興奮をかきたて、ふたりは更に登り詰めた。
乱暴な一突きで最奥に踏み込んだ牡が衝動を爆発させると、ディネルースは背をそり返らせ、玉の汗を散らした。その体内は収縮と拡張を繰り返し、どくどくと注がれたものを飲み干している。
長い痙攣を終えると、ディネルースは全ての力を使い果たしたらしく、崩れて突っ伏した。
グスタフがそっと身体を離すと、女の美しい肢体には不似合いな生々しさが香った。
身体を拭うなり隠すなりする力も尽き果てて、うつ伏せて微かに震えるだけのディネルースの息遣いと、その背中の美しさが、彼に深い満足を与えた。
この世界で最も美しく、愛しい女。この自分の女。
その背筋に口づけし、さらに登ったうなじのあたりに、己を刻印すべく吸い付いた。
「は……ん……」
それで意識を取り戻したように深い吐息を漏らして、女はゆっくりと身じろぎを始めた。やがて仰向けになった。潤み、透き通った瞳で彼を見つめている。
その唇を軽くついばみ、頬に、額に、鎖骨のあたりにと点々と口づけを与え、そして抱き締める。徐々に力を取り戻したらしい女は、抱き返してきた。
「グスタフ……」
耳元の甘い囁きは、しかし、怨みごとに変わった。
「……大変だったぞ。今日は一段と」
「きつかったかい」
「どうしようかと思った。恥ずかしいし、激しいし……」
「嫌だったかい?」
ディネルースは怒ったように眉を傾けた。
「嫌なら、そう言ってる」
「ならば、いいじゃないか」
「びっくりしたと言ってるんだ! 先に説明しておいてくれ。どんなことをするか」
グスタフは苦笑した。
「伝えたつもりではあったんだが」
「詳細さが足りない。分かるように、はっきり言うべきだ。オルクセン軍の操典にも、そう書いてあったぞ」
「あからさまでは興醒めじゃないか」
「そんなことはない!」
大真面目に断言すると、ディネルースは一呼吸をおき、自ら手本を示した。彼の瞳を見つめながら。
「例えば……さっきのも嫌いではないが、私は抱き合いながらの方が好きだ。あなたの顔も見たい」
そう言うと、闇エルフの手が彼の腰にまわり、そっと撫で始めた。
初めて見せる淫美な微笑とともに、女は尋ねてきた。
「それとも……今日は、もう疲れてしまったか?」
答える代わりに、彼は女の唇を塞いだ。