切り光薄い本いろいろ 作:風剣
なんかもう詰め込みすぎたのは失敗かも、後悔はない
約2万字ごゆるりとお読みください
――それから間もなく、サレンさんの呼んでくれていた救急車と警察がきて私を病院まで搬送してくれたらしい。
らしい、というのも……モブさんに抱きしめられてわんわん泣いていた私がそのまますぐに泣き疲れてあのひとの腕のなかで眠ってしまっていたからだ。サレンさんが言ってた。私は昏睡している間絶対にモブさんの手を放さなくって、放そうとするとぐずりだすからモブさんも離れるに離れられなくて。結局病院にまでモブさんに付き添ってもらって、サレンさんはひとりでファイトポリスの事情聴取に応じることになったと言っていた。めんどくさかったとも。
起きたときには私は病室にいて。患者さん用のゆったりした服も着せてもらっていたし、べちゃべちゃの粘液まみれだった身体もすっかり綺麗にされていた。髪まで綺麗になってたのすっごい嬉しかったな。
起きたばかりのときはおなかもぺこぺこで、身体もすごいだるかったけれど。廊下からお母さんの声が聞こえたから、ひとりぼっちで寂しかったのもあってそのままベッドから出ちゃってた。
モブさんもいて、お母さんはずっとあのひとの手を握ってありがとう、本当にありがとうって涙ぐんでて。モブさんはといえばすごく困った顔をして何もできてない、攫われるのを防げなかったしユウキちゃんが一番つらい目に遭わされているときにだって間に合わなかったなんて言ってたけど……。
いやそんなことなくない??
私だってものすっっっごい感謝してるけど???
だからうん、つい突撃しちゃった。2人とも驚いてたけど。
それからうん、ひとしきりモブさんにお礼を言ったり、お母さんにぎゅってされてついつい泣いちゃったりもしたけど、うん。最後にはモブさんも笑顔で手を振って帰っていったし、あれで間違ってはなかったと思う。
…………お母さんには「あのひとのこと好き?」って聞かれちゃったけど。
バレてた。「よく晩ご飯でMeekingのひとたちのこと話してるとき出てくるモブさんってあのひとのことだったんだ。素敵なひとよね」って言われた。そ、そんなにあのひとの話してたかな?
でも多分モテるんだよねって言ったら「あー……」ってなんか納得いったみたいな反応された。実際セト店長やドロシーさんもモブさんのこと好きそうだし、きっと学校でもモテモテなんだろうと思う。すっごいモブさんかっこいいし。そう言ったらお母さんは「じゃあ頑張らないとだ」って笑顔で応援してくれた。
それからは根ほり歯ほり、モブさんのこと聞かれたり。何度目かになる、ウソかホントかも怪しいお父さんとの馴れ初めを聞かされたり。楽しかった。
……モブさんと話してるときはすごい私のこと心配してたのに、捕まってた間のことを一度も聞かれなかったのは嬉しかったな。
たくさんお喋りをしたあとは、休めるようなところもないのにずっと付き添ってもらうのも申し訳ないからお母さんには帰ってもらった。本当に心配そうにされたけれど、大丈夫だから、平気だからって無理を押して――。何度もこちらを気にするお母さんが出て行ったと思ったら、窓から入ってきたのは事情聴取を終えたサレンさん。
ひとりぼっちになった瞬間一気に心細くなってめそめそ泣きそうになってたときに入ってきたからなんかすっごく恥ずかしかったけど、嬉しかったな。
……愛されてるなあ、私。
『ユウキはよく頑張った。本当に偉い』
モブさんと一緒に助けてくれたサレンさんにお礼を言ったら、頭を撫でながら褒めてもらえた。
『敗けた後も、ずっと
捨てられてたと言われていた私のデッキ。サレンさんとモブさんがあの場所でかき集めてくれたカードが
あれから、モブさんと戦っていた男のひとは敗北のアンティで手足を闇に呑まれて欠損。私が病院に搬送されてから少ししてからやってきた救急車に乗せられて病院送りにされたらしい。少なくとも私のいるところとは別の病院で、容態の確認が終わり次第然るべき場所で裁かれると説明されたのだとか。
私と同じように闇のカードにされたひとは何人かいて、フィールドにクリーチャーと一緒に繰り出されていたひとはモブさんが勝った段階で解放されていたけれどまだ囚われているひともいたみたい。元凶となった闇のファイターが討ち取られたのもあって、そうしたひとたちも専用の処置を受けて解放させてもらえる手筈だってサレンさんは言っていた。
カードにされたひとたち以外にも闇のファイトに敗けて言いなりになっていた女のひとが多くいたらしいけど、それはサレンさんが拠点にいた闇ファイターを全員とっちめて助けたらしい。すごい。
……私も、そんな風にできたらよかったのにな。
『悔しいよね』
そう言ったら、サレンさんはまた頭を撫でてくれた。
『
『でも、自分を責めることはしないで。あれは絶対にユウキの責任なんかじゃない――。ああいうやり口の手合いになると、強い個人というだけで処理できるキャパを超えてくる。複数以上の配下と人質を備えているような輩だと猶更。……あれは長年かけて専用の訓練を積んだ部隊が、人質ごと皆殺しにするくらいの覚悟をもって挑むような相手だった』
『それでも納得がいかない?』
『……そう。
『……じゃあ大丈夫だよ、ユウキは強くなれる。私が保証する。一緒に強くなろう。私ももっと強くなる、ユウキも頑張って追いついてきて。生半可な闇ファイターくらい軽く蹴散らして、それで――今回みたいなのが現れたら、今度は私も協力する。そうすれば集中してああいうのを倒せるでしょ』
『だから――。まずは、自分をせいいっぱい大切にするといい。褒めて、励まして、労わる。それか、そうしてくれる誰かを頼るとか』
『ほら、モブとか。大丈夫、あれでなんだかんだ正面からいけばきちんと想いには応えてくれる』
……なんで、サレンさんにまでバレてるのかなあ!!
それから、サレンさんは帰っていって。翌日には気門道場からお見舞いに来てくれたマリカさんがめっっっっちゃくちゃ不味い薬湯を飲ませてくれた。
お水を飲んでもぜんぜん舌をこびりついて離れない苦味とえぐみについついあのおっぱいを恨んじゃったけど、効果はしっかり出ていたらしい。午後からはそれはもうメキメキ元気が湧いてきて、検査でもしっかり健康そのものと認められた私は病院に運び込まれた次の日には退院できた。
……モブさんも背が高いし、マリカさんもそれ以上だし。あそこに通って鍛えてたら背が高くなるとかおっぱい大きくなるとかないかな。
でもあのお薬本当に不味かったからなあ……。
――お母さんに聞いたら、学校にはあと何日か体調不良で休むって話を通してあったみたいだけれど。携帯を開いたら、捕まってからずっと音信不通になってたのもあって親友のストラちゃんにすごく心配されちゃってた。
画面を開いたらたくさん通知が来ていて、慌ててストラちゃんに連絡して、平気だよ、ちょっと事件に巻き込まれただけって説明して。――すぐに私に何かあったことに気付いて心配されて、ほんの少し泣いちゃいそうになったけれど、大丈夫だってなんとか誤魔化せた。
……これじゃ、実際に会ったら本当に泣いちゃいそうだな。私泣いてばっかだ。
退院したあとは心配してくれたみんなや助けてくれたモブさんとサレンさんにしっかりお礼を言いたくってお母さんと一緒にMeekingに行った。涙ぐむ店長に思い切り抱きしめられておっぱいの圧で死にそうになったり、サレンさんに改めてお礼を言ってお母さんのこともみんなに紹介したり。「姉妹かと思った」ってみんな驚いてたな。
それから、モブさんがやってきて。お母さんは一言二言挨拶したかと思ったらなんでか目配せしてきて自分だけ帰っちゃって――。みんなと暫くファイトをして、夕方になっていつも通り帰ろうと思ったらモブさんが送ってくれることになった。
お母さんが頼んでくれて、モブさんは即答で快諾してくれたらしい。「お得意様だもの、このくらいのサービスはするさ」なんて言って、笑顔で私を送ってくれた。
……いざ2人きりになると。よくよく考えたら裸、見られちゃったし。服なんて
やっぱりあのひとの手は大きくて、ごつごつしてて。あったかくて。優しく握ってもらえると、すごくすごく安心して――。好きだなあって。
正直、あんなことがあった後だと本当に立ち直れてるかどうかは自分でもちょっとわからなかったし。
友だちや周りのひとたちも心配させちゃって、モブさんやサレンさんにあんな姿を見せちゃって。
それでも、お母さんがいて、アリーシャがいて、Meekingのみんなが、友だちがいてくれて。もう大丈夫だって、少しずついつも通りに戻れるって。モブさんにおうちまで送ってもらって、家に帰って、お母さんに出迎えられて夜ご飯の匂いにうきうきしながらそう素直に信じて――。
それが甘かったとわからされたのは、その日の夜からだった。
***
扉を開ける。手荷物を放り、ふらつきながら冷蔵庫を開いて取り出したミネラルウォーターを勢いよく呷る。
全身に色濃く残る疲弊感。普段は億劫に感じることもないMeekingの業務も、今ばかりは向かうのが億劫だった。
(――雑念。駄目だな、マジで……。まだまだ未熟、か。正しい姿勢、正しい型をなぞることができないと、負荷は露骨にのしかかる……)
上の空、だったつもりはない。本当に呆けていたら怪我のひとつふたつ負ってもおかしくはない修練を課されてそれを無傷で乗り越えた以上集中はしていた。
だが――意識を他所に囚われていたのは、否定できなかった。彼の師にも、「そういうこともあろう」とあっさり見抜かれてしまったか。
(ユウキちゃん……。今日も、来るかな)
ここ数日、普夫の頭を占めていたのは交友のある桃色の髪の少女。
友人だ。あくまで店員と客の関係ではあるが、彼女との交友を語るのであればそういう他ないだろう。少なくとも普夫からすればユウキは可愛い後輩だった。
彼女は5日前、闇ファイターに敗れ彼らの拠点に攫われた。
Meekingを閉める準備をしていたときだった。囚われの身となった彼女の危機をサレンが知らせてくれたのは。何かあったときのためにと彼女につけてたGPSの反応が途絶えたのに気付き、友人の身になにか異変が起きたのではと連絡してくれた彼女の教えてくれた座標に急行した普夫が目撃したのは、散乱した彼女のレガシーデッキと放られたボード。それを回収、廃棄しようとしていた闇ファイターだった。
彼らを仕留め、その拠点を聞き出し急行した先にいたのは赤黒い髪の男に嬲られ涙を流す、ほとんど裸に剥かれた顔馴染みの少女――。領域のなかでのファイトで決着をつけすぐさまユウキを連れて病院に向かった普夫は、蒼白になって現れた彼女の母親に事情を説明しながら昏睡する少女の快復を祈っていた。
幸運だったのは、闇のカードやそれを用いた被害について理解のあるスタッフが控えてくれていたことか。短期間で闇のカードが学び舎にまでばらまかれ被害が発生するなかで、ファイトポリスや病院のもとには外部から事情通の人間が呼び寄せられていたらしい……。クリーチャーの体液に塗れていた少女、普夫に打倒され手足を闇に喰われて瀕死になっていた男、サレンに蹴散らされ自失状態となったその配下たちの状況について彼らは速やかに把握し処置を施したようだった。
そのおかげか、深夜にはユウキは目覚め。闇ファイターたちもまた、
ユウキもまた、運び込まれたときの状態から想像された『最悪』には至っておらず。翌日には見舞いにやってきたマリカがもってきてくれた薬湯を飲んでめきめき体調を快復させ退院していった。
『――モブさん!』
『助けてくれて……。本当に、本当に、ありがとう……!!』
――運がよかった。
そんな言葉が何度も、頭を過っては消えていく。
闇ファイター。セト店長を拉致し裸に剥いて怪しげな器具に繋いでいた男。サレンとユウキの身柄を狙った男勝りな口調の少女と、それを操る忌々しい『因縁』。かつて普夫が所属していたLife部の元副部長の豹変した姿。
ああいった手合いに敗れた少女が、少なくとも五体満足で救助されデッキも奪われず、既に社会復帰できている事実。それが極めて幸運であると、彼の師も、セトも、サレンも――そして普夫自身も心のどこかでそう認識してしまっている事実に、反吐が出そうな気分になる。
『――ひっ!?』
『あ……。あはは、ごめんなさいちょっとびっくりしちゃっただけで……。も、モブさん? ううん大丈夫っ、ちょっと後ろ通ったひとに驚いちゃったってだけで……』
『……あ。モブ、さん』
『あはは、前まではこの道はぜんぜん平気、だったんだけど……。……手、繋いでもらえます、か?』
当たり前に日常を謳歌し青春を送るべきだった、そうしていた少女が。あんな奴らに狙われ、敗けて、いいように嬲られて――。表面上はいつも通りに振る舞おうとしても、確かに大きな傷を負わされて。運がよかっただなんて、そんなわけは絶対にないのに。
(――甘かった)
わかってる。ユウキたちのことを常に自分が見ていることなんてできない。他の大人だって同じだ。そもそも闇のカードを使うような手合いは、当たり前のように負かした相手からすべてを奪うことのできるアドバンテージをもっている――。それを相手に四六時中警戒するだなんて無理なことくらい、わかってる。
だがそれでも普夫は、自分を責めずにはいられなかった。
(そういう奴らがうようよ湧き出してたのは知ってた。ただの学生だった副部長にすら闇のカードが渡ってたんだから。そいつらがユウキちゃんたちのカードを狙っていたのをわかってたんなら。俺が――守らなきゃ、いけなかったのに――)
わかってる。それは傲慢な思考だと。
わかってる。取り返しのつかない過去を思って後悔することの不毛さを。
けれど、それでも、それでも――。
『モブさん、またひどい顔してる』
『……モブさんのせいじゃないのに。それでもまだ気にしてるんだ。……いや私も……。すごいしんどかったのは、そうだし昨日も、ちょっと、魘されたけれど……。でもっ、でもねっ。あのときモブさんが助けに来てくれたとき、本当に、本当に私――っ』
携帯が鳴る。
Meekingからの電話。ワンコールで応答した普夫の耳に、落ち着いた口調で、けれど取り繕えない憂いがところどころから漏れ出た声音で。セトの声が聞こえた。
『もしもし、フツオくん? ――今ね、ユウキちゃんがフツオくんの家に向かってるはずだから、来たら出迎えてもらってもいいかな? 今日のシフトは入らなくても平気だから……!』
「はい?」
『ユウキちゃんが、今すぐ会いたいって。
「――わかりました。取り敢えず詳しい話は本人から聞きます」
デッキケースの中身とボードを念のために確認する。
――サレンと叩き潰した連中の残党でも残っていたか?
――無関係だったら。それはそれで治安最悪すぎて嫌だな。
わからない。だが、ユウキが会いたいといっているのならば無下にする理由はなかった。
自身の暮らす賃貸住宅の一室を足早に歩きまわりながら散らかっていないかを確認していると、玄関で鳴らされる呼び鈴。思ったより早い――「すぐ行く!」と応え鍵を開けた彼が扉を開いて目にしたのは特徴的な桜色の髪を黄色いリボンで結わえた少女。
「ユウキちゃん?」
「モブ、さん」
『う……うんっ。大丈夫、へいきだよっ。モブさんが助けてくれたから――』
――その顔を見た途端フラッシュバックする、涙ぐむ少女。
息を切らして普夫の部屋の前に立つユウキの顔はすっかり上気していて、その瞳には涙が滲んでいて。
「ユウキちゃん、本当に大丈夫かい。店長から話は聞いたけど――」
「ごめん、なさい。――入って、いいですか」
「いや、それはいいけど……」
「お邪魔します……ッ」
「ユウキちゃん――」
あまりにも覚束ない、ふらふらとした足取りだった。
とてもではないが尋常じゃない。ふらつく彼女を支えようと腕を伸ばした普夫だったが、その手が華奢な肩を掴むとびくっっっと少女の身が震える。いよいよ立ち上がるのすらままならなくなったユウキがもたれかかってくるのを玄関で支えながら、困惑を露わにする青年の前で彼女はその桃色の瞳を濡らした。
「――おねがい、モブさん。私、もうダメなの」
心配になるくらいその頬を紅潮させて。ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、絞りだすように少女は告白する。
「お願い。お願いだから、モブさん。私と――私とえっち、してください」
「――」
「んっ……」
後ろで扉が閉じるなか、震える手を普夫の首に絡めたユウキは半ば飛びつくようにその身を乗り出し口づけする。
重ね合わされた唇。ぎょっと目を見開く普夫が行き場を失った手を彷徨わせるなか、ユウキもまたうっすらと閉じていた瞳を開いて――。
「に、苦い――――!! も、モブさん今日何食べてたのっっっ!!??」
「あ……! ご、ごめん道場でクソ不味い薬飲んでたから」
「アレぇ!? な、なんであんな不味いのをモブさんが――。……あっ。……………………………帰りますごめんなさい本当にごめんなさい最悪だ私うゎぁぁあああああん!!」
「待て待て待て待て!!!!」
どたばとと玄関で揉み合いになる2人。目をぐるぐると回した錯乱状態で外に飛び出そうとするユウキを慌てて掴む普夫だったが、彼の予想に反し腕を軽く掴んだだけで少女の体幹が驚くほどあっさりと崩れ落ちる。盛大に転びかけた彼女を庇い、ぐいと少女を引き寄せた青年は自分が下になるように重なり合い、倒れこんで「~~~~~~ッ♡」押し殺した、甘い声音。
「……ユウキちゃん?」
「みない、でぇ……!」
彼の上に馬乗りになった少女。その華奢な身体が、震えていた。
ショートパンツを着たユウキの腰が乗っかっている腹部のあたりが湿る感覚を覚えながら、彼女の顔を見上げた普夫の額にぽたぽたと雫が滴り落ちた。
泣いていた。ユウキが。
あのときのように。あのとき以上に恥ずかしそうに、苦しそうに。
「モブさん、おねがい──」
「助けて……」
真っ赤になりながらそう絞りだした少女に頷く。ぐいと身を起こして彼女を支えるようにして腕を握りながら立ち上がれば、今度はユウキも抵抗しなかった。
普夫の家には客人など滅多にこない。せいぜいメタデッキでボコボコにされて半ギレで延長戦に乗り込んできたサレンくらいか。スポーツドリンクくらいしか振る舞えるものもなかったが、よく冷えたドリンクを飲んでいると涙ぐんでいた少女も少しは落ち着いたようだった。
「あのクリーチャーの粘液を飲まされてから、ずっとこうなんです」
「病院で洗い流してもらって。ずっと安静にしてるときとかは平気なんですけど。ちょっと気合い入れてファイトをしちゃったら……、すぐ、こうで。おなかの、奥がすっごく熱くって。お家でもっ、ッ……。ひとりで、えっちしてなんとか発散しようとしても全然ダメでぇ……」
「――闇ファイターと戦ったって聞いた。その状態だと……」
「あっ、はい……。本当にそのひと自体は、大したことなかったんですけど……。かなり本気でやったから、ファイトが終わってからずっと、おなかの奥が……」
なんでも、Meekingに向かう道中で嫌な気配を感じて路地裏の様子を見たらファイトで打ち負かした女性を闇ファイターが襲おうとする現場に遭遇したらしい。
それを倒したはいいものの、
「今も?」
「――根性で耐えてます」
真っ赤になりながら、けれど少女は笑う。平気そうに取り繕って。
ほとんど泣き笑いだった。
「ごめんなさい、さっきは無理やり、キスしちゃって……。……自分で何となく、わかるんです。まだよくないのが身体に残ってて、それを追い出そうと熱をだしてて、だけど――ひとりじゃ、まったくそれを、発散、できないって。私、私――。モブさんとなら、モブさん、じゃないとやだぁ……」
熱に浮かされたように――いや、実際浮かされているのか。ほとんど夢中になって胸の内を吐き出す少女は普夫に触れようとして、慌てて距離を取る。
「ごっ、ごめんなさい……! ――わ、私帰りますからっ、もうほんとに大丈夫です、キスしてもらって少しよくなった気がするからっ! だから、だから――ッ」
「ユウキちゃん」
「っ、ふ――、ぅぅ……!」
立ち上がって玄関に向かおうとした少女が下腹部を抑えながらへたりこむ。
僅かに嗅ぎ取れた女の匂い。動けなくなったユウキの身を案じ近づこうとした青年は、すすり泣く少女の姿に思わず足を止めた。
もう、我慢も限界なのか――。ほとんど腰からも力が抜けているのか、必死に起き上がろうとしてもできないようだった。四つん這いになる少女はかあっと頬を赤らめながら、言うことを聞かない自分の身体の変化に大粒の涙をこぼしていく。
「――ゃだ」
「もうっ、やだぁ……!」
絞りだすような慟哭があった。
「今日だって可愛い服着て、褒めてもらえたらなって思ってたのに……ッ。モブさんと会うの、楽しみにしてたのに……!」
「好きなひとに、こんな姿なんかみせたくなかったあ……‼︎」
「………………」
どう、応えるべきか。
ずっと悩んでいた。
腹を括った。
蹲って悶えながら、泣きじゃくるユウキ。彼女に近づいて膝をついた青年は華奢な肩を掴み「ユウキちゃん」と落ち着いた声音でよびかける。
失望された。嫌われた。拒絶される。そんな怯えを滲ませながら、顔をあげた少女に手を伸ばし――くいと細い顎に指を添えもちあげ、その柔らかい唇に自分のそれを重ね合わせた。
『――』
時の停まったような空白。ユウキの唇を奪う普夫は、彼女がぱちくりと目を瞬くのをみながらゆっくりと顔を離す。
ぽかんと、少女の口が開いた。
「……………………ぇ」
「ユウキちゃん」
唇の触れたところを思わずと言ったように指でなぞる少女に、ほんとにこの娘可愛いなと思いながら。
普夫はまっすぐに彼女の瞳を見つめて、言った。
「──まずは一緒にお風呂でも入らないか?」
「…………………………………え、えぇぇぇえええ⁉︎⁉︎」
***
──いよいよ俺も犯罪者か……。
シャワーを浴びながら若干遠い目になる。《バレなきゃいいんじゃバレなきゃ》《いや普夫、犯罪はいかん犯罪は。せめてあと3年は待たんか?》脳裏をよぎった天使と悪魔の絵面が最悪すぎて思考を打ち切る。すっこんでてくれ師匠。
『ん……ッ』
衣擦れの音が脱衣所から聞こえる。身体が火照り切っているという話に嘘偽りはないのか、服を脱ぐ所作ひとつにすら漏れ出る熱っぽい声がシャワーの音に交じって聞こえてくるのに心臓が跳ねるのを自覚した。
「……どうすりゃよかったのかね」
思わずぼやく。
選択肢はきっと、ないではなかった。ファイトのたびに身体が過剰に火照ってしまうのであれば――それこそ”氣”にまつわる問題がユウキを苦しめているのならば、普夫の師なら正しい処置を知っているかもしれない。彼女の入院していた病院にもう一度頼れば、彼女の救護を担当したスタッフに闇のカードの影響を除いてもらうことができたかもしれない。
それでも彼は、こうすることを選んだ。
『――モブさんじゃないと、やだぁ……!』
『好きなひとに、こんな姿なんかみせたくなかったあ……‼︎』
間違っているかもしれない。とんだ愚行かもしれない。
それでも。自身の身体の変化に怯え、苦しみ、悶えながら。必死にもがいて、悩んで、それでも無理で――そんななかで自分を頼った彼女の気持ちを虚仮にすることはできないと思った。
だがこれはあくまで治療行為。これはその前座だ。
自覚がある。そもそもユウキも普夫も今は、冷静ではない。それでもせめて最後の一線は保ち、彼女のことを最優先にしてどうにか傷を――。
「……お、おじゃましまーす……」
あれ思ったよりえっっ――。
ゴンッッッ
「モブさん!?」
「いやなんでもない、なんでも――」
めちゃくちゃ
「……あ、あんまり見ないで……」
「あぁ、ごめん……」
顔を紅く染めるユウキの指摘に詫びこそしても、実のところはほとんど上の空だった。穢れひとつない張りのある肌、少女らしい丸みのある輪郭を形成する体つき。貸したタオルで胸元と鼠蹊部だけは辛うじて隠されているものの、それはつまりそれ以外の全てを曝け出しているということだ──。柔らかそうなお尻から無理やり視線を引き剥がし、普夫は背まで伸びる桜色の髪を見つめた。
「――髪をおろすと結構雰囲気変わるな……」
「あー……。はい。普段は邪魔だから動きやすいように結わえてるんだけど……。どうですか?」
「いや、めっちゃ可愛いよ」
そ、そっかー。そう返すユウキの動きも何やらぎこちない。流石にタオル1枚しか隠すものもなしに男の前に裸を晒すのは恥ずかしいのだろう、ちらちらと普夫の身体を見ては頬を紅潮させる彼女は所在なさげにバスルームの前に立ち竦んでいた。
距離感を探りあぐねているのはお互い様というやつか、「いつも通り」を取り繕おうとしての会話も若干ぎこちない――。苦笑した普夫は膝をとんとんと叩いてはユウキを誘う。
「おいで、ユウキちゃん。少し汗を流そう。……いろいろ、積もる話もあるだろう」
「はっ、はひっ……」
ひたひたと足音が近づくなか、呼吸を整えて準備万端でいきりたつ滾りを鎮める──「うわーおっきい……。男のひとのって、こんななんだ……。わっもっとおっきくなった……」──血の流れをどうこうみたいな仙人みたいな技はちょっと無理だなと諦める。
タオル越しにもわかるくらいに臨戦態勢となってしまっていた剛直を顔を赤くしながら見つめていたユウキは、普夫が気まずそうに唸ると慌てて目線を逸らしいそいそと青年の膝上に座る。形のいい臀部が膝に乗せられ、華奢な背と綺麗な桃色の髪が視界を埋め。無言で普夫が少女のことを凝視していることを鏡越しに気付いた彼女は、真っ赤になりながら青年を睨んだ。
「……えっち。私よりいやらしいんじゃないですか、モブさんって……」
「そうかもしれないな。ちょっと否定できないや」
「あっ……」
シャワーを浴びせだしながら、ボディソープを手で泡立てては少女に触れる。まずは手から――いいか? と問いかければ、くすぐったそうにしてユウキは頷いた――腕、肩と徐々に徐々に、少女の身体を確かめるようにして、ゆっくりと触れていく。
「本当に細いな、ユウキちゃん。ちゃんと食べてるか?」
「ふ、普通だよ。モブさんがごつすぎるだけだもんっ。……あとセト店長やマリカさんが大きすぎるだけだし……んッ」
「ユウキちゃん、いい?」
「い……。いい、よ……?」
次に触れたのは背。華奢な背中、その肌に触れて返ってきた柔らかい感触に男じゃこうはならんなと目を見開きながら滑らかな背を、優しく、決して傷つけることのないようにと洗う。
「あっ……。んっ、モブさんって、すっごい筋肉ついてるよね。最初はひょろひょろってしてるイメージだったけど……、い、いつから、鍛えてるの?」
「小学生くらいの頃からだな。最初はちょっとした護身術くらいのつもりだったけど、いつの間にかみっちりしごかれるようになってさ……」
「へぇ……。さっきお風呂入ってきたとき、モブさんの背中すっごい綺麗だったっていうか……みっちり? えっと、筋肉が寿司づめ、みたいな? 感じになってたからびっくりしちゃった。かっこいいよね、鍛えてるひとって。…………ぇ、前、も?」
「うん。勿論無理強いはしないけど」
「……おっぱい、店長たちみたいにおっきくないよ?」
「俺は好きだよ」
「……………………なら、いいけど」
許可を得て、じわじわと少女の身体に触れていく。だんだんと際どいところに近づくにつれてユウキもじれったそうに悶えることが増えだしたが、普夫の手を拒絶することはなかった。
「んん……っ」
泡まみれの手で。その感触を確かめるように、ほんのりと膨らんだ柔肉に触れる。熱っぽい声音が響いた。
浴室に入ってきたときに彼女の身につけたタオルはもうその手から離れ、今やずぶ濡れになって鼠蹊部を普夫の目線から隠すだけとなっている。背後から両手で胸を揉みしだき、ユウキの甘い吐息を聞きながらその性感を探る青年はやがて自己主張を激しくしてつんととがった乳突起に指で触れた。
「ひゃっ、ァぁ……っ♡ モブさっ、そこっ、いきなり……!」
「可愛いよ」
「んっ、~~~~~~ッッ! ば、ばかぁ……♡」
くすぐるように触れたかと思えば、指先で弾いたり。マッサージでもするようにして掌全体でこねまわしたかと思えば焦らすように触れるだけの愛撫をしたり。真っ赤になって身悶えしながら、くまなく愛で尽くさんばかりの愛撫に喘いでいた少女はやがて普夫の膝上でびくびくっとその華奢な肢体を震わせ声にならない悲鳴をあげ――。いよいよその目に涙を滲ませながら身を反転させ普夫と向かい合う。
「~~~~~~っ!! モブさんっ、いい加減、えっち、してっ!! 意地悪っっ!!!! ずっと、おなかっ切ないから……っ! もうほんとにっ。我慢の限界なんだけど……!!」
「ん……」
はらりと、濡れたタオルがズレ落ちる。
お湯に交じり、ひくつくワレメからとどめなく流れる愛蜜が腿を伝うのが見えた。愛撫を受けている間もずっと切なそうに腰をくねらせ、身を預けていた普夫の膝に擦らせ続けていた秘裂は薄桃色に火照って雫を滴らせている――。
最初から彼女は、自身の身体の昂りに悩まされていることを申告していた。今のユウキの火照り切った身体には、じれったい少しずつ慣らしていくようなスキンシップは逆に毒だったか。
――我慢の限界は、割とこっちもなんだけどな。
苦笑しながら、風呂に入る段階で持ち込んでいたゴムの包装を開く。コンドームを見て目を見開いては興味津々の表情になったユウキだったが――視線の先をそれを着ける矛先へと変えた彼女は、ごくりと生唾を呑んでいた。
「――これが、入るんだ。私の、ナカに――っ♡ モブ、さん……?」
「やっぱりここが、大元か」
身を震わすユウキの下腹部。臍の下あたりを掌で撫でながら、青年は目を細める。
シャワーを浴び、愛撫のなかで上気した身体。そのなかでも明瞭なまでに、熱を宿した箇所。
「――本当にごめんな、ユウキちゃん」
そっと頬を撫でながら。
問いかける。
「――君のハジメテ。俺がもらってもいいかい?」
「なんで、謝るの。モブさんのバカ」
――モブさんじゃないと、やだよ。
不貞腐れたように、気恥しそうに、どこか泣きそうにしながら応えたユウキに微笑む。
散々待ちぼうけを食らっていた肉槍は、ひと思いに少女を貫いた。
***
意識を取り戻しました。
両手足欠損。眼底骨折。
出血量危険域。異形化によってどうにか永らえている状態です。
覚醒する。
白い天井。眼球だけ動かせば、窓の向こうに映る景色は移動し――身が揺れる。救急車か。聞こえる声は医療スタッフによる者か。
血みどろ神父と呼ばれていた男は唸り声をあげる。身を何度もくねらせ、移動しようとしたが――全身をベルト状の拘束具によって戒められ、両手足も欠損している彼には最早抵抗手段もない。
「おの、れぇ」
「くそっ、くそっ、くそぉっ、あのやろう――やりやがったな、あの野郎! 詐欺みたいな真似を、しやがって!!」
愛用の闇のカードの気配さえないのに歯噛みした男はただ吼える。
嫌な臭いがした。
――闇を滅ぼす者として勤めを果たしていた。
異端を駆逐する聖伐者が対処療法であるならば、彼らのいた機関は根治療法……。いや、そんなに発展性のあるものでもなかったか。どちらかといえば
彼らは、異端に、怪物に、黒く塗れた魂たちに。穏やかな終わりを許さない。
呪いを暴く。
痛みを紐解く。
穢れを切除し、魂を
そして、すべてを搾りあげて。汚泥のような邪悪を徹底的に壊した末に残る
魂まで染め上げられた、闇のカードを使用した者の
死ぬべき邪悪に、最期の贖いをさせるための集団。彼はその一員だった。
使命感はあった。誇りも。理想も。神の為に、自身の差しだし得るすべてを捧げ、悪鬼を裂き、呪いを殺し、穢れを祓い、血みどろの密室のなかで闇を解体し続けて。
「――が、ぁぁ」
「ぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「あぁぁぁぁぁあああああああああああああああああぁぁ!! あいつ! あの男!! あの野郎……!!」
身悶える。喪われた手足から伝わる幻痛に。
もがく。憤怒と殺意を、己を破滅させた男に燃やして。
闇のファイトのアンティは絶対だ。命令に従えと言えば相手は人形となる。自分の女を差し出せといえば差し出す。死ねといえば死ぬ。例外は闇に抗う力を宿した
そしてそれは、闇のカードの持ち主にも適用される法則だった。
あのわけのわからないデッキ破壊によって敗れた血みどろの男は、速やかに手足を闇に呑まれた。
闇のカードも奪われ、五体も削がれ。粛清のために常に教会から狙われる立場であった彼には、最早未来はない。
「くそっ、くそっくそ――。助けろ!! シャフル!!!! 何のための契約だと思っている!! 俺は成功した、していたんだ!! あのレガシーをもっていた小娘の共鳴もあと少しで断てた! レガシーカードを奪うのもあとほんの10秒あれば事足りたんだ!次は必ず壊せる、必ず奪える! だから早く来い、来い!! 来いと言っているんだ!!!!」
叫びは届かない。
当然だ。
仮に届いていたとしても
彼自身が、そうだったのだから――。
「――」
照明が切れる。点灯する。
気付いた時には、そこにいた。
男の拘束される寝台には、ずらりと。顔をヴェールで覆った無貌の集団が、並んでいた。
「待っ」
馬鹿なと、男の喉が引き攣る。
知っている。その姿を。理解する。その意味を。
だって彼は、そこにいたのだから。
「待て、待て待て待て、待て!! おいっ、お前ら――教会は、教会は!! あの男を見過ごしたのかっ!?だとしたらとんだ失態だぞ、あの男は、あの男のデッキは異端だ!
闇に浸され切った魂。その処置は簡単だ。
薬草を織り込んだ布地による猿轡をつける。
殉教者のために用意される、笑顔を描かれた
只人には贖いきれない罪を重ねた魂に、安易な死は許されない。
死ねず、眠れず、喰えず、喋れず――教会の最奥まで運ばれた咎人は、殉教者として認められるそのときまでその身と魂をもって世界の為に奉仕する。
『秘匿輸送が 可能な サイズまで 切り分ける』
『――施術を 開始します』
「――、っ。―――――――――ッッ!!!!」
声にならない叫びが車両に響き渡る。
そしてそれは、一切外界に漏れ出ることはなかった。
***
――あ、不味い。
普夫がそう思ったのは、自身に身を委ねたユウキの純潔を貰い受けたその直後。
弾けるものがあった。流れ込んでくるものがあった。それは、少女の胎のなかで蟠って彼女を苦しめていた余剰なまでに蓄積された生命力そのもの。それをそうと理解できずとも、少女から流れこんできたものを何かしらの力として彼は理解し、受け止め――、一瞬後には、自分が
これは不味い、暴走する前にどうにか発散しないと目の前の少女も傷つけかねない。即座にその未来を思い描いた彼はユウキにひと声かけようとして――。
「――モブさんっ、モブさんっ、モブさん――っっ♡♡♡」
「…………ッ。ユウキちゃん……!?!?」
浴室に響き渡る水音。決壊したように溢れる愛蜜を潤滑油に、青年の滾りを咥えこんだ少女はその華奢な身体のどこにその力が残っていたのかと言いたくなるような勢いで腰を振る。
嬌声をはねあげ、身をのけぞらせ、身悶える。自らも快楽に華奢な身体を震え上がらせながらとろんと蕩けた瞳で普夫を見つめ、夢中になって彼の身体にしがみつきながらその熱く発情した膣肉は自らに押し入った剛直をしめつけ、貪り、しゃぶりつく。
気付けばゴムはその役割を終えていた。きゅうきゅうと締めつけを強めて逃すまいとする雌穴から滾りを引き抜いて、声にもならない嬌声をあげた少女に何度か呼びかけて、気付く。
自分が今も持て余す情動を、下手すれば退院したあの日からひとりで抱え続けていた少女は、もうとっくに限界を超えていたことに。
「モブさん、好き、好きぃ……♡ ね、もっと、もっと──ぎゅって、して♡」
砂漠で飢えながら懸命に、懸命に歩き続けていたところにオアシスに辿り着いたようなものだ。情交の果てに身を苦しめられていた熱の塊は無事に弾け──そして、少女の理性は飛んだ。そして間も無く、普夫の方も。
避妊の備えは少ない。彼の腕に抱かれながらキスを繰り返す少女に向けたくなる肉欲をすんでのところで抑えながら彼はシャワーの温度を変え──冷や水をぶちまける。
「ひゃぁぁぁぁぁあ⁉︎⁉︎ へっ、なにっ、なにモブさ──へ?」
悲鳴をあげて仰け反ったユウキ。我慢の限界の果てにほとんど意識を失いながら快楽に溺れようとしていた少女は、突然浴びせられた冷水に悲鳴をあげて、普夫の顔をみて、自分の状況を思い出し、顔を紅潮させながら涙を目に浮かべだして──。
「も、モブさ、私──「ユウキちゃんちょっっっと待てるか。ゴムをダッシュで買ってくるから」……へっ?」
「身支度は……最低限、整えておくか。ユウキちゃん水いきなり浴びせてごめん。僕はすぐあがってちょっと避妊具買ってくるけど、ユウキちゃんはどうする、もう少し風呂入ってる?」
「そ、それじゃあ……もう少し、入ってます……」
「わかった、ほんとにごめん。僕の認識が甘かった――。マジで、これに耐えてたのすごいよユウキちゃん。本当にごめん、気付けなくって――」
「…………は、恥ずかしいよ、そんなこと言われても……」
Q.お待たせ、ユウキちゃんどうするまだえっちする?
A.します………………。
互いに、熱が収まらなかったのだ。
身に余る滾りを宿した普夫と、それに翻弄されながらも耐えた果てにその身をずっと火照らせ続けていたユウキ。
浴室を出て、身体を乾かした2人はそのままベッドに直行し――熱の赴くままに、互いの身体を貪りあった。
当初と違うのは、緊張がほぐれたこと。交わり合うなかでもある程度会話を交わすくらいには余裕と、理性を残すことができていたこと。
「ンッ……♡ モブさんって……お尻、好きなんですか?」
「人並みくらいじゃないかと思うけど。なんで?」
「だ、だって。ずっと見てたし、今だってさわっ……ひゃん! えっち!」
「つい……」
「うわぁ……。あんなに出したのに、まだ元気なんだ。すご……ッ、また、大きくなってる♡ もっとシます? 私はイイよ……♡」
「うーーん……。参ったな、病みつきになっちゃうかも……」
「もう結構な時間だけど、お母さんには伝えてあるの? 僕の家に来るってこと」
「さっき、連絡しました。今日モブさんのところでお泊りするねって。……泊まって、いいですか?」
「事後承諾かよ。いいよ、でも夜飯なー、どうすっかなあ」
「モブさんってご飯作れるんですか?」
「まあ普通に、簡単にやれる範疇なら。……焼肉で良い?」
「喜んで!」
「えっ、モブさんのご家族はいないんですか?」
「あー……。今は、遠くにね」
(サレンさんみたいに天涯孤独……なのかな。高校生なのに、セト店長の護衛やって生計たててるくらいだし……)
「あ、その……。名前。これから、普夫さんって呼んでもいい?」
「へ、別にいいけど」
「やった! えっと、じゃあ……。ふ、フツオさん……」
「……逆によそよそしくないかな。いいよモブで、そっちの方がユウキちゃんも慣れてるだろ」
「えーっ。……うーん、じゃあ」
「――もっともーっと、一緒に居たいですってときにだけ。普夫さんって、呼んでもいいですか?」
「………………まあ、うん。いいよ、それはぜんぜん。喜んで」
――マジでめちゃくちゃ可愛いなこの娘。
夢中になって交わって、お風呂にまた入って、夜ご飯を一緒に食べて、交わって。互いに昂りをすっかり発散したあと、すやすやと寝入る少女の頬を撫でながら普夫は嘆息する。
充足、達成感、満足感。
中学生になったばかりの女の子を抱いてそんな感慨を覚えてしまう自分に絶望を覚えないでもないが――。まあ仕方ないよなと、半ば開き直りの境地で受け入れる。
幸せにしたいなと。心から思った。
何があっても守ろうと、胸に誓った。
自分は何を彼女に与えることができるか。悩んで、悩んで、悩んで――。
「……幸せすぎる」
お母さんに笑顔で出迎えられて。ずっと心配をかけてたことを謝って、ぎゅうって抱きしめてもらって、あれそれと普夫さんのことを聞かれて。1日ぶりに自分の部屋に戻った私は、ベッドのうえに倒れこみながらぽつりとつぶやく。
「えへへへ~~……」
普夫さんの家にお泊りした朝は一緒にシャワーを浴びて、ご飯を食べて――朝ごはんは私が担当して美味しいって言って貰えた――そのあとはめいっぱい甘えたおしたあと、普夫さんに家まで付き添ってもらいながら帰った。
またおいでって言って貰えたし、今度の空いてる時間も教えて貰えたし、最後にはキスしてぎゅーってしてもらえた。
「どうしようどうしようアリーシャっ。あんなに最悪だったのに、ずっとずっとあのままなのかなって思ってたのに……こんな気持ちになっちゃっていいのかな!? 幸せーーーー♡」
『……どうしよう、めちゃくちゃ悪い男に誑かされてるように思えなくもないけれどあんな風に助けてもらった以上強くは文句言えないし……。認めるしかないか……』
ぱっと着替えて、るんるん気分でスキップしながらお母さんのところにいく。たくさん、たくさん、話したいことがあった。たくさん、幸せだって伝えたかった。
そして――。
「ふふ、久々に本当に幸せそうな顔見れてよかったなあ……。ねっねっユウキちゃん聞かせて。どうやって告白したの!?」
「えへへっ、それはねぇ……。………………………あ゛」
お母さんの質問に答えようとして。
思い浮かんだのは、おなかの疼きに耐えかねてモブさんのところに通った時の一幕。
『お願い。お願いだから、モブさん。私と――私とえっち、してください』
『もう、やだぁ……っ。好きなひとに、こんな姿なんかみせたくなかったあ……‼︎』
あーーーーーーーーーー!!
蒼白になった私の悲鳴が、我が家を揺らした。
「やだやだやだやだひどい! ひどい! 私最悪な告白しかできてない!! どうしよう!!」
浮かれてた、浮かれすぎてた、サイアク! 最低!!
いくらなんでもあんなのやだ!! モブさんは優しいから許してくれそうだけどあんなのが一生モノになるかもしれないの普通に嫌だ!!
「ど、どうにか、どうにかできないかな……! あ、アリーシャ! そのっなんとかモブさんと、あとできたら私の記憶をうまいことキレイにしてくれたりとかできたりしない!?」
『ごめんなさいユウキ。私には殴ることしか……』
「物理なんだ! ゴメン忘れて! ――えぇぇぇっ、あれが、あれが私の最初の告白!? ウソでしょー!? 本当にやだーーーー!」
というかよくよく考えたら普夫さんが私とえっちしてくれたのも私が苦しんでたからってだけじゃん! 責任取ってあのひとは付き合ってくれる雰囲気だけど! なんならお嫁にもらってくれそうな空気もあるけれど! どうしようどうしようソレ考えたらドロシーさんやセト店長にすっごく悪い気がしてきた!
『恋は正々堂々だよ! あとあの告白は本当にどうにかしよう!』
『そもそも普夫さんのこと好きになっちゃうのはもう仕方なくない? もうあれは早い者勝ちでいいでしょっ。あとあの告白はどうにかした方がいいと思う』
いろいろと真っすぐな
本当に、本当にどうしよう――!!
そんな風に、ベッドで転がりながら悶えているときに携帯に出た通知。それを見た私は心臓が飛び跳ねる心地を覚えながらメッセージを確認する。
普夫さんからの連絡だった。
***
悩んだ。
悩んで。悩んで。悩んで悩んで悩んで。もう結構がっつり未練たらたらで、いろいろ想像するだけでも胸がきりきり痛んで、それでもなんとか納得いく答えを出そうとして――。結局、次の日の待ち合わせ場所についたときにはばっちり寝不足だった。
「……ユウキちゃん、大丈夫?」
「はい。……あっ平気だよ! 大丈夫! 本当に大丈夫ですっ! そのっ、おなかのヘンなのも、もうモブさんのおかげですっきりしたから!」
「そっか、それはよかったけど……」
放課後のタイミングを見計らって普夫さんに指定されたのは、Meeking最寄りの公園だ。
Life部の活動が終わって駆けつけたら、私より早く普夫さんは待ってくれていた。もうお仕事に入ってたけどちょっとだけ抜けさせてもらって私のことを待っていてくれていたらしい。
「ちょっとさ、渡したいものがあってね。――はいこれ、合鍵」
「――」
「また困ったとき頼れるところがあればって思ってね。もちろん、これといった用がなくたっていつでもその鍵を使ってもらっても構わないけれど――」
どうしよう。
めちゃくちゃ嬉しい。
せっかく決心してやってきたのに、ものすごい喜んじゃってる。結構揺らいじゃう。
泣きそう。
「……………………………………合鍵は、モライマス」
「あ、うん」
「ただ――その」
「告白は、一旦、忘れてもらえたらなぁ、なんて……」
「うん??」
物凄い震え声になってしまった。
ど、どうしよう!普夫さんにも『え、振られたの今? マジか……。マジかー、まあ仕方ないよな……。いろいろと問題のある関係なのも確かだしな……。え、いやマジか……めちゃくちゃショックだな……』って顔されてる!
違うの!
「ちゃんと告白したいだけなの!」
必死に声を張り上げる。
だって考えれば考えるほど、ドツボにはまってしまって。
ひどい告白しちゃっただけじゃない。今回そうなる発端を考えたら、私はどこまでも無力だったから。
「私、強くなるから!」
「もう二度と、闇のファイターに敗けないように! モブさんの本気のデッキとファイトしたって敗けないくらいに!」
「あんなひどいすがたで、モブさんに縋りついて、泣くことしかできないような私はやだ! モブさんにずっと守られて、愛されて、与えられてばかりな私はやだ!」
「モブさんが安心して背中を預けてくれる、そんな私になりたい! 私が恋したから、好きだからとかじゃなくて、モブさんからも大好きだ、愛してるって、ずっと一緒にいてくれって言ってもらえるような、そんな素敵な私になりたい!」
「だから――だからっ」
「そんな私になれたらっ、またっ、また――」
「もう一回!! ちゃんと! 告白させてくださいっ!」
もうめちゃくちゃだった。
せっかくの普夫さんの厚意も無下にした、言いたいことばっかりを詰め込んだひどい訴え。いろいろと間違えていた気もする、履き違えている気もする。だけど――それでも、どうか伝わっていてほしいと祈る。
私は。貴方が。
本当に本当に、大好きなんです。
貴方に胸を張れる、私でいたいんです。
だから。
だから――。
「……わかった」
ぽんと。頭のうえに掌を乗せられて。いつもの優しくて、大きくて、温かな手で撫でられて。
「そういうことなら気長に待つさ。……ありがとうな、ユウキちゃん」
「それだったら、俺も――その気持ちに応えられる男でいられるように、頑張るよ」
「――はいっ!」
――そんな決心をして、間もなく。
秋の涼しさを感じさせる外気のなかで、着慣れない道着の感触を確かめながら。私は気門道場の敷地にある広い草原で、ここでの先輩として紹介されたひとからの説明を受けていた。
「ユウキちゃんは護身術コースでの受講だったよね。それだったらまずは最低限の体力作りだ。初日はまず敷地内の軽いジョギングから、そのあとは休憩を挟んで道場でひととおりの筋トレと、身の守り方や逃げ方の指導を――」
「あの」
「うん」
「なんでモブさんがいるんですか??」
「僕はここで修行してるからね。名目上は護身術コース受講してるってことになってるし、師範からも気心の知れてる相手が担当した方がいいだろうって」
「へ、へぇー……」
じゃ、じゃあ護身術コースってかなり本格的なのかな……。ここで鍛えたらモブさんくらい強くなれるってこと!?
「それじゃ、かるーく走り込みを始めようか。道場の案内も兼ねてあちこちまわっていくから、準備ができたら行こう」
「あっはい! 大丈夫です!」
強くなりたい。普夫さんに対しての宣言に嘘はなかった。
ファイトの腕前もそうだけれど、それ以上に――
手ほどきをしてもらえるひとがいるって案内されて、それが普夫さんだったのは予想外だったけれど――。
「はぁっ、はぁっ、はっ――」
「あまり焦らなくってもいいよ、自分のペースでいこう。結構ここも広いからねー」
「はっ、はぁい!」
そうして始まった走り込み。
始まって数分たったけど、かなり長い。本当にジョギングか早歩きみたいなくらいのペースで小走りしながら、私はちらっと普夫さんを見た。
「……」
……歩幅合わせてくれてる。優しい。
「……」
ずっと見られてる。大丈夫かなあって気遣いと頑張ってるなあって労いが目線からすっごく感じる。好き。
「……」
ちらって横目で普夫さんを見るけれど――。私はもうちょっと息切れしだしてるのに、あのひとは呼吸ひとつ乱さないで綺麗なフォームで小走りしていた。かっこいい。
ずっと胸がばくばくどきどきしちゃってるのは、多分走ってるからだけじゃない気がした。
「――それじゃあこの辺で一息つこっか。水分補給はしっかりね」
「わかりました! ――ねっ、モブさん、ちょっといい!?」
「うん? いいけど――」
辿り着いた高台。水分補給を済ませた私は、山のなか、緑豊かな大自然が
叫ぶ。
「――ダメだよこんなのーーーっ、余計好きになっちゃうよーーーーーー!!」
ちょっとやまびこが聞こえた気がした。
もう少し自分を虐めて鍛え直さないとって思ってたのに! こんなのダメだって! ダメだって! ただでさえずっと甘やかしてもらってるのにっ、こんなところでまで普夫さんに面倒みてもらっちゃったら無限に甘えたくなっちゃうじゃん!!
『ユウキ……。もうすっかりベタ惚れしちゃって……』
「仕方ないじゃんこんなの!」
そんな風にアリーシャとやりとりしながら普夫さんのところに戻る。ちょっと気持ちよかったけど顔は熱かった。思いの丈を力いっぱい吐き出した私は、少し気恥しそうにしてる普夫さんの顔をあまり見ないようにしながら「もう休憩大丈夫ですっ、行こうっ!」と声を張り上げて走り出す。
――途中でペース早めすぎたのが災いしてひいひい言いながら辿り着いた先でなんか生温かい目線で見られたり、師範のお爺ちゃんにニヤニヤされてたり、マリカさんが「わかるわかるフツ兄ほんとうにかっこいいよね~」なんて頷いてくるのをみて、さっきの叫びが普通にみんなに聞かれちゃってたのを知るのは10分後のことだった。
・モブくん:不思議と、心が満たされた。
本気で誰かのことを好きになった時はナチュラルにクソ重いタイプだと思う。
・ユウキちゃん:モブくんと結婚する。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
こんなボリュームと内容で書けることはそうないのでこのモブユウ以降はかなり薄い本って感じの短編をさくさくっと投稿する予定です。
2話予定:モブドロ セックスしないと出られない部屋
3話予定:モブくん看病回 マリカちゃんドロシー3P