切り光薄い本いろいろ 作:風剣
もしもあのときの弾丸が最初に放たれたのがユウキちゃんにだったら――?
vs闇ロボ(薄い本仕様)
建物全体の拉ぐような不気味な揺れ、それに足を取られそうになりながら。
蘇った
「はぁーっ、はーー……っ!!」
恐ろしい存在感をもって現れるクリーチャーの数々、ひとつでも通せば死に繋がる極悪なカードが次々と襲い掛かるバベルデッキの猛威。ともに戦ったサレンの助力がなければ到底保たなかったような、頭の灼けてしまうような死闘がそこにはあった。
肺が急激に酸素を求めだすのにぜえぜえと息を荒げて胸を上下させるユウキ。このまま寝そべってしまえば固い床のうえで熟睡してしまえそうな脱力感に苦しみながら、少女はせめて仲間の無事だけでも確認しようとサレンの方を振り向こうとして――。
パン、と。胸の中心で何かが弾けた。
「へ? ――いったぁ!?」
《ユウキ!!》
遅れて奔った痛み。目を白黒させたユウキが胸の中心をさする。即座に現れたアリーシャが錫杖を打ち鳴らしてきっと前方を睨みつける方へ視線を向ければ、そこにいたのは少女社長に付き従っていた秘書の女性で――。
「チッ。命衣流――。流石に、堅い……!」
《ユウキ、無事!? ――お前っ、真明裁判たるファイトに負けておきながら……!》
「敗北したのはこの失敗作です、私は関係していません」
――メガバベルに敗北はない。
連続する銃声。アリーシャが護る。その状況に業を煮やしたのか、ちらりと倒れる少女社長を一瞥した彼女は
きらりと、鋭く。
ユウキたちの目の前で、斬閃が奔った。
「な。ぁ……⁉」
「サレンさん……!」
掲げられた手、それに握られていた塊がズレる。3枚に
ユウキを護っていたアリーシャが攻勢に移るよりも早く秘書の凶行を止めたのは、ファイトの敗北から復帰して襲い掛かったサレン。目にもとまらぬ早業でワイヤーを閃かせてスーツの女性を無力化した彼女は、懐に隠し持っていた銃器を解体して拘束した秘書を足蹴にし気絶させる。
「サレンさん、大丈夫なの!?」
「待って。それはこちらのセリフ」
ふうと息をついた紫色の髪の少女は、駆け寄ってきたユウキを押し留めては上から下まで眺めまわすとやがて相好を崩した。
「怪我は、してないね。……無事で、よかった」
「さ、サレンさんだってぇ……! ……い、いやそんな無事じゃないね!? サレンさん結構ボロボロだよ!?」
「正直めっちゃくちゃ痛いけどまあ平気。あの規模のイグニッションでレガシーの直撃浴びて五体満足の時点で上出来だから。それこそ、単純な損害でいうならユウキと引き分けたときの方が大きかったし」
「え、なんで!? 引き分けだよ!?」
「いやあの仮面、結構お気に入りだったのに壊れちゃったから……」
「えー!?」
そんな風にやりとりしていると、ずずん……と不気味な音とともに建物が揺れる。
踏鞴を踏み転びそうになったユウキを支え、サレンが油断なく周囲を見回す。街に悠然と聳え立っていたメガバベル日本支社は、今や軋みをあげてはぐらぐらと不穏な揺れを続けていた。
「わわっ……!?」
「レガシー3枚が大暴れしたんだ、この建物自体が限界を迎えていてもおかしくはない。……早く降りよう、あそこの人たちも危ないかもしれない」
「あっそうだ下のひとたちも助けないと……!」
「……そこの社長も連れて行こう。責任者の権限で装置を止めさせなきゃ。こっちは正当にファイトで打ち勝ったんだ、捕まってるひとたちも解放してもらう」
最強の傭兵ファイターの冷徹な目線と声音に乗った凄味に桜色の髪の少女は思わず気圧されたように怯んだが、その判断に否やを唱えることはなかった。地下で囚われていた人々の解放はしなくてはならなかったし、何より目の前の小さな女の子を当たり前のように銃器や爆物を引っ提げていた秘書のそばに置いておきたくはなかったからだ。
「さて、起こす前に……」
「……え、何やってるのサレンさん⁉︎ 追い剥ぎ⁉︎」
「流石にこの子に余力はないだろうけれど、さっきのやつみたいに抵抗されても困るから。最低限ボードは壊しておかないと……」
ずいと進み出て小さな社長を転がし、サイズの合っていないスーツのなかに手を突っ込んでは次々に身ぐるみを剥いでいくサレン。ぎょっと目を剥いたユウキが慌てるなか、怪しげな装置に携帯端末にデッキボードにと遠慮なしに装備を強奪していく彼女は直後にはワイヤーを振り抜き少女社長の使用していた巨大なボードを鮮やかに分解してのけた。
身の丈を越えるバベルデッキの運用を実現した明らかな特注品、物凄い高級そうなデッキボードが無残に五等分されたのを見てユウキが蒼褪めるのも構わず無力化を済ませたサレンはぺちぺちと気を失った少女の頬を叩く。
「起きて。……起きろ。…………ほら、起きて、ほら」
ぺちぺちと叩く手がじわじわ強くなっていくのを止めるか否かユウキが迷っていると……、何か違和感を覚えたかのように動きを止めたサレンは身を屈め小さな社長の胸に頭を寄せては耳を澄ませ、続いてその手を取って脈を確認すると険しい目でユウキを見つめた。
「そういえば、私途中まで力尽きていたから決着の時もぼんやりとしか見れてなかったけれど……。もしかしてユウキ、
「殺してないよ!?!?」
「冗談。だけど――、なんかこの子、変。何かしらの精霊が悪さをした気配もない、けれど……。いくらイグニッションとはいえ、ファイトで敗かしただけにしては――」
そこまで言いかけて、紫色の髪を揺らし首を振った彼女はぐったりと脱力する少女を肩で支えながらぐいと起き上がらせる。不安にさせるだけさせて黙らないでよー!? と悲鳴をあげるユウキに背を向けるサレンは、彼女に合図だけして扉の方へと向かいながら対峙した社長自身が口にしていた言葉を思い浮かべていた。
――メガバベル日本支部社長。その役割のために配置され、人類の経済を奪還するための柱です。
――はい。私は、そのための機材です。
大なり小なり我の強い傾向のあるファイターには似つかわしくない言。違和感ではあった。
ハグルマ。道具。機材。柱。……名乗られなかった、名前。
彼女は一度も、自分を、普通のヒトのようには――。
……。
…………。
ならば。
役割を果たせなかった
その処遇は、メガバベルではどうなる――?
***
辿り着いたエレベーターは問題なく動いた。
建物自体がおっかない動きで揺れているから正直足元もかなり覚束なくって怖いけれど、今のところこれといって問題もない。社長と戦ったところはかなり高かったから、階段を使って降りる必要がなかったのは安心した。
「さ……サレンさん、大丈夫? さっきのケガもあるんだし無理しないで、その子をおんぶするの私も代わるよっ」
「平気、私はまだ十分余力がある。ユウキが戦っている間ぐっすり眠れたから目も冴えてる」
「あれは気絶って言うんじゃないかな……?」
それに、サレンさんがビームに吹っ飛ばされてから決着まで、10分もかからなかったような。
まだ短い付き合いだけれど、初めて会ったときは凄いクールで落ち着いた、どこか氷のような感じすら感じさせられていたサレンさんが実はとっても優しいことも、年下の私に気を遣わせないように超疲れていても平気そうに振る舞うようなひとであることもなんとなくわかってきた。
あんなに危険なファイトだったのだ。ゼブルとかって呼ばれていたカードの攻撃も、命の危険を肌で理解できるような恐ろしいものだった――。強がってはいるけれど時々エレベーターの揺れと一緒にふらついてるし、絶対に平気だなんてことはないと思う。
ずっと助けられてばかりだったからせめてこういうときは力になりたいなあと思いながら説得の言葉を探していると、気付けば地下も近付いてきていた。
ロボに捕まっていた私と同じようカードも奪われて囚われの身になっていたひとたち。他の支部にもいるらしいメガバベルの被害者のひとたちも、今サレンさんが抱えている社長さんの力で開放してもらわないといけない。
……ファイトの間は無我夢中だったけど、そういえばちゃんとファイト前のアンティって結べてたっけ?
今は社長さんぐったりしてるけれど、起きたらきちんとみんなを解放してくれてたかな……。
「……ユウキ。ちょっとこの子を預かってて」
「えっあっうん!!」
チンと音を立ててエレベーターが止まるなか、サレンさんが肩で支えていた女の子が私に預けられる。
ようやく頼ってもらえたことが嬉しくてつい上ずった声をあげてしまうなか、何故かサレンさんはワイヤーを準備していて。
「囲まれてはいない、単に運が悪かっただけ? ――いるね」
音すらなく、エレベーターの扉が分割されて、しなやかな脚を伸ばしたサレンさんごと吹っ飛んでいって。
エレベーターの前にいたロボットが、頭を刈り取られて転がった。
「えぇ!?」
「警備。このへんのは停めたつもりだったけどまだ残っていたか。それとも――この非常時にあたって抱えこまれてた戦力が放出された……?」
警戒して周りを見回しながら低い声で呟くサレンさんだったけれど、やがて増援が来る気配がないのを確認すると「私が先行する。ついてきて」とだけ言い残して早足で進んでいく。
社長さんに肩を支えながら慌ててその背中を追い重い足取りで進んでいると、暗い廊下で連続して散る火花。華麗な身のこなしとワイヤー術を駆使するサレンさんの後ろには新たに2体のロボットの残骸が散らばっていた。
す、すごい……!
前方の安全はサレンさんが確保してくれている。安心感が凄かった。よたよたと覚束ない足取りになってしまいながらも社長さんを運んでついていくと、何体もののロボットをバラバラにしてのけていたサレンさんが私と同じように捕まっていたひとたちのいた部屋を前に立ち止まっているところまで追いついた。
「サレンさん? 中は――」
「不味いことになった」
へ?
凄く深刻そうな顔をするサレンさんの目線を追った先、たくさんのひとが捕まっていたはずの部屋を覗き込む。
何十人ものの人の閉じ込められた水槽。カードに憑いた精霊に、それと繋がっていたたくさんのひとたち。
街中から攫われてメガバベルのひとたちが目論む『柱』とかなんとかの計画のために囚われていたはずのひとたちは、忽然と姿を消していた。
「え、えぇえ!? ど、どういうこと!? ここに居たひとたちは!?」
「……ッ。私たちが暴れていたから、計画に必要な人材を他所に移した――、いや。それとも。なにか、別のイレギュラーがあった……?」
前方から順に綺麗に開けられた水槽、綺麗に開けられた水槽、綺麗に開けられた水槽、綺麗に開けられた水槽、ガラスの割れた水槽……。なんだか奥の方に進むほど、友だちと遊んでたときに帰る時間になって大慌てで掃除してたときみたいな雑さをうっすらと感じるような。
なんだか黒スーツのひとたちやロボットのやりかたじゃなさそうだなあと思いながらサレンさんと部屋の様子を見ていた私は、そういえばもうひとりこの建物にやってきているひとがいたのを思い出した。
「もしかして、店員さんがみんなを助けてくれたのかな……?」
「……そうかも。コンピューターのそばにパスワードのメモとマニュアルが置いてあった。多分闇の刺客を返り討ちにしてから捕まったひとたちを見つけて……。助けたのかな? 今通ってきた廊下もあっちこっちに黒服が倒れて隅っこに寄せられてたし、あのひとの仕業だったのかも」
「え、なにそれ気付かなかっ――」
社長ちゃんを担いだまま廊下の方を振り向くと、目が合った。
なんだかボードを構えている、見覚えのあるヒトガタのロボットと。
「えっ」
「――!? まずっ、ユウキ、構えて!!」
『――侵入者ヲ発見。侵入者ヲ発見』
『ガガッ、多量のスピリットを確認、鎮圧しシステムの補填にまわシます。ダークネス装置ヲ起動、フィールドヲ展開――』
べちゃりと、墨汁を盛大にぶちまけたかのような勢いでどす黒い「闇」が広がっていく。
訳も分からないままそこに呑まれた私は――気付けば社長ちゃんを背負ったまま、メガコーポのロボファイターと対峙させられていた。
「嘘……⁉」
『がgAgaG、アンティ指定――〈敗者ハ行動ノ自由ヲ喪ウ〉』
「ッ――。もう、こんなときに、卑怯だよ! ――ファイト!!」
『ボードIDヲ照会。生体データを照会。Loading……社内コードSS-002、カミジョウ ユウキ。指定のマシンまでオ戻リクダサイ。貴方はワレワレの目的ノタメニ必要デス。スピリット抽出にご協力クダサイ』
「絶対、イヤだ!」
ファイトが始まった。
――予感がした。
すごく、嫌な予感が。
もう、社長さんとの戦いで出せた不思議な変身なんてとっくに解けている。相手は前回ギリギリのところでなんとか勝てたようなロボファイターで、サレンさんも他のロボの展開したフィールドのなかでファイトしていてこちらまで助けに来れるかは怪しいところだった。
勝てないかもしれないって。全力のファイトの後で身も心もすっかり疲れ切ってしまっているのをひしひしと感じ取りながら、それでも力を振り絞ってドローをする。
『Install:登録コードA3089――〈
勝つんだ。
帰るんだ。
みんなで……!
『セット:赤の土地。アタック:
「ぐぅぅ……!」
「ッ……」
錆びついた斧を振るう屈強なクリーチャー。その一撃を浴びた私はたまらず吹っ飛ばされて社長ちゃんともども転がる。
ごめん……! まさか、この子まで一緒に領域に巻き込まれちゃうだなんて!
「くぅ……! 私のターン! メイン、 ライフカードをドロー……っ」
身体が悲鳴をあげる。胸の奥がきりきりと痛む。
どこか見覚えのあるデッキ。前にMeekingにやってきた傭兵ファイターさんのと同じような速攻デッキによる攻撃を受けた痛み、だけじゃない。
闇のファイト。闇の領域。今日初めて遭遇した、このロボファイターが展開する真っ黒い空間。
ここでのダメージは実体化する。相手のクリーチャーの攻撃は普段のボードでのファイトよりずっと重くって、痛い。そして――ライフデッキが削れたら、攻撃だけじゃない、ドローで土地を引くだけですらがっくりと身体から力が抜けて、思うようにファイトができなくなる。
「――土地をセットっ。〈ブレイバー・鉄肌〉〈ブレイバー・灼刃〉を召喚!灼刃の効果、私のライフを1点快復、<血に酔うレッドキャップ>に1ダメージ!」
『破壊サレます』
「ターンエンド!」
だけど、いける。
場のブレイバーは〈装甲〉と今出した〈鉄肌〉でタフネスを増している、そしてあっちの
『ターン開始:レディ→アップキープ→ドロー』
『セット:赤の土地』
『生贄:
きた……!
「〈献身の証明〉を発動! 〈ブレイバー・鋼士〉を生贄に打ち消すよ!」
『――速攻・貫通。生贄により
「灼刃、鉄肌でブロック……!灼刃が破壊されるとき、魔石〈勇気サイン〉の効果を発動! 山札から〈ブレイブ・火閃〉を手札に加える!」
攻撃力が足りていない。現れた炎の魔神の拳を複数ブロックで耐えても返り討ちには届かないで、私の場のブレイバーたちが斃れていく。
だけど――! 凌いだ!
『宣言:ターンエンド。
「?」
なにか変なことを言ったような。
でも、サレンさんのくれた打消しのおかげでこの窮地を乗り切れた。
相手にブロックできるカードは残ってない。このまま、いける……!
「私のターン、レディ、アップキープ、ドロー……!魔石〈ザ・エントリー〉をセット!」
「このカードは、墓地のブレイバーの数だけ軽減される!来て……
『レガシー反応検出、レガシー反応検出』
いける……、いけるよね!? なんかロボの様子が変だし、さっきから観察されてる? 気がしてすっごい不安なんだけど!
でもやるしかない! まだ私はギリギリなんとかなるけど、これ以上長引いたら社長さんまで危ない……!
そもそもなんでこのロボファイター平気で攻撃に巻き込んでくるの!? 人質に取ったつもりはないけど……自分が守る会社の、社長だよ!?
「1コスト、〈ブレイブ・火閃〉を場に! このクリーチャーの効果で、場のブレイバーには速攻が付与される……! 魔石〈ザ・エントリー〉の効果発動、このカードをステイし墓地に送って、〈勇者王〉の攻撃力を3増やすよ!」
『算出:墓地ブレイバー+1+3……攻撃力8。修正:条件ヲ満タシ攻撃力――』
「〈
『――攻撃力、10。このファイトは敗北します。このファイトは敗北します。データそうし』
「GO! ブレイブ、勇気斬!!」
これで、とどめ!
現れた勇者王の攻撃でロボットが真っ二つにされて。得体の知れない黒い空間も、崩れて消えていく。
これ、で――。
「ぐっ……!」
『――戦闘終了。アンティを履行します』
「サレンさん!?」
奥の方を見たら、ロボットの残骸が散らばるなかで崩れ落ちるサレンさんと。
サレンさんを捕まえようとしている、今のと同じ見た目のロボットファイターがいて――。
「やめて……! そのひとを離して!」
慌てて叫び声をあげるのにぐったりとするサレンさんを担いだロボットはぐりんと、頭だけ動かしてこっちを見て。
『参照:
「私が相手に――」
『否定:別機体がファイトを行います』
「えっ」
そのロボットの横から出てきたもう1体のロボファイターが、ボードと例の闇を発生させる装置を構えていて。
『多量のスピリットを確認、鎮圧しシステムの補填にまわシます。ダークネス装置ヲ起動、フィールドヲ展開――』
『Loading……。
そう告げた直後、またロボットからドス黒い闇が溢れ出して、私を、私たちを閉じ込めて。
そして私は、嘘のようにボロ負けした。
闇の機械姦回やるぜと散々いっておきながら濡れ場は次回
これは性癖開示ですが凌辱ものの薄い本だと最後のページまでたっぷり嬲られたヒロインがラスト1、2コマで白濁まみれの状態で発見されて救出されるシチュが一番好きです
そういう話です