※この作品はR-18です。

天江たい年頃   作:158

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メイドさんと

 桜の花弁舞い散る季節のある日。

 山際がやや明るくなってきたかという時間帯。

 龍門渕家別館で少女の寝言――叫びと言い換えた方が正しいだろうという声が流れた。

「イヤだ~!」

 

 

 

 その声で、館の主のサファイアを彷彿させる蒼い瞳が開かれた。

「むっ……また渚(なぎさ)のやつか。衣はまだ生寝だぞ……」

 また、ということは何度も同じように叩き起こされたことがあるらしい。

 天蓋付きのベッドから身を起こすと、大きくあくびをし、枕元の懐中時計に手を伸ばす。

 重いまぶたをこすりながら、それを開くと秒針は4時30分を示していた。

「……在りし日の夢を見ているのか。だが、それは乗り越えなければならぬ」

 最も衣自身、それを乗り越えられているかは自信がなかった。

 それ故にどうしてやれば良いのか、皆目検討つかない。

 今できることは、時の流れに全て委ね待つのみだ。

「渚、おやすみ……」

 取り急いだ問題でもなし。そう判断した現代に蘇ったアンティーク・ドールは、金砂をちり

ばめたかのように煌びやかな髪を撒き散らし、糸を切らした操り人形のように再び眠りの淵へ

と旅立った。

 

 

 

「渚さま、朝でございます」

 午前6時、付きのメイドの声で目を覚ました。

 どこか優しげで懐かしく、そして何故か辛い夢を見た。そんな気がする。

 ――優しい母と父。小さい姉と笑い合って過ごした楽しい日々。

(未練がましい……まだ戻れるとでも思っているのか)

 上半身を起こして、辺りを見渡すと豪華絢爛な調度品がイヤでも目に入る。

 寝室ではなく、応接間として使用しても問題ないのではないか。むしろその方が正しいよう

な気さえする。

 6年間、ほぼ毎日目にしている光景、それが渚に現実に引き戻す。

(いつまで経ってもここの生活は落ち着かんな)

 体中が汗でぐっしょりだ。気持ち悪い、早く着替えないと。

 そう思い、パジャマのボタンに手を掛ける。

 するとメイドの目にも見えぬ早業により、あっという間に裸に剥かれ、濡れタオルで体を拭

かれていた。

「渚さまお加減はいかがですか?」

「……」

 その問いに渚は答えない。こっちが気持ち良かろうが、悪かろうが、どうせこいつは自分の

やりたいようにやる。そう理解しているのだ。

(ラブ・ドールに感情はない……)

 だから、心を鉄仮面で覆い、好きなようにさせる。大好きな姉に、被害が及ばないように。

 龍門渕家当主は一族郎党に御触れを出した。

 曰く、

「天江の子に近付くな アレは理解の遥か外にいる」

 だから、本家に訴え様にも取り合ってすらもらえない。

 優しい従姉妹に相談すれば解決するのだろうが、どこかに禍根が残りそうで恐い。

 高々メイド一人と侮ることなかれ。口コミネットワークとは恐ろしいもので、流言飛語がま

ことしやかに語り継がれていく。

 ただでさえ腫れ物扱いされているのだ。天江姉妹に悪い噂でも立とうものなら、本家は容赦

なく、ポイッと路傍に捨て置くだろう。

 今の自分たちは未成年のガキ。そうなれば生きていくことができない。なので、この檻から

抜け出せるその日が来るまで、ただ耐えるしかない。

 幸い、文学者として名をはせた両親のおかげで金だけはあるのだ。

 成年すれば何とでも生きていける。

(……後少しで自由になれるんだ)

 メイドの手は首、肩、腕そして胸へと移動していく。

 そして優しく愛撫する様に、渚の双丘をねっとりじっとりと撫でる。

 あまりにもその手付きは淫美で、思わず声が漏れてしまう。

 いくら心を閉ざそうとも、感覚まで捨て去ることはできない。

「ん……んぅっ!」

 堪えきれず渚が嬌声を零すと、さらにメイドの手は動く。

 片手で乳頭をこねくりまわしながら、もう一方の手は腹、そして陰部へと移動していく。

「汗をフキフキしますね~」

 先ほどまでの慇懃無礼な態度はどこにやら。

 今度は幼子をあやすような口調で迫ってくる。

 軽く陰唇をなでると、タオルの角を尖らせ、陰核を弾く。

 渚は体の芯を電撃が突き抜けるような衝撃を覚え、背中を仰け反らす。

「ひゃ――っ!」

 その反応がおもしろいのか、何度も何度も繰り返し若芽を指でつまみ、弾き、そして――舌

を這わす。

「き、汚いから、やめ――ああぅ!」

 制止する渚の声は無視され、メイドの舌は尿道口、そしてその下の穴へと向かい、おもむろ

に吸い付いた。

「ああ、渚さまのお汁、おいしいです」

 滴り出る愛液をあらたか吸い尽くすと、メイドは口を離し、渚の口へと顔を移動させる。

 そして、恍惚の表情を浮かべこう言った。

「なので、独り占めはダメですよね? 凪さまにもおすそわけします」

「ひぃ!」

 こいつどっかおかしいぞ。

 いつもそうだが今日は常軌を逸している。

 渚は恐怖の感情を露わにし、後ずさった。

「なぜ……ですか? 私はこんなにも渚さまをお慕いしているというのに……」

 顔を伏せてぶつぶつと何やらつぶやいている。

 その表情は明らかでないが、見えない方が幸せなのだろう。

「……お仕置きが必要ですね」

 能面のように生気のない笑みを貼り付け、メイドはベッドに上がってきた。

 渚の下半身が先ほどとは違う意味で生暖かく濡れていた。

 そして、

「なぎさー、朝餉の時間だぞー」

 ――間一髪、助け船が入った。

 扉の外から館の主である姉からお呼びがかかった。

 その舌っ足らずな声は天使のようにも思えた。

 良かった……本当に良かったと、安堵のあまり渚がしばし呆然としていると、

「どうしたー、まだ宵の口に立っているつもりか?」

「衣さま、渚さまは粗相をしてしまいまして……少々遅れると思われます」

 クソメイドが余計なことを口走る。

 止めてくれ。ただでさえ幼い外見のせいで、同じような見た目の姉に、子供あつかいされて

いるのだ。

 こちとら前世の分を足せば倍以上年上なのに……。

 そんなことを伝えられると、ますますエスカレートしてしまう。

 悔しさに渚は奥歯を噛みしめる。

 ちらりとメイドに目をやれば、ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている。

(まさか、全部計算して――っ! いつか……殺す)

 この先の展開はもう想像できた。

 どうぜ「あらあら、まだまだ渚はお子様ですわね」と納得されたり、「オレも小さい頃はし

たさ。小さい頃はな」とからかわれたり、「失敗は誰にでもあるよ。ボクだって……」と妙に

しんみりした空気を醸し出したり、「……ありかも」などと意味ありげに呟いて、パソコンに

変な文章を打ち込み始めたりするのだ。

 いっそ智紀作のエロ小説の監修に乗り出そうか、などと現実逃避していると、

「……片腹大激痛」

 と言い残し、姉は去った。

「違う! 姉さん信じてくれ!」

 必死の声色で否定する渚だが、その態度は疑惑を深めるだけであった。

 そして気まずい静寂だけがこの場に残った。

 

 

 

 渚は軽くシャワーを浴びた後、着替えを済まし、食堂に降りた。

 そこには六人分のトーストにスクランブルエッグ、そして良い匂いを立てるコンソメスープ

が置かれていた。

「よぉ、今日は遅かったじゃねぇか大将! シーツの洗濯に時間がかかったのか?」

 快活に笑いながら、からかいの言葉を投げ掛けるのは井上純。

 180センチを超える長身と、ショートカットで整えられた銀髪がかっこよさを演出してい

る。

「そんなこと言っちゃだめだよ、純くん……」

 それを国広一が咎める。

 前髪に付けられた大きなリボンと、頬にある星マークのフェイスペイントがチャームポイン

トである、小柄でかわいらしい黒髪の女の子。

「……おはよう」

 何事もなかったかのように、静かに挨拶をするのは沢村智紀。

 純ほどではないが高めの身長と、この中の誰よりも大きいバストを持つ、黒髪ロングの無口

系美女。

 ちなみに純、一、智紀の三人は龍門渕家でメイド(という名の天江姉妹の遊び相手)を勤め

ているのだが、平日の朝はメイドではなく友人そして家族として共に食事を取る。

「今日から高校生ということで少し緊張したのでしょう。気にする必要はありませんわ」

 優しく微笑むのは、従姉妹の龍門渕透華。

 自信家で極度の目立ちたがり屋と、別にツンデレではないが、お嬢様属性の塊を地で行く猛

者である。

「早く座らぬか。衣はひだるしことこの上ない」

 何やら難しい言葉を使い、腹減った早く食べようと言うのは姉である天江衣。

 舌っ足らずな声とその口調がミスマッチな最近流行の合法ロリ(来年度9月予定)である。

 よほど空腹なのか少し機嫌が悪そうだ。

 その様子を見て、渚は素早く自身の席へと向かった。

 なお、衣と渚の見た目はほぼ同じであり、見分けるために、衣は赤いカチューシャを付け、

渚は青いカチューシャを付けている。

 

 

 

 今日は龍門渕高校の入学式。渚が晴れて透華たち麻雀部の仲間になる日でもある。

 入学式が終わり解散となった後、純が渚の教室まで出向き麻雀部の部屋へと向かっていた。

「しっかし時間が流れるのは早いな~。もうオレたちが二年で、渚が一年か」

「私はもっと早く時が過ぎて欲しい……」

 純は感慨深げにうんうんと頷きながら歩く。

 昨年は、牌に愛された子という肩書きが付くほど衣が活躍した。

 同じく牌に愛されている渚は、姉と同じくインターハイの話題の中心に立つのだろうか。

 そして今年は臨海女子にリベンジを果たさねばならない。

(“冷やし透華”始めましたってか)

 楽しみなことが山積みになるほどある。

 純は口笛を吹きたくなるほどご機嫌だった。

 その反面、渚は少し表情を暗くしていた。

「オイオイ、それはオレたちと一緒にいるのがイヤってことか? さすがに落ち込むぞ」

 純は言葉面とは違い、全然気にしたそぶりを見せずに渚を軽く小突く。

 しかし、渚は心ここにあらずという様子で大して反応を見せない。

(こりゃ重傷だな……)

 渚が何かを自分たちに隠しているのは全員気が付いている。

 気の短い純は無理矢理聞き出そうとしたこともあるが、その時の渚があまりにも悲しそうな

表情をしていたので止めた。

 姉妹揃って不器用なもんだ。

 今は、そう思いながらも、全てを打ち明けてくれるその日を待っている。

「暗い顔をしているヤツには飛行機の刑だ」

 そして、ヒョイと渚を脇に抱ると、「ひぃぃぃ!」という悲鳴を周囲に撒き散らしながら、

猛ダッシュで廊下を駆けていった。

 

 

 

「よう! お姫様をさらってきたぜ」

 純は乱暴に部室の扉を開ける。

 穴が空くのではないかと思うほど激しい衝撃音が鳴った。

「純! 少しは行儀良くしてみてはどうですの?」

 優雅に紅茶を飲んでいた透華が、カップを机に置いて立ち上がった。

 いつものことで半ば諦めてはいるとはいえ、自身の性格上、看過できない。

 透華は腰に手を当て、わたくし怒ってますのよというポージングで純に詰め寄る。

「わりぃわりぃ。来世までには考えておくわ」

「それは直す気がないと言っていると自分で気づいてますの?」

「前向きに善処する所存でございます」

「男なら優柔不断な態度を取らず、はっきりきっぱりと答えなさい!」

「オレは女だ!」

 純のこれっぽちも反省の色の見えない謝りに、透華はやれやれですわと両手を天に仰ぎ、大

げさにため息をついた。

「……それよりも渚が大変」

 ボソッと呟かれた智紀の声を聞き、透華が渚の姿を探すと、純の足下で目を回して倒れ込ん

でいた。

「ちょっ……純くん何したのさ!」

「いやー、今日のフライトは乱気流(階段)で揺れたからなぁ」

「また飛行機ごっこ!? それ一年前、衣にもやって透華に怒られたよね!?」

 ボク信じられないよと、一は頭が痛くなったが、そんなことしている場合じゃないと思い直

し、慌てて駆け寄り、渚に呼びかける。

「渚、大丈夫ですの? 円周率はいくつか答えられます?」

 透華は渚を抱え起こし、心配そうに見つめる。

 そして、意識レベルを確認するために問題を投げ掛けた。

「……およそ……3」

 渚は息絶え絶えという様子で何とか透華の質問に答えたが、力尽き目を閉じてしまった。

「……およそ3。何という悲劇! 渚がゆとり症候群に感染してしまいましたの!? こ、こ

れでは渚が留年してしまいますの――!?」

 ガビーンという効果音が背景に幻視されるくらい、わかりやすくショックを受ける透華。

 その芝居がかった姿を、他のメンバーは冷ややかな目で見つめていた。

「そのような催しは宴の席にて行ったらどうだ?」

 あまりにもくだらないやりとりに衣が絶対零度の視線を向けた。

「保健室行って来るわ。今回は安全運転で」

 居心地が悪くなった純は渚を抱え、逃げるように保健室へと向かった。

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