今週は何も考えていなかったので、アイデアノートから世に出すつもりが無かった短編のデストックを出しときます。
心の充足感がほしいのに、社会から求められている大人らしさの型から外れることが出来ず、野原を駆け回るだけで楽しかった幼少期を懐かしむのに留めておく──いつの間にか責任と共に肩書きが増え、毎日のデスクワークでぜい肉がついた体を見下ろしてはため息を吐き、ずいぶんと重くなったものだと、諦める。
そんな働く人達の疲れた心に寄り添った福祉活動があるとしたら、金銭には変えられないほどの価値があるだろうなと、俺は考えた。
水道橋に大鐘楼が有名な、暁の女神を信仰する国教と国王より権限を与えられた貴族制度によって成り立つ神聖ルバーディニア王国、その辺境にあるイーリスという自然が豊かで長閑な村で、俺は『ハクバの園』の園長という肩書きで暮らしていた。
ハクバの園には、門が二つある。一つは地面に打ち込まれた柵の囲いにある切れ間のような門で、もう一つは屋内の一室で都市と繋がっている転移門だ。
ハクバの園の庭では、雇っている先生の目の届く範囲で、今日も子供達の無邪気な笑い声で満ちていた。この子供達は、正確には子供達ではない。今も都市で働いている大人達の心の一部が子供の器に宿り、心の栄養をこうして補給しているのだ。
起動した転移門の、紫色の水面のような境界線から人の姿が現れて、分厚い衣服に真っ赤な長髪を靡かせた凛々しい女性が「アルマ、迎えに来たぞ」と自身の名前を優しく呼ぶと、濡らした砂山で遊んでいた少女が「はーい!」と返事をして駆けていき、両手を広げたアルマさんの胸に飛び込んだ少女の“アルマ”は一つに重なっていく……遊ばせた心の経験が、フィードバックする。
「感謝する。活力が漲ってくるようだ」
「アルマさん、ご自愛くださいね。心と体の健康は、繋がっていますので」
「フッ……ここを利用するようになって、思い知ったよ。これから食事をするつもりだ。よかったら、君も一緒に来ないか?」
「ハハハ……ありがたいお誘いですが、まだ仕事がありますので。遠慮しておきます」
「そうか。では、休日なら問題がないということだな。週末に予定は?」
「田舎暮らしの休日は、朝に菜園のお世話をするぐらいで、その後は読書をするつもりでしたが」
「読書か、本を読むことはいいことだ。私は活字を見ていると頭が痛くなるので苦手だったが、いつか君の読んでくれた絵本は楽しかったと覚えている。団員を率いる者として、後学のため私にも読めそうな本を教えてくれないだろうか」
「もちろんですっ!」
「では、決まりだな」
にやり、とアルマさんが笑みを深める。
あ、と気づいたときにはもう手遅れで、距離感を間違えないようにと今回も食事を断るつもりが、魅力的すぎる誘いについ、乗ってしまった。
その長い脚の一歩一歩で、転移門の奥へと消えたアルマさんを見送り、「ちょっと、園長~?公私混同は、だらしないですよっ!」とジト目で咎めてくるハクバの園で先生をしてくれているイーリス村出身のミレイさんに「違うんだ、本に興味を持ってくれたのが嬉しくて……」と苦しい言い訳をして、ミレイさんの説教でタジタジになる俺の姿をみていた子供達が楽しそうに笑っていた。
──なんだ、いつも遊んでくれる大好きな園長と休日デートに誘ってもいいのか。と、出来てしまった前例から学んだことが、子供達の記憶からハクバの園の利用者達にフィードバックされる。
俺はまだ、知らなかった。休日を上手に休むことが出来ない利用者の一部が、子供になって甘えられる唯一の異性である俺への好感度が上がり続けていたことに。
ハクバの園が、白濁に染まるその日まで。
◆
噴水広場で立っているだけで、名画のように様になっているアルマさんが、いつもの仕事終わりに鎧を脱いだだけの姿ではなく、アクティブな大人の女性らしいパンツスタイルの清楚な私服姿で、俺に気づく。
「待たせてしまって、ごめんなさい」
「いや、私が早く来ていただけだ。それよりも……」
「?はい、本屋でしたね」
「……そうだ。さっそく向かうとしよう」
「そうですね。今日のアルマさん、いつもの凛々しい雰囲気と違って、その、何でもないです」
「なんだ、いいかけて止められると気になるじゃないか。ハッキリと、似合っていないと言ってくれても構わないが」
「その逆です。噴水広場で見つけたとき、アルマさんの姿が綺麗で、しばらく動けませんでした。とても似合っていると思いますよ」
「なっ!?……こほん。冷静さを欠くところだった。お世辞でも、ありがとう」
しゅんとしたときに、いつもと違うお洒落を褒めてほしかったんだなと察してみたのだが、顔を真っ赤にして照れるレアなアルマさんの姿は眼福だった。
「これとか、どうですか」と流行りの児童文学の本を広げて「どれ」と顔を寄せたときに香る髪の匂いにドキリとしながら、安くはない本を3冊も悩まずに買っていくアルマさんの決断力と経済力が羨ましかった。
「私の用事に、半日も付き合ってくれてありがとう。これはそのお礼だと思って、受け取ってほしい」
食事をするとは聞いていたが、王都でこれほど美しい街の景色を見渡しながらワインを飲む贅沢は味わったことがなかった。
「……この肉にかかったソースが、美味しい。レシピを覚えて、園のみんなにも振る舞いたいぐらいです」
「フッ……そうだろう?君に会ってから、覚えた贅沢なんだ。それまではただ強くなる、仕事に打ち込むことが正しいことだと考えていたが……ひどく疲れていた。メリハリを覚え、活力が漲り、視野も広がって団員にも気配りが出来るようになった今の自分が、私のあるべき姿なのだと気づいたよ」
「アルマさんほどの、誰からも尊敬される忠義の人の心がハクバの園で潤ったのなら、冥利に尽きるというヤツですね」
照れ笑いをしている間も、食事の手を止めて真っ直ぐぶれない瞳を見つめ返し、アルマさんの唇を丸めて何か言いたげな仕草から気を逸らすように目線を落として、付け合わせの野菜にフォークを刺して、皿底のソースをからめた。
「君の持つ特別な力は、本当に凄いな。見せてくれないか?」
「いいですよ」
手を伸ばしたアルマさんに俺の手を重ねて、ナニカを引き寄せる。それはアルマさんをデフォルメした妖精のような姿をした童心であり、「園長先生だ~っ!」と俺の膝の上に座って、ニコニコとしていた。
「……なんだが、親子みたいだねっ!」
「ちょっ!?」
「これはその練習のようなものだしな。ねぇ、私の旦那様?」
出てきていきなりぶっ込んできた爆弾発言に焦っている俺とは違って、ワインで少し酔ったせいかノリノリなアルマさんが今日で一番楽しそうだった。
「でも、アルマさんみたいな少し不器用だけど努力家で素直だし、とっても綺麗な人がお嫁さんになってくれたら毎日が楽しいでしょうね!」
「じゃあ、私が園長先生のお嫁さんになってあげるねーっ!ちゅっ……えへへ」
俺も普段からワインを飲み慣れていないから、つい飲み過ぎたのだろう。冗談に重ねてたらればの話をすると、ちゅっ、と唇が触れて、え?と疑問符が頭に浮かび、すっと“アルマ”の照れ笑いが、一つに重なっていく。
身を乗り出し、濡れた瞳で自分の唇に触れたアルマさんが、そこにいて。
「君も分かるだろう。あれは包み隠さない私の本音だが、そう簡単な話ではない。……だから、一度試してみないか?」
「ア、アルマさん、ちょっと酔いすぎましたね」
「大丈夫だ、私は酔っていない。今夜だけ、お互いの相性を確かめるだけでいい。ここで君を逃すつもりはない。君が好きなんだ。結果夫婦になれなくても、思い出がほしい。束縛なんてしないし、都合がいい──」
「お店を出ましょう、周りの人の迷惑になりますから」
耳を澄ませてこの状況を楽しんでいる出歯亀達に、暴走しているアルマさんをこれ以上見世物にすることは、名誉を傷つけることになりそうだと思い、アルマさんの腕を掴んで立ち上がった。
「その通りだ。……すまないっ!」
アルマさんが毅然と周囲へ一礼すると「お気になさらず団長、頑張ってください!」と部下達を簡単に紹介され、予約をしたときに先に支払っていたのだとお店の階段を下っていくと「こっちの出口が近道なんだ」と来たときと別の扉を開く。正面に現れた紫色の水面のようなそれはハクバの園にあるのと同じ型の、転移門になっていた。
「アルマさんのその感情は、ハクバの園を利用しなければ湧くことがなかったものなんですよ」
「君がそのことに、後ろめたさを感じているなら、それは間違いだ。大人になるとお互いを知るだけの時間が足りないという問題が解消されたというだけで、君の在り方に私が好意を抱いたことに何一つ特別な力は影響していないのだから」
「それは違う。大人が子供だから向けられる慈しみと、子供だから大人に甘えられる、またはそれに大人が応えてくれた経験は、それが大人の男女になればずっと難しくなることなのだから」
「違わない。君の特別な力は先入観の障害を取り払っただけで、だからこそ知ることが出来た君の優しさに私は救われ、心惹かれているんだ」
「うっ……そうだとしても。俺はあなたほど立派な人間じゃない。俺は期待を裏切った自分のことが大嫌いで、誰にも必要とされなくて、ハクバの園を始めたのだって、自分の命に価値があると思いたくて……ただの自己満足なんです」
「つまり君は、過去にトラウマがあって、それに打ち勝とうと足掻いているんだろう?まだ成りたい自分に成れていないから、自信が持てないと……とても立派じゃないか。可能なら、私がその呪いを解いてあげたいのに」
アルマさんの手が俺の髪を優しく撫でて、触れ合った肌はお互いの体温を共有していた。
自虐的に言い合いながらも、すっかりヤる気になってお互いの衣服を脱がしてヒートアップしていき、胸板に押し潰されているおっぱいの感触に興奮しながらキスをして、バキバキに勃起をしていることは、お腹を押し返すチンポでとっくにバレていた。
「気後れなんてしないで。私だけは君を肯定してあげる。例えばこの女は自分の物だって、たくさん突いて気持ちよくなって、ビューーッ!!て赤ちゃんの種を中に吐き出して。それからお前は俺の女だって耳に囁いてくれたら、私は、はい旦那様♡って言うから」
「それって……俺と結婚したいんですか?」
「……ッ、そうだ!君と一生を共に暮らしたい」
キスをしただけでデレデレになり、女言葉になって欲望の枷が外れかけていたアルマさんが凛々しさを取り戻し、飾らない言葉で告白する。
その口の端は唾液で濡れ、手に馴染む大きさのおっぱいを揉まれながら組み敷かれ、今もいじらしく俺の脇腹を指がなぞり、その気になるのを待ち続けている。
「やっぱり……感情が重いような。ちょっと、関係を急ぎすぎたのかもしれませんね。今日のことはいったん忘れて、これで帰りませんか?」
「……ぁ……ゃだ……」
「お互い冷静になりましょう?って話なので。また今度にでも、どこかへデートに行きましょうよ」
「そうやって……じわじわと距離を置くんだろう?そんなの……嫌だ嫌だ嫌だッ!……誤解しないでほしい。結婚したいかと聞かれたからそうだと答えたが、愛人でも問題ないんだ。ううっ……お願いだぁ……私を受け入れてくれ。んんっ……じゅるっ……んふっ……んぱっ」
男女差はあれど、鍛えてきた人間の爆発力に敵うわけがなく、マウントを奪われた俺の腹の上で涙を落としていたアルマさんがだんだんと冷静になり、ハイライトの消えた瞳で強引に唇を重ねて舌をねじ込んでくる。
「君、まるで抵抗しないじゃないか。それとも……本当はこうされることを望んでいたのか?」
「俺はただ、勢いに任せて無計画に子供が出来て、アルマさんが不幸になる可能性の話をしてるんです。職場での立場を失ったりとか、あるでしょう」
「……ん?待て、なぜ立場を失うんだ。子供を産み育てるのは女の大切な役割なのだから、社会がそれをサポートすることはあっても立場を失うことはないが。……勘違いをしていたのか?」
「ええっと……ええ?その、俺は田舎育ちだから、王都がそこまで進んでいるとは思わなかったです」
「そうか。ふふふっ……誤解が解けたならよかった」
「それはそれとして、まだ早いと──ぶちゅゅうう♡♡♡ぬぷぷぷっ♡♡♡
「ふーーっ♡ふーーっ♡……入ったぞ。……ああっ、これが好きな人とのセックス!嬉しさが溢れてきて、頬が緩んでしまうぞっ♡もうっ、我慢しなくていいんだなっ?」
ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん♡
ドピュッ、ドピュッ、ドピュッ♡
じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ♡
「あ゛ーーう゛ーーーきもぢいいっ♡今のヤツ、もういっかいしよ♡ねっ♡」
「お前さぁ……」
少しぐらいは人の話を聞けよ、そのセリフ何回目だよ……などなど、言いたいことが多くてあげれば切りがないが、両手でお尻を掴むと「やぁん♡」と媚びた甘い声を出し、腰を揺らしてキュンキュンと無尽蔵の体力で締めつけてくる腟が蠕動するアルマさんが、「ちょーだい!もっとちょーだい!」と黄色い嘴の雛が親鳥から餌を求めてくる姿と重なった。
……色々な体液が混ざり合って、ドロドロと溢れている。やってしまった、という後悔よりも遥かに、成し遂げた、という達成感の方が大きいのは遺伝子に刻まれた雄の本能なのだろう。
◆
「し、信じられない」
3ヶ月前から交際していたミレイさんに別れを切り出すと理由を話すようにと詰められ、アルマさんと関係を持ってしまったことを白状して、フルスイングの平手打ちを受け入れた。
「そういうわけだから。終わりにしよう」
「……私、28歳なのよ。それなのに職と婚約者を同時に失えだなんて、そんな我が儘が許されるワケないでしょうがっ!」
「いや、婚約はしてな──」
「あなたが私を捨てるというなら、刃物で喉を切って死んでやるわよっ!?」
「そんなことはしちゃ駄目だっ!?」
ヒステリックに暴れるミレイさんを背後から羽交い締めにして、俺は全面的に降伏した。
・・・・・。
もみあげの髪だけが長いのが触角のようなブラウンのショートヘアに、睫毛が長く気の強い印象の瞳はよく不機嫌だと誤解されやすいが、職場ではいつも子供達に笑顔を絶やさない優しい人。そんなミレイさんを怒らせた俺が白旗をあげ慰めて、なぜか仲直りのセックスをしているのは、決してマッチポンプなどではないと弁明したい。
ミレイさんが困った眉を歪めた荒い息遣いで口を隠し、俺が胴に振れながら腰を振ってベッドがギシギシと軋む度に、たゆん、たゆん、と大きなおっぱいが揺れていた。
「そろそろ、イキそうだっ」
「出したいなら、出していいよ。そのかわり、責任は取ってよね?」
俺の両手首を掴み、両足でがっしりとだいしゅきホールドして逃がすつもりのないミレイさんに苦笑いして、覆い被さる。
ドピュルルルル!!ビュルル、ドクン……。
◆
夕方に最後の子供のお迎えが来て、ハクバの園の一室に明かりが灯る。
腰を一周する帯に、真っ白でスケスケなレースの布が垂れる前掛けを着けた新妻達が横一列に並び、ぴらりと恥ずかしそうに前掛けをたくしあげて愛液を垂らすおまんこに指を入れ、媚びた喘ぎ声を楽しむ。それを遠目に見る、大きくなったお腹を擦るマタニティードレスを着たミレイさんとアルマさんの顔には、余裕の笑みがあった。