※この作品はR-18です。

天使様じゃなくなるとき   作:小松 美堂

16 / 37
16.天使様の焦燥

 

◇◇◇

 

キッチンに立つ真昼の動きはいつも通り正確で無駄がない。

だがその表情には明らかに影があった。

 

卓夫がリクエストした「和風の朝食」──具体的には具沢山のお味噌汁、卵焼き、

ほうれん草のお浸し、漬物──

これらを作るための材料がこの荒れ果てた部屋の冷蔵庫に揃っているわけがない。

 

(リクエストするだけして、味噌くらいしかないじゃない……)

 

指を折りながらリストアップする真昼。

 

「しょうがないわ……」

 

深いため息をつきながらも真昼は自分の部屋に向かう。

自分と周くんのための食材をそっと持ち出す罪悪感と戦いながらも、急いで戻ってきた。

炊飯器はあるが、今から炊いている時間はないため、自分の非常用パックご飯だ。

 

(今度、ここにお米も置いておかないと……)

 

ふと、そう考えている自分に愕然とする。

 

(どうしてそこまで……)

 

自問自答が頭をかすめる。本来なら卓夫のための朝食など絶対に断るべきなのに。

彼を喜ばせる筋合いなどないはずだ。

それでも動画をネタに脅されている以上、周を巻き込むリスクを考えれば選択肢は一つしかない。

 

(周くんにあんな動画を見せられたら……)

 

あの平和そのものの映像がどれほど残酷な刃になるか。真昼はそれを知っていた。

だからこそ言われた通りに尽くすしかない。

 

 

◇◇◇

 

卓夫はそんな真昼の葛藤など知る由もない。

彼の目にはただ一生懸命に料理に励む健気な姿しか映っていなかった。

台所で立ち働くエプロン姿が今日も眩しくて仕方がない。

 

「ふふっ……まるで新婚さんみたいだ」

 

思わずまた口に出た、しょうもない独り言に慌てて口を抑える。

今さら照れるほどのことではないはずなのに頬が熱くなる。

本当に、いつか自分が結婚したらこんな光景が毎日続くのだろうか──そんな夢想に浸る。

 

一方の真昼も料理に没頭することで周との罪悪感を麻痺させようとしていた。

お湯を沸かす音、卵を溶く音、野菜を刻む音……五感を研ぎ澄ませていれば他のことを考えずに済む。

 

「よし……完成」

 

小さな達成感とともに真昼は器に盛りつけていく。

豆腐とわかめの味噌汁、ふんわりと柔らかい卵焼き、瑞々しいほうれん草のお浸し。

まるで旅館の朝食のような色彩豊かなラインナップだった。

 

「肝付さん、できましたよ」

 

声をかけると卓夫は待ちかねたようにダイニングテーブルへ滑り込んだ。

 

「わあ……すごい! 君って料理の天才だね」

 

興奮気味に箸を取り上げる卓夫。一口味噌汁を啜ると目を見開いた。

 

「うまい……! お店みたいだ」

 

「大袈裟ですよ」

 

素っ気なく返す真昼だったが胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

周くん以外の人間に手料理を誉められて嬉しいと思うなんて……自分でも信じられない気持ちだった。

 

◇◇◇

 

食事が終わるころには卓夫はすっかり満ち足りた表情を浮かべていた。

真昼が作った和食は想像以上に上品で繊細な味わいだった。

毎朝こんな贅沢な食事ができるなら日々の辛い仕事も耐えられるだろう。そう確信した。

 

「ありがとう真昼ちゃん。本当に美味しかったよ」

 

お辞儀をする卓夫に真昼は小さな会釈で応える。

その瞳には一抹の困惑が宿っていた。

 

たしかに喜んでもらえて悪い気はしない。

自分が何かを与え感謝される。

それだけを切り取れば、悪い気分ではない。

しかしこれが依存関係の入り口なのではないかという恐怖もある。

 

「また来てくれるかな? 明日も明後日も……できれば毎日」

 

卓夫の大胆な申し出に真昼は言葉を失った。

毎日だなんて冗談じゃない。

今でさえ限界だというのに──。

 

「それは……」

 

躊躇う真昼に卓夫はさらに畳みかけた。

 

「僕は君の料理のファン一号だよ。

 君だって誰かのために料理するのは楽しいんじゃないか?」

 

「……」

 

(第一号は周くんに決まってるじゃない。言われたことはないけれど)

 

嫌なところを突かれ、思わず了承しそうになるが、

最近は周に朝食を作ってあげる日もあることを思い出して止まる。

 

「た、たまになら……」

 

「じゃあ、月・水・金だ !!」

 

卓夫に勢いに押されて了承してしまう真昼だった。

今日は火曜日のため、明日もまた来なければならない。

 

手早く片付けをした真昼は、学校に向かうべくそそくさと

「いってきます」と出ようとする。

 

が、「待ってよ、忘れもの」と追いかけてくる卓夫の「いってらっしゃいのキス」につかまってしまう。

 

(あぁ、やっぱり……)

 

やむなく真昼は、キスを受け入れる。

 

(……っ、どうしてこのヒトのは、いつも臭いの?)

 

「あの……」

唇をほどいて、上目遣いに見つめる真昼。あまりの可愛さにどぎまぎする卓夫。

 

「な、何かな」

しかし、その言葉はぐさぐさと辛辣だった。

 

「肝付さんのお口、いつも臭いです。そんなキス、女の子に嫌われます」

「えっ、やっ、そ、そんな……。歯は磨いたよ、ゆうべ」

 

「ご飯食べたら、必ず歯を磨いた方がいいですよ。念入りに。あと、歯医者さんで歯垢の除去もしてもらうとか」

「わ、わかった。善処する」

 

「それと……」

「ま、まだなにか?」

「タバコ吸われます ?」

 

「えっ……たまにね」

「タバコの匂いも影響してますね、きっと。

 もちろんタバコは身体によくないですから、禁煙されてはどうでしょうか」

「おっ、おぅ」

毒気を抜かれた卓夫が怯んだ隙に、抜け出すと

 

「わたし、タバコ苦手なんです」

「いってきます」

 

ぺこりと頭を下げ真昼は、スカートを翻して出ていく。

 

「やられた……」

 

今朝は、制服姿の真昼と出かける前のエッチを考えていたのに、逃げられてしまった。

呆然とした卓夫だが

 

「ふ、ふふふっ。真昼ちゃん、やっばりキミは本当に素敵な天使だ。

 こんなひどいオトコの口臭を嫌うだけじゃなくて、身体を心配して細かく注意してくれ

 るなんて。

 

 あー、なんかこういうのいいな」

 

結果的に真昼の尻に敷かれるような形になったが、卓夫は上機嫌だった。

 

◇◇◇

◇◇◇

 

 

「あっあっあっ……だめ、だめっ……わたし、がっこう、いかなきやいけないのに」

 

翌朝、卓夫はリベンジに成功し、学校に向かおうとする真昼を引き留めて、制服姿のままバックから犯していた。

 

ブレザーの前を開け、

ブラウスとブラの上からだが乳房をゆさゆさと揺さぶる。

 

今朝は、キスせずに後ろから不意打ちで抱き着いて、すぐにことに及んだのだ。

 

真昼の腰がぴくんと跳ね上がる。

制服のプリーツスカートが大きく波打ち、薄い布を横にずらして卓夫の硬いものが

深々と埋まっていた。

白い肌に浮かぶ汗粒が玄関先の灯の下できらめいている。

 

「あっ……んっ……だめぇ……」

 

言葉とは裏腹に真昼の膣壁はねっとりと絡みついてきていた。

以前は浅いGスポットでの刺激にしか反応しなかった彼女だが、

今日は奥深くを穿たれるほどに反応が鋭くなっていた。

 

(まさか……これは膣奥でも感じている……?)

卓夫は、めきめきと性に敏感になっていく真昼に手応えを感じる。

 

卓夫が意図的に子宮口近くを擦り上げると真昼の内股が痙攣するように震えた。

 

「ひゃぅっ!?」

「感じてるね」

「………」

 

短い悲鳴と共に蜜液が、より溢れ出し、結合部から淫らな音が響いた。

真昼は唇を噛み締めて耐えようとするが、漏れる吐息は明らかに艶っぽい。

 

「感じてるじゃないか。ほら……」

 

零れた蜜を指先で掬い上げて、真昼の目の前につきつける。

卓夫が耳元でそう囁くと、真昼は恥じらいながらも小さく首を振った。

 

「ちがっ……ちがいま……ああっ!」

 

否定しようとした途端に深い突き上げが襲いかかる。

 

髪が乱れるのも構わず悶える真昼。膣内の収縮がどんどん激しくなり、

卓夫のペニスを締めつける。

 

「くっ……すごい締めつけだ」

 

卓夫の声も余裕を失い始めていた。

制服姿の真昼を犯すという背徳感が欲望を掻き立てる。

朝、制服で学校に向かうのを見かけるたびに、その眩しい姿に邪な想いを募らせることもあったのだ。

 

ブレザーの下で震えるブラウスの感触もまた禁忌的だった。

 

「だめです……ホントに学校に……ああっ!」

 

真昼が抗議しようとするが言葉にならない。

卓夫の肉棒が子宮口を叩くたびに全身に電流が走る。

特に奥底を何度も擦られると何かが込み上げてくる感覚があった。

 

(なんで……こんな気持ちいいの……どんどん感じるように……)

 

心では拒絶しているはずなのに身体は貪欲に快感を求めてしまう。

周に対する裏切り行為であるはずのこの行為が今は罪悪感ではなく

愉悦へと変換されていく。

 

「ごめんなさい……周くん……」

 

謝罪の言葉を小さく漏らす真昼だったが、その瞳は潤み紅潮した頬からは淫靡な色香が漂っていた。

 

制服を乱しながら喘ぐ姿は普段の清廉潔白なイメージと乖離しており、

それが余計に卓夫を煽る。

 

「周くんは許してくれないかもな……でも止まらないよ」

 

と、その時、スマホのテーブルの上のスマホの着信音がする。

 

「……スマホ……なってますよ」

 

「無視無視、こっちのが大事」

卓夫は、そんなことに構ってられないと、腰を使う。

 

「あん、あん、あんっ」

 

卓夫の抽挿が加速する。膣内をかき回されるような激しい動きに真昼は翻弄された。

制服のリボンが歪みスカートが捲れ上がり白い太腿が露わになる。

その姿はまるで禁断の聖域を冒涜しているようで卓夫の征服欲を満たした。

 

「いやっ……激しすぎます……もうだめっ!」

 

真昼がクライマックスが近いことを告げたとき、

 

 

プルルルッ、プルルル。

 

 

別な音が鳴る。固定電話だ。

 

それを聞いた瞬間、卓夫の腰が止まる。

 

「やばっ !!」

 

イク寸前の真昼の秘裂からカチカチのペニスを抜き、尻を出してモノをぶらぶらさせた情けない格好で卓夫が電話に走る。

 

「ごめん、このパターンはヤバイ」

 

電話に出て、少し話すとペコペコと電話機に向かって頭を下げる。

カチカチだったペニスが項垂れ、コンドームもずり落ちそうだ。

 

「ごめん、トラブルだ。すぐ対応しなきゃ。今日はこれで」

 

下半身むき出しのまま、卓夫は猛然とPCに向かってキーを叩き始める。

もう、真昼の方は見ていない。

 

 

玄関先にポツンと取り残された真昼は、呆然と卓夫を見つめ、のろのろと制服を整える。

 

「いってきます」

 

卓夫は振り向きもしない。

 

 

◇◇◇

◇◇◇

 

校門をくぐる真昼の姿に、周をはじめ多くの男子生徒が思わず息をのんだ。

いつもと違う艶めかしさがあったのだ。

 

真昼自身も自分の体調の異変を感じていた。

身体の芯からじんじんと熱が抜けきらない。

制服の下は汗ばみショーツはじっとりと湿っていた。

朝のセックスが中途半端で終わった余韻が、いつまでも引かない。

 

「真昼、大丈夫?顔赤いよ」

 

周がすぐ声をかけてきた。

心配そうな表情を浮かべる周を真昼はできるだけいつもの表情で答えた。

 

「ありがとう。でも、問題ないわ。そんな心配しなくても大丈夫です」

 

そう言うと、そのまま教室へ向かう。

 

他のクラスメイト達とすれ違いざまに目が合う。

彼女らも少し心配そうに見つめてきたが、真昼は無表情で通り過ぎた。

 

席に着くなり真昼は一瞬思わず机に突っ伏し、すぐに座り直す。

制服が身体に密着するのが、何故か堪らなく気持ちいい。

スカートの裾が太腿に触れるだけで微かな快感が走る。

 

(ダメ……集中しなきゃ)

 

教科書を開いても文字が頭に入ってこない。

思い出すのはさっきまでの行為のことばかりだ。

子宮口を押し上げられた瞬間の鋭い衝撃。

膣奥から広がる甘い痺れ。

そして卓夫の荒い息遣い……

 

 

(忘れなきゃ……こんなこと思い出してる場合じゃないわ。

天使様と言われるわたしが、今朝セックスしてから登校したなんて知ったら、

心配してくれてるみんなも呆れて見捨てちゃうわよね……周くんも……)

 

周への後ろめたさが胸を締め付ける。

彼とは恋人同士のはずなのに。

だが、身体は裏切るように疼き続けていた。

 

(そもそも、途中でわたしを放り出したあの人のせいよ。

 お仕事、何か大変なことが起きたんだろうけど……)

 

彼が在宅のプログラマーであることは、ちらりと聞いていた。

それがどんな仕事なのかの知識はなかったけれど。

 

休み時間になるとクラスは真昼の噂で持ちきりだった。

 

「今日の椎名さんってマジヤバくね?」

 

「なんか妙に色っぽいっていうか」

 

「だけど、少々ご機嫌斜め」

 

「昨日何かあったのかな」

 

男子たちは遠巻きに眺めながらひそひそ話し合っている。

女子生徒たちも怪訝そうに真昼を見ていた。

 

そんな周囲の視線から真昼は抜け出すように席を立った。

とにかく身体を落ち着けないと。

手洗いの洗面台で鏡を見る。確かに自分の顔が紅潮している。

だがそれは羞恥ではなく興奮の証だった。

 

(あの人に……激しくされたから……)

 

思考がそこで止まる。何故こんな感情を抱くのか分からない。

あれほど嫌悪していたはずなのに身体だけは正直に応えてしまう矛盾。

 

そのままトイレに駆け込み、ハンカチでショーツを下げ内側を拭う。

思った通り愛液でぐっしょり濡れていた。

 

「最低……まだこんなに……」

 

自らを呪う言葉が漏れる。だが指先が太腿に触れただけでまた熱くなる。

考えたくないことだが、多分足りないのだ。物足りないのだ。

 

イけてないから……これまで卓夫とのセックスは、一回どころか何回も絶頂させられていた。

 

恐ろしい推測だが、それに慣らされているのか……

朝、火をつけられたままの身体を鎮めなければ、収まらない。多分。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。