◇◇◇
◇◇◇
仁王立ちする卓夫に対して、真昼は強い瞳で睨み返した。
「彼とは……セックスしてません !! 」
「なにぃっ ! これはキスマークじゃないのか」
「これは……キスマークですっ」
「じゃあなんだ、キスマークをつけてもセックスはしなかったというのか? 藤宮周は」
「そうです……」
「はは……そんなバカなことあるかよ……」
「だいたいゆうべ、真昼の部屋に彼は泊まったんじゃないのか ? 」
「…………はい、泊まりました。一緒に寝ました……」
「んで、キスマークをつけるようなことしたんだろ ? 真昼の裸も……見たんだろ?」
「……はい。見てもらいました」
「それでも、セックスはしなかった?」
「……はい」
「ぷっ……はははは。どこのヘタレ野郎だよ……はははは
真っ白で本当に美しい真昼の身体を見て、キスもして、
それでもセックスは我慢した? インポか、インポなのか?あいつは」
「周くんをバカにしないでください。誠実な人なんです !!
ぼ、勃起もしてました」
「彼は、わたしのことを、わたしたちの関係を大切にしてくれてるんです」
「その大事な大切な天使様は、とーっくに堕天してるってのに?」
「それは……そんな……そんな……
それを……あなたが言うんですか !?……」
それまで強い瞳で卓夫に対峙していた真昼の表情が、みるみる崩れ、その可愛らしい大きな目に涙が溜まり、たちまち溢れる。
「うっうっう………わたし、あんなに大事にしてくれる周くんに、申し訳なくて……
どうして、こんな人に……」
泣きながら、卓夫の胸をポカポカと叩く真昼。
突然の豹変に、嫉妬心も吹き飛んで卓夫は真昼を受け止める。
そして、ただ抱きしめようとする。
じたばた逃れようとする真昼だが、暫くすると抵抗は諦め、
卓夫の胸の中でただ泣き続ける。
「ごめん、ごめん。そうなんだよね。
真昼と周くんの青春の、恋愛の日々にちよっかい出して汚したのは僕だ」
「それなのに、何を嫉妬してるんだろうね。そんな資格もないのに。
楽しそうに文化祭を過ごしてる真昼を見て思い知らされたのに」
謝る卓夫は、そっと真昼の顔を上向かせる。
涙で濡れた顔も愛おしい。
「でもね、それだけ真昼のことを愛してるんだ。
無理やりして、真昼のことを知れば知るほど好きになっていったんだ。
だから嫉妬して、意地悪なことも言ってしまった。ごめんよ」
「僕の事を愛してくれなんて言わない。でも、この気持ちだけは伝えたい」
「大好きなんだ、真昼。愛してるよ、真昼」
そして、その涙で濡れてしまった唇に口づける。
真昼は、暫し逡巡し顔を動かしてその唇から逃げるが、やがて重なる。
強く抱きしめ合い、舌と舌が絡み合い、お互いの唾を交換する。
その時間が続く……
やがて唇を離した卓夫は、じっと真昼の眼を見て話す。
「あのね、さっきも言ったように文化祭を楽しむ真昼ちゃんを二日間見ていて決心した。
もう脅さないし、朝食も作りに来なくていい、こういうのはやめる」
「えっ……そんな……それ、ホントですか?」
「ああ、決めたんだ。約束する。写真や動画も削除するよ」
「……ありがとう、ございます……」
「ただ、最後にひとつお願いがある。いいかな」
「……エッチなお願い、ですね?……」
「はは、お見通しだね。
今週の金曜日の夜は、いつものようにお願いしたい」
「……はい……いいですよ」
「その日僕は出かけているから、夜帰って来たとき、僕の用意した服を着て、
この部屋で 待っていて欲しい」
「構わないですが、その服はどこに?」
「木曜日までには用意して、郵便受けにでも入れとくよ」
「?? ……わかりました」
「さっ、涙をふいて学校行かないと。可愛い顔が台無しだ」
「台無しにしたのは誰ですか?」
「おっと……ごめん……ごめん」
◇◇◇
◇◇◇
木曜日、真昼の部屋に届いたのは、メイド服だった。
それも、文化祭で真昼が着たロングスカートのメイド服ではなく
「ミニスカサンタ風のメイド服」というかなり尖った性癖の。
そして、更に注釈書がついていた。
これを着て、僕が帰ってきたら
『おかえりなさい、ご主人様 ! お風呂にしますか? それとも、あ・た・し?』
と言って迎えて欲しい !!
あっ、下着なしでね。
追伸
文化祭のメイド服がロングだったので、今度はミニスカがいいなと探しに行ったら、季節柄見つけてしまいました。
最高の衣装を。
真昼ちゃんが着たら可愛いいぞぉ……
真っ赤な衣装を手に、呆れる真昼。
「この前、ほんの少しだけ見直したのに。
やっぱり、あの人はヘ・ン・タ・イね……」
◇◇◇
◇◇◇
金曜日、卓夫は久々の出社をこの日に設定し、夕方まで働いた。
いつもの出社日は人と会うのが嫌で憂鬱でたまらなかったが、
夜が楽しみで集中してバリバリ仕事したために、あっという間に時間が過ぎた。
対面会議では、発言したりもしたくらいだ。
自宅マンションに向かう道のりは、胸躍る。
(ま、真昼ちゃん、ちゃんとあれ着ていてくれるかな……
何も言ってこないから大丈夫だよな)
真昼のミニスカサンタ姿を見て、正気でいられる自信はなかった。
夕食も済ませ、準備は万端だ。真昼にも、食事の用意はいらないし済ませておくよう言ってある。
恐らく、これが真昼と過ごす最後の時間になる。
自分でそう決めた。
真昼と会えば会うほど、セックスすればするほど愛しさが募り、どうしても自分のモノにしたくなる。
文化祭の不審者は、本当に許せなかったし、この前の朝、藤宮周のつけたキスマークを見つけた時は、怒りで頭が沸騰し、真昼に暴力を振るいかねない衝動に駆られた。
だからこそ、真昼の涙を見た時に、そんな心が凍り付いた。
いったい、自分は何をしているのかと。
公園で雨に濡れる自分に、不審な中年男に優しく声をかけ、容態を心配してくれた本当に天使の様に心優しい椎名真昼という少女に対して、薄汚い欲望をぶつけてしまった自分にあらためて呆れた。
ヘタレと言ってしまったが、藤宮周は実際真面目で誠実な男なのだろう。
本来なら、そんな彼と一歩ずつ大人の階段を上ったはずの彼女を、一足飛びに性の渦に巻き込んでしまった……
そんな自分に、彼女との未来なんてあるはずもない。
すぐにでも破綻し、早晩警察の厄介になるだろう。彼女が望まぬとも、どこかで。
この前までは、別にそうなってもいい、自分の人生は詰んでいるのだから。
そんな自暴自棄な気持ちだった。
だが、そうなった時に真昼はどうなる。
全てが白日のもとに晒されたら、彼女のまだまだ長い人生は?
確実に親が介入してくるだろう。
藤宮周は見捨てないかもしれないが、学校は?あの藤宮夫妻は?
今更、何を正義感ぶってという話かもしれないが、そんなことを考えてしまったら、もう続けられない。
そう思った。
それでも、最後の一夜は望んでしまう情けない男だが……
まあ、そんな話を真昼にしても戸惑い、今更何言ってるんだという話だろうから、今夜は今までどおり変態な欲望にまみれた中年のままでいこう……
◇◇◇
◇◇◇
ガチャリ、自室のドアを開ける。
「ただいまー……」
「おかえりなさ~い ! ご主人様 !」
「お風呂にしますか? それともぉ……わ・た・し ? 」
少し恥ずかしそうな言葉が出迎える。
期待した通りに。
亜麻色の髪が、赤いメイドサンタ衣装に映え、小柄ながらスラっとしたその華奢なスタイルから、細く伸びたその足がミニスカで太ももまで露わで白く眩しい。
悩ましい胸の膨らみは、メイド衣装風にデザインされているのでわかりにくいがその存在は十分に感じられる。
そして、そこに零れるような美しさの真昼の笑顔がプラスされて、卓夫の少し鬱々と真面目に考えていた気分は、あっという間に吹き飛んだ。
「おまえだぁーーーー !!」
重いはずの中年男の身体が空を飛ぶ。
「きゃっ」
真昼をがばりと、抱きしめる。
「お、おちついて……いたいよぉ」
むさぼりつく卓夫を、優しくなだめる真昼。
ぽんぽん背中を優しく叩かれ、我にかえる卓夫。
「ご、ごめん。あまりにキレイで可愛くて」
「クスクス……自分で押し付けといて ?」
「いやぁ、想像以上の破壊力で頭のネジが飛んでってたよ」
「なにそれ? ふふ ……さあ、せめて中に入りましょう」
「あっ、ああ、そうだね」
リビングに入ると、そこにはテーブルの上に小さなクリスマスケーキと、小さなツリー。
紅茶の準備がされていた。
「これは……?」
「お食事を済ませてくるという話だったから、デザートくらい準備しようと思ったの。
そしたら、お店で見て回ると、もうクリスマスムードだったから、
少し早いけれどこんなのにしちゃった」
ペロッと舌を出して微笑む、可憐なメイド様。
「う、うれしいよ。素晴らしい !!」
またしても、卓夫はぎゅっと真昼を抱きしめ、口づける。
真昼は優しく受け止め、自ら卓夫に舌を絡めてもいく。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、じゅ、じゅ、じゅる……
ひとしきり感謝の気持ちを伝える。
「さあ、ご主人様。わたしじゃなくて、まずはこちらを召し上がれ」
メイド様は少し顔を赤らめながら、テーブルに案内する。