【問題】「勘違い系主人公が……(ピンポン!)自虐的クソザコ糸目女子の敗北CG回収物語! 異能闇組織の美少女ボスを添えて! 「正解!!」 ~何故だ! 何故分かる、バックショット!!~ 作:信頼できる語り手
「人間は選択を誤る生き物だ」
推定無罪『トゥルーエンド』はスナック菓子の袋を逆さにし、底の部分を切って食べ始める。几帳面な者が見たら発狂しそうな光景だ。
「1日に何度も何度も、自覚なく間違える。そして、後から気付くんだよ。あの時、こうすれば良かった。ああすればもっと早く目的を達成できた。……って」
眼鏡の奥の瞳は灰色で、光が宿っていない。
「もしも人間を観察している上位存在がいたとしたら、さぞかしイライラするだろうね。コントローラーを奪いたくなるかもしれない」
「ワイは今、お前にイラついとるけどな」
豪華なソファに胡座をかいたモヒカン刈りの男が、何故かワイングラスに注がれたコーヒーを睨む。
「コーヒーよりも紅茶派だったかい?」
「ちゃうわ。エリア000の面倒な依頼の後始末で何徹したと思とんねん。ほんまに眠うて堪らんのや」
「君は『眠らない傭兵』だろう、ステム」
「世間が勝手に付けたアダ名なんぞ知らんわ、ダァホ。さっさと本題に入らんと……」
「「シバき倒すで」」
ステムは乱暴にグラスを持ち上げ、ゴッゴッゴッと中身を飲み干した。
「……先を予測して言葉を重ねる癖やめぇや、気色悪い。男と息が合っても嬉しないわ。大方、『知覚系』か『精神系』のシグネットでも使とるんやろうけど」
「俺は『時間系』だよ」
「嘘吐くなや。時間系のシグネットで、どうやって他人の心を読むねん」
その質問には答えず、トゥルーエンドはスクリーン兼用の壁紙に光を投射する。
「まあ、とりあえず、こちらの映像を見てくれ」
「何や、オールヴルム号やんけ。重要拠点の中を部外者のワイに見せてええんか? ……って、おい! あれ、どないなっとんねん!!」
スクリーンの向こう側では、黒髪ウェーブの『ラウンドノーズ』と婦警服の『フコレ・リード』が熾烈な攻防を繰り返していた。
「傑作だろう? 今の時代、地球連邦に牙を剥こうとする闇組織も少なくなったからね。これほどの戦いはなかなか見られな……」
「あの茶髪の子! めっちゃ別嬪ですやん!!」
ステムが鼻息荒くテーブルを揺らす。
「……バックショットの事かい?」
「せや! シグネットで素顔を隠蔽しとるみたいやけど、ワイの美女センサーは騙せへんで!!」
「そう言えば、君は女と酒と博打に目がない浪費家だったね。全財産を失って身を持ち崩しても懲りないんだから、筋金入りだ」
「今日が楽しかったら、それで充分やろ! うぉぉ、バックショットちゃん、そこや! 死線を殺れ! おら、脱獄犯! 何チンタラしとんねん! きびきび攻撃せんかい!!」
ガラの悪い酔っ払いのような野次に呆れつつ、トゥルーエンドはスナック菓子の空袋を畳んでゴミ箱に投げ入れた。満杯に積まれたゴミの隙間にピッタリと袋が嵌まる。
「ちなみに、バックショットは俺の元カノだよ」
ステムの生命活動が数秒止まった。
「ちょ、おまっ……寝取られやんかー!!」
「おや、処女信仰かい?」
「ちゃうけどぉ……! よりにもよってお前かぁ……! 何かこう……低評価ボタンがあったら迷わず押しとる気分や……!」
高級ソファの背もたれにモヒカン頭を埋めていじけ出す。
「人を穢れみたいに言わないでくれよ。あ、あと、彼女の親は……。ねえ、聴いてる?」
「もう知らん。ワイはふて寝する」
一旦、今まで学んだ異能の常識は忘れよう。
(どうせ、
自他共に認める気分屋の私ではあるが、学生時代は学費が勿体ないので真面目に勉強していた。その汗と涙の結晶を頭から追い出す。
ここで起こった
『アジャストは完了したかな、マイシスター』
(トリックスター様……。はい。今なら、はっきりと視えます。いつもはぼんやり感じていただけの『勘』が数字として……)
今日の降水確率40.3%。私の方に陛下の雷が飛んでくる確率、5.6%。私が10歩以内に転倒する確率、0.001%。
私の想像に連動して、数字が目まぐるしく切り替わる。初めてネット検索を使った時のような感覚だ。少しでも気を抜くと、機械の性能に使い手が置いていかれそうになる。
『では、フコレ・リードをキルできるね?』
(無理! 無理です! だって、あの人に対する攻撃の成功率、何を入力しても0ですよ!? 戦闘中のフコレ様には失敗も隙も存在しないって事でしょう!!)
『インポッシブル? それはユーの勘違いだ。よく見てくれ。あの確率は0%ではなく、0.00……(略)……001%だろう』
(同じです!)
『
自称トリックスターは語る。
『ユー達がミラクルに辿り着けないのは、チャレンジの回数が足りてないだけだよ』
(でも、この状況で何度も挑戦はできません!)
先の可能性が視えたからこそ分かった。陛下の打てる手は減り続けている。そして、フコレは。
「あたしの転移のシグネットは一方通行じゃない。事前にマナを通しておいた物体は『取り寄せる』事もできるの。便利でしょ?」
彼女の手から警棒が消え、代わりに長い警杖が現れた。確実に仕留める為に、小回りよりもリーチを優先した武器を選んだらしい。
次の一手。フコレの攻撃が当たる確率、99.99%。つまり、詰みである。
「良かった。また1つ、正義を執行できる」
「……君はいつもそればかりだな」
「当たり前よ。強過ぎる力を与えられた人間は、相応の目的を持たないといけないの。
その顔。フコレの一瞬だけ浮かべた寂しそうな表情が……別れ際の
「サムネ辺りは鼻で笑いそうだが」
「……だから、無責任な悪党って嫌い」
恵まれた環境に生まれた自覚はある。
母様も父様も優しいし、印芽がショボくても明日の生活に困る事はない。最近は居候の陛下とも仲良くなれた。嫌な人は結構いるけど、いなくなったら多分……悲しい。
だから、思ってしまうのだ。
どうして皆、もっと楽観的に生きられないのだろう、と。
何故、支配したがるのだろう。何故、破壊したがるのだろう。何故、自分の価値を信じられないのだろう。
何故、何故、何故。
誰も彼も器が小さいんですよ。自分を貫ける
「……目的? それ、必要ですか?」
私は視界に表示された数字に手を伸ばして。
「生きてるだけでは楽しめませんか?」
──想像の中で握り潰した。
『
「貴方もうるさいです、トリック様。私のやり方が正解かどうかは私が決める事ですよ」
陛下の回避が成功する。
「何かしたわね、バックショット……!!」
気分が悪い。それもそうか。確率の書き換えなんて無茶ができたという事は、代わりに何らかのリソースを削ったに違いない。
(本当に嫌になりますね。あまり自分から危険に踏み込みたくないのですが。でも、これは……『どうしようもない緊急時』ですよね?)
「──
呟く私の隣に陛下が着地する。
「あれが君の奥の手か、バック」
「陛下……。私、あの人にムカついてます」
「そうか。他人に不快感を抱くのは理解しようとしている証拠。良い兆候だ」
私は会話をしながら高速で確率を弄っていた。フコレを倒す為に、様々な条件を入力する。これは駄目。これもハズレ。
「勝ち筋が見えたか?」
「……1つだけ。陛下の協力ありきでも、かなり分の悪い賭けだと思いますが」
「分かった。僕も賭け皿に載せろ」
その返答で覚悟は決まった。
「バックショットちゃん、良い性格しとるやないか。見た目だけやのうて、中身もワイ好みや」
ステムは傭兵らしい切り替えの早さで、ソファに座り直す。
「勝てると思うかい?」
「……流石に無理やろ。死線はまだシグネットを『攻撃』に使ってへん。飛行船を守りながらやから勝負が成立しとるけど、これ以上は腹を括って暴れるで。いや、そもそも……」
ステムが顎に手を当てた。
「ここまで手間取らせたのが異常や。まるで狙ったように、死線にとって間の悪い展開が続いとる。脱獄犯の仕業とも思えんし、原因があるとすれば……」
虹色の瞳の女性を見る。
「なあ、バックショットちゃんは一体何者なんや……?」
「この世界で唯一、印芽に縛られない存在」
トゥルーエンドが眼鏡を拭きながら答えた。白々しい笑顔が消え、珍しく真剣な顔で画面を凝視している。
「素晴らしい成果だ。もっと刺激を与えよう。……彼女の中に眠る衝動が爆発するまで」
「お前……」
『あははっ!』
ステムの訝しげな声は、フコレの笑い声に遮られた。
『あたしとした事が、何で早く気付かなかったのかしら? もっと大きな単位でシグネットを行使すれば良かったのね』
「何をするつもりや……?」
「ああ、あれは飛行船ごと転移で飛ばすつもりだね。先に着陸させてしまえば、戦いの余波で内部構造が壊れても墜落の心配はない」
「飛ばす……? 何処に?」
トゥルーエンドが壁をトントンと叩く。
「多分、ここ」
「……はぁ!?」
ステムは瞬時に理解した。こうなる事を見越して、自分が呼ばれたのだと。
「料金はきっちり貰うで、陰険眼鏡!」
愛用のロケットランチャーは無視し、部屋を覆うようにシグネットを発動させる。
「撃たないんだ」
「止めてやるだけ感謝せんかい! ワイは惚れた女にはベタ甘やねん! 愛や、愛!」
「愛って何だい?」
「そんなん決まっとるわ! ソイツに……」
大質量の何かが地面を擦り、強い衝撃が部屋を揺らした。
「一生調子に乗ってて欲しいと思う事やろ!!」
あの巨大な飛行船を丸ごと転移させて、地面に下ろすなんて。
「これほどなのですか、世界一の異能者は……」
『随分とオフェンシブだな』
飛行船が何かにぶつかって静止したのも気になるが、外の様子を気にしている余裕はない。私の全処理能力は目に映る景色に割かれている。
『
トリックスターの号令で、私は全力疾走した。安全な道を選ぶのではなく、確率を操作して無理矢理ルートを創り出す。
「
指を折って数えた。適度に注意を惹き付けながら、フコレの転移先を潰していく。
「20%、30%……」
急がないと不味い。飛行船が着陸した瞬間から、私達の生存確率は急速に低下していた。
「ここなら全部まとめて吹き飛ばしても、復元する為の部品を捜索する手間が要らないわよね。物も人も壊れたら直せば良い」
後から聞いた話だが。フコレが普段使っている転移は、正確には目印を付けたモノ同士の位置を入れ替えているらしい。『転送』と『取り寄せ』を1セットでやっているわけだ。
こんな面倒な運用をしている理由は、転移による『位置被り』が発生しないようにする為だという。
転移先を『別のモノ』と重ねてしまった場合に起きる挙動は様々だが、彼女のシグネットは『弾き出し』による莫大な衝撃波が生まれるレアなタイプのようだ。周囲の被害がとんでもない。
それは、逆に考えれば……超威力の範囲攻撃として転用できるという事。
「逃げれるものなら、逃げてみなさい」
フコレの足枷となっていた閉所が、私達の逃げ道を塞ぐ檻に変わる。
私は……虹色の瞳を閉じた。
「……は?」
害意に敏感なフコレに攻撃を当てるなら、これしかない。つまり、私の意思を介さない無我の行動。
私は『流れ』に乗って走った。パチパチと突き刺すような電気刺激が全身の筋肉を反射で収縮させる。縦横無尽に伸びる雷の糸が私を動かしていた。
「70%、80%……!」
瞼の裏に映る確率だけを頼りに軌道を修正していく。私は既に放たれた弾丸。誰にも止められない
「正気じゃないわ……。あたしの攻撃予告を前にして自分から突っ込んでくるなんて……。あんた、自殺志願者なの?」
(ふふ、まだ死にたくはありませんね)
フコレの『弾き出し』による衝撃波を免れるたった1箇所の安全地帯。私はそこに飛び込む。
すなわち、異能の発生源。
「衝撃波でミンチになるよりも、監獄送りがお好みかしら……!?」
そこは警杖の届く距離。転移発動距離の。
「あんたの負けよ、バックショット!」
「……90%」
1歩、手前。
「!?」
可能性の土台はあった。拷問神父『ファラリス』が残していった熱。陛下の雷によって生み出された熱。
空気の局所的な温度差は……陽炎による目の錯覚を引き起こす。最後の最後で彼女は距離感を僅かに間違えたのだ。私がそう誘導した。
焦り。悔恨。屈辱。警戒。フコレの全意識が私だけに向けられる。彼女は1歩前に出て、今度こそ確実に私を転移させた。
「99%」
だから、気付かない。天井から自由落下してくる亜麻布のキトンを着た女性の存在に。
「あ……」
意識の外からの衝突。その一撃が通じる事は既に証明済み。
「──
視界が切り替わる寸前、フコレのゼロ距離で炸裂する稲光が見えた。
(……ごめんなさい、父様、母様。ちょっと帰りが遅くなるかもです。陛下が上手く誤魔化してくれると助かるのですが……)
できれば、叱られたくないなぁ。そんな馬鹿な事を考えながら、私は監獄に飛ばされた。
「……。……???」
私は淑女にあるまじき大口を開け、走り回る人々から少し離れた場所にポツンと立ち尽くす。
「かき氷、いかがっすかー」
「ちょっと、誰かサンオイル塗ってー」
「へい、お姉ちゃん。その水着、きゃわいいねー。焼きそば1つ買わない?」
結論から言うと、監獄はビーチでした。
睡眠薬でも混入してるんじゃないかってくらい青い海原。人骨とか散布されてる可能性が否めない白い砂浜。そして、パラソルの下で涼んでいる水着の男女。
いや、いやいやいや……。何ですか、これ?
映画でしか見た事はありませんけど、監獄ってもっと殺風景な場所ではないのでしょうか……? 下手なホラーよりも不気味です。
『よく覚えておいて、新入り。当局が受刑者に求める事はそれほど多くない』
「うわっ!?」
突然、足元から話しかけられた。よく見ると、砂が口の形になってパクパクしている。
『当局は誠実な人間が好き。口先だけの不誠実な詐欺師が評価されるなんて、そんなの正しい実力主義じゃないから。……この島にいる限り、嘘や不正は許さない』
「許さない、と言いますと……?」
『印芽を剥いで当局のコレクションに加える』
死んじゃいますけどぉ……。
『そろそろ、刑務作業の時間。
「最初の刑務がそれなのですか!?」
『貴女も知ってるはず。凶悪な異能者の強い性欲を放置していたら、どういう形で発散するか予測できない。これは最優先任務』
「まあ、理屈は分かりますけど……。見ず知らずの男性相手は流石に……」
『良いから、その立派な乳を出して』
地面に落ちていた小石がふわりと浮き、ビキニの胸元をツンツンとつつく。
これが彼女の異能。存在の在り方を規定する『支配系』のシグネット。だが、真に恐ろしいのは効果ではなく、その『支配領域』の広さだ。
『逆らっても無駄。来る者は拒まず、去る者は逃がさず。当局の管理は絶対だから』
島そのものが彼女の
──閉鎖病棟『ギープキィ・ニコラシカ』。
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