偽マキマ(♂)になった男、異世界でハクスラをする 作:超これゐと人
読者様方、大感謝です。
そもそも、どうやって悪魔を見つけるのか?当てはあるのか?
その問いに俺はこう返そう。
答えはすでに手の内にあるのだ、と。
女神がくれた能力は主に『支配の悪魔』のそれだが、この世界に合わせて追加・編集してくれた能力もある。
なかでも必須級の能力が、この『悪魔感知』である。
こいつのおかげで俺は悪魔の位置が大まかに把握できる。階を隔てていても、自身のいる階から数えて三階層くらいまでは気配を感じられる。
実際、この階層にも一つ小さな反応がある。転移地点からはまあまあ離れている場所だが。
ファーストダイブから三時間弱。現在は周辺のゴブリンを狩りながらそれに近づいている。
母さんから教わった話を思い出す。
『悪魔は元ネタと同じく恐怖を己の力とするが、完全に同じというわけでもない。能力や容姿も多少異なるかもしれないし、自我が希薄で人間一人としか契約できない奴が大半らしい。だが女神さま曰く、一番の相違点は”輪廻転生の解釈”だそうだ。』
”輪廻転生”。様々な宗教にみられる概念だが、『チェンソーマン』においては、現世で死んだ悪魔は地獄で、地獄で死んだ悪魔は現世で蘇る現象のこと。
しかしこの世界では、死んだ悪魔は
この”輪廻転生”を貫通する能力こそが、第二の追加された能力『
阿保みたいな名前だが、支配下にいても害悪にしかならないような悪魔の退治に必須な力だ。
俺が今目指している悪魔は、有用な奴だといいが。
「なんにしても、レベルは上げるに越したことはないな」
「ガッ」
「ゴッ」
「ギグ」
ここまで時間が経つと、この辺りのゴブリンならすれ違いざまに頭をぶん殴るだけで殺せるようになった。
既に数が分からないくらい遭遇しているが、もはや脅威ではない。
「こいつらを殺すのに慣れるっていうのは、喜んでいいんだか」
先ほど拾った戦利品の棍棒を支えにして、ため息をつく。
自分の成長は確かに実感できている。悪魔との距離も縮まっている。
だが、1つの問題が浮上していた。
「・・・ムラムラが止まんねぇ」
ダンジョンでのレベルアップには、性欲の上昇を伴う。
個人的にはこんなところで敵地で自慰に耽りたくはないが、これがなかなかきつい。
「まだ耐えられはするけど、集中力には影響が出そうだな。悪魔戦が始まればアドレナリンで誤魔化せるか?」
遅かれ早かれ解決しなきゃいけない問題に頭を悩ませていると、不意に遠くから悲鳴が聞こえた。
・・・悪魔のいる方向だ。
この悲鳴はクラスメイトのものなのか、それとも”疑似餌”なのか。
見極めるなら、下手に近づかず様子を見るべきだろう。
クラスメイトのものだとして、俺と悪魔の戦いは見られたくない。チートを隠すためなら、悲鳴の主が死ぬのを見届けてから戦うのが一番理にかなっている。
しかし・・・
「すぐそこで死ぬのが分かってて見捨てるのは、流石に駄目だろ」
ロクやアキラと行動を別にしておいて今更かもしれないが、俺は善人ではない。身内やそれに近しい人ならともかく、赤の他人のために命は賭けられない。
それでもここで見殺しにできるほど、俺は人として終わってない。
声のほうに向かって走る。想像以上に足が速くなっていることに驚きは、都合のいいことなので後回し。
『悪魔感知』によって、反応元に近づいていることは分かる。
しかしその上で、悪魔の反応は遠ざかる方向に移動しているようにも感じる。
時間稼ぎか?何のために?
思考を回しながらも追いすがっていると、近づくごとに白い糸のようなものが通路に張り巡らされていることに気づく。
そして、予感がする。
眼前にいたのは、
”小さな”という形容方法が正しいのかは分からない。俺と比較したら確かに小さいが、地上のものと比べれば恐ろしく大きい蜘蛛だった。
今までゴブリンしか見てこなかった階に突然現れた異変。
これはやはり
「罠ッ!」
言い終わるや否や、視界が突然切り替わる。廊下に居たのに、いつの間にか暗い室内にいる。
と同時に感じるのは、先ほどまでと比べ物にならないほどの強い瘴気。
いくら既知外領域でも流石にこれは・・・っ!
「
・・・黒い影、だった。それが、自身を覆っている。歯を鳴らすような音の出所は俺の頭より数段上。
恐る恐る、ゆっくりと頭を上へ向ける。
そこにいたのは、人の数倍もある黒い生き物だった。
八個の紅い目、八本の巨大な足。濃すぎる瘴気と目の前の埒外の存在に怯えて体が動かない。
『能力や容姿も多少異なるかもしれないし』
再び、母の言葉が頭をよぎる。
そこでようやく、正体に気が付いた。
「『蜘蛛の、悪魔』・・・?」
目の前の存在は、どうしようもなく蜘蛛だった。そのうえ、『悪魔感知』がビンビンに発動している。
・・・なんだろう。君、それはズルじゃない?”多少”とかの次元に居なくない?人型ですらないじゃん。プリンシちゃんの面影もないよねぇ!?(憤怒)
あーくそ、調子に乗った!レベル上がって強くなった今なら、多少の無茶も押し通るって思っちまった!
蜘蛛の悪魔の能力は対象の”転移”!より下の階層に、奴の巣に引きずりこまれたのか!
ふと、蜘蛛の脚元で消えかかっている
血まみれの顔はもはや判別できないが、恐らく服装から男子生徒だったもの。
髪は、金髪。
「ン!ンンー!!」
くぐもった声。その発生源に目を向けると、一人の女子生徒が糸で簀巻きになっている。
委員長然とした眼鏡と髪型。
ダンジョンダイブ前、アキラの5人組パーティの一人だと気づく。
その近くには、ほどかれた4つほどの糸の塊。まるで、少し前まで人がそこに拘束されていたかのような。
理解した時には、既に男子生徒は粒子となって消えていた。
分かっていたはずだ。
十中八九、アキラたちはファーストダイブを生き残れないこと。彼らもこの学園に来たからにはある程度理解しているだろうと、自分で彼らを見捨てただろうに。
それでももしかしたら、逃げ延びるんじゃないかと思っていた。
でもまさか、ここまで残酷な・・・
・・・いや、違う。今俺がやるべきなのは悲しむことじゃない。
『蜘蛛の悪魔』を『支配』し、残った子だけでも助ける。
「おいたが過ぎたなクソ虫。
◆◆◆◆◆
私は、目の前の光景が信じられなかった。
探索中、音もなく仲間が姿を消すのを見た。
ゴブリンにやられるならまだ分かる。しかしそれは、あまりに理解の範疇を超えていた。
訳も分からないまま、皆必死に逃げ惑った。
自分が誰から逃げてるのかすら知らず、兎に角必死に逃げ続けた。
しかし必死の抵抗むなしく、一人、また一人と消えていく。
気づいたら私は、最後の一人になっていた。
もう疲れ果てて、走る体力もない。
そろそろ、休んだって大丈夫じゃないか?
そう思って足を止めると、目の前に両手ほどの大きさの蜘蛛がいるのに気づく。
ああ、こいつだ。コイツのせいで、皆消えたんだ。
次は、自分の番なんだ。
それに気づくと、疲れて果てていたはずの身体から、自分でも驚くほど大きな悲鳴が出た。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
・・・気がついたら、自分は異形の化け物に拘束されていた。先ほどの蜘蛛とは比べ物にならないほど、大きな蜘蛛。
そして、見てしまった。
やつは、私のパーティの男の子を喰っていた。
生きたまま、じっくりと。
いたい、いたい。
早く殺してくれ。
悲鳴と血飛沫。金臭い臭いと、息苦しい瘴気。
ひょっとしたら数分の出来事だったかもしれない。
気が狂いそうな中、ついにがじがじという音が止まった。
見ると、彼の身体は遂に消えかけていた。
頭を上げると、いつのまにか新たな
『ン!ンンー!!』
自分と異なり、彼はまだ意識がある。拘束もされていない。
瘴気で身体がうまく動かないようだが、蜘蛛も油断している今ならまだチャンスはある。
だから────逃げて、と。彼の目を見て、そう伝える。
しかし、彼は思いもよらない行動に出始めた。
驚くほど高く跳躍すると、
ああ、もうバカ!せっかく油断してたのに。
奴の攻撃は鋭く、支給品の盾では防ぎきれそうにもない。このままでは、彼も死んでしまう。
案の定、怒り狂った蜘蛛の前脚が彼の腹を突き刺し───
お返しとばかりに、彼も腹に刺さった脚に警棒を突き刺す。
どうやらさっきの一撃で折れてしまったらしいそれの折れた部分を使って、両手で。
『
流石の蜘蛛もこれは堪えたらしく、少しひるんだ。
その隙に彼は、脚から胴を引き抜く。
するとどうだ。明らかにダメな臓器がつぶれてると分かるほどの、
『ォラァッ!!』
叫び声と共に彼は背に着けていた棍棒を振るい、傷ついた足を執拗に殴り続ける。
『
蜘蛛も負けじと応戦するが、そのほとんどを捌き続ける。
ついに一本の脚がちぎれる。
殴る。首がちぎれる。くっつく。脚がちぎれる。
刺す。左腕が吹っ飛ぶ。くっつく。脚がちぎれる。
彼も定期的に致命的なダメージを負うが、数秒もせず元に戻る。
次第に蜘蛛は追い詰められていく。
悪夢でも見ているようだった。地獄のような光景だった。
しかしどうしてか、私の胸は高鳴っている。
私を見捨てて逃げればいいのに、あの黒い悪魔に立ち向かう彼は、私にとって。
まさに、地獄のヒーローとでも言うべきものだった。
◆◆◆◆◆
折れた警棒を構え、攻撃を捌く。
手数が少なくなっているはずの蜘蛛の一撃はしかし、苛烈さを増していた。
口から吐く蜘蛛の糸、隙をついてくる飛びついてくる子蜘蛛、残された重く鋭い脚。
俺の残機もそろそろ底をつく。早く倒さないと、負けるのは俺だ。
そう、残機である。マキマは”総理大臣との契約”によって自身への攻撃を何らかの形でランダムな日本国民に変換される。
これは俺にはできない手段だが、他にも方法はある。
デンジとマキマの決戦での話だ。
あの戦いの中で、チェンソーで切られた筈のマキマの首は元に戻り、代わりに鎖に繋がれた男の首が飛んだ。
裂けた筈の胸が回復し、代わりに鎖の先で血飛沫が上がる。
要するに、被支配者を用いた身代わりである。
俺はゴブリンを経験値源として倒すほかに、生かしたまま12体ほどを支配していた。
一対一で戦って勝てるような奴は、簡単に格下判定ができる。
不可視の鎖でつながった彼らによって、俺の生命線は維持されている。
本当はもっと用意したかったが、今の俺だと外の野生動物を考慮してこれが限界だった。
残り残機は1だが、奴の脚も1本だ。
機動力を奪えている以上、流石に俺が優位!
「これで終わりッ!」
脳天を貫かれて残機はゼロになるが、同時に刺さった脚を引きちぎることに成功する。小蜘蛛の気配もない。全員殺しきったか。それなら、糸さえ警戒すれば勝てる!!
落ちていた棍棒を拾い上げ、腹に目掛けて思い切り振る・・・・が、妙に手ごたえが薄い。空気が詰まったビニール袋を殴ったような感覚だ。
「んっ!!ん-!!」
簀巻きちゃんが必死に何かを伝えようと身体をよじらせている。
・・・”転移”かっ!
「はあぁぁぁぁっ!」
もう一度、俺は棍棒を振る。今度は、
「
放たれた一撃は見事に蜘蛛の腹部にクリーンヒットし、大きく吹っ飛ぶ。
壁に当たった蜘蛛は、先ほどと比べて少し傷が癒えているようだった。
振り返り、今しがた自分が殴った
これは・・・脱皮か。
・・・原作において『蜘蛛の悪魔』は自身の身体についたジッパーを開くことで、その場所へと対象を転移させる。
自身をワープさせることが可能かは分からないが『銃の悪魔』戦でマキマに権能を行使されたとき、『銃の悪魔』の頭上にワープホールのようなものが出現していた。
あれが『蜘蛛の悪魔』自身の権能の範疇なのか、『支配の悪魔』の能力同時使用の産物なのかは分からないが、恐らく通常の手段では自身のワープを行えない。
少なくともこの『蜘蛛の悪魔』の関しては、自身のワープの鍵が、”脱皮”なのだろう。
みると、奴の胸部が開いていることから再度脱皮しようとしていることが分かる。流石に連続で先ほどのような高速脱皮はできないらしい。
ここまで使わず戦っていたのは切り札だったからだろう。
・・・今しかチャンスはないな。
「逃げようとしてるね『蜘蛛の悪魔』。つまり、自身の負けを認めているわけだ。このまま戦っても勝てない、と。どちらの方が格が高いのか、分かっているなら・・・・・『俺に全てを捧げなさい。これは命令です』」
「・・・
息も絶え絶えの命令。正直格下というにはキツイところだったが、逃げの姿勢を見せたなら使えるという判断だった。
『蜘蛛の悪魔』の動きが止まる。それと同時に、不可視の鎖が繋がる感覚。
・・・どうやら、無事支配に成功したらしい。
ようやく一安心して、ため息をつく。
「・・・流石に疲れた。」
致命傷をゴブリンに押し付けたとはいえ、痛いものは痛い。
まだ致命傷を負った患部が痛む気さえする。
しかし、そうも言ってられない。続けて命令する。
「『蜘蛛の悪魔。女子生徒の糸を外しなさい。また、部屋に近づくものがいたら、俺に知らせなさい』」
ようやく、女子生徒の拘束が外れる。随分憔悴しきっていたようだったので、頭から倒れないように受け止めてから座らせる。
「お疲れ様、よく耐えたね。さっきは、奴の転移を教えてくれてありがとう。お陰でお互い、無事に生き延びられた」
「い、いや。お礼を言われるほどじゃないわよ。っていうか、身体!!大丈夫なの!?めっちゃグサグサされてたけども!!」
「心配してくれて嬉しいけど、大丈夫。気持ち悪いもの見せちゃったよね、ごめん」
冷静になれば、ぶちまけた脳漿が再生するのとかクソグロいな。今戦い見せられたら、普通引く。
っていうか、結局見られたチートどうしよう。
言いふらされるのも嫌だけど、証拠隠滅のためだけに『支配』で記憶いじるのは俺の倫理観的にNGだしなぁ。
口封じで殺すのは言うまでもない。
「いやいや、助けてもらったのに謝られる方が困るわよ!言いふらしもしないわ。私は
「俺は
「マコトくんね。本当に助かった。いや、ま、死ぬのを覚悟はしてたけども。怖いものは怖いわよね」
そういってアダハは安心させるように笑う。メンタルも回復しきってないだろうに。
・・・強い人だな。
「まだ実感湧かないけど、皆も死んじゃったわけじゃないんだよね?」
「まあ、そうだね。
今は気丈に振舞っているが、仲間の死や自分だけ生き残ったことを気に病んでないわけでもなさそうだ。
そこから少しの間。
メンタルケアと疲労回復を兼ねて腰を下ろし、二人で雑談をする。
当たり障りのないことだ。好きな食べ物、好きなドラマ、好きな漫画。
先ほどまで『蜘蛛の悪魔』の
彼女は能力や事情を聞いてくることなく雑談に興じてくれた。
それは、話題が”これからの学園生活”になった時だった。
「ねぇ、図々しいお願いなのだけれど、ひとつ聞いてくれないかしら?も、勿論嫌なら、蹴ってくれて構わないのだけれど!」
「ん、いいよ。取り敢えず聞かせてほしい」
「・・・ありがと。じゃあ、さ」
そういうと彼女は向き直って深呼吸する。
ほんのりと紅い頬と緊張した面持ちを携えて、頭を下げる。
「マコトくん。不肖の身ではあるけれど、私の身体、貴方に預けさせてはくれないかしらっ!!」
tips:女神の加護/女神さま
ダンジョン産のスキルと若干ことなる出力方法。
『
ちなみにアダハ達が逃走中ゴブリンと遭遇しなかったのは、女神さまが周辺のゴブリンを経験値用にマコトの近くへ送っていたため。
tips:河牧(母)
元自衛隊。夫と共に、女神さまに救われたことがあるらしい。
可愛いものに目がない。
この世で一番可愛いのは、夫と息子だと思っている。
tips:蜘蛛の悪魔
最初に出てきた小さい蜘蛛は獲物を見つける役割がある。
プリンシちゃんとは大きく異なる異形だが、一応は雌らしい。
結果負けてしまったものの、マコトと二時間以上殴り合っていた。
とても痛かったらしい。