※この作品はR-18です。

全てを抜き去る転生者 ~TS痴女のルサンチマンは過酷な栄光を掴み取る~   作:信頼できる語り手

9 / 10
スキヒメの方では見覚えのある道具が出てます。

人を選ぶ作品の自覚はあるので、☆9(高評価)が嬉しい!


トップランカーって凄い。僕は改めてそう思った。

「キッツいね……! 指が割れそうだよ……」

 

 僕の手から網杖が零れ落ちる。

 

 どれだけ事前学習を重ねても、『想起術』はやはり才能の世界だ。わずかなズレでエネルギーの循環が崩れ、自身も傷を負う。

 

「酷い倦怠感だ……。でも、最後にもう一仕事」

 

 せっかく、神のダンジョンの攻略権を勝ち取ったのに、ここで倒れるわけにはいかない。……噂の『神器』の性質によっては、今後の人生設計も大きく変わってくるだろう。

 

「氷頭様ぁ……! よくぞご無事で……!」

 

「やあ……勝ったよ、明亜。決闘の勝敗が知れ渡るまでに多少の時間はかかるだろうけど、事実は事実。これから忙しくなるね」

 

「はいっ! 何処までもお供します!!」

 

 回復薬が肌に染みる。自覚していた以上に深い傷が多いな。まあ、無傷で勝つなんて甘えた想定ができる相手ではなかったし、痛みを感じる余裕もなかったから問題ない。

 

「お姉様! ごめんなさい! 私……何も役に立てなくて……!」

 

 褐色肌の水色髪メイドが胸に抱き付いてくる。

 

 氷漬けになっていたはずだが、どうにか脱出したらしい。彼女がこちらに来たという事は、雷雅はボスモンスターを倒し終えたかな?

 

「ああ、そうだった。明亜、紹介するよ。新しく『シヴァルリク・オース』に加入するサリファ・ビーストリンク君だ」

 

「なるほど。……殺しても?」

 

「駄目だよ」

 

 そんな心暖まる会話をしていると、レイフがモンスターの死角を擦り抜けてきた。

 

「2桁ランカーに1対1で勝つなんて、やっぱり氷頭さんは凄いっす! ……けど、喜ぶのは後にしましょう! 今は攻略を! 俺達がダンジョンの『楔』まで送り届けます!」

 

「そうだね。サリファ、足を貸してくれ」

 

「分かったわ、お姉様。──来なさい、咬牙種(カロシュ)・雑兵(ポーン)」

 

 シマエナガに似た丸い鳥型モンスターが、僕の肩を掴んで飛び立つ。人間を抱える事にまだ慣れてないようで、飛行速度は小走り程度だ。

 

 僕達が倒壊した烏帽子タワーに向かっていると、決闘を観戦していたアバターが集合してくる。その中にはボブルヘッドの姿もあった。

 

「氷頭のお嬢ちゃん、1つ訊いても良いか?」

 

「どうぞ」

 

「俺っちに勝った時、何を思った?」

 

 質問の意図が読めないな。まあ、どうせ決闘の勝者を妨害する事はできないわけだし、正直に答えてしまおう。

 

「早く帰りたい、と思ったよ。僕の戦闘スタイルは特殊だから、君みたいな真っ当な強者と戦った経験は貴重なんだ。早く帰って、データを分析して、次の探索に活かしたい」

 

「もう『次』を考えてるとか……そりゃ俺っちが負けるわけっしょ」

 

「僕からも1つ、質問して良いかな?」

 

 やけに清々しい表情のボブルヘッドに、気になっていた事を訊ねた。

 

「世界4位……『差分』は強かったかい?」

 

「殺し方が思い付かないくらいには、な」

 

「それは楽しみだ」

 

 僕は心からそう思う。

 

 競争相手のレベルが高ければ高いほど、求める者が多ければ多いほど、『世界1位』という称号の価値は上がる。

 

 この道の先にいる全員を追い抜く日を想像すると、興奮で濡れてしまいそうだよ。

 

 

 

「雪が……?」

 

 最初に異変を察知したのは、斥候技能に長けたレイフだった。

 

 降り続けていた雪が、止んでいる。

 

「ダンジョンの環境が攻略中に変わるなんて、別に普通じゃねぇか?」

 

「31976回」

 

「あぁ……?」

 

 雷雅が怪訝そうな顔をした。

 

「僕が目にした事がある『攻略中にダンジョン内の天候が変化した』事例の報告書。その総数だ。これには、神のダンジョンも含まれる」

 

「なら、これもその一種……」

 

「『気候の変化』と言っただろう?」

 

 油断なく視線を動かす。

 

「ダンジョンは『侵入者にとって過酷な方へ』進化する性質がある。ただ悪天候が収まるだけなんて……そんな例は聞いた事がないね」

 

 僕の過剰な警戒であれば良いのだが。

 

 何か致命的な事態が進行している。そんな確信にも似た不安が胸に宿っていた。

 

「氷頭様……! 向こうに、何かが……!」

 

 明亜の上擦った声が響く。しかし、その警告にあまり意味はなかった。

 

 その存在の発する圧を無視できる人間など、この世にいるはずがないのだから。

 

「人型モンスター……?」

 

 人の姿をした『何か』は鎧を着ている。ボブルヘッドのシャープで近代的なソレとは違い、歴史家が喜びそうな年季の入った古めかしい鎧だ。

 

「……君の親戚かい、ボブルヘッド君?」

 

「同じ鎧姿だからって安直過ぎじゃん」

 

 僕達は震えを誤魔化すように軽口を叩く。

 

 寒い、寒い、寒い。既に数名のアバターは気絶していた。これまでの全てが遊びに思えるほどに、凍るような恐怖が場を満たす。

 

『……』

 

「烟波種(イェッド)・騎士(ナイト)!!」

 

 サリファの叫び声が聴こえ、黒いスライム状のモンスターが壁を作った。

 

「嘘っ……!?」

 

 鎧のモンスターが放った冷気を受け止めた『烟波種(イェッド)・騎士(ナイト)』が、一瞬で砕ける。周囲の建物とモンスターの群れまで凍結し、角砂糖のように崩壊した。

 

 低温脆性。芯まで凍り付いた物質は靭やかさを失い、僅かな衝撃も逃がせずに脆く崩れる。

 

『これは試練で、す』

 

「喋……っ! いや、頭の中に声が……?」

 

 男性の声だ。とんでもない攻撃をしてきた割りには、落ち着いた穏やかな声である。

 

『我が名は代行騎士『ヘット・シャリオ』。本官の異能こそが、この迷宮の『摂理(ルール)』だと思いなさ、い』

 

「代行、騎士……?」

 

「どうやら、そっちの親戚らしいじゃん」

 

「騎士だからって安直過ぎだよ」

 

 それに、僕のは単なるロールプレイに過ぎないが、あれは多分『本物』だ。何となく、そんな気がする。

 

『氷河の試練を与えましょ、う』

 

 代行騎士がこちらに掌を向けた。

 

『失伝──冷たい方程式(コールド・イクウェイジョン)』

 

 ……目標への挑戦を『面倒』だと感じるのは、無意識に『達成までの困難な道のり』を想像してしまうからである。

 

 勝利(せいこう)のイメージを思い描けない時、人は面倒という実感を覚える事すらできない。

 

 正に、今がそうだ。

 

 代行騎士の発する冷気に呑まれて、積もった雪がパキパキと凍る。空間が軋む音さえ聴こえる気がした。人型モンスター? ダンジョンの進化? 断じて、そんな次元の存在ではない。

 

 あれは……『神』だ。彼は『冷却』という『現象』そのもの。勝てない。本能が理解する。

 

 僕はまた死ぬのか……? 手の届かない大きな流れに巻き込まれて、事情も分からないまま、ゴミのように。……前世のように。

 

「氷頭様!」

 

 僕はシマエナガから飛び降りて、走り出した。まだ終わってない。最後の1秒まで勝利を諦めるものか。

 

 劣勢でも貫いてこそのプライドだ。信念だ。安全圏から理想を語るなんて無能でもできる。

 

 君もどうやら、同じ考えみたいだね。

 

「……やれるか、お嬢ちゃん!?」

 

 刀を携えたボブルヘッドが横に並ぶ。

 

「低温耐性を限界まで上げれば、数分は」

 

「奇遇じゃん。俺っちも片腕捨てりゃ、あのパチモン鎧を斬れそうだぜ」

 

 その先については、どちらも敢えて口にしなかった。大きく体力を消耗している僕達では、ただの無謀な特攻にしかならないだろう。

 

 凍死か。氷の名を持つこのアバターには、お誂え向きの死に方だ。せめて、後世に少しでも名が残ると嬉しいな。

 

「「じゃあ、また来世で」」

 

 無意識に発した辞世の言葉が、何故かボブルヘッドと重なった。

 

 

 

「──ふむ。一念、天に通ず」

 

 透明な巨大ドームに冷気が遮られ、周囲の空気が僅かな熱を取り戻す。

 

「見事な決闘だった。そして、下がりたまえ、勇敢な供献者達よ」

 

 中折れ帽を被った隻腕の紳士が、雷雅の杖よりも長大で複雑な形状の『網杖』を掲げていた。

 

「師匠(オッサン)!? エジプトのダンジョンに出張してたんじゃねぇのか!?」

 

「やれやれ、雷雅氏。君に目上への礼儀を教育できなかった事は、吾輩の失敗の1つであるな」

 

 雷雅の師匠、って……。

 

「世界ランキング3位『ミスター・エチケット』。救援に感謝するよ」

 

「久方振りだ、氷頭女史。ちょうど、お忍びで日本に来ていたのである。吾輩達の事は外に漏らさないように、配慮してくれたまえ。情けは人の為ならず、と言うだろう?」

 

「吾輩『達』……? まさか……」

 

「おい、まだ終わってねぇ! 野郎、氷を使った攻撃に切り替えてきやがった! オッサン、物理防御の『想起術』を……!」

 

 高層ビルに匹敵する大きさの氷柱が3本。それが弾道ミサイルの如く上空から降ってくる。

 

「きゃー、怖ーい♡」

 

 僕達を背後から追い抜いたのは、きゅるんと可愛い子ぶった場違いな甘い声だった。 

 

「ねぇ、氷の神様ちゃん。あたし様のお気に入りが後ろにいるから……それ、やめれるー?」

 

 ぴっちりと体に張り付くようなボディスーツを装着した女性は、決して僕のように長身なわけではない。

 

 しかし、その手足に巻き付いた赤い紐の束が、リーチを何倍にも伸長していた。彼女は柔らかくしなる『拡張四肢』を利用し、ゴムボールさながらの跳躍を見せる。

 

「──幻像供物『トロイの木馬』」

 

 左右で金と黒に塗り分けられた、姫カットの長髪。紅色の羽根飾り。三日月のように弧を描く両目と、人を小馬鹿にする悪戯な口元。

 

「かーらーのー、陽流・日和流し♡」

 

 女性の両足から伸びた赤い鞭が、飛んできた氷柱を連続で蹴り砕いた。

 

「世界ランキング5位『フレネミー』……!」

 

「氷頭ちゃん、やっほー。元気してた?」

 

 フレネミーが馴れ馴れしく手を振ってくる。僕は軽い会釈で返した。

 

「つれないなー。……エチおじー。あたし様のギフトじゃ長くは防げないけど、大丈夫そ?」

 

「その呼び方はやめたまえ、フレネミー女史。君1人で止められるという事は、相手も小手調べのつもりだろう。実に都合が良い」

 

「神々にとっては小手調べでも、まともに当たったらイチコロ注意報なんですけどー? そもそも、元はと言えば差分ちゃんが前衛で盾役する予定だったでしょ」

 

「彼は今……泥酔していてね。あのまま連れてきたら、味方が全滅しかねなかったのだ」

 

「またー!? あんの、アル中ー!!」

 

 彼女は憤怒の感情を込めて、バラバラになった氷の破片を代行騎士の方に蹴り飛ばす。

 

「陰流・小雨返し!!」

 

「機嫌を直してくれたまえ、フレネミー女史。予定外の仕事をさせた詫びに、君が好んで食べていた手作りアイスを振る舞おう」

 

「きゃー、流石スイーツ職人おじ! 爆アガるー! 6段ね、6段。ガンガン盛ってこ♡」

 

「やれやれ、衣食足りて礼節を知る、か……。それくらいの手間は仕方あるまい」

 

 エチケットは肩を竦めた。

 

「諸君。ダンジョンの外郭に我々2人が侵入時に空けた穴が残っている。我々が殿を務めている内に、そこから脱出したまえ」

 

「なるほど……トップランカーが直々に逃がしてくれるそうだよ。ありがたい申し出だね、ボブルヘッド君」

 

「礼を言わなきゃな、氷頭のお嬢ちゃん」

 

 僕は最後の気力を振り絞って銃を抜く。随分とありがたい……上から目線だ。

 

「「そっちが下がってろ、大老害(だいせんぱい)」」

 

「やれやれ、元気が有り余っているのかね? しかし、礼節は弁えたまえよ、新星諸君(ひよっこ)。──幻像供物『カルネアデスの板』」

 

 直後。……僕の意識はブツリと途絶えた。

 

 

 

 想像してくれ。

 

 もし仮に、表面上は前世と似通った異世界に転生したとしたら。きっと、かつての世界との差異を調べずにはいられないはずだ。当然、僕もそうだった。

 

 そして、判明した事実が幾つかある。

 

 まず、僕が転生した『地球』という惑星は、どうやら過去に一度滅んでいるらしい。原因は科学技術が過剰に発達した事による、環境破壊と資源の枯渇だ。

 

 ……あまりにも計画性がない。それだけの高度文明を築いておきながら、先を見据えて行動する人間が誰もいなかったのか。ぶっちゃけ、馬鹿なんじゃないか。ツッコミどころは尽きない。

 

 だが、しかし。結果として地球は大きく荒廃したものの、未だに人間社会は存続している。

 

 過去の地球人類が犯した過ちは、意外な形で解決された。すなわち、『ダンジョン』と『アバター』である。

 

 文献によると、それらファンタジーな存在は唐突に出現したらしい。時代の転機を『色身暦』元年とし、それ以降は供献者がダンジョンから持ち帰る『供物』が新たな資源となった。

 

 その割りには扱いが雑な気もするが、農業など生活を支える第一次産業に対する世間の無関心を思えば、優遇されている方なのかもしれない。

 

 まあ、僕が言いたいのは……現代の地球がダンジョン攻略を中心に回っているという事である。

 

『……えー、続いてのナンバーは疲れを吹き飛ばすこのヒット曲です。今をときめくダンジョン攻略アイドル『おまきゃわ隊』の皆様で『意味深だけど意味不メーション』!』

 

 僕は目を覚ました。……歌番組だろうか。最近よく聴く曲が近くで流れていた。

 

「エッチなビデオでよくあるよね。本人が出演してる動画見ながら、パコるヤツー♡」

 

「ふ、フレネミー様……。どうして、自分をこんな……べ、ベッドに連れ込んで……?」

 

「だって、貴方ちゃん、童貞でしょ?」

 

「なっ、それは……!」

 

 息を潜める。何やら面倒な状況になっているようだ。ちなみに、僕の体はベッドから死角となる位置のソファに寝かされている。ご丁寧にタオルケットまでかけて。確信犯だ。

 

「アバターですら未経験だなんて、供献者だと爆レアー。よっぽど奥手とか?」

 

 フレネミーはクスクスと笑う。

 

「そういう真面目な堅物ちゃんは、あたし様の大好物だかんね。筆下ろし、しよっかなって♡」

 

「待っ! 自分にはお慕いしてる女性が……!」

 

「逃げちゃ、駄ー目」

 

 大きな物音はしない。トップランカーである彼女が本気になれば、並のアバターでは全く抵抗できないのだ。

 

「きゃー、皮被り童貞ちゃん、爆かわよー。あたし様のエッジの効いた高刺激おまんこで、ゾリゾリって剥いてあげる」

 

 ぱちゅぱちゅと肌がぶつかる音が響く。騎乗位で腰を振っているのだろう。自分が世界の中心だと思っているあの女は、逆レイプの最中でも主導権を握らないと気が済まないのだ。 

 

「いち、に、さん! いち、に、さん……! ぇ、ぇ、あっ……! ほら、がんばー♡」

 

「うっ……そんな……! こんなの……!」

 

 男性アバターが苦痛と快楽の入り交じった声を漏らす。無理もない。

 

 以前、彼女とのレズプレイに少し付き合わされたから分かる。あの膣は麻薬だ。締め付けもヒダも……とにかく、刺激が強い。

 

 指を挿入した時は前世で試したハード系のオナホールを連想した。あんな女性器の持ち主が実在するとは。

 

 1つ違う点を挙げるとすれば、フレネミーは自分の膣の性質を理解した上で、武器として使いこなしている。人を選ぶハードオナホと違い、どんな相手の性感も引き出せるのだ。

 

『いやー、良い曲でしたね。最後にユニットリーダー……いえ、隊長のフレネミー様からコメントを頂いてもよろしいでしょうか?』

 

『はーい。ファンの皆ー。爆々愛してるよー♡』

 

『『うおおお! フレネミー様、最高おお!』』

 

「あぐっ……もう……! 射精るっ……!」

 

「きゃー、エッグい射精してんね」

 

 動画の歓声に紛れて、男が断末魔のような呻き声を上げる。激しいセックスの余韻に荒い息を吐き、精根尽き果てた様子だ。

 

 だが。

 

「ふ、フレネミー様!? 何を……!?」

 

「おちんちんが柔らかくなったくらいで、終わるわけないでしょ? 次は氷頭ちゃんも参加してー……。乱交、しよ♡」

 

「え、そこに誰かいるんですか……!?」

 

 無視してしまいたかったが、僕の体が勝手に動き出す。フレネミーのギフトだ。詳細は分からないが、彼女には他者を従わせる力がある。

 

「……拒否権はあるのかい?」

 

(固有ギフトを使えば抵抗はできそうだけど……フレネミーに僕のデータを与えたくないな)

 

 僕は諦めの溜め息を吐いた。

 

「これが終わったら、色々と説明して貰うよ」

 

「おっけ、おっけ。盛り上がってこ♡」

 

 

 

 1人の哀れな供献者(ぎせいしゃ)から搾れるだけの精を搾り取った僕達は、彼を見送ってから別の部屋に移動する。

 

 ……フレネミーの触り方が巧くて、僕自身も普通に気持ち良くなってしまったのが悔しい。

 

「ここは君の別荘の1つなんだね」

 

「別荘っていうより……物置き、みたいな?」

 

「なるほど、お嬢様の思考だ」

 

 彼女は供献者にしては珍しく、自身の現実世界での身分を公開している。世界1位の『@』とは真逆で、目立ちたがり屋なのだ。

 

 多大なリスクを抱えているように見えるが、実はそうでもない。

 

 彼女の本名は『フレミー・ミルクパズル』。世界有数の影響力を誇る大富豪『ミルクパズル財閥』の総帥である。

 

 絶大な権力に守られているのだ。財閥が運営している喫茶『ウールーズ』のチェーン店なんて、生きていれば嫌でも目にする機会がある。

 

「ミスター・エチケットは?」

 

「えー、何? 氷頭ちゃん、おじ専ー?」

 

「……違うよ。僕達が今、ダンジョン外でアバターを顕現させている件について、事前の許可を取ったのか確認したかったんだ。くだらない理由で逮捕されたくないからね」

 

「そこは、爆安心して。仮想領域保安局に連絡したら、緊急事態でのやむを得ない措置として見逃して貰える事になったから♡」

 

「そうか。安心したよ」

 

 僕が保安局の人間だとは、まだバレていないようだ。ミルクパズル財閥がどれほど力を持っていても、あくまで民間に限った話だ。公的機関を深く探る事は難しい。

 

 だからこそ、僕は保安局(そっち)を宿り木に選んだわけだが。

 

「でー、ここから先は、その仮想領域保安局にも秘匿してる情報なんだけどー」

 

 フレネミーがあっさりと口火を切る。

 

「実際、『神器』って釣り餌なんだよね。あたし様達が『神への挑戦者』を増やす為に、そういう噂を流したの」

 

「釣り餌……?」

 

「そー。普通に神のダンジョンを攻略しても神器は手に入らないかんね。あれ、見たでしょ? 代行騎士『ヘット・シャリオ』だっけ? ダンジョンによって違うんだけど」

 

 彼女は金髪の方の髪を掌で掬った。

 

「ダンジョンに認められた供献者の前には『神』が現れる。それを倒して初めて手に入る供物だから、神器って呼ぶの」

 

 隠しボスみたいなモノで、倒さなくてもダンジョンからは生還できるけど、とフレネミーは付け加える。ただし、神を倒すまで『神のダンジョン』は消えないらしい。

 

「おめでとー。氷頭ちゃんはダンジョンの秘密を知り、神への挑戦権を手に入れた。ちなみに、真の意味で神のダンジョンを攻略した供献者は、まだ1人しか確認されてないよ♡」

 

「その説明だと疑問が残るね」

 

 僕は用意されたお茶に口を付ける。まろやかで雑味がない。高級品だな、これは。

 

「神器の力がどんなモノだとしても、神との戦いに釣り合う価値があるとは思えない。僕達のように世界1位を目指しているならともかく、ミスター・エチケットなんかは関わらないだろう」

 

「きゃー、冴えてんね。大正解ー。エチおじが協力してるのは、神器が世界安定のキーアイテムだと睨んでるから」

 

「世界の安定……」

 

「今の地球は歪だと思わない? ファンタジーなルール……『摂理』に支配されたダンジョンの中と、普通の物理法則が適用されるダンジョンの外。凄ーく、不安定でしょー?」

 

 金髪と黒髪。左右で色違いのそれを手に持ち、天秤のように揺らしてみせる。

 

「神器を使えば、地球全体を『摂理』一色に統一する事ができる。そうすれば、前時代の負の遺産を全て爆リセットして、人類は新たな世界を築けるんじゃないか……って思ってるの」

 

 壮大過ぎる計画だが、あんな代行騎士(かみ)を見せられたら実感と共に理解してしまう。神のダンジョンの攻略は、確かに世界を一変させてもおかしくない。

 

「それで、わざわざ僕をここに運んだ理由は何だい? 監視でもするのかな?」

 

「惜しいー。『楽園計画』……あー、さっき言った計画の事。それに加えるか判断する為に、実力確認の合同攻略に参加して欲しいんだよねー。あたし様の『お友達』と一緒に」

 

「つまり、事情を知ってる人間が来るわけか。仲良くできるかは保証できないよ?」

 

「平気、平気ー。1人は明るい元気ガールだし……1人は氷頭ちゃんの知り合いだから♡」

 

「……は?」

 

 何だろう。こんな非合理的な事は言いたくないが……とても、嫌な予感がする。

 

「串刺し聖母『ハロー・セレナ』。わざわざ志願しての参加だって。愛されてんねー」

 

「……。……。……。……心強いよ」

 

「わーお、氷頭ちゃんの爆レア顔ゲット♡」

 

 何をやってるんだ、兄さん。




沢山の感想・お気に入り・評価付与、ありがとうございます。

学園チート無双・親友ハーレムもの・男の娘ものもよろしくお願いします。

活躍を期待するトップランカー人気投票

  • ①世界1位『@』
  • ②中衛代表『オクシモロン』
  • ③後衛代表『ミスター・エチケット』
  • ④前衛代表『差分』
  • ⑤女性最強『フレネミー』
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