side:アームストロング導師
さて、ブライヒブルクに着いたはいいものの、どうするべきか。某は土地勘もなく、立場上、あまり表立って活動もできないのである。
(とはいえ、この近くにはリーグ大山脈があるのである。冒険者ギルドに『リーグ大山脈の飛竜を狩りに来た』とでもいえば、誤魔化せるはず)
アリバイ作りで冒険者ギルドに行くべきか? それとも街で食べ歩きをしながら情報収集をするべきか。……ここで領主の館に行く選択肢はないのである。こういう時は相手の気を使うより、好き勝手に遊んでいる風に見せた方が警戒されないのである。
「すまぬが、この辺で美味い飯が食える店を知らないであるか? 値段は気にしないので、できれば量が多いと助かるのであるが」
まずは街の住民に聞き込みである。とりあえず、その辺にいた女性から。
「美味い店ねぇ……。色々あるけど、どんなのがいいのかしら? それに予算は?」
「某、これでも冒険者として活動して資金に余裕があるのである。だから高級店でも、大衆向けでも良いでのある! それと何か郷土料理とか、珍しい料理がいいのである」
「それならゴズさんの店がいいのかしら? 郷土料理なら大体食べられるし、変わった料理でも作れるからね。後は、最近できた『アイスクリーム屋』ってところもいいかも」
「あいすくりーむ?」
某も貴族として、冒険者として、色々な料理を食べてきたが、名前すら聞いたことがないのである。だが、『アイス』ということは、氷を使った料理であろうか?
「最近になって牛乳や卵がそれなりに使えるようになったからか、牛乳や卵を使ったお店が出来たのよ! 値段は高いけど、冷たくて、甘くて、あんな料理初めて見たわ!」
「そんなに美味いのであるか?」
「当然よ! 材料もだけど、作るのに氷魔法が必要で、数も限られているから毎日大行列よ! 運が良ければ食べられると思うけど……」
そういう女性は少し言い淀んでいるのである。話を聞く限り、貴族や王族でも中々食べられないようなものであるから、某も食べられるか分からないと思っているのであろう。
「それは良い情報を聞けたのである。それと、この街の武器屋の場所はどこであろうか?」
「それならあっちの方よ。近くに鍛冶屋もあるからすぐに分かるわ」
「助かるのである」
その後、某はおすすめの飯屋で食事を済ませると、例の『あいすくりーむ屋』とやらに赴いた。だが、残念ながら売り切れであり、再入荷は明後日とのことである。
「そんなに作るのが大変なのであるか?」
「俺は仕入れたものを売っているだけだからなぁ~。魔法の袋に入っている商品を売っているだけだから」
(魔法の袋であるか!?)
魔法の袋、それも汎用は非常に高価である。もっとも性能が低く、初級魔法使いの使う魔法の袋以下の容量であっても300万セントを下回ることはない。それがオークションの様に値が上がっていくので、実際には1000万セントで買えれば良い方である。
貴族は自分の見栄のため、商人は自分の商売でアドバンテージを得るために、軍は軍事品として手に入れようとする。他にも冒険者などで購入する者もおり、需要に供給が追い付いていないのである。
(その魔法の袋をただの商売で貸し出す? そんな事が出来る人間、この国にいないはず)
この店員を調べても魔法使いではないようだし、おかしなことばかりである。
「店主よ。この剣や槍であるが、値段がおかしいと思うのであるが?」
「旦那。それで間違ってないぜ」
その後、話に聞いていた『質の良い武器が大量に売られている』という情報を調べに来たのであるが……事実であった。これでも軍閥貴族、軍務卿も務める家の人間なので、武器の良し悪しくらいは分かるのである。
この武器は一流の職人が作っただけではない。材料の鉄も、魔法で精製した高品質――それもアルフレッドと同等以上の技術で作った鉄が必要なはず。
(やはり、ここで何かが起こっているのである)
魔法使いがどんな魔法でも器用にこなす、というのは間違いである。某ほどの極端な例は少ないが、初級魔法使いは数発の魔法……それも一系統の魔法しか使えない者が多い。中級以上の魔法使いでも、攻撃魔法や戦闘用の魔法特化が多く――というか9割近くが戦闘専門――『錬金』や『精製』の様な魔法は苦手なのである。
その後も各地を調べ、件の魔法使いを探してみたが……それらしい人間はいなかったのである。唯一、魔闘流の道場辺りにそこそこの子どもがいたが、『将来楽しみですね』が関の山だったのである。少なくとも、現状ではお話にならないのである。
あれから数日、某はブライヒブルクやその周辺で調査をしたが、例の子どもは見つからなかったのである。ただ、それでも分かったことがある。
(鍛冶屋連中は何かを知っていて、それを隠している。そして、一部の商人、商業ギルド、衛兵も同じ。だが、ブライヒレーダー辺境伯家家臣は何も知らされていない)
これでも軍閥貴族の次男にして元冒険者、ある程度の諜報活動や情報収集はできるのである。そして今日はブランターク殿がブライヒレーダー辺境伯家所有の森に行く日である。昨日の深夜から、街の外で『気配遮断』『隠蔽』を発動して待っていたのである。
そうして待っていると、朝日が昇る前にブランターク殿が街の外へ出かけたようである。やはり誰にも気づかれないようにしていたのであろう。……某なら、前日から現地で待っているのであるが。
彼が降り立った地点は予想通りの場所の様なので、離れたところから待たせてもらう。
――それから数時間後、一人の子どもが現れた。
sideout
それが現れたのは突然だった。『瞬間移動』でブライヒレーダー辺境伯家所有の森に移動し、ブランタークさんと会った瞬間、轟音と共に飛来した!
「見つけたのである! アルフレッドの弟子よ!」
「なっ、なんだ!?」
「チィッ!!! もう嗅ぎつけやがったか!!!」
その男は、身長が2mを超えたガチムチの中年のおっさん。筋肉の塊なのに、着ている服はローブだし、手に持っているものはもの凄く大きくてゴツイが杖である。つまり彼は見た目に反し、武道家や戦士ではなくて魔法使い……のはず。正直なところ、魔法を使うよりもその杖で敵を殴り殺した方が早いタイプに見えるのだけど。
「あー……坊主は知らねえよなぁ。こいつはアームストロング男爵だ。ヘルムート王国の王宮筆頭魔導師でもある」
こ、この人が! 原作で『第二の主人公』とも言われる公式最強の魔法使いか!!
「うむ! 某がアームストロング男爵である! 陛下や妖怪から話は聞いていたが、その年齢で油断ならない雰囲気ではあるな!」
「妖怪?」
「マジかよ……陛下が目をつけているのかよ……」
「陛下は『なんかブライヒレーダー辺境伯家の財政難が異常に回復しているから様子を見てきて』くらいの軽いノリである。この少年については知らないである」
「俺は妖怪に知り合いがいる方にビックリなんですが……」
「じゃあホーエンハイム枢機卿がか? ……どうやったらこの短期間で坊主の存在を知ったんだよ……」
そういえば、ホーエンハイム枢機卿って『妖怪』の二つ名持ちだったな。
「……教会勢力とケンカしたのが原因かな~」
「マジで!? お前、まだ6歳とかだろ!?」
「もうすぐ7歳ですよ~」
「安心するといいのである! あのクソ神官は僻地へ左遷しているのである! ……まあ、不幸な事故で亡くなったらしいのであるが」
「「絶対殺しただろ! ホーエンハイム枢機卿!!」」
殺ったのか!? サクッと殺ったのか!?
「某はブライヒレーダー辺境伯家が違法なシノギで資金難を脱出したのではないかという調査に来たのである。これも、ブライヒレーダー辺境伯家の身の潔白を示すため!」
「そう言われるとな……」
ポリポリと頭をかくブランタークさんだが、そりゃ頭が痛いよな。主君は俺の存在を隠したいのに、隠すと『謀反の疑い』で王国を敵に回すことになる。
結局、俺たちは師匠とあった経緯から、これまでの話を導師に話すことになった。
「――そうであるか。ならば、某もヴェンデリン少年の育成に協力するのである!」
「「いやいや!」」
流石に王宮筆頭魔導士を家庭教師扱いは無理だって!
「導師、ここまでの移動はどうするんだよ! 王城での仕事もあるだろ?」
「そんなのやりたい奴らに任せるのである! 某は非常時にしか仕事がないので、『アルフレッドの弟子の育成』という非常事態に対処するのである!」
「いや、俺もブランタークさんに指導してもらうのは週一なんですが……」
「それなら週一でここに来ればよいであるな」
「そしたら坊主の件が王国の貴族連中にバレんだろうが! 最低でも冒険者予備校に入学するまでは隠さねえと」
「むむむ……それはたしかに……。あのゴミクズ共と関わらせるわけには……」
どうやら王国貴族の評価は地の底らしい。
「そういえば、少年は『瞬間移動』の魔法が使えるのであるな?」
「そうですが……俺は王都まで行ったことがないので無理ですよ?」
「ならば王都まで行けばいいのである。数日あれば可能であるし、それくらいの費用は某が出すのである!」
「数日も子供が家を留守に出来るわけないだろ……」
「俺も嫌ですよ……」
アマーリエ義姉さんとの楽しみが出来なくなるし。
「残念であるな……。それなら、月一でブライヒブルクに来るのである。なぁに、珍しい料理を食べに来たとか、飛竜やワイバーンを倒しに来たとでも言えばどうとでもなるのである!」
「あんたならやりそうだけどよぉ……」
もうブランタークさんは諦めたらしい。まあ、この手の人間とまともに会話するだけ無駄か。
「まあ、俺も色々な魔法使いから指導を受けられるなら嬉しいのでいいですけど」
「だが、こうなると落ち合う日時を決めたり、それを連絡する方法が必要だろ?」
「それは……」
「それなら魔導携帯通信機があるので渡しておきますよ」
「「は?」」
転生したとはいえ、パソコンもスマホもないなんで不便だからな。パソコンは魔法で再現したが、スマホは魔導通信機で代用した。前世で使っていたゲームや便利アプリは入っていないが、電話やチャットなどは使える。
「――って感じの機能があるので、都合のいい日に伝えてくれれば」
「少年ッ!!」
「させるかッ!!!」
「ぐへっ!」
突然、俺を掴んで攫おうとする導師!
それを阻むブランタークさん!
情けない声を出す俺!
「なっ、何!?」
「ヴェンデリン少年は某が――いや、ヘルムート王国が”保護”するのである! これは王宮筆頭魔導師としての決定である!!」
「させるわけねぇだろ!! 少年誘拐の現行犯だ!!!」
「だがッ! 少年の価値は”特例”や”例外”が何十と重なっているのである!」
「貴族が坊主に干渉しようとするのが分かってんだろうが!」
「そんな貴族は、某がぶちのめすのである! むしろ、邪魔な貴族が減って丁度いいのである!!」
それから二人の言い争い&ドッグファイトは日が落ちるまで続いた。
二人の話を整理すると、魔導通信機の作成なんて現状では一切作れない……どころか、研究の取っ掛かりすらないのが実情との事。それを作れるどころか、『携帯性』『機能性』に優れる魔導通信機を量産できるとのことで取り乱したという事らしい。
(そういや、まだ魔導通信機がほとんど存在しない状況だったか。原作後半だと普及しまくっていたから忘れてたな……)
「にしても、この『チャット』というのは良いな! 電話に出なくても連絡出来て、後から見返せるとは」
「ちょっとした事でも連絡ができるとは……これが普及すれば、王国は更なる発展が見込めるのである!」
ヤバいなぁ~。二人の反応から見ても、完全に目をつけられた……。
「坊主。これは後何台ある?」
「10台くらい作りましたけど……」
「某にもう1台貸して欲しいのである。陛下にお見せして、判断を仰ぐのである!」
「俺にももう1台だ。お館様に見せる必要があるからな」
「そんなことして、俺に被害が出たら……」
「「大丈夫。絶対にブライヒレーダー辺境伯家/ヘルムート王家が守るから!!!」」
「そういう事であれば」
もういきなりのビッグゲスト登場で疲れたよ……。さっさと魔導通信機を渡して帰ろう。そして、アマーリエ義姉さんにご奉仕してもらいながら、『よしよし赤ちゃんプレイ』で癒してもらう……。