「坊主、ちょっといいか?」
街に入ろうとした時、俺は以前に会った衛兵に呼び止められていた。
「どうかしたの? 俺、用事あるんだけど」
「それは知ってるさ。だが、実は領主様が会いたいと言っていてな」
そう小声で話す衛兵だが、向こうの魂胆は分かる。なにせ、これは原作でもあったイベントだ。
「いいけど、俺はこの服しか持ってない。失礼に当たるんじゃないの?」
「別にいいだろ。向こうが急に来るように言っているんだからな」
「そうか? 領主はともかく、その部下……勘違い重臣が文句言うんじゃないのかな?」
「……やっぱオメェ、ただものじゃねえな。その年で、そこまで理解しているなんて」
当然だろ。中身は20歳そこそことは言え、しっかりとした教育を受けているんだ。それに原作でも『まともな人間ほど苦労する世界』と言われたほどだし。
「まあいいや。行ってもいいけど、”相応の対応”しかできないから」
「……安心しな。そこまで理解している魔法使いと、敵対しようなんて誰も思わんさ」
俺が案内されたのは領主の館。裏から通されて、奥の方にある一室で待機するように言われた。豪華な部屋だが、おそらく応接室のような場所だろう。それほど広い部屋ではないし、公的な応接室というより、普段使い用の場所か。
「それで、いい加減出てきたらどうですか?」
「ほう。まさか気づくとはな」
その言葉が聞こえると、棚が横にずれて男性が入ってくる。年齢は、40歳を少し過ぎたくらいであろうか。わずかな白髪が混じった黒髪を角刈りにしている、鋭い眼光を放つ歴戦の冒険者といった風に見える人物であった。しかも彼は魔法使いに多いローブ姿、普通に考えて魔法使いだろうな。しかも、相当な実力者だろう。
「お前さんがヴェルって言う子どもだな。噂には聞いているぜ」
「へえ、どんな噂なんですか?」
「子どもなのに上級魔法使い、それも筆頭魔導士と同等の実力者ってな」
まるで値踏みするような視線。
「少なくとも、魔力量に関しては、絶対に貴方に負けないと思っています」
「だな。ここまでの魔力、属性竜が人に化けたのかと思ったぜ!」
がははと笑う姿からは敵対心を感じない。だが、こいつからは目を離せないな。師匠から継承した知識から、この人物のことは知っている。
「ブランタークさん、ですよね?」
「話が早くて助かるな。改めて、ブランターク・リングスタットだ。見てのとおり、以前は冒険者をしていた」
「ブランターク……私の事も紹介して欲しいのですがね……」
「おっと。こりゃ失礼」
疲れた様子でブランタークさんの奥から出てきたのは20代半ば~後半くらいに見える、品のよさそうなシルバーの髪にグレーの瞳をした青年が現れる。
「申し遅れました。私の名は、アマデウス・フライターク・フォン・ブライヒレーダーと申します。君が噂の魔法使いですね。お会いできて光栄です」
「どうも、ヴェルです。本名ではありませんが」
「すげえな! 辺境伯相手に『偽名です!』なんて、俺でも言えねぞ!!」
そう言いながら豪快に笑うブランタークだったが、それでいいのだろうか? この人、一応それなりに主君を慕っていたはずだが。
「別に構いませんよ。バウマイスター家の方からすれば、私は怨敵でしょうからね」
「っ!!!」
「おや? 当たってましたか?」
何でもないように発言し、何でもないようにニッコリと笑うブライヒレーダー辺境伯。
ここまで簡単に出自を特定され、一瞬反応してしまった。まだ若く、戦闘力なら俺より圧倒的に下のはずだが……やはり前世20歳の学生では、生まれた時からの貴族には勝てないか。
「別にバレても問題ねえだろ。そもそもお前、隠す気ないだろ」
「いや、一応隠していたつもりですけど?」
「それなら畜産を実家でやるなよ……」
ああ、そうか。呆れたように言うブランタークのおかげで、ようやく理解する。よく考えたら、この世界で畜産業を実現できる人間なんて――貴族の道楽を除き――いないのだ。
辺境の貧乏貴族があれほど大規模な畜産ができていたのなら、男爵や子爵くらいにはなっていただろう。ブライヒレーダー辺境伯家としても、ボランティアの商隊派遣ではなく取引相手として考えるレベルなのだから。
「魔法使いの才能はあるが、その辺はまだまだですね」
「いや、こんな子どもに何を求めているんですか……」
「(ここまで来たら、隠す方がデメリットか……)失礼しました。私はバウマイスター騎士爵家八男ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスターと申します」
「あの家の八男ですか……母親は?」
「正室です」
「それを即答できるだけで、お前さんが身分を隠そうとしている理由は十分だな」
この世界では、家を存続させる方が重要視される。それが長男主義の価値観につながるのだが……例外はある。
(世界でも数少ない魔法使い。その中でも一握りの上級魔法使いってのは十分過ぎる理由だ。それにまともな教育を受けていないクルトと比べれば、前世で大学まで行っていた俺の方がいいだろうな。その気になれば、実力でバウマイスター騎士爵家を伯爵家にまではできる)
「まあ、実家を飢えさせないためにやってんだろ?」
「そもそもあの領地は塩がなければ生きていけません。その塩を手に入れるために往復三ヵ月、しかも危険地帯を通るなんて正気の沙汰ではない」
「道理だな。お前さんは『瞬間移動』できるだろ? それなら安全に商売ができる。牛乳や卵は高級品だ。それを売って必要なものを買えば……領地の開発も容易だな」
「君が亡くなった後のことを考え、安全に商売ができる販路の開拓も進めるでしょうね。そうすれば、領地はさらに発展し……君が領主になる」
俺からすれば罰ゲームだ。やってもいいが、クルトが邪魔だし、面倒ごとしかない。それなら原作の様に、新しい家として開発を行った方が良いだろう。あの男は兄だからと俺に無茶を言うのは確定だし、関わるだけ面倒なんだ。
「ままならねえなぁ……。お前さんが長男なら、せめて次男ならアルも死ななかっただろうに」
「あっ。やっぱり気づいていたんですね」
「そりゃそうだw お前さんが俺のことを知っていたこともそうだが、その魔法の袋を持っているんだからなw」
「色々と話したいことがありますね……。すみませんが、少し時間をください。私も方でも話したいことが山の様にあるので」
そう言ってブライヒレーダー辺境伯は使用人に軽食を用意させる。それと、他の人間を部屋に近づけさせないように、と。
「ヴェンデリン君。私は君と交渉がしたいのです。そして、ブランタークはお弟子さんの最後の様子が知りたいわけでして……その辺は信用していただけませんでしょうか?」
「分かりました。ですが、俺からもお願いしたいことがあるのですが?」
「いいぜ。何を頼みたいんだ?」
「まずは身の安全。次は修行と商売です。対価は将来の『世界最強の魔法使い』に恩が売れて、ブライヒレーダー辺境伯家の”損失”の補填です」
「いいですね~。腹が黒い貴族や商人よりも、よほど好感が持てます」
「俺も構わんよ。アルは弟子の質にこだわっていたからな。お眼鏡にかなった将来有望な魔法使いなんて、こっちから教えたいくらいだぜ」
二人との交渉? は上手くいったようなので、俺は師匠と二人だけの秘密を語ることになった。
「――って感じですね」
「そうか……アルの奴は、満足して成仏したのか」
「安心しましたね。彼には兄の件でも世話になりましたが、私自身もお世話になったので」
「…………あいつは最後に、遺言とか、何か言い残したりしなかったか?」
ああ……そういや、なんか変な事を言っていたな。
「遺言じゃなかったが、『シスターアンジー!シスターリューチェ!』って、言い残していました。でも、上を向いて、まるで誰かに呼び掛けているような……」
「「っ!!」」
そう話した瞬間、二人は号泣してしまった。大の大人がいきなり号泣するとか、トラウマレベルの怖さなんだが。
「そうですか……そうですか……」
「俺は神なんて信じてなかったが……神様ってのもいるのかもな……」
ああ。そういや、師匠から継承した知識の中に、育ての親であるシスターと初恋相手って情報があったな。そして、理不尽な理由で初恋の人を殺され、育ての親であるシスターと仲違いしたと。
古代竜と出会うまで異世界転生ではっちゃけてたから忘れてたわ。……古代竜の件もあるし、少し調べてみるか。何か使えそうな知識があるかもしれないし。
そこから師匠との思いで話を聞き、ブランタークさんは俺が師匠の知識を継承していることを聞き驚くなど、楽しい時間を過ごした。
「おっと。少々話が盛り上がりすぎましたね」
「やべっ。すまんな……俺の要件ばっかり優先しちまった……」
シュンとするブランタークさんだったが、これは仕方ないだろう。愛弟子の最後を聞いたのだからな。共に命がけの冒険をしたり、プライデートでも仲が良かったらしいから。
「そういえば、一応師匠の遺体を回収してあります。どこに埋葬しましょうか?」
「っ! なら俺に預けてくれないか!? アイツを弔うなら!!!」
「ブランターク、落ち着きなさい!」
「だがッ!!」
「ブランタークさんの言いたいことは分かります。師匠と縁の深いシスターと同じ墓に、ってことですよね?」
「ああ。そうだ」
気持ちはわかる。だが、親族でもないブランタークさんを抑えようとするブライヒレーダー辺境伯の気持ちもわかる。だが、これは難しい問題だ。師匠のことは国内でも有名だったらしく、その遺体の在りかも判明している。
『魔の森にあるはずのアルフレッドの遺体を誰が回収したのか』『なぜ先代ブライヒレーダー辺境伯やその部下の遺体は回収されなかったのか』など、疑問は尽きないだろう。そうすると俺の存在がバレるし、絶対に先代辺境伯や部下の遺体回収をやらされる。そんな面倒ごとを引き受ける義務も義理もないからな。
まあ、とりあえず師匠の遺体は俺の魔法の袋の中に入れておき、王都に行くことがあったら埋葬することになった。……もう成仏した後だし、後でいいだろって判断だ。なんか今更感があるし、師匠からしてもどうでもよさそうだしな。
「それでは、次は私の交渉ですね」
「ブライヒレーダー辺境伯軍の荷物……補給物資や採取した素材の件ですね?」
「そうです。アルフレッドは、今は亡き父が実行した魔の森遠征において、非常に大きな役割を担っていました。遠征軍の副将兼参謀長、魔法部隊隊長、補給部隊隊長などですね」
「あいつは大陸で五本の指に入る魔法使いだったからな。遠征軍でも先代ブライヒレーダー辺境伯様の次に偉かったわけだ」
「彼は膨大な物資を袋に仕舞い、その中に入れた物を自由に取り出せます。おかげで、あの2000人の遠征軍は補給の心配をしなくてもよかったのですから」
まあ、さすがにこれは見逃せないだろうな。2000人を多いと見るか、少ないと見るかは人によるだろう。だが、王国で3家しかない辺境伯の精鋭・優秀な家臣が2000人なのだ。会社で言えば、替えの利かない人材や社長、役員や現場のエース格が2000人もいなくなった訳だ。……潰れなかったことが奇跡だな。
「その魔法の袋の中には、遠征軍の補給物資が納められているはずですが」
「もちろん”返却”させていただきます。こちらが師匠がまとめていたリストです」
そう言って補給物資のリストをブライヒレーダー辺境伯に手渡す。
「兄を治す霊薬の材料には手が届かなかったものの、さすがは魔の森。貴重な素材なども多いですね」
「それで、これをお返しすればよろしいのでしょうか?」
「ええ、さすがはアルフレッド。律儀に自分の資産と分けていてくれたのが幸いですね」
返却が決まれば簡単だ。ブランタークさんの持っている魔法の袋と俺の魔法の袋を合わせる。そうして渡す物資だけを思い浮かべると、指定した物資だけがあちらに移動するのだ。
「おっと。俺の魔力量だとギリギリだな。行軍や侵入で消耗する前であったらお手上げだったな」
「白金貨50枚分は軽くありますね」
白金貨1枚が1億円程度だから……50億円相当か。皮肉なことに、魔の森で得た素材などがかなりの価値を占めているようだ。でなければ、普通に人が食す保存用のパンや干し肉や水や酒。それに予備の武具や宿泊用のテントなどがそこまで高価になるはずがない。むしろ、資産価値のかなりの部分がこれら魔の森で採集された素材の評価額で占められていた。
「これで我が領の財政回復が早まりますね!」
6年前とはいえ、2000人近くの人死――それも辺境伯家の精鋭――が出た大損害だ。回復には長い年月がかかる。諸侯軍の建て直しのために軍事費の支出は増えるし、その間、それを理由に内政をサボるというわけにはいかない。税収が落ちれば、増大する軍事費を捻出できないからだ。
なぜ軍事費について語るのか? それは、ブライヒレーダー辺境伯が当主になったばかりの頃、ブロワ辺境伯家から『紛争』を仕掛けられたことがあるからだ。南部を統括するブライヒレーダー辺境伯家が弱れば国家レベルの混乱となるのに、その弱ったところを攻撃したのだから、ブライヒレーダー辺境伯家が軍事に過敏になっても仕方がないだろう。
まだまだ損害回復もできていないため、俺が返却した物資に、ブライヒレーダー辺境伯はもの凄く嬉しそうな顔をした。彼からすれば、まさに天の恵みというわけだ。
「君がいてくれて助かりました。それで報酬ですが、評価額の2割とします。1000万セントを受け取ってください」
「いいんですか?」
「問題ないですよ。どうせ諦めていた物資ですし、返ってきただけ儲けものですから」
まあ、あそこまで取って来いと言われた場合、ほぼ全ての冒険者が拒否するだろう。そう考えたら、40億円の利益が出る時点で損はないだろうな。原作より6年も早く回収できたのだから、原作よりも楽ができるだろう。
「それと、君はアルフレッドの遺産を相続したことになります」
「もしかして、相続税がかかるとか?」
前世でも問題になっていた相続税。師匠レベルだと6億円なんて余裕で超えるだろうし、55%の税金を払えとか言われるのか!?
「い、いえ……流石にそれはないですよ……」
「坊主……お前の実家、まさかと思うが……」
おっと。前世の感覚に引っ張られたが、この世界では相続税はないのか。百戦錬磨の魔法使いと、王国屈指の大貴族が引いている。前世から納得しない税制度だったが、この世界だと非人道的なやつなのかな?
まあ、父親はなくなった領民に渡すはずの見舞金すら着服していた奴だから、評判なんて今更だろ。
「おっほん!」
「さて、思わぬ幸運により、我らは臨時収入を得ることができたのですが、もう一つヴェンデリン君に渡さなければいけないものがあるのです」
「もう一つですか?」
「はい。君は、我がブライヒレーダー辺境伯家の首席お抱え魔法使いであったアルフレッドの遺産を受け継ぐ資格のある人間です。実際に、その魔法の袋と中身は正式に受け取っている。違いますか?」
「確かに受け取っていますが」
「彼の資産は、その魔法の袋だけではありません。他にもあるのです」
要は師匠の預金や不動産なども遺産として受け取ってほしいとのことだ。相続人がいないならともかく、正当な相続人がいるのなら渡すのがルールだ。為政者からすれば、自分が守らないと市民も守るわけないのだから、やはり貴族は大変だな。
「まずはギルドに預けていた預託金が1000万セント。それと屋敷なのですが、魔道具による警備が厳しいんですよね……」
「家具とか運び出されなかったんですね」
「ぶっ壊して……という案もあったのですが、門だけでも50万セントもするそうです。壊したら勿体ないじゃないですか」
日本円で5000万か。通常時でも手に入れたいし、財政難の領主からすれば絶対に手に入れたいだろうな。……『壊せなかった』という情けない理由もありそうだが。
「さて、最後はヴェンデリン君ですか」
「俺はバウマイスター騎士爵家を継ぐ気がありません。ただ、今すぐ親元を離れていいとも思っていません」
「そうですね。いくら貴族と言えど、6歳の子どもを親元から離して生活させるなどできません」
口にしないが、『自分の利益になるから他家の子どもを拉致しよう』など、もはや人としてありえないからな。まあ、領民に対してやっている貴族は多そうだが。
「だが、お前さんはいつか家を出たい。具体的には冒険者になるために、か?」
「その通りです」
俺の目的は原作をなぞりながら、原作より良い選択を……”俺にとって都合のいい選択”を選ぶことだ。そのためにも”未来の知識”は手放せない。手放すのなら、相応の対価がなければならない。
俺は原作主人公とは違う。彼は明確な目標や行動指針がないために流されがちだったが、俺はやりたいことが沢山あるんだ。面倒ごとを引き受けるのはいいが、その分の対価はもらう。
「俺はブライヒレーダー辺境伯領での修行、そしてブライヒレーダー辺境伯またはブランターク個人との商売をしたい」
「我々”個人”ですか」
「つまり、そういう事でいいんだな?」
「そうです」
俺たちが言葉を濁すのは、これが違法に近い行為だからだ。『魔の森で得た素材の販売』はバウマイスター騎士爵である父親の領分だし、税金すら納めずにやるのなら完全な違法だ。しかも寄り親と共謀してやるのだからな。
「かなり危険な橋を渡るのですね」
「その気はありませんが、俺は強くなりたい。その最短ルートが”魔物との戦闘”です」
「そりゃ、そうだがよ……」
ブランタークさんが言い淀むのも無理はない。こんなこと、一般的な常識を持つ人間なら同意できない。なにせ、子どもが戦場の最前線で戦いたいと言っているに等しいのだから。
「ですがこれは、師匠がブランタークさんに無理矢理やらされたことからヒントを得ている訳でして」
「ブランターク……」
「ちょっ! それはねえぜ!」
いやいや。2年くらい魔物の領域に、当時13歳の師匠を放置したのはあんただろうが。あれだけは死ぬ間際……というか死んだ後でも恨んでいたからな。
「はぁ……。要は、ヴェンデリン君の目的のためにはお金が要る。必要な資金を稼ぐために魔の森の成果物を売却したい。そういう解釈でよろしいでしょうか?」
「そうです。もちろん、俺はこういう事もできるので……」
俺が魔法の袋から適当な木材を取り出し、魔法を発動させる。すると木材が姿を変えて……こぶし大のダイヤモンドが生まれる。
「バカなッ!!!」
「錬成術!?」
「そんなものです」
本当は人工ダイヤモンド生成を魔法で再現しただけなんだよな。ダイヤモンドって現代だと割と簡単に作れるし、本来の価値はそれほど高くない。ほとんどブランド価値だからな。……だがこの世界なら、人工ダイヤモンドなんて存在しない。つまり、希少性の高い宝石なのだ。
「なるほど。これを売却するのなら、何の問題もありませんね」
「いやいや! 今、歴史的な偉業が達成されたんですが!?」
実はこの世界、魔力があれば何でもできるわけではない。当然、錬金術なんて詐欺話と創作以外では存在しない。一時的に生み出せても、永続的に物質を固定化できない……まあ、俺はできるんだよね。前世の知識と莫大な魔力量で。
人工ダイヤモンドは『自然界でダイヤモンドが生成される環境』を魔法で再現すれば可能だ。魔法がない前世でもできたのだから、お手本・魔法ありで出来ない方がどうかしている。
「それでブランタークさんには魔法の修業を……週一でつけていただければと」
「そんなに少なくていいのか? お前さんなら毎日でも来れるだろ」
「実戦経験を積みたいのもありますが、他にもやりたいことがありまして」
「いいのではありませんか? ところでヴェンデリン君。君は治療魔法は使えますか? また、他にどんな魔法が使えるでしょうか?」
「ああ、それなら――」
こうして俺たちの交渉は終わった。
最終的に週一でブランタークさんに魔法の修業をつけてもらう。宝石の売買もその時に行うことで話がついた。ただ、魔法の修業はバウルブルグから少し離れたブライヒレーダー辺境伯家が所有する森の中で行うことになった。
……その理由が『バカな家臣と俺を関わらせたくない』というのが笑えなかったが。