「んじゃ、魔法の修業をするわけだが……まずはお前さんの腕を見せてもらおうか」
ここはブライヒレーダー辺境伯家が所有する森。ブランタークさんに魔法の修業をつけてもらうためにここに来たのだ。
「魔物でも狩ってこいと?」
「そこまでは言わないさ。適当に使える魔法を見せてくれ」
「それじゃあ……」
ブランタークさんに言われるまま、一通りの魔法を使用する。
「う~~む。ちょっと想定外だったな……」
「そんなに酷かったですか?」
「次はバケツ一杯に水を入れてみろ。ただし、溢すなよ?」
「はい」
言われるままバケツ一杯分の水を入れる。こんな簡単な魔法も使えないと思われているのだろうか?
「四大系統である火・水・風・土の魔法を全て使えるし、威力も十分。若いのに魔力も雑に使っている訳でもない」
「あの、それが何か?」
「……坊主。聖魔法は使えるよな? 回復魔法も使えるか?」
「どっちもできます。回復魔法は水系統ですが」
「うん! 優秀!!」
がはははっ、と笑うブランタークさんだが、本当に何なんだ? これくらいは普通に使えるレベルだろ。
「なんだ? お前さん、よく分からねえって顔して」
「いや、こんなことで褒められるとは思わなくて」
「……それ、他の魔法使いの前で言わない方が良いぜ」
「なんでですか?」
「お前さん程優秀な魔法使いは、そう多くねえんだよぉ」
ため息をつくブランタークさんだったが……この程度で優秀? たしかに魔力量には自信があるが、戦い方次第でどうとでもなると思うが。
「ですが、魔力配分を工夫すれば少ない魔力なんて気にならないと思うのですが……」
魔法に使用される魔力は『威力』『射程』『速度』に振り分けられる。例えば魔力を100とした時、『威力』40『射程』30『速度』30にするのが一般的だ。
だが、『威力』100『射程』0『速度』0で魔法を生成して、それを直接叩きつければ大ダメージを与えられるだろう。なんなら、『威力』100の魔法に対して、『『速度』100を与える魔法』『『射程』100を与える魔法』をそれぞれかけるのもいいだろう。
使用魔力は3倍に増えるが、自身の最大出力以上の魔法が使えるのだから、必殺技として重宝されるはずだ。
「――って、感じで戦えば魔力量とかあまり関係ないでしょ?」
「んなことあるかあああ!!! ってか、そんな理論を知ってるやつの方が珍しいわ!!」
「???」
「坊主……なんでそんなことは知らねえんだよぉ……」
ブランタークさんが疲れた顔をしているが、俺は変な事言っただろうか?
「あのな? そういう理論自体はあるよ。だが、そこまでの魔力配分をコントロールできる魔法使いは中級以上だ。だがそいつらは、んな面倒なことはしねえよ」
「なぜですか?」
「単純に雑な魔法で強いからだ。中級魔法使いは辺境伯家や侯爵家のお抱え魔法使い、王宮魔導士としてのキャリアもあるし、上手くいけばその筆頭にまでなれる」
「ですが、領地の発展をするためにはコントロールが最重要では? むしろ、そういう魔法使いこそ求められる人材だと」
「ああ!! なんで坊主みたいな若い魔法使いが出てこないんだろうな……」
ブランタークさんの話を聞くと、どうやら魔法使いってだけで稼げるし、強い。さらに中級や上級はもっと稼げて強いから、そこまで修行しないそうだ。一部では「小細工しないと戦えないなんて、魔法使いの風上にも置けない」って考える派閥まであるとか。
「他にも坊主は特殊な魔法が使えるんだよな? だったら、それを活かして戦闘スタイルを決めた方がいいのか? それともある程度の見本を見せた方がいいのか?」
「いくつか戦闘スタイルを考えているんですが……とりあえず、近距離戦・中距離戦・長距離戦・広範囲殲滅戦・タイマンの5つです」
「最初の3つは分かるが……最後の2つは物騒過ぎねえか?」
「師匠が数の暴力で負けたので」
それに、原作通りなら必要だろ。最後の1つは作中最強の男を参考にしているが。
「まあ、適当にやれば上手くいくだろ」
「ホントに適当ですね」
「そもそも6歳のガキが戦闘スタイルを考えている時点でおかしんだよ。てっきり系統魔法のコツを教えたり、魔力操作を鍛えるとばかり」
「その辺も教えて欲しいんですが……」
「むしろこっちが教えて欲しいよ……」
こうしてブランタークさんとの魔法の修業初日は終わった。なんかお互いに教え合うとかいうおかしな状況だったが、それなりにパワーアップできるのだろうか?
side:ブランターク
「って、感じでしたよ」
「何6歳の子どもに魔法のコツ教わっているんですか……」
「いやっ、坊主はスゲー優秀なもんで……」
坊主との修業が終わって、お館様に報告しているんだが……何故俺は非難の目で見られているのだろうか。
「あの坊主は優秀ですよ? 少なくとも、あれ以上の魔法使いとなると、俺があった中だと五人もいませんよ」
「……王宮筆頭魔導士やアルフレッドと比べたら?」
「坊主ですね。あいつらも優秀ですが、坊主と比べるとちょっと見劣りするというか……」
以前、アルが言っていたが「天才と秀才の差」ってやつなんだろうな。坊主は間違いなく天才。それも、多くの魔法使いを成長させることができる程の理論や技術を生み出せるタイプだ。「魔法の歴史はヴェンデリンの前と後で変わった」と言われても不思議じゃない。
「何より『分身魔法』は良いですね」
「以前にも話に聞きましたが、そこまでの魔法なのですか……」
坊主のオリジナル魔法『分身』は『幻覚魔法』の分身とは訳が違う。最大の強みは『経験の共有』だ。
「なるほど。どんな天才も一日に使える時間は24時間しかない。これは神が決めた絶対のルールです」
「ですが、それを覆せるメリットは説明するまでもないでしょう?」
貴族が学ぶ座学にも種類がある。語学・数字・自然・歴史・教養・経営学などを同時に勉強できるのなら、余った時間を他のことに使える。一教科一時間としても、五時間も節約は反則レベルだ。
「戦闘で数の有利程、強い戦術はありません。それに偵察として優秀過ぎますよ」
「死んでも構わない。いや、死んでも正確な情報を知ることができるのですから、その有用性は計り知れないでしょうね。そして、敵にとっては脅威となる」
「どう考えてもアルの知識が影響してますよ」
アルは貴族に人生を滅茶苦茶にされた。その貴族は諜報に長けた家だったが、坊主の魔法はそれ以上だ。なにせ、相手を殺しても情報を持ち帰られてしまうなら、情報漏洩を防ぐ手段がない。情報戦において圧倒的有利を得られるし、この魔法がバレたら、敵は勝手に警戒して神経を擦り減らす。
「他にも作業の分担化もできますし……人類史上、最強クラスの魔法ですね。その魔法は他人を増やせないのですか?」
「それは無理でしたね。あくまで自分の魔力を分け与えないと、分身は作れないそうなので」
「それでも言うほどの欠点ではないですね。ブランタークは使えないのですか?」
「無茶言わないでください……」
この魔法は、坊主以外の習得が不可能だ。魔法の性質上、分身に魔力を均等に分ける必要があるので、絶対的な魔力量が前提の魔法だからだ。
「私が使えれば、他の貴族や商人たちとの交渉、通常業務、領地発展の視察などを同時に行えますからね。これほど魔法使いをうらやましいと思ったことはありませんよ」
「有能な人ほど欲しい魔法でしょうね。俺も使いたいと思うのですが……」
「ないものねだりは止めましょうか」
そうだな。むしろ、そんな魔法を使える人間と友好的な関係を結べたことに感謝した方がいいな。
「他はどうなのでしょうか?」
「戦闘経験は分かりませんが、単純な実力や素質なら一流の魔法使いレベルですよ。すでに複数の戦闘スタイルを考えているようですから、実戦でも強くなるでしょうね」
「ふむ。となると、ブランターク以外の魔法使いともかかわった方が良いのでは?」
「ですが、うちにはいい魔法使いがいませんよ?」
「私の人脈もたかが知れていますし……ブランタークの方で呼べませんかね?」
魔法使いは優秀な奴ほど頭がおかしい。人間性と実力が反比例する世界だから、6歳の坊主と関わらせない方が良いと思うんだよな……。自分で言うのもなんだが、俺みたいに実力と人間性が両立している方が珍しいんだ。比較的マシなのが『ブリザードのリサ』なのだから、魔法使い業界の闇を感じるぜ。
「俺の知り合いだと……坊主に悪影響というか……。青少年の健全な育成に問題が生じてしまって……」
「そうですね……。あの好青年だったアルフレッドですら、色々と問題がありましたからね……」
それから何度も話し合ったが、後にこの話し合いが無駄であったと知ることになるのは……これから一ヶ月後のことであった。
sideout
「お帰りなさい♡ すぐにご飯にするからね♡」
ブランタークさんとの修業? が終わり、帰宅するとアマーリエが笑顔で出迎えてくれる。
夕飯の時間になり、彼女の手料理を堪能していると、親父から後で話があると言われた。それで親父の書斎に向かったのだが、何かやらかしただろうか?
「何ですか?」
「今度の商隊の件だ。以前、彼らが牛乳や卵をかなりの高値で買い取ってくれただろ?」
(ああ。そういうことね……)
親父の話を要約すると、以前までの小麦より高値で買い取ってくれた牛乳や卵をより高い金額で買い取ってもらうために相談してきたらしい。そりゃ楽に大金が稼げるなら、そっちの方がいいもんな。
だが、ここで問題なのがクラウスだ。名主のクラウスが牛乳と卵の生産に力を入れるべきだと力説していることもあり、信用できないらしい。……いや、なんでそうなるんだよ。
(クラウスは領地を発展させたいんだろうな。どう考えても詰んでいる領地に希望の光が差し込んだんだ)
「クラウスがあそこまで力説するのは珍しい。何か裏があるんじゃないかと考えている」
「卵はそれなりに日持ちするので、商隊が来る数日前から貯めておけばよいのでは? もしくは滞在期間を延ばして、その間に採取してもらうとか」
「それしかないか……」
親父も分かっているだろうに、何故あそこまでクラウスを毛嫌いするのか。忠誠心は最低限しかないが、能力だけならSSRの有能キャラなのに。
「父上、お願いしたいことがあるのですが」
「どうかしたか?」
「アマーリエ義姉さんの手紙の事ですが、毎回手紙を出させて欲しいんです。商隊も年に三回しか来ないので、それほどの負担にならないでしょうし」
「そうだな……。まあ、いいだろう」
「ありがとうございます」
相談に乗ったんだ。これくらいの褒美は請求させてもらうよ。精々数万円程度の出費、俺のくれてやった利益にして対して、ないに等しいからな。
「というわけで、アマーリエ義姉さんは気にせず家族に手紙出していいですよ」
「ありがとうヴェル君!!」
「うわっ!」
アマーリエに先ほどのことを伝えると、泣きながら喜んでくれた。どうやらクルトから「うちに手紙を出す余裕はない」と言われていたらしく、家族と連絡を取ることすらできないと思っていたそうだ。
「普段から苦労かけているんですから、これくらいは当然でしょう?」
「そう言ってくれる男性がどれだけいるか……」
……そういや男尊女卑社会でしたね。具体的には男尊女卑という概念すら出ないほどの。
「それじゃあ、ご褒美のご奉仕……楽しみにしてるね♪」
「それじゃあ準備しましょうか♡」