戦争の覚悟 作:自棄ノ原
原作2巻、コミック4巻まで読了後推奨。
自ら素肌になり、牡から最後の衣装を取り去るところで、ディネルースは異常に気づいた。
正確には、異常が起こっていないことに気づいた。
「……そういう気分にはなれないか?」
そっと触れてくるが、牡のその部分は力を無くしている。何を言うべきか、グスタフには分からない。
「いいよ。素肌で抱き合ってるだけでも、私は幸せだ」
牡の身体に乗り、体重を預けて、全身でしがみつくように抱きしめる。どこにも行くなとでも言うように。
その柔らかさと温もりが、牡の心を次第に溶かしていった。いつまでも、いつまでもこうして、この女と肌を合わせていたいと思った。
「うーん……」
そう唸ると、女は何とも言えない渋面を彼に見せた。
「いや……そうなんだぞ? 普段は。一緒にいられればいい。そうなんだけど、さすがに今夜はそれじゃ、私としては、ちょっと困るんだよな……」
本当に、大層困ったような顔で言われて、彼は失笑した。
「笑うな! 私は真剣なんだぞ」
そう言いながら、ディネルース自身も笑いだした。笑いながら律儀に話を続けた。
「だからな、ちょっとだけ、試しにあちこち触ってみていいか?」
その言いざまがますますおかしくて、牡は呼吸に苦しさを感じるほど、息を詰まらせて笑った。悲壮感など、とっくに去っていた。
目尻を拭いながらやっと言う。
「まったく……ディネルース、私も君が欲しいよ。とてもだ」
まだ笑いながら了承を示したが、女は何故か不服そうだった。
「むう……もう少しこう、しんみりと言ってくれたっていいぞ? 本当にそう思ってるか?」
「思ってる、思ってる。君が大好きだ」
「それは嬉しいが、私も大好きだが、うーん……雰囲気がちょっと、思っていたのとは違うというか……」
どうも納得がいかないらしい女の困り顔を見るうちに、ますます彼の心はほぐれた。
それに従って、身体も生気を取り戻してきた。
隆起の感触が伝わると、ディネルースは即座に言った。
「むっ、そうか。了解だ」
グスタフはまた失笑した。
「ディネルース。それを返事だと思うのは、さすがにやめてくれるか」
「それは失礼した」
自分でもおかしいと思ったらしく、ディネルースもまた失笑した。しかし、その笑みが段々と妖しさを纏いはじめた。
「じゃあ、行動でも示してくれるか?」
「もちろんだとも」
今度は彼の方から女を抱きしめ、一緒にぐるりと転がるようにまわり、自分が上になる。
「ディネルース……」
間近に見下ろせば、やはり女は美しかった。
豊かな栗色の髪は寝台に広がって波打っている。
褐色の肌は以前から美しいと思っていたが、最近はますます艶めいている。
活発さは出会った頃からだが、以前よりも多く笑うようになった。
種族のためにという気丈さが、無くなるのではなく、それを含めて自然体になってきたように思う。
なんと素敵な女だろうか。
ふたりで過ごす時間を、一日、また一日と重ねるごとに、ますます魅力的になっていく。
このまま、何ヶ月も、何年も、何十、何百年も、この女とともに過ごしたいと、心から願っている。
愛おしさが高まれば、女の形を確かめずにはいられない。額に、頬にと口づけを与えながら、彼の手は女の背に、肩にと撫でていく。足を絡ませて、全身で女の形を感じようとする。
しきりと吐息を漏らしつつ、ディネルースも全身を蠢かせている。彼の背を撫で、頬を擦り合わせ、唇に唇を重ねてくる。発達した形の良い太腿が彼の足に応じるように動き、彼の下肢を抱え込んでは、急かすように下腹を擦りつけてくる。
全身の感触をひとしきり味わうと、牡はだんだん下へと下がっていく。呼吸にあわせて左右の丘に手をやり、裾野のあたりを撫でる。触るまでもなく張り詰めた頂きの周囲に口づけを幾度も重ねる。ますます期待に膨らんだ頂きにもそっと口づけを与え、さらに先へ向かう。
引き締まった腹部を辿り、脇腹に手を這わせ、なぜかエルフにも存在する可愛らしい臍の周囲の柔らかい皮膚にも口づけする。腰骨の膨らみを舌でなぞり、手は内腿を往復させる。
舌先で茂みの際をなぞる。女の震えを感じ、期待に高まる息遣いを聞きながら、舌先をそのまま腰と太腿の合間へ、さらに内股に進ませる。そうして腿から膝、足首、足の甲の皮膚の薄いあたりまで、舌で形を確かめ、時に吸い付くように口づけていく。
形の良いつま先まで達すると、また上へ逆に辿る。再び豊かな腰に辿り着く頃には、太腿は自ずから割れて彼を招くようだった。女の中心に目をやると、この半月というもの、ほとんど毎夜の侵入を受け入れてきた部分は力強く息づき、口を開き、彼を招く潤滑を尻まで滴らせている。
彼はそこに唇をつけた。女の頬や額にするように、点々と口づけし、舌のひらでそっと舐めて形を辿る。
「は……ん……」
ディネルースは声をあげ、腰をくねらせて彼に応じる。もう驚くことも、恥ずかしがることもない。大柄なオークの頭部がそこで活動しやすいようにと、大きく足を開いてくれる。その部分に彼の唇や舌まで受け入れるのが、もう女の当たり前になっている。
牡の唇がその突起に達し、そっと挟み、上下の唇で揉むような刺激を加え始めると、女の声は昂りを増した。
「はあっ……あぁっ……」
その小さく微かな動きを続けながら、牡の両手は女の脇腹を辿る。やがて双丘の頂きに達すると、女はひときわ高く鳴いた。
そのまま、穏やかな律動を三つの蕾に加えていく。それはそのまま、女の声のリズムになった。穏やかに、僅かずつ変化しながら継続する。女は潮が満ちるように緩やかに高まって、自然の充足を迎えた。
果てもなく痙攣し、背を反らせ、伸びやかな歓声を響かせて、女は開花した自分の美しさを見せつけるようだった。
その成り行きのまま、溢れる潤いに侵入しようとしたところで、彼自身が女に手で制された。
「ちょ……ちょっと、待って」
グスタフは素直に従い、女が息を落ち着かせるのを待った。
「ふぅ……」
ようやく落ち着くと、女は上体を起こした。彼の身体を手でそっと押し、仰向けに寝るように促してくる。
「ディネルース……」
そう名を呼んで訴えると、褐色の美貌がほころび、悪戯めいた声で言った。
「まだ駄目だ。今日は。折角だから……普段しないことをしてみたい」
そう言うと、今度はディネルースのふくよかな唇が、寝そべった彼の唇から胸、脇腹、さらに下へと降りていった。
女の唇は、あちこちに寄り道しつつ、牡のその部分に近づくと、その先端をそっと含んだ。ついばむように口づけ、切れ目をなぞるように舌先を這わせ、また口に含む。先端だけではなく、慈しむように丹念に、ついばみ、吸い付き、舐め上げる。
その間、女の手もまた、牡の身体のあちこちを触り、撫でさすっている。女もまた牡の形を入念に捉え、感触の全てを覚えこもうとしているかのように、その作業は果てしもなく続けられた。
やがて牡がいよいよ兆し、頻繁に震えるようになると、褐色の唇は再び先端を含み、闇エルフの口に収まる限りまで咥えた。そしてゆっくりと前後しはじめる。
「ディネ、ルース……待ってくれ」
牡の懇願は完全に無視された。
唾液が絡みつく密やかな音と、牡の呻き声だけが室内に響いている。女の口内では、舌先がちろちろと牡の先端への微細な刺激を続ける。褐色の手は、口内に収まりきらない部分に添えられ、ほどよく握りしめ、唇に合わせたリズムを与え続けている。牡はいよいよ追い詰められた。
「それ、くらいで、もう……っ」
切迫感を理解した女は、上目遣いに牡を見る瞳だけで笑い、ますます動きを素早くした。握る手の強さも増し、追い込むように激しく動く。
「……っ」
牡は衝動の命じるままに、彼の下腹で揺れる豊かな栗色の頭部に手をやると、堪えていたものを解き放った。迸りを口内で受け止め、女は一瞬びくりとしたが、穏やかに動きを再開して、牡が全てを吐き出し、痙攣を終えるまで続けた。
繰り返した収縮と放出がやっと終わりを迎えると、その全てを受け取った女は、そっと離れた。
卓上に水差しとともに常備されている白巾をとると、そこに口元を寄せた。その後、水差しの水で口を濯いだようだった。
やがて彼の懐に戻ってきた女は、達成感と不信感をないまぜにしたような、なんとも言い難い表情を浮かべていた。
そして、彼女がたいていの時にそうであるように、極めて端的に告げた。
「まずい」
「…………」
「あまりにもまずい。何だあれは。一体、どういうことだ」
唐突に借金取りの訪問を受けた連帯保証人のような気分で、グスタフは言い訳を始めた。
「だ、だから……待ってくれと。別に口で受け止めてくれなくても」
ディネルースは怒ったように眉を逆立てた。実際、少しは怒っているのかもしれない。
「ああすると、牡は喜ぶらしいじゃないか。全く理解に苦しむ。何を考えているんだ」
「私はお願いした覚えはない……!」
世の牡どもの責任を一身に追及される理不尽さに閉口したところで、グスタフは、はたと気づいた。
「ん? 待ってくれ。君は何かで予習してきてくれたのか?」
反転攻勢を受け、ディネルースは露骨な動揺を見せた。
「いや、その……別にいいじゃないか、そんなことは」
「そういうことには疎いと思っていた。書物でも読んだのか? グロワール王国の文庫本とか」
「そっ、そんなものを買えるか! 私が!」
褐色の美貌は、服を取り去られる時よりも赤らんでいる。彼女は言い訳の必要を認めたらしかった。
「ち、違うっ。旅団に詳しい奴がいて、私は吹き込まれたんだ」
グスタフは更に訝しんだ。六種の魔種族を一つの国民として統べる君主として、聞き捨てならないことである。
「闇エルフは全員が女性じゃないか。まさか、君の他にもオークと付き合い始めた者がいるのか?」
ディネルースは困りきった顔をしている。
「いないよ、私の知る限りは。そうじゃなくて、女世帯でも物知りな奴はいるんだ。勉強熱心というか、それこそ書物を読んだり書いたりしていて」
「ふうむ、そういうものだったか」
素朴に感心していると、ディネルースは何か勘違いしたようだった。
「本当だ! 誓って、貴方以外の牡に何か教わったりはしてないぞ」
グスタフは吹き出した。
「そんなこと心配してはいないよ」
「ならいいが……それで、どうだったんだ。貴方は。嬉しかったか?」
「う……まあ、確かに」
すると、ディネルースは勝利者の笑みを浮かべた。
「じゃあ仕方ないな。貴方がそこまで言うなら、たまには我慢してやらんでもない。毎回は嫌だが。また今度な」
グスタフは、世界で最も可愛いらしい女を抱き寄せた。
「ああ、また今度でいい」
「うん……ん?」
ディネルースはもぞもぞと動いた。彼がもう兆してきたと気づいたのだ。彼の顔をみつめ、ニヤニヤとして言った。
「今日はもう、口では駄目だからな」
グスタフも負けじと言い返す。
「他に、教わってきたことは?」
「秘密だ」
そう言うと、ディネルースは膝立ちになった。彼自身に手を添え、何度か刺激して力付けてから、それに跨る。
彼の瞳を見つめながらゆっくりと腰を下ろしていく。溢れる瑞々しさが彼を包みこんだ。
「あっ……ああっ……」
ディネルースは声をあげながら、するすると腰を落としていく。最後まで終えてしまうと、ディネルースは息をついた。
「……ふう」
「痛くはないかい」
「聞かなくても分かるでしょう?」
そう言うと、ディネルースは上体を立てたまま、照れ臭そうに大きく両腕を広げた。
求められていることを理解し、グスタフはゆっくりと上体を起こしていく。密着した感触の角度が変わっていく。
やがて、女の腕に包まれる。結びついたまま、ふたりで上体を起こして抱きしめ合う。
間近にある女の唇は、荒い息をついている。やがて、切迫した声で言った。
「……ふか……い……」
そう言って、女は何かを堪えるように彼にしがみついてくる。
「大丈夫かい? 苦しいようなら」
「だい、じょうぶ……しばらく、このままで……」
オークの分厚い肩に、女の両腕が絡まる。彼の耳のすぐそばに女の顔があり、息遣いの全てが聞こえ、吐息にくすぐられてこそばゆい。
彼は身じろぎもせず、女の滑らかな背に腕を回し、ゆっくりと撫で続けた。
女はやがて言った。
「ふぅ……何とかなった」
それは本当のことらしく、女は汗ばむ額に髪を貼りつかせながらも、紅潮した笑顔をみせた。そのまま嬉しそうに言う。
「やっぱり、抱き合えるのはいいな。貴方が近くにいる。凄く近くに」
「ディネルース……」
愛おしさが高まるまま、女の唇をついばむ。幾度も口づけ、唇の端、頬、こめかみ、夢見るように閉じられたまぶたと、次々に触れていく。
「ん……」
吐息を漏らし、ゆっくりと開かれた女の目は潤み、この世の何よりも美しく輝いて、一心に彼だけを見ていた。
「貴方のそばにいる。遠く離れても。もし戦争で死んでも、私の魂は白銀樹には帰らない」
エルフの伝承では、死せる魂は生まれの白銀樹に帰還し、再び生まれる時を安らかに待つという。
しかし、ディネルース・アンダリエルの母樹は、彼女の村を襲った白エルフたちによって切り倒されてしまった。
「だから、私は貴方のもとへ帰ってくるよ。絶対にだ。魂だけになっても。だから、貴方が危害にあったら、私が困るんだ。帰るところが、また無くなってしまうから」
グスタフは、自分の頬を涙が伝うのに気づいた。いつから自分が泣いているのか、それだけが分からなかった。
「帰ってきたら、その後はずっとそばにいる。決して離れない。誓うよ。だから、無事で待っていて。自分を大切にして」
透けるような女の笑顔にも、いつのまにか涙が滴っている。
彼は応じた。
「分かった。私も約束する」
その言葉を受け止めると、女はまたしがみついてきた。
「……んっ」
牡の肩にしがみつき、それを手がかりにして自分の身体を動かし始める。そのたびに結びついた部分はぬめるように音を立て、潤いを溢れさせた。
「はぁ……あっ……うっ……」
次第に要諦を掴むと、女の動きは刻々と早まった。彼を抱きしめる腕の力も強まる。
彼も応じ、腕の中の女を下から突き上げ始めた。
「あぁ!」
その衝撃に背を反らし、またしがみついて、女はふたつのリズムを重ねようとする。彼も応じ、最も心地よい二重奏をみつけると、女の声はさらに高まった。
動きは微妙に変化し、彼に自分の中心を擦り付けるようになる。声は甲高さを失い、低く唸る獣のようになる。
「うぅ!……うっ!……うあっ……グスタフっ、あっ、貴方……っああ!……っ!」
女が魂を飛翔させるのと同時に、彼もまた昂りを放ち、愛する女の最奥を満たした。ふたつの体はひとつになったように痙攣し、その振動が解放の余韻を慰めた。
息も絶え絶えとなったふたりは、どちらからともなく唇を合わせ、互いを貪り合った。そのうちに、また下腹のつながりを互いに擦りつけあい始める。
ふたつの心が近くにあるのと同じくらいに、ふたつの身体も互いの感触を近くに求めて、いつまでも離れようとしなかった。