桐生マコ。性に奥手な女の子だったが、高校1年の夏の不思議な体験によって、自分の身体の欲求に素直になることができるようになった。
ボーイフレンドの水橋裕と結ばれ、彼が大学を出て就職した年に結婚した。真優という娘も産まれた。マユはすくすく大きくなり、彼女はもう高校1年だ。
すべては順調だった。
しかし。
真優が高校に入学した年、ユウは単身赴任でニュージーランドに出張することになった。アパレル会社に勤めるユウは、現地でウールの仕入れを行う会社を立ち上げることになったのだ。
それ以来、ずっと帰ってこない。会話はしているけど、帰ってきてほしいと訴えても、忙しくてそれどころじゃないという。
そんな日々が、ずいぶん続いていた。
夏のある朝。
カーテンの隙間から日差しが差し込み、ベッドに横たわっていたマユの顔を照らす。その光で、マユは目を覚ました。
「うーん」
伸びをして、ベッドから起きる。
いい朝だ。
だが、その気分はすぐに壊されてしまったのだ。
「えっ、これしかないの?」
マコはちょっと早く起きて、たまっていた服を洗濯していた。
ドラム式の全自動洗濯機だけど、やっぱり、自然の光と風で乾かすのがいちばん。
「ママー!」
階段の下から、マユの声がする。
下着だけの姿でダイニングに降りてきた。
「わたしの服、ない?」
「洗っちゃったわよ」
「えー!」
「学校に、なにを着ていくのよ!?」
文句を言われて、マコはタンスの引き出しを開けた。
「これ、どう?」
取り出したのは、ミニもミニ、超ミニスカートだった。
「これ?」
「去年はいてたやつじゃない」
マユは腰の前でスカートを当てて、丈を確かめてみる。
去年までは、こんなに丈が短くなかったはずだ。
成長したのか、それとも太ったのか。
「やだ。チンチクリンじゃない」
「しょうがないでしょ」
「もう……」
仕方なく、マコに渡された服を持って、自室に入った。
服を着る前、マユは下着だけで姿見の前に立った。
映された自分を見て、思う。
まだ自分は子供だ、と。
マユに月のものがはじめてやってきたのは、小学校6年のときだった。
その翌年、ブラジャーをするようになった。
高校に入って、ブラジャーのカップはAからBになった。
しかしまだ、母親のマコのようなグラマラスな肢体ではない。
マコは学生時代、新体操で鍛えていたとよく聞かされていた。そのせいか、子供を産んでずいぶん経つのに、体形は崩れていないのだ。
昨日もシャワーを浴びたあと、素っ裸にタオルを巻いたまま冷蔵庫を開けて、牛乳パックをラッパ飲みしていた。
階段を降りてリビングダイニングに入ったマユは、あられもない姿にギョッとした。
「お母さん、服を着て」
「あら、いいじゃない。この家には女しかいないんだから」
そんなことを言って、わたしに自分の身体を見せつけたいんだろうか。
胸は大きいがまだ重力に負けてはいない。お腹にはすこし贅肉がついているが、腰のくびれは保たれていて、お尻はきゅっと締まって張りがある。
その体つきに、コンプレックスも感じてしまった。
(わたしもじきに、ああなるのかな)
それはともかく、服を着なくちゃ。
月のものが来る前の、もやもやした感じがマユを支配している。
この時期は胸が張って、太ももの付け根から湿った感覚が抜けない。
脇の下のアポクリン腺から汗がにじみ出る。
どうしても、においが気になってしまうので、ボディシートで脇の下や首筋を何度も拭った。
家を出る。
歩きながらでも、スカートの短さが気になって仕方がない。中が見えてしまいそうで、内股で歩みを進めていく。
男のひととすれ違うとき、すこし緊張する。
(見えたらどうしよう)
その場を早く立ち去りたいが、太ももを大きく動かすとスカートがひるがえってしまいそう。歩いてる最中、そのジレンマが頭の中をぐるぐる回っていた。
公園を通りかかった。
ここを横切るのが、駅への近道だ。あまつさえ早朝なので人影が少ない。すこしマユの緊張が解ける。
だがそのとき、声を掛けられた。
「見えてるよ」
小学校の低学年くらいの女の子が、花壇の端の煉瓦に腰を下ろして、マユを見上げていた。
「だれ……あなた?」
「お姉ちゃん、見えてるよ。スカートの中……」
思わずカバンでスカートの前を覆った。
「あ、あなた。いきなりなんてこと言うの」
「可愛いパンツね。誰かに見せたいの?」
そう言われた途端、羞恥心にカッと顔が熱くなった。誰かに聞かれていないだろうか。思わず周りを見渡した。そして女の子に向かって吐き捨てた。
「イヤな子ね!」
マユはぷりぷりしなら公園を横切り、駅まで歩いていった。
マユを見送る女の子の口元には、笑みが浮かんでいた。