マユを見送って、マコは思う。
父親の目が届かなくなったことで、娘は羽を伸ばしているように見える。しかし、男性にはまだまだ臆病なようだ。共学校に通っているのだが、ボーイフレンドもいないようだ。
(マユにも、あんなことが)
マコはふと、あの夏のことを思い出していた――。
昼間。
マコはひとり残された家で、無聊を託っていた。洗濯も掃除も一通り済んで、ぽっかり時間が空いたのだ。
テレビをつけると、ワイドショーはタレントの醜聞を取り上げていた。不倫騒動で離婚騒ぎを起こしているという。
興味が持てないけど。「不倫」ということばに、ふと反応する自分がいる。
ユウがいなくなって、マコは独り寝の夜が続いていた。
夜中ふと目が覚めても、彼女の隣にはだれもいない。寝息も気配もない。寂しさが心と身体に忍び寄る。
いつしかマコは、ときおり自分を慰めるようになった。
思い浮かべるのはユウとの営みから、いつの間にかあの夏の出来事になっていった。
不思議な女の子に教えられた悦び。甘いうずきを呼び起こす風。そして訪れた、身体の芯から震えるようなエクスタシー。
快楽の泥沼に引き込まれそうになったけど、危ういところで助かった。助けてくれたのは、ユウだ。
それからずいぶん経った。今でもその女の子たちは、わたしの心の中に住んでいて、時折囁きかけてくることがある。
たとえば、こんなときだ。
クーラーを効かせても、よどんだ空気は一掃できない。
(マコ……マコ……)
だれかが、呼んでいるような気がする。
肉体の奥深くから、こみ上げるものがある。
ふと、思いついて、押し入れからハンディビデオカメラを取り出した。
マユが小さな頃は、家族の思い出をよく撮ったっけ。
今ではスマホばかり使って、こちらはずっとしまわれていたが。
スイッチを入れると、まだ動きそうだ。
夫に送りつけてやろう。わたしがどんなに寂しがってるか。どんなにこの熟れた肉体がうずいているか――。
カメラを三脚に据え付け、ベッドの上にピントが合うことを確認したあと、「REC」のスイッチを入れた。のぞき込んでから、ベッドに横たわる。
いまのマコは下着姿だ。
ショーツをはいたまま、レンズに向かって大きく足を開いたり、上半身をかがめて胸の谷間を見せつけるようにする。
いつしか、粘っこい唾液が分泌される。上下の唇をぴちゃぴちゃと音を立ててくっつけたり、離したりした。
そして、ブラジャーの隙間から手を入れ、胸を揉みしだいた。
(……)
マコの思いは、初めて性の喜びに目覚めた夜に馳せられたのだった。
暑い夏の日だった。ユウに抱きしめられたけど、告白を拒絶してしまった夜。謎めいた女の子が寝室に現れた。ささやきかける淫らな声と、全身をなでるように吹く風に誘われるように、指で秘められた場所に触れ、絶頂に達してしまったことを。
どこからか、あのとき聞こえた声が響いてくるようだ。
(わたしは、あなたなのよ。さあ、わたしと一緒に、もっと愉しみましょ)
(指を使うのよ、さあ……いい気持ちでしょ)
その声に誘われるように、指は下腹部の茂みに潜っていった。
足のあいだの亀裂は、濡れていた。
その感触を感じると、指の動きは激しくなった。
漏れ出る声もどんどん大きくなった。
(もっと……声を出してごらん)
唇に、あのときの感触が蘇る。
なにも知らなかったマコの唇に、少女の唇が触れる。舌が差し込まれ、絡まれる。マコの舌が応えると、歯で優しく噛まれる。
その記憶を蘇らせるたびにマコは悶えた。ぴくりぴくりと背筋が震え、足がピンと張り詰める。
いつしか、マコは一糸まとわぬ姿になっている。
白い胸をゆっくりと揉み、固くなった乳首にそっと爪が立てられる。
「あっ、あっ」
足を大きく開く。そこからあふれ出す快感に誘われるように、指は奥まで入っていく。
あのときの不思議な体験の記憶が、頭をぐるぐると回り続ける。
敏感な芽を易しく愛撫しているのは、自分の指なのか、それともあのとき優しく吹いていた「風」なのか……。
ぴちゃぴちゃと粘っこい音が聞こえてくる。
亀裂の奥の花園は、もう十分すぎるほど潤っていた。
その潤いを、指でかき混ぜる。
「あ、あああ……あああーっ!」
気持ちよさに腰が上下する。
指を激しく動かし、ぐちゅぐちゅと音を立てて粘膜を刺激する。そして、マコは果てる。
その一部始終を、レンズは映していた。
マユが帰ってきたのは夕方だった。
母親――マコからは今日、「高校時代の同窓会で、夜が遅くなる」と連絡が入っていた。
作り置きの夕食を、電子レンジで温めて食べる。
自室に戻っても、
マコの寝室に、三脚に取り付けたビデオカメラが置いてある。
「どうして?」
なにを撮っていたのか。
カメラからメモリーカードを取り出した。
パソコンに入れて、いちばん新しい日付の動画をクリックしてみた。
「これは……」
マコの顔の大アップ。
引いていくと、全身が映った、プラジャーしかつけていない上半身が写る。何事かを言っているようだが、よく聞き取れない。
ブラジャーを外して、ベッドに投げ捨てた。
剥き出しの胸をもみしだき、乳首を指で挟んで愛撫する。
「……」
目が離せない。
マコの声が大きくなっていく。
大きく足を開いて、茂みと、その下のピンク色の亀裂が露わになる。
マコの指はその亀裂をさするのだ。
あえぎ声はどんどん大きくなる。
やがてマコの傍らに、ぼうっと光るものが現れる。
「!」
光は、しだいにその姿を整えていき、やがて、少女の姿を取った。
髪の長い、パフスリーブのワンピースを纏った少女だ。
少女は喘ぐマコの耳にそっと息を吹きかけたり、首筋に唇を寄せ、舐めあげたりしていた。
「あああっ!」
ひときわ大きな声が上がる。
マコは大きく身体を反らせ、そしてぐったりとベッドに身体を投げ出したところで、動画は終わっていた。
「……これ」
こんなものを撮って、どうする気なんだろうか?
ネットに流出でもしたら。
でも。
――お母さん、やっぱり「女」なのね。
マユはそう思った。
メモリカードを差し込み、元の場所に戻した。
夜遅く。
マコは帰ってきた。
「ただいま」
出迎えたマユは言った。
「お母さん」
「なに」
「寝室のビデオカメラ、何に使ったの?」
「……!」
気がついてしまったようだ。
「見たのね……」
うなずいた。
「訊いていい?」
「?」
「後ろの、女の子は……?」
「なんのこと」
「女の子が宙に浮かんで、お母さんにキスしたり、身体を触ったりしてた」
「!」
「どういうことなの」
「……忘れてちょうだい。いいわね」
それきり、その話はしなくなった。