※この作品はR-18です。

月のわらう世界(マーリン夢小説)   作:ゆんぎつね

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ここから2022年。
またもやバレンタインの話です。


あなたの中にいたかった

2/14の私は忙しい。

だから、本当ならいの一番に渡したかったマーリンへのプレゼントも、今年は一番最後になってしまった。

だってせっかくの本命なんだし、渡した後ゆっくり二人で過ごしたかったし……、決して、覚悟を決めきれずもだもだしていたから、というわけではない。

 

最後になったにも関わらず、貰えることは分かっていたからなのか、さして気にした風もなく、マーリンは嬉しそうにプレゼントを受け取った。

大切にするよ、と微笑んで言われて、胸の奥がむず痒くなる。

 

まただ。

 

バレンタインに贈り物をして、こんな風に微笑まれたら、勘違いするに決まってるのに。

 

また、思ってしまう。

 

――マーリンは、私のことが、好きなんじゃないか、って。

 

「さて、きちんとしたお返しはまた後日用意するとして。……なまえ」

「っ、」

「まずはこの、嬉しい気持ちのお返しをしなければいけないね」

 

言って、マーリンが私の肩に手をかけ、そっと押した。条件反射的にベッドに倒れ込み、はっとして私を見下ろすマーリンの顔を見上げる。

心なしか赤らんだ顔で目を細めて笑う顔はとても扇状的で、ぎゅうと胸が捕まれるような熱が、体を走った。

 

「この高鳴りを、キミにも返さないと……、ね?」

「ひっ……」

 

そっと顔を近づけ、耳元で囁かれた言葉に、思わずひきつった声が漏れる。嫌なのではない。ただ、もうじゅうぶん心臓がバクバクしすぎて、まともに声を出せないのだ。

 

このまま身を委ねれば、マーリンは極上の快楽を私に与えてくれるだろう。マーリンが感じた嬉しさなんて、何百倍も飛び越えた悦びが、私を支配することになる。

 

正直それもいい、というか、めちゃくちゃそうしたいところだが、今日、私は一つの覚悟を決めて、今このときを迎えている。

 

――マーリンに再告白する、という、覚悟を。

 

「なまえ……」

「ん、ぅ……っ!」

 

そっと唇を重ねられ、ぴくんと肩が跳ねる。

この期に及んで、終わった後でもいいかなとか、振られたらもう今日はこんなこと出来ないし、とか決心がグラついたものの、終わった後に告白して振られたら、余計に虚しくなりそうな気もして、必死に心を奮い立たせると、マーリンの肩をぐっと押し返した。

 

「ぁ、ま、待って……っ」

「ん……?」

 

気づいたマーリンが、ゆっくりと身体を離してくれる。私の「待って」がどういう意味を持つのか、ちゃんと分かってるんだなぁ、つまり普段はやっぱりわざと気づかないふりしてるんだなぁ……とか一瞬考えながら、私も身体を起こした。

 

「何だい、マイロード」

 

穏やかに微笑んでマーリンが問う。せっかくの空気が白けるようなことも無く、自然とそうやって微笑むことが出来るのが、やっぱりずるい男だ。

 

――でも、私が今から言う言葉は、きっとどうしたってこの空気を壊してしまう。

 

こんなに暖かで幸せで、ふわふわとした、いい気分なのに。

勘違いしたままでいれば、ずっとこのままでいられるのに。

 

「…………」

「ん?」

 

私が今から言おうとしてる言葉がどういうものなのか、知ってか知らずか、マーリンはやはり穏やかに微笑んで、首を傾げた。

なおも黙っていると、そっとその手が頭に添えられて、優しく撫でられる。

 

「どうしたんだい、なまえ」

「うん…………ちょっと、待ってね…………」

「うん」

 

俯いて撫でられたまま、少し待ってほしいと頼む私に、マーリンが優しく頷く。

どんどん鼓動が早くなって、震えそうな身体を、ぎゅっと拳を握ることでこらえた。

 

もう一回だけ。

 

もう一回だけ告白して、それでもダメなら、もう諦める。

マーリンに好きになってもらうのは、諦める。

 

とっくに諦めてたつもりなのに、そんなことはあり得ないって知ってる筈なのに、もしかしたらの奇跡を期待してしまう。

 

一緒にいようとしたり、

触れると嬉しそうにしたり、

離れると寂しそうにしたり。

 

……好きって、言ってくれたり。

 

そんな風に振る舞われたら、嬉しくなってしまう。嬉しくさせてくれていたのかも。きっとそう。分かってるのに。

 

やめておいた方が絶対いい。こんなの私が辛いだけの確認作業だ。分かり切ったことを聞いて落ち込むなんて馬鹿げてる。

 

マーリンは私が好き、と(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)に(・)し(・)て(・)、暗黙の了解で両思いごっこをしていれば、無駄に傷つかないですむ。

 

でも……。

 

でも。

 

でも、もう、あと少しなんだ。

 

マーリンといられる時間は、残り少ない。

 

残す異聞帯はあとひとつ。

マーリンといたいから先延ばしになんて出来ない。そもそも私たちには先がない。

 

だから……本音を聞くなら今しかない。

マーリンがどういうつもりでもいいから、せめて、本当のことを知りたい。

 

頭をゆっくりと撫でる、大きな手の感触が心地いい。

その手に誘われるまま、夢の中を揺蕩っていられれば良かったのに。

 

……わがままで、ごめん。

 

「あのね……」

「うん」

「聞きたいことが、あるの」

「……うん」

「うそ、つかないって、約束して」

「……――」

 

頭を撫でる手がゆっくりと離され、そっとマーリンを見上げる。

曖昧に微笑んだまま、マーリンは「ああ」と、肯定の言葉を口にした。

 

「……約束だよ」

「うん」

「じゃあ、あの、言うね」

 

は、と息を吐く。身体が震えて呼吸がしづらい。どくんどくんと耳裏を叩く心臓の音がうるさい。胸が熱くて苦しい。なのに指先はとても冷たくて、ぎゅっと自分の手で自分の手を強く握りしめた。

 

「……わたし、マーリンがすき」

「……うん。もちろん、よく知っている」

「ま、マーリンは、わたしのこと…………すき?」

「…………――」

 

マーリンの顔が見れず、俯いて自身の手を見つめる。

強く握りしめた指先に感覚はない。

 

「…………ごめんよ。僕の答えは変わらない」

「…………………………」

 

聞いた瞬間、フッと息が抜けて、身体の震えが止まった。

同時に、鉛でも飲み込んだみたいに、胸が重く詰まる心地がする。

 

「…………うん。知ってた。私も、知ってたよ、ちゃんと」

「……なまえ」

「答え合わせしたかっただけ、ごめんね。……もう二度と、聞かないから、安心……してっ……、……っ」

「なまえ」

 

最初から、振られるだろうとしか思ってなかった。

どうシミュレーションしても、マーリンが「本当はキミのことが好きだ」とか、そんな風に言ってくれる気はしなくて、だから、本当にちゃんと分かってたんだ。

 

分かってたのに、どうしてか涙が溢れてしまう。

 

バカだなぁ私は。他にいくらでも、たとえば人に頼んで確かめる方法だってあったのに、わざわざ自分が一番傷つく方法を選んで。ほんとにどうしようもない。

 

必死に涙を拭う私の背に、マーリンの腕が回される。

そうしてくれることも分かっていた。マーリンはとても優しいから。それが私の主観にすぎないことも知っていたのに、そんな仕草(やさしさ)にまた好きが募る。

 

好きでいることは、やっぱりやめられそうもない。

 

「……ローブ……ぬれる……」

「今更だろう、そんなこと」

「…………さいきんは、ないてない」

「今、泣いてる」

「…………」

 

泣くつもりは無かったんだよ。本当に。耐えられると思ってたの。

 

「ねぇ…………」

 

どうして、愛情表現のような真似をするのかを問おうとして、やっぱり怖じ気づいて押し黙る。

キミがその方が喜ぶから、とかきっと言うんだろう。分かってても、やっぱり、はっきり言われたら傷つくんだろうな、私は。

 

先を言わない私に、マーリンも促すことはせず、その手がゆっくりと私の頭を撫でる。さっき撫でられたときと同じ感触の筈なのに、まるで違う気分になるのだから、人間って本当にめんどくさい。

 

「まーりん……」

 

縋るように名前を呼んだら、頭を撫でていた手がゆっくりと私の頬へと滑らされる。そっと顔をあげ、近づいてくるマーリンの顔に合わせて、静かに目を伏せた。

 

唇と唇が、ゆっくりと重なる。

 

「…………ごめん」

 

一言、唇を離す間にもう一度謝って、マーリンはそれきり押し黙る。

申し訳なさそうな顔の一つも作らずに、無表情で私を見下ろす瞳の中、私の顔が涙に揺らいだ。




どうしてこうなってしまうのか……
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