※この作品はR-18です。

月のわらう世界(マーリン夢小説)   作:ゆんぎつね

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唐突ですが、ルートを外れたエンディング集です。
両思いになったりならなかったりした世界線。

今回は両思いにならずに別れた世界線。
2部が始まらなかったルート?

4話ありますが、全話短いです。


Another route End
【End1-1】花が散らない世界


一面花に覆いつくされたその空間を男は歩く。

足元の花を特に気にする風でもなく、寧ろ男が花を踏み荒らした先から、また新たな花が芽生え咲き誇る。

 

悠々と歩いて暫く、男はある場所でぴたりと立ち止まった。

 

「──キミの幸せな人生(みちゆき)を見守るのが、私の夢だといつか語ったよね」

 

男──マーリンはその場にしゃがむと、そっと語り掛けるように口を開いた。

 

「それだというのにキミはまったく、波乱万丈な人生を送ってくれちゃって。ハラハラしてしまったよ」

 

眉を吊り上げて怒った風な顔を装いながらも、その声はひどく優しい。

マーリンはそっと手を伸ばすと、傍らの少女を腕の中へと閉じ込めた。

 

「ようこそ、アヴァロンへ。キミをもう、二度と手放したりはしないよ」

 

優しく、しかし熱のこもった声でマーリンは囁く。

そのままそっと少女を抱きかかえると、空中に佇む幽閉塔へ向かって歩き出した。

 

「──ずっとキミを見ていたけれど、キミは本当に私以外を愛さなかったね」

 

さくさくと、マーリンは花畑を進む。

 

「絶対に私のことなど忘れて、違う誰かを愛するようになるだろうと思っていたのに」

 

ひどく冷血な言葉を吐きながら、マーリンの表情は嬉しそうに緩む。

 

「それでも良かったんだよ。ずっとボクを愛していると、そう言ってくれただけでボクは本当に満たされていたんだ」

 

情感のこもった声音でマーリンが言う。

 

「怒らないでおくれ。だって人間はそういうものだから、ボクはそれを責めるつもりはなかったし、そもそも悲しむような心も持ってはいない。キミと過ごした日々の記憶だけで、あとはキミが幸せに生きてくれさえすれば、それで──よかったんだよ……」

 

腕の中の少女を抱く手に力がこもる。

ふわりと、少女の髪から甘い香りが立ち上り、マーリンはひどく懐かしい気持ちになった。

 

「けれど──こうしてキミに再び触れてしまうと、ダメだね。実はそうではなかったのだと、今ひどく実感している。ボクは、キミの傍にいたかった」

 

今の今まで決して言わなかった本音を、ごく自然とマーリンは口にした。

 

「ボクとキミが共にいることは、キミを不幸にするとばかり思っていたのだけど──」

 

少女の髪に、マーリンが頬を摺り寄せる。

 

「結局──人間(ヒト)の誰もが、キミを幸せにすることは出来なかった。後悔したよ、キミを手放したことを──」

 

さくり、マーリンが歩みを止める。

幽閉塔は目前にある。

 

「ああ、着いたよ。ここがボクらを永遠にする、物見の塔だ。尤も、キミはここにいたら何も見えないけれど──」

 

ちらりと少女を見やると、マーリンは自嘲するように笑み、

 

「……まぁ、見えないのはどこにいても同じか」

 

そう零して、塔へと足を踏み入れた。

 

──塔の中、一面に花を敷き詰めたその場所へ、マーリンは少女をそっと横たえる。

 

「キミに似合うと思った花を用意したよ。どれもこれもキミの美しさには適わないけれど」

 

ありがちな口説き文句のような台詞を吐きながら、マーリンは笑う。

適当に花を摘むと少女の髪にそっと挿し込んだ。

 

「うん、キミは相変わらず美しい。──なまえ」

 

そっと名を呼ぶと、頭を撫でる。

 

「ふふ、懐かしいなぁ。キミはボクに撫でられると忽ち大人しくなるんだから、本当に可愛らしいったらなかったよ」

 

つんつんと頬をつつき、

 

「柔らかいね。何もかも変わっていない。ああ、そうだ、この感触だ……」

 

マーリンは少女の頬に手を這わせる。

 

「……なまえ……」

 

目を細めると、マーリンは少女に口づけた。

 

「……何も、出来なくてごめん。キミを、幸せにしてあげられなくて、ごめん……」

 

少女の耳元でマーリンが囁く。

しかし少女は何も応えない。動かない。

 

「せめて、その骸まで辱められることの無いように。キミをここに連れてきたんだ」

 

少女を慈しむようにマーリンはその髪を梳く。

指先を流れる髪の感触は何も変わっていない。

ただ──もう二度と彼女が動くことは無く。その甘い声で、聴き飽きるほど告げられた言葉を聞く事も二度とない。

マーリンの一挙一動に赤くなっていた頬にも、指の先にも、どこにも、もう熱が宿ることもない──。

……違うのは、それだけだ。

 

「キミを不幸にしか出来なかったボクだけど」

 

花に埋もれた少女を抱き起して強く抱きしめる。

花びらがはらはらとその骸から滑り落ちていく。

 

「せめてキミの骸と永遠を共にするくらいは、ボクにだって許されてもいいだろう?」

 

なまえの魂は既に無く。

そのからだは、ただのいれものに過ぎず。

 

最早、マーリンの愛したなまえなどどこにもいない。

 

焦がれた笑顔も、苦手だった泣き顔でさえも、もう二度とマーリンが見ることは無い。

 

魂のいれものたる骸など、手元に置いたところでどうしようもないというのに。

それでも、それだけでも、自分のモノにしたかった。

 

「キミが守った世界は、まだ続いている。ずっとここで、ボクと共に見届けよう」

 

返事はない。当たり前だ。これはただの骸であって、なまえではない。

それでもマーリンは、少女の骸へと語り掛ける。

 

「ボクの、最後のわがままだ。ここでボクと共に過ごそう。この星の終わりまで」

 

なまえの魂を、アヴァロンへと招く事も考えたのだけど。

結局マーリンはそれをしなかった。

 

やっぱりどうしても、なまえをこの地へと縛り付けることが出来なかったのだ。

 

ひとの世で、自由に生きるキミが好きだった──。

 

……でも、それでも。

 

「死んだあとくらい、ボクだけのモノにしてもいいよね」

 

なまえが死んでから、やっと素直に話したところで、もう本人には届かない。

聞いていたらきっと、今更遅すぎると怒った後で、きっと本当に幸せそうな顔をして、……やっぱり泣いてしまったのだろうな。

 

安らかに眠るなまえの瞼に口づける。

 

この場所には時間の概念が存在しない。

だからこの骸も永遠に朽ちることは無い。

 

魂の存在しない肉体は、それ以上変容することもなく。

 

ただボクに、己の罪と懐かしい日々を刻み付ける。

 

もう二度と笑わないのに、歌わないのに、泣かないのに、

 

魂はもう存在しないのに、

 

どうしてまだ、キミを美しいと感じるのだろうか。

 

問うても、答えるものも其処には無く。

 

ただ散ることを知らない花々が、一面無邪気に咲き誇るばかりだった。

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