※この作品はR-18です。

THE・S.E.A.L.D.s'   作:タピオカ&ピスタチオ

4 / 6
S.E.A.L.D.s'本部の休憩室。
任務報告のざわめきが消え、今は深夜の静けさだけが満ちていた。

ジャックは誰もいないソファへどさっと腰を落とし、
ウイスキーの瓶をそのまま持ち上げる。
ラベルを見る気もなくキャップをひねり、喉へ流し込んだ。

「……ふぅ。ま、今日も色々あったな」

独り言に近い声と一緒に、小さく笑う。
表情は軽いのに、その奥にある影だけはいつも消えない。

(……あー、染みる)

アルコールが喉を焼くたび、
視界の端が、少しずつ“あの頃”の色へにじんでいく。

――8年前(回想)――

砂埃。
黒煙。
爆発の残響で耳が震え続ける。

まだジャックが軍にいた頃。
爆弾処理班。
一歩間違えれば吹き飛ぶような場所を、毎日のように走っていた。

崩れた建物の奥で、仲間が叫んでいる。

「ジャック! 逃げろ!! 俺は……無理だ!!」

「バカ言ってんじゃねぇ! 置いてくかよ!!」

瓦礫をどかす腕が震える。
肺は砂で焼けるみたいに痛い。
それでも必死に仲間を引き上げようとした。

(間に合え……頼むから……)

だが次の瞬間、
白い閃光が視界を覆い、
世界が一度、音ごと途切れた。

気づいたとき、
目の前には動かない仲間の身体。

呼んでも返事はなかった。
その顔にこびりついた土と血だけが、妙に鮮明だった。

(……守れなかった)

胸に沈んだ言葉は、今も抜けずに残っている。

――現在(回想終わり)――

ウイスキーをもうひと飲み。
ジャックは額を押さえ、低く息を吐いた。

「……まいったな、こりゃ」

そこへ、柔らかな足音が近づいてくる。

「ジャック、また飲んでるの?」

振り向くと、サンドヴァイパーが入口に立っていた。
腕を組み、呆れ半分、心配半分のような顔で。

「いいだろ? 今日は特に頑張った日だしよ」

「アンタ、毎回そう言うじゃない」

サンドヴァイパーはため息をひとつつき、
ジャックの隣へ腰を下ろした。

「……昔のこと、思い出してたんでしょ」

意外なくらい静かに言われて、ジャックは目を細めた。

「おいおい、なんでわかんだよ」

「わかるわよ。アンタのそういう顔、何度も見てるもの」

冗談っぽい口調なのに、目だけはまっすぐだ。

ジャックは瓶を見つめながら、ぼそっと漏らす。

「なぁ……俺は守れてるのか?
 それとも……また同じことを繰り返してんのか?」

飲み込むように出たその言葉。
本人が一番驚いているようだった。

サンドヴァイパーはすぐには答えない。
ただ静かにジャックの手から瓶を取り上げると、
残っていたウイスキーを軽くあおり、テーブルへ置いた。

「……アンタさ」

「ん?」

「ひとりじゃないんだから」

「……は?」

「仲間がいるでしょ。
 それに……龍斗も」

「龍斗……?」

「そうよ。あの子を守るつもりでしょ。
 アンタのその気持ち、ちゃんと伝わってるわよ」

ジャックは空になった瓶を見つめる。
さっきまで色を持っていたウイスキーは、もう何も残っていない。

(……そうかよ)

任務のためじゃなく、“誰か”のために動く日が来るなんて――
昔は想像もしなかった。

「……ヴァイパー」

「なに?」

「ありがとな」

「別に。礼なんかいらないわよ」

照れ隠しなのか、素っ気ない口調で肩をすくめる。

「で、いつまで飲んでる気? ほんとデカい子どもね」

「ははっ、なにそれ。褒め言葉か?」

「違うわよ」

ジャックは、さっきより柔らかい笑い声をこぼした。
胸の奥に積もっていた砂埃が、少しだけ払い落ちていく。

「よーし……明日は龍斗に爆発物の基礎でも教えて――」

「絶対ダメ。十三歳に爆弾の基礎を教えないで」

「いやいや、有望株には早めにだな――」

「却下。即、却下」

深夜の休憩室に、軽いやり取りが響く。
蛍光灯の冷たい光の下なのに、
さっきまで凍りついていた空気が、ゆっくりと解けていった。

ジャックの古い傷はまだ消えない。
それでも――今の彼はひとりじゃない。

仲間の声が、もう一度歩き出す力をくれる。


影の王蛇(ヒドラ)を追え

午前3時。

まだ夜明けの気配すら見せない街の空は、黒いガラスのように静まり返っていた。

S.E.A.L.D.s'本部の作戦室は、冷えた蛍光灯の明かりだけが天井から落ちている。

 

龍斗は椅子に座ったまま、じっと机に置かれた“蛇の紋章”を見つめていた。

金属片の中央に刻まれた蛇は、どこか生き物のように蠢いて見える。

 

(ヒドラ……。また、あいつらか)

 

喉の奥がじわりと熱くなる。

あの白い手術室、針、冷たい笑顔――すべての元凶が、この紋章の奥にいる。

 

扉が静かに開き、クロウ隊長が入ってきた。

鎧のような黒いコートを着たその背中は、誰よりも頼もしく、誰よりも傷だらけだ。

 

「龍斗、眠れてないな」

 

「……眠る気にならなくて」

 

クロウは何も言わず、彼の隣に立った。

代わりに机の上の資料をひとつ取り上げ、鋭い眼でページをめくる。

 

「昨日の倉庫で回収したデータ。あれは“輸送先のリスト”だった。

 ヒドラは、国家規模の武器商人じゃない。

 ――“能力者を軍需商品にする連中”だ」

 

龍斗は無意識に拳を握った。

 

「ミュータントを……商品に?」

 

「そうだ。異能を兵器化し、国同士に売る。

 お前のような子供ですら、“素材”として狙われる」

 

その言葉に、胸の中で何かが弾けた。

 

(また同じことを……)

 

龍斗は、あの日自分を救ったキャプテン・アメリカの姿を思い出す。

 

――お前は自由だ。

 

その言葉に嘘はなかった。

だがヒドラが生きている限り、自由はただの“幻”だ。

 

「……止めないと。俺たちで」

 

小さな声だったが、クロウはしっかり聞き取った。

 

「その通りだ。

 ――だから、次の任務を告げる前に“彼女”にも来てもらった」

 

足音が近づいた。

振り返ると、青いマントを揺らしたレイヴンが入ってきた。

その後ろには、眠そうに目をこするミアと、肩を回しながら入ってくるサンドヴァイパー。

 

ジャックはもう作戦室にいた。

テーブルにもたれて眠りかけている。

 

「全員揃ったな」

クロウが資料を広げる。

 

「ヒドラは“能力者密輸ルート”を三本持っている。

 一つは南米へ。

 一つはヨーロッパへ。

 そして……一つは、この街の“地下都市エリア13”だ」

 

レイヴンが眉をひそめる。

 

「……最悪の場所ね」

 

エリア13。

表向きは廃工場群だが、実態はギャングと闇商人が支配する無法地帯。

政府も警察も立ち入れない“影の王国”だった。

 

ミアが震える声で言う。

 

「……そこに、ヒドラの“幹部クラス”が潜伏してるってこと?」

 

クロウは頷く。

 

「そして奴らの護衛は、“属性能力兵の上位種”だ。

 炎や氷の単能力じゃない。“複合系”だ」

 

サンドヴァイパーが小さく舌打ちした。

 

「複合……面倒ね」

 

ジャックは腕を組んだまま、龍斗に視線をやった。

 

「大丈夫か、坊主。昨日よりヤベぇ奴らが出るぞ」

 

龍斗は深呼吸し、ゆっくりと頷いた。

 

「……やるよ。倒すためじゃなくて――」

 

「守るためだ、でしょ?」

 

ミアが、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

 

龍斗は、こいつには敵わないなと思いながら言葉を続けた。

 

「守りたいものがあるから……俺は戦う」

 

作戦室の空気が変わった気がした。

決して大きくない声だったが、確かに全員の心に届いた。

 

クロウは地図の上に指を置く。

 

「任務内容は一つ。

 エリア13に侵入し、“ヒドラ幹部《アッシュ・コブラ》”を捕らえる。

 奴は複合属性能力者。炎+毒。

 失敗すれば、この街は地獄になる」

 

ジャックが小さく笑った。

 

「だってよ坊主。なかなか派手なデビュー戦だな」

 

「……初任務は昨日だ」

 

「じゃあ二戦目だ。十分ヤバい」

 

サンドヴァイパーがスナイパーライフルを肩に担ぐ。

 

「どうせ撃たなきゃならないんでしょ。

 アンタは前。私は後。

 ――死なないでよ」

 

レイヴンは龍斗の肩に手を置いた。

 

「焦らないこと。

 怖がること。

 そして……自分を信じること」

 

龍斗はその手を軽く握り返した。

 

(……みんな、俺の味方なんだな)

 

ミアが急に龍斗の背中を押した。

 

「ほら、立って!準備しよ!

 龍斗のスーツ、私が全部調整するから!」

 

「え、ちょ、ミア――」

 

「嫌なの?」

 

「いや……そういうわけじゃ……」

 

「じゃあ決まり!」

 

ミアに背中を押されながら、龍斗は知らずに笑っていた。

 

クロウが最後に一言だけ言う。

 

「全員、準備しろ。

 ――ヒドラを狩るぞ」

 

そして、S.E.A.L.D.s'は深夜の街へと出撃した。

 

龍斗の心臓はまだ速く脈打っていた。

けれど、その脈の中には恐怖だけじゃなく、確かな意志も混ざっていた。

 

(守りたい。

 もう、奪わせない。

 ……あの日の俺のように誰かを泣かせないために)

 

そして少年兵・真神龍斗の“二度目の戦場”が始まる。

 

――その影の向こうで、アッシュ・コブラは笑っていた。

 

「新しい“素材”が来るって聞いたが――

 まさか子どもとはな。

 ……面白い」

 

火と毒をまとう男の嗤い声が、闇へ溶けた。

 

次の一歩が、龍斗の運命をまた少し変えていくことを

彼はまだ知らない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。