※この作品はR-18です。

THE・S.E.A.L.D.s'   作:タピオカ&ピスタチオ

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夜明け前の決意

S.E.A.L.D.s'本部の照明は、夜更けを過ぎても白々と明るかった。

だが廊下を歩く龍斗の足取りは、いつもよりわずかに重い。

 

(……役に立ちたいだけなのに)

 

胸の奥に、言葉にならない焦りが積もっていく。

 

ブラックアーチとの任務失敗から一週間。

仲間を守れなかった現実が、静かに、しかし確実に心を削っていた。

 

その夜、フューリー長官の執務室に呼び出された。

 

軽くノックすると、低い声が返る。

 

「入れ、龍斗」

 

執務室の空気は張りつめている。

フューリーはホログラムを操作し、ひとつの施設図を映し出した。

 

「ブラックアーチだ」

 

多重防壁、複雑な内部構造。

そして、その隅に浮かぶ――見覚えのある紋章。

 

「……ヒドラ」

 

「確実に動いている。

 そしてどうやら――お前を探している」

 

龍斗の指先が、わずかに強張った。

 

「……自分を?」

 

フューリーは頷き、椅子を回して真正面から龍斗を見る。

 

「龍斗。力というものは、人間の本質を拡張する。

 優しさも、恐怖も、迷いもだ」

 

龍斗は言葉を失う。

 

「お前は優しい。

 だが同時に、まだ脆い」

 

白い部屋。

冷たい金属。

拘束具と、針。

 

記憶が、否応なくよみがえる。

 

(……やめろ)

 

息が詰まり、視界が一瞬歪んだ。

 

「血清の話が出ているのは知っているな」

 

龍斗の肩が、わずかに揺れる。

 

「安心しろ。

 今すぐ使えとは言わない」

 

フューリーの声は淡々としていた。

 

「だが覚えておけ。

 力から目を背け続けるのも、また一つの逃げだ」

 

龍斗は唇を噛みしめる。

 

「……自分は、まだ分からない」

 

それが、精一杯の本音だった。

 

「それでいい」

 

フューリーは短く言った。

 

「答えを急ぐな。

 夜明け前は、人間が一番揺れる時間だ」

 

龍斗は小さく頷き、部屋を後にした。

 

廊下で、レイヴンとすれ違う。

 

「フューリーのところ?」

 

「ああ」

 

彼女は龍斗の顔を一瞥し、すぐに理解したように息を吐いた。

 

「眠れてない顔ね」

 

「……まあな」

 

「焦ると、視野が狭くなるわ」

 

静かな声だった。

 

「強くなりたい理由を、見失わないで」

 

龍斗は答えず、ただ頷いた。

 

作業室では、ミアがひとりモニターに向かっていた。

 

「龍斗? どうしたの、こんな時間に」

 

「……少し、頭を冷やしに」

 

ミアは椅子を回し、まっすぐ彼を見る。

 

「無理してない?」

 

「してるかもな」

 

その言葉に、ミアは少しだけ驚いた顔をした。

 

「でも……立ち止まるわけにもいかない」

 

ミアはゆっくり近づき、柔らかく言う。

 

「答えが出てないなら、それでいいよ。

 考え続けてるってことだもん」

 

龍斗は目を伏せた。

 

「……ありがとう」

 

「ううん」

 

短い沈黙のあと、ミアは微笑む。

 

「私、信じてるから」

 

その一言が、胸に静かに落ちた。

 

夜明け前の訓練場。

空が、わずかに白み始めている。

 

龍斗はひとり、砂地に立つ。

 

(自分は、まだ足りない)

 

(でも……目を逸らすつもりもない)

 

拳を握る。

 

血清に頼るかどうか。

その答えは、まだ出ていない。

 

だが――

「考えることから逃げない」と、決めた。

 

夜風が吹き抜ける。

 

「……行くか」

 

その声は小さく、しかし確かだった。

 

夜明けは、もうすぐそこまで来ている。

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