(R-18)ただのモブ(大嘘)が、TSした原作主人公〈我口調銀髪武士♂→♀〉の代わりに男女逆転世界で頑張る話 作:つくもいつき
『も、モブ……♡ わ、我のよわよわ雑魚乳首……。どうか、いじめてくださいっ……♡ ぉ゛っ♡♡♡ あ゛っ♡♡♡ 乳首でっ、乳首だけでぇ♡ いぐぅっ♡♡♡』
カナメ・ビゼン。
銀髪ポニテ将軍娘であり、
俺は必ずや元の世界に帰還せねばならない。
彼女をはじめ、苦楽を共にしたパーティメンバーが、俺を待っている──。
◆□◆
春シーズン第一週の四日目、早朝。
上級冒険者学校の敷地内北東端には、学生寮とも講義棟とも少し距離を置いたVIPゾーンがある。
そのVIPゾーンの一角にある防音結界付きの小さな宿泊棟。通称、セーフティハウスの一戸で俺は朝を迎えた。
観測塔の影が石畳に長く落ち、外壁沿いの青晶灯がまだ淡く残っている。
前の世界でも、男子寮に空き部屋がなくなったあと、俺はここへ押し込まれた。
本来なら原作主人公にあてがわれるはずだった、安全で目立たず、秘密を隠すには都合がよすぎる家。この世界でも、その役割だけは変わっていないらしい。
セーフティハウスの玄関前で俺は大きく伸びをする。
敷石には夜露が残り、低い宿泊棟の屋根から朝日がゆっくり滑り落ちていた。
上裸に朝の冷気が突き刺さる。腹に視線を落とし、俺は指で脇腹をつまんだ。
うーん、前はつまむほど脂肪はなかったのに。鍛え上げる必要を俺は感じる。
《ハレンチですな、モブ殿》
(やかましー。誰も見てないだろ、たぶん)
うっすらと俺の体にまとわりつく
昨日試してみたが、やはり前と同じで
首元から黒蛇が鎌首を持ち上げる。
赤眼を俺に差し向け、舌を出した。
《どうやらそうとも限らないみたいですぞ?》
(ん?)
黒蛇が左手に視線を向ける。
つられて、俺がそちらを見ると、頬を真っ赤に染め上げた三人組がいた。
「な、な、な……!?」
やっべ。
隣のセーフティハウスの玄関前で、見知った顔の連中が凍り付いている。
レン、ミカエラ、そしてレンの付き人でありこれまた
ミカエラは金糸のような短髪を朝風に揺らし、開いた手のひらの間から、青い目をかっぴらいている。いやらしい視線だ。
レンは翡翠グリーンのショートを整えた男子用学生服姿。
指を俺に突き付け、青緑の瞳から放たれた視線は刃物みたいに鋭い。
その半歩後ろで、深緑の髪を低く結んだシモンが、黒革手袋の指先でそっと鼻と口を隠していた。顎先から血が垂れているのを、俺は目ざとく見つける。
「……おはよう?」
「ふ、服を着ろ変態ッ!!!! ぽ、ポーズを取るなぁ!! 早く消えろ!!」
レンが叫ぶ。サイドチェストをし、胸筋を見せつける俺に、罵声を浴びせてきた。
しぶしぶ俺は室内へ戻り、シャツを引っかけた。
昨日の時点で、俺はミカエラたち三人もセーフティハウスに仮住まいしていると説明は受けていた。
元男の
前の世界ではカナメは女子寮に放り込まれたというのに。俺は首を傾げる。
俺が上を羽織って戻ると、すでに三人の姿はなかった。
仲良く学校へ向かったようである。
《モブ殿、先ほどのやりとりで、一段と波長が濃くなりましたぞ。三つともです》
(まーじでぇ?)
黒蛇の発言に俺は頭をかく。
昨日のうちに、俺は黒蛇と協力して、波長が濃くなるパターンを記録していた。
今日も今日とて、俺は傾向をまとめるためにあの三人に接触する予定ではある。
俺も学校行くか。
もう一度セーフティハウスに入り、俺は出かける支度に取り掛かった。
□
上級冒険者学校──四大国をまたぐ国際機関『冒険者ギルド』が運営する冒険者養成校。
その校舎の玄関に、俺はたどり着いた。
玄関で内靴に履き替える。
廊下に入ると、磨かれた木床の匂いと、インク、革鞄、女子生徒たちの香油が混ざった匂いがした。
扉の向こうからは、すでににぎやかな話し声が漏れている。
俺が教室につくとほとんどの生徒が揃っていた。
教室内の女性らは深い群青のジャケットを羽織り、胸元で同色の細いリボンを結ぶ。青基調のプリーツスカートと、上から下まで水の王国らしい色合いを発揮している。
「も、モブくんおはよっ」「おはよーモブっち!」「お、おはようございます」
「どもども、おはようさん」
会釈しながら、俺は教卓の前を過ぎる。
聞こえて来るのは黄色い声ばかり。
それもそのはず。この教室の現在の男女比は驚異の1対19。原作ゲームは男が弱く女が強い世界観であるので、偏るのはわかる。が、それにしたってやりすぎだろう。
それもこれも、男だったレンとシモンとミカエラが
どうなってんねんこの世界と、俺はひとりごちた。
自分の席へ向かう途中、俺はちらりと窓際の三人へ視線をやった。全員が男子用学生服を身に付けている。濃紺ジャケットに白シャツ、青ネクタイとこちらも青に色調を寄せている。
「おはよ」
「……」
シモンがぺこりとお辞儀だけ返す。
彼女は鼻にハンカチを当てたまま、俺と目が合うなり、すっと視線を外した。
黒革手袋の指先が、膝の上で落ち着きなく組み直される。
腕を立てたせいで、胸がふにゅりと形を変えていた。
その乳で執事を名乗るのは無理がある──俺はそっと視線を外して通り過ぎる。
その後ろに座るレンは腕を組み、こちらをにらんでいる。
男子用学生服の襟元をきっちり整え、背筋を伸ばした姿は相変わらず真面目そのものだ。だが、机の下で片足が小刻みに揺れているのを、俺は見逃さなかった。
「おはよー」
「お、おはようアイカータくん」
ミカエラは教科書を立てて顔を隠している。
隠しているつもりなのだろうが、金糸みたいな短髪の上から耳まで真っ赤になっているので、むしろ目立っていた。
《三者三様に濃いですな。マシマシです》
(波長の話だよな?)
黒蛇が俺の右肩から顔を出す。他人から見えないことをいいことに、相変わらず自由に振舞っている。
俺は何食わぬ顔で席につく。
視線が痛い。女子生徒たちの好奇心、レンの敵意、ミカエラの隠しきれない動揺、シモンの気まずさ。いろんなものが歩いている途中に向けられていた。
《モブ殿。やはり、ただの感情反応ではありませんぞ》
(そうなん?)
《ええ。羞恥、警戒、動揺。表に出ている感情はそれぞれ違います。しかし、肝心の波長は同じ方向へ揺れております。ここではないどこかへ向かうような、懐かしいような、痛ましいような。そんな波でござる》
(……わっかんねー。とりあえず接触を続けて、反応見るしかねーよな)
《それが得策でしょう》
俺はじっと、目の前に座る元男三人娘の背を眺める。
そうこうしていると、教室の扉が勢いよく開いた。
「席につけ。朝の連絡を始めるぞー」
担任のメイリーナ・タンニーンが入ってくる。
赤毛を後ろで束ねた隻眼の女剣士。相変わらず気怠そうだ。教室のざわめきが一瞬で収まった。
「本日は予定通り、ダンジョン実習だ! 敷地内の学校管理ダンジョンにてお前らの実力を測る! さっさと準備しろ! ……それで」
メイリーナの赤い目が俺たちの方に向く。
なんとなく、嫌な予感がした。
「アイカータ。ヒーロイック。リーダ。アウクシル。お前たちはしばらく同一班だ」
教室中の視線が、俺たち四人に集まった。
そしてすぐさま非難の声が上がる。
「えーっ!?」「なんで!?」「男子と組めないっス!?」
「やっかましい! 異論は聞かん。事情持ちは事情持ちでまとめるって話だ。以上! とっとと準備しろ!」
教卓を叩き、メイリーナが生徒たちを黙らせる。
生徒たちは非難の声を上げながらも、しぶしぶと着替えを始めた。
おいおいおいおい。俺まだ教室いるよ?
教室の空気が授業前のそれから、実習前のやや緊張を含んだものへ変わる。
みながみな、〈魔法の携帯袋〉と呼ばれる収納魔法がかけられた魔道具から自身の装備を取り出し始める。
金具の鳴る音、ベルトを締める音、薄い鎖帷子を引き出す音があちこちから重なった。
群青のジャケットが椅子の背に掛けられ、白シャツの前ボタンも外れていく。
唐突に増えだした肌面積に、俺の愚息が脈動を始める。
この世界の女は強い。
強いので、恥じらいよりも実用が先に来る。
俺ひとりが視線の置き場に困っている間にも、女子生徒たちは平然と制服を緩め、装備のベルトを引き絞り、互いの背中の留め具を確認していた。
だが、窓際の三人だけは違った。
ミカエラ、レン、シモンの元男三人娘は、顔を真っ赤にしたまま教室の端に固まっている。
男子用学生服の前を押さえ、互いに視線を合わせないようにして、ぎこちなく〈魔法の携帯袋〉を開いていた。
「……先生。我々は更衣室を使わせてもらう」
レンが低い声で申し出る。
口調だけは平静を装っているが、耳まで赤い。ミカエラはこくこくとうなずき、シモンは黒革手袋の指先で襟元をつまんだまま、無言で同意を示していた。
「却下」
「なっ……!?」
「お前ら、いまは女だろうが! 男子更衣室なんて使わせられんぞ?」
取り付く島もない。
レンが言い返そうとしたが、メイリーナの赤い片目に射抜かれて、悔しそうに口を閉じた。
「アイカータ。何してる? お前も早く着替えてこい。男子更衣室、空いてるぞ?」
今度は俺に声が飛んでくる。
教室中の視線が、また俺に集まった。
普通に考えれば、行くべきだ。
なにせ俺はこの教室でただひとりの男である。ここで着替える理由など、ひとつもない。
(……いや、あるな)
ミカエラ、レン、シモン。
三人の反応を近くで見られる機会だ。
波長が濃くなる条件を探している以上、ここで離れるのはもったいない。
「いえ、俺もここで大丈夫です。すぐ終わるんで」
「え゛!?」
大きな声を上げたのはメイリーナだ。
俺は気にせず、群青のジャケットを脱いだ。そのまま白シャツのボタンも外す。
その瞬間、教室がざわつく。いや、ざわつくどころじゃなかった。
女子生徒たちの黄色い声が一段跳ねる。
「キャー♡」「エッロぉ♡」「ヒュー!」「見なよ、モブくんの筋肉……!」「すっご、ハガネみたいっス♡ こいつはやるかもしれないっス♡」「え、え、え!? やっば!? いいのコレ!?」「目に焼きつけなきゃ……!」
ミカエラは指の間から俺の黒タンクトップ姿を注視。
レンはわなわなと震えていた。
シモンはまた、無言でハンカチを鼻に押し当てている。
「アイカータ貴様ァ!? な、なぜここで脱ぐ!」
「まあ気にするなよ。減るもんでもないし」
「そういう問題かぁ!?」
レンの叫びに、何人かの女子生徒が「止めるなよバカ」と小声で反論している。
俺は気にせずにズボンを脱ぐと、教室のボルテージは一気に最高潮になった。
もはや隣のクラスも授業を止めるレベルの声だ。
今日の俺の下着は黒タンクトップに、黒ブリーフ。トランクスだとはみ出しかねないので俺はいやいやブリーフにしている。
俺の下着のふくらみを見たであろう、何人かの女子生徒とメイリーナが鼻血を出して倒れる。もう何人かは指先を自身の下着に伸ばしていた。
俺はちらと左手を見る。
教室の端では、シモンが椅子にもたれるようにして伸びていた。
黒革手袋の手は力なく膝の上に落ち、もう片方の手だけが、鼻元に当てたハンカチをかろうじて押さえている。
その白い布は、いつの間にか鮮血に染まっていた。
「シモン!?」
「あ、アウクシルくーん!?」
レンとミカエラが駆け寄る。
レンは慌ててシモンを揺さぶり、ミカエラは震える手で水筒を取り出していた。
《モブ殿。三つとも濃くなってござる。特にミカエラ殿とシモン殿が跳ねております》
(……しばらくは、この路線で攻めるか)
俺は蜘蛛糸で編んだ黒衣のシャツとズボンを身に付け、緑の盗賊外套を羽織る。
このままいると邪魔になりそうだ。教室内の興奮冷め止まぬ中、俺はひとり教室を後にすることにした。