「治すんじゃあないですから、我慢して下さいね」
「……っは、マジ、か……よ、ッ⁉︎」
潮風の吹き抜けるヴェネツィア、その玄関口、サンタ・ルチア駅前。朝日が登り始めた
「い、痛ッ……でぇッ」
男は身体に無数の銃創をつくっており、相当な怪我をしているようであった。至る所から血を流し、苦悶の表情を浮かべて痛みに喘いでいる。
深手を負った男の前には、金髪を後ろで三つ編みにした少年が
「脇腹を埋めます」
若い少年の声が冷静に告げる。
指先を血で濡らした白い手が、格子柄の帽子の中から銃弾をひとつ摘まみ出す。光沢のある冷たいそれに親指を添え、服に空いた穴から直接傷口へと押し込んでいく。
「……んッ、ぅ、ぐ」
服の上からでも分かるほどに、しっかりと鍛えられた肢体がびくりと跳ねた。
組織、血管、神経。そのどれもがずたずたに引き裂かれた体内に、異物を埋め込まれた男が眉根を寄せる。
「ッ、ジョ、ル……やさし、ぐ……ッ」
名前を呼ばれたらしい少年の頭が、
「……ミスタ、静かにして下さい。まだ早朝なんですから、町の人が起きてしまいます」
ミスタという男の腹に添えられた親指が離れたあとには、先程まで血液を
少年は弾丸をまたひとつ摘み、ミスタに覆い被さるように体勢を変えると、今度は右の脇腹の傷口にゆっくりと押し込んでいく。
銃創に再び埋められる金属のその無機質な温度が、神経を灼くような衝撃に変換され、全身を襲う。
「ぐ……ッ、あ………」
ミスタは額に汗を滲ませ、上体をのけぞらせて痛みに抗う。食い縛る歯の
一瞬。少年の指先から、
──しかし。
「ぜ……ッ、ぜんぜん、楽に……」
掠れた声が荒い呼吸の合間に漏れる。
「だから言ったじゃないですか……僕の能力じゃ、『欠けた部分を埋める』ことしか出来ないって。潔く諦めてください、ミスタ」
僅かに目に涙を
「どうにかしろよ……ッ、ジョ、ルノ、この……ッ」
「喋ると体力を消耗しますから、黙っていてください」
少年──ジョルノは相手を気遣う素振りも見せず、頭を起こして不満を漏らすミスタの口を自身の右の手の平で塞ぎ、そのままゆっくりと首を倒した。
「んーッ!」
ふー、ふーと湿っぽい鼻息が指に当たる。
「文句を言えるくらい元気なら処置も要りませんね」
「うー……」
温度のない声でぴしゃりと言い放つと、ミスタの鼻声が勢いを失い、手に反発してくる力が緩む。
「心配しなくても傷はしっかり埋めてますから、暴れないで」
手の平からかさついた感触が離れていく。
「そういうことじゃあ、ねえ……」
ミスタはぎゅっと
無くなった身体の一部分を継ぎ足しても、そこが馴染むまで痛みや違和感が取れることはない。『治癒した』と言えるまでに時間を要するというのが、彼による『手当て』の欠点であった。
「胴体の部分はあらかた埋めました。あとは……肩から腕、それに脚、ですね」
中腰の体勢になったジョルノは、両手で血で赤黒く染まったセーターの裾を掴む。じゅわりと指が濡れる感触に、思わず少年の顔が
「服が邪魔なので脱いでもらいます、少し我慢してください」
「い゛っ!」
セーターを胸元までたくし上げられ、悲鳴にも似た声が喉から飛び出た。ぎち、と奥歯が軋み、息が詰まる。いつもなら気にも留めないような、繊維と肌が擦れ合う感触すらも今のミスタには辛いものであった。
痛みで震える手を伸ばし、服を脱がせようとする少年の手を必死に押さえる。白くまっさらだった手の甲が、べっとりと血に濡れるさまを見て、ジョルノはああ、と嘆息を漏らした。
「ッ、ダメだ……っ、脱がせないでくれ……!」
喋るために開いた口の隙間から、赤黒く濡れた舌が覗く。普段と打って変わって、弱々しい抵抗をみせるミスタへ憐れみの視線を送る。
「傷が見えないのにやれと言うんですか」
「いっ、痛ェんだよッ!」
生理的な涙が、こちらを向く呆れ顔の輪郭を曇らせる。情けない顔で懇願するように見つめると、服を掴む手が緩められた。
「全く、あなたって人は……」
押さえつけていたはずのジョルノの手がするりと引き抜かれ──
──そのまま、流れるような手つきでミスタの両膝を掴む。
「仕方がないので、先に脚を治します」
予想外の行動に反応する暇もなく、ベンチに横たわるミスタの脚は、はしたなく左右に開かれた。開いた張本人から見たら上下というべきであるが。
「は……」
驚いて身を起こそうとしたものの、座面に付けた両腕の激痛に阻まれ、身体はベンチに再び縫い付けられた。
「全く……駄々をこねないで下さいよ。騒ぐ元気があろうともあなたは重傷なんですから」
上体が倒れた弾みで、目尻で堰き止められていた涙が頬を転がっていく。
内腿をじっくり見つめるジョルノの表情は真剣そのものだ。
「おい、やめろよッ……!」
端正な顔が段々と脚の付け根のほうへ近付いてくるのが見えて、ミスタの顔がかっと熱くなる。いくら『手当て』と言えど、この状況はどう見てもまともではない。
血がつくのも構わず、頰に左手を当てぐいぐいと押し退ける。
「……僕は傷を見てるだけです。痛くないでしょう」
頰を汚され、髪を乱され、不愉快そうな表情のジョルノの右目がこちらを
「そういうことじゃな……ァッ、て、め……ッ!」
情けない声と共に、伸ばしていた手がずるりと落ちる。わざと言葉を遮るように、弾丸が右太腿の傷口に押し込められたのだ。
「脚の傷も多いですし、脱いでください」
心なしか、楽しそうな声に聞こえたように思えたがミスタは気のせいだと信じることにした。袖で顔の血糊を拭ったジョルノは、不意打ちに当惑する男を尻目に、バックルに手をかけた。
【ヴェネツィア サンタ・ルチア駅に繋がる水路】
ボスの指示にあったOA-DISCを取りに行くため、ジョルノとミスタは車でヴェネツィアに向かった。DISCを回収した二人と合流するため、ナランチャおよび亀に潜む残りのメンバーは、水路をボートで移動していた。
モーターの稼働音と水を掻き分ける音以外、周りから聞こえてくるものはない。ボートを操縦するナランチャは、自らのスタンド『エアロ・スミス』の探知能力を用いて仲間を探していた。
「お、駅の広場のあたりに反応がある。呼吸はふたつ、動きは止まっている。周りには誰もいないみたいだし、こりゃあいつらで間違いねーな」
ボートの速度を上げて進んでいくと、日中は観光客でひしめく駅前の広場が徐々に見えてくる。夜明け直後のためか、普段の姿とは打って変わって閑散としており、遠方のベンチの辺りに見覚えのある二人の姿が直ちに視界に入った。『エアロ・スミス』を解除し、変装用のローブから頭を出したナランチャは身を乗り出して手を振る。
「おーい! ふたりともー!」
呼びかけに振り返る様子はない。声を張り上げたつもりであったが、どうやら気が付いていないようだ。
「うん? おっかしいな……」
ナランチャはボートを岸につけ、更に大きな声で呼びかけた。
「おーい、ミスタ! ジョル──」
「……そこはダメッ! ジョルノっ!」
「───え?」
ナランチャの目に映ったのは、脚を広げられたミスタと、股間の辺りに覆い被さるような格好をしたジョルノ。
会話は途中途中が不明瞭に聴こえる。
「何が……ですか。……して欲しくないんですか?」
「そりゃ……欲しいけどさ、痛えし、顔が近けぇんだよっ!」
「だって近くで見ないとよく……ないじゃないですか」
目視およびレーダーの反応から推測できるのは、ミスタが大怪我を負っていることと、ジョルノがその手当てをしているということだ。しかし、今目の前で繰り広げられている光景は何なのだろうか。ナランチャは筋道立てて考えることが苦手であった。脳が思考を拒否する。
「……あ、あっ! 目にゴミが入った! ふたりなのか確認できないぞッ!」
ベンチの方向から視線を逸らし、何故か出てきた涙を指で拭うナランチャであった。
「──いつまでものんびりしてられませんよ、ほら」
不意打ちを仕掛けていた左手も加わり、ミスタの履くパンツのバックルを外そうとするが、公共の場で下を脱ぐわけにはいかないと、先程とは比べ物にならないほど強い力で手を引き剥がされる。
「おいッ! やめろ……!」
怒気の籠った声に、ジョルノは一瞬動きを止めた。
「いい加減にしろ……」
どうやら本気で凄んでいるらしく、ぎりりと手首を締め上げられる。しかしジョルノはそれを気にも留めない様子で言葉を返す。
「それはこちらの台詞です。さっきから何なんですか、ミスタ。服ひとつ脱ぐだけでそんなに騒いで……何か見られたくないものでもあるんです?」
興奮で荒くなっていた呼吸音が、く、と僅かに詰まる。揺らぐことのない青に気圧され、掴んでいた手を離す。
「……違ぇよ」
「明け透けなあなたが、嘘を吐いてまで隠すなんて、きっと些細なものなんでしょうね」
「言ってろ……別にこのままでも傷は埋められる。それに夜明け過ぎに合流って算段だったろ? 早くしてくれよ、新入りくんよォ」
口の端を吊り上げてまくし立てた。いかにも不愉快だ、といったように眉が寄せられ、こちらを見下ろす瞳から光が消える。
「……そんな安い挑発をするなんて。ますますあなたらしくない」
処置で赤く染まった左手が握り拳を形取るのが見えて、ミスタは苦笑した。
「おいおい……怪我人に手ェ上げるのか? ひっでーの」
実際、ジョルノの腹の内には未だ掴めていない点が多い。一見真面目そうな性格をしていても、本当は力に任せて支配するような横暴な人物かもしれない。
「ミスタ、あなたって人は……」
色を失った声が聞こえたかと思いきや、明らかにこちらへ向かうように左腕が振りかぶられ、ミスタは咄嗟に両腕を顔の前で交差させて衝撃に備えた。
──瞬間。
メキメキと、派手に木が割れる音が耳をつんざく。
「……な、」
何のつもりだ、と心の中で吐き捨て、恐る恐る腕を解き、固く閉ざしていた瞼を開く。
目の前には、苛ついた表情の少年の顔がいっぱいに広がっていた。こんな状況の中、彼の
「……ハッ、脅しもうまくなったじゃあねーか」
先程までとは違って拳から自分の血が滴り落ちているというのに、言葉を投げかけた相手は微動だにしない。
この男にもこんな一面があったとは。
ミスタは秘められた激情を垣間見られたことに内心ほくそ笑んでいたが、その余裕もそこまでであった。
ジョルノが口火を切る。
「こっちだって我慢の限界ってもんがあるんですよ、無駄に手間をかけさせないでください……」
影の落ちた瞳に、一筋、金色が走る。
今、ジョルノが手で触れている箇所はひとつしかない。何が起こるのか見逃すまいと首を動かすが、しゅる、と腕を這う冷たい感触がそれを遮った。
「て、てめーッ、何しやがるっ」
頭の上にあった両腕は巻きつくそれでぎちりと固められる。鈍く光る黒い鱗が視界に入り、木片から生み出した蛇を縄代わりにしたのだと察した。
ジョルノは座面の僅かな隙間に膝を差し込み、束縛を解こうともがくミスタの脚の両側に
マウントを取られて狼狽えた隙に、ジョルノはバックルを外す。やめろ、と叫ぶ声を聞くそぶりも見せず、血と汗でぐっしょりと濡れる生地を掴み、パンツを膝までずり下ろした。
「……っ」
「っ、全く……、手当てしてほしいのなら大人しくしていて──」
言いかけて、処置を再開しようとするジョルノの手が止まった。青の双眸が見開かれる。
ミスタが下着に履いていたのは、少しキツめの黒いブーメランパンツ。その中心には明らかに普通ではない膨らみが出来ていた。
「だ……から、やめろって……」
必死に隠そうとしていた自分の醜態をいとも簡単に暴かれる。抵抗する気力もなくなったミスタの目尻から、熱い液滴がはらりと転がっていく。
「……ミスタ、あなたは痛みで興奮するんですか」
感情の込められない、シンプルな問いかけ。
「ちが、う」
心臓は早鐘を打ち、口は半開きのまま浅い呼吸を繰り返す。過ぎた羞恥に、言葉を紡ぐのもやっとであった。火照った首筋を冷や汗が伝う感触に、ぶるりと身体を震わせる。ジョルノの表情に軽蔑の色は見えないものの、彼が一体何を考えているのかが分からない。
「それとも」
真っ直ぐこちらを見据えていた瞳が、また下半身のほうへ向けられる。
「──見られるのが好き、とか」
「バ、馬鹿野郎ッ!」
言葉に反し、ジョルノの無機質な視線を受けたそこは窮屈そうに存在を主張していく。
拍動に合わせて、全身を
(どうして、こんなことになってんだよッ……!)
「公言していないだけで、同性も性的対象なんですか?」
「違う! なんなんだよさっきから、オレも訳が分かんねぇのに」
膝に乗り上げたままのジョルノが、あっ、と何かに気付いたように顔を上げる。無意識に腕組みをしたようで、服に真っ赤な筋ができていた。
「聞いたことがあります。命の危機に瀕したとき、種の保存の為に生殖機能が働くとか……」
あれこれ恥ずかしいことを質問した後に、突然一人で考察を始めた目の前の少年。呆気にとられながらも、生理的な現象というもっともらしい理由に救われたと思った。
「じゃあ、『これ』はそういうことなんだろ、……っ」
本当かな、と訝しげな様子のジョルノ。組んだ腕を解き、右手の指をゆっくりと『そこ』へ伸ばす。ひどく緩慢なその動きを、思わず目で追ってしまう。
「……では、実際に試してみましょうか」
張り詰めた場所を人差し指の先がなぞった。
「う……ぁっ……」
痺れるような感覚が全身を巡り、腰がもどかしげに浮き上がる。下着の頂点には、マーキングしたかのように赤い筋が着いていた。
半端に下されたパンツと絡まるジョルノの脚で動きを束縛され、逃げ場を失った痺れは内腿をひくひくと痙攣させる。
なぜ、どうして、自分がこんな目に。
軽蔑する訳でもなく、ジョルノはミスタの表情を伺っている。
解放されない刺激が声を震わせる。
「お前……何で、こんなことするんだよ……っ」
「あなたが、辛そうな顔をしているから……仲間としてすべき事をしたまでです」
声に変化はないものの、僅かに彼の表情が曇ったのをミスタは見逃さなかった。
「な……」
(だからって触るかよ普通……⁉︎)
興奮した状態の己を仲間に暴かれた挙句、憐れみゆえか、年若い少年に触られるという屈辱。保っていたかった矜持を次々と砕かれた衝撃。どこか甘いものが混じるような感覚を覚えつつ、腰が重くなっていく。
「うぐ……っ」
朝日にきらめいて眩しい、街と空の境界が滲んでいく。
ジョルノは、血が着くのもお構いなしに耳元の金髪をかきあげ、やれやれと言った表情でふーっと息を吐いた。
「さて……どうします? 傷を治してこのままナランチャ達と合流するか、その前に一度出して熱を冷ますか……」
「……は?」
『音声』は聞き取れたのに、『言葉の意味』が理解できない。
呆けるミスタを他所に、ジョルノは曝け出された太腿の傷を塞ぎ始める。
「う、ぁ」
羞恥で感覚が麻痺した身体は、痛みを痛みと認識できなくなりつつあった。
「二度も言わせないで下さい。無駄なんですから……。いいですか? 傷はあなたが何をしようと全て塞ぎます。命に関わりますからね。──でも、今のあなたは勃起しているじゃないですか」
そのような台詞を彼の口から聴くとは思っていなかった。
普段と変わらない口調で卑猥な言葉を紡ぎながらも、ジョルノが傷口を埋める手を止めることはない。冷たい弾丸が内部に侵入してくる感覚に、あっ、と上ずった声が漏れ出す。
「膨らんだ股間のまま皆さんと顔を合わせられるんですか? 大勢の前で恥をかく位なら、僕だけがいる今のうちにイってしまえばまだ良いと思います」
「お、まえ……なに言って……」
意図の読めない少年がひたすらに怖い。はらはらと涙の粒が溢れては落ちる。
「勿論僕はこのことを口外したりしません」
確かにこのまま合流するのは避けたい。かといって、この状況で、目の前で達するなど、とても出来るものではなかった。
ジョルノは少し驚いたような表情を見せた後、おもむろに笑った。
「……ふふ、『こっちの』ピストルは正直ですね。銃身が出てしまっていますよ」
わざとらしく、顔の横に寄せた右手がちょんちょんと下を差す。
「──な、」
思考が混乱していたミスタは、突然の言葉に涙で曇る瞳を
汗で蒸れ、窮屈な下着が不快だと言わんばかりに、ゆるく立ち上がったペニスの先端が、布地の右端の部分から姿を覗かせていた。
「っあ、やめろ、見るなッ」
頭からさっと血の気が引き、腰をずり上げてジョルノから逃げようとするが、腕も脚も固く拘束された状態では、興奮した本体をゆらゆらと揺らして主張する動きにしかならなかった。
「……そんなに焦らないで。わかってますから」
一転、意を決したような表情を見せたジョルノは、手に刺さっていた木片を、そしてべっとりと着いたミスタの血液を、まるで『手品』のように何匹もの黄色い蝶へと変え、空に放つ。その光景に気を取られたミスタをよそに、股ぐらの部分へ右手を差し込むと、突然の襲撃に身体が硬直する。
体積を増して生々しい形になったブーメランパンツの布地を下から持ち上げるように四つ指を添え、親指でしゃり、しゃりと中身を確かめるような動きで膨らみをなぞると、もどかしい感触にミスタの下腹部が跳ねた。
「ッは、さわるんじゃね、ッ」
語気を強めようとしても、呼吸が乱れて声がうまく出せない。睨みつけようにも視界はぼやけて焦点が合わない。親指と人差し指の付け根で挟むようにふにふにと揉んでいるのは。それ以上押してしまったら──
「──ああ、こぼれてしまった」
ひどく残念そうな声が頭上から聞こえる。
「や、めろ……!」
(いちいち言葉に出すんじゃあねえ!)
今度は布地の左端から、片方の袋が転がり出る。感じないように気を逸らしたくても、かえって神経を集中させてしまうせいで、弄ばれたそこを外気に晒される感覚は、ミスタをひどく興奮させた。
腕は相変わらず蛇に縛られているせいで、恥ずかしくても顔を隠すことすら叶わない。太陽は海の街を目覚めさせるべく高度をぐんぐんと上げており、唯一この痴態を覆ってくれるはずだった夜は、とうの昔に眠ってしまっていた。
「今ここでやめたら、あなたが
名残惜しそうに、親指が張りつめた玉の表面を撫でる。快楽を与えるというよりは、気になった箇所を触り、反応を検分するような行為であった。
「どこ触って……ッ」
中途半端な刺激に腰が浮き、図らずも彼の手に秘部を擦りつけてしまう。亀頭がジョルノの手首のあたりを掠め、ようやくやってくる本体への強い刺激。眉を寄せ、ふ、と短く息を吐いて痺れを味わう。
「ン……、っ」
ジョルノは、ミスタが繰り出すその一連の動きを、微動だにせず見ていた。右手に伝わる熱い雄の感触。
「そんなに哀れだと思うなら、ハァ、早くやれ……ッ」
目の前の男を潤んだ瞳で精一杯睨みつけ、吐息の混じる声で挑発する。すると、先程までの神妙な雰囲気は徐々に失われ、ジョルノの表情が歪んでいく。
「……ッ、何てことを……」
苦しげな声を絞り出したジョルノが、秘部に触れていた右手をおもむろに引き抜くと、ミスタが小さくうめき声を上げた。腰骨に引っかかる下着に人差し指をかけ、こう切り出す。
「……すみません、意地悪が過ぎました」
「あ、……?」
そのままゆっくりと布地がおろされ、元々隠せていなかった下生えが露わになっていく。いっぱいいっぱいの頭でようやく意図を理解したときには、下着は甘く立ち上がったままの竿をやさしく撫でるように移動し、雁首に引っかかって止まっていた。
「ジョルノ、本当に、やめろっ」
身を捩って逃げ出そうにも、情けない姿を晒すだけ。
散々こぼれ出た部分を見られた後でも、ここから先へ進むのなら。全ての行動は『偶然』から『故意』へ変わるのだと、ミスタは薄々感じていた。
「……手短に、済ませますから」
懺悔するかのような響き。しかしミスタの主張は聞き入れられず、彼が手を止めることはなかった。
「バカ、いい加減にし……ッ!」
張り出した部分を布地が越え、敏感な亀頭を滑る。先端を押さえられてしなっていた竿が、ぶるんと下品な音を立てるような動きでその全貌を現す。
「──ぁ、畜、生ッ……」
上下に揺れる雄が空を切る。仲間のはずのこの少年が、楽しむ訳でもなく、動機も掴めないままに性器を弄んでいるこの状況は、ミスタには漠然とした恐怖でしかなかった。
──直後。自分ではない誰かが唾を飲み込む音が、ミスタの耳に届く。
鼓膜に焼きつくような、今の音は、一体。
ジョルノがすぐさまペニスの根元を右手で握りこんだことで、巡らせていた思考は掻き消された。恥ずかしいほど芯が大きく脈打つのが分かる。
「やめ、ろ、さわるなっ」
急所を直に握られたことで、全身が総毛立つ。
「上手くできるか、自信はありませんが……」
逡巡するような言葉と共に、握られた指がゆっくりと上下動を始めた。雁首に引っかかるやわらかな包皮が少し引っ張られては元に戻る。
「はなせ……ッ、あ」
いつも自分でやっているような、欲望を吐き出すための処理。見知らぬ女に触らせたことはあっても、柔らかさもなく骨張った、見知った男の手など。
──それでも、ジョルノの指は着実にミスタを高めていった。たどたどしい動きから伝わる、間隔も強さもばらばらな刺激。何に濡れたのか思い出せない、セーターのぬるく湿った感触。快と不快がミキサーにかけたように入り混じる。
「こんなこと、してッ……ン、楽しいか……?」
「ミスタ」
薄目を開けて声のした方向を見やると、影の差す青の瞳がこちらを見ていた。
「ごめんなさい……」
伏せられた金の睫毛が震える。おもむろに膝に絡められた脚が解かれ、涙を零し始めた肉棒を掴む手はそのままに、少年が先程よりも距離を詰めてきた。脚の付け根に、感じたこともなく知りたくもなかった『男の重さ』がずしりとかかる。
未だ傷だらけのジョルノの左手が、顔の前に伸びてくる。身体が少し前のめりになったせいで、学生服に露出した先端がぬるりと押し付けられる形となり、ミスタは喉を突き出して喘ぐ。
「っう、も、満足だろ……」
伸ばされた手が一向に触れてくる気配はない。ペニスに走る血管は浮き上がり、若い雄が体積を増す。それを感じ取ってか、擦り立てる手の動きも徐々に激しくなっていった。
熱に浮く身体と、冷えて堕ちてゆく意識。
「ミスタ、ミスタ……」
沈みつつある己を引き止めようとしているのだろうか。必死にこちらを呼ぶ声が頭の中に響く。
「ン、最低だ……、オメー」
自由になった脚先に甘い痺れが走る。
(気安くオレの名前を呼ぶな……)
顔を見返すこともなく、瞼を閉じて軽蔑の言葉を吐き捨てると、まとめ上げられた腕の横、ベンチの座面に手が叩きつけられる。
裏筋に当たる化学繊維の感触と、肌に人の熱気を感じたことで、ジョルノが覆い被さってきた事を察した。
(トドメの一発でも食らわせて、終わりにしてやる……)
至近距離で最大限の非難をしてやろうと、目を開けた瞬間。
「……ミス、タ」
今にも雨が降り出してしまいそうな、揺れる瞳。最初に彼の姿を見たときは、それなりに整った容姿だと思っていた。至近距離になって初めて、大人へ変わりゆく身体とまだあどけなさの残る顔の美しい不均衡に気付く。
「──ッ」
口を開こうとしていたのに、舌がつかえて声が出ない。吐息がかかりそうな距離のまま、ジョルノが昂りの先端を先走りを絡めながら撫で回す。
「ッ⁉︎ あ、あっ、う」
突然の刺激に、息を吸おうとしても声が止まらない。鈴口を親指でぬちゅぬちゅと弄られ、甲高い悲鳴が喉から飛び出す。
怖い。怖い。これ以上自分を暴かれたくない。
「ジョ、ル、もう、やめ……」
ジョルノを乗せたままでも腰を突き上げる動きが止まらず、赤い涎が閉じられない口の端から流れる。
「ミスタ……」
名前を呼ばれたくないのに、曇る意識が声の主へ向く。
「気持ちいい、ですか……?」
無理矢理繕った、苦しそうな笑顔。その間も執拗に亀頭ばかりを苛む指。ジョルノの震えた吐息がミスタの睫毛を
「ひっ、うあ、ああ……ッ!」
身体が待ち望んだ、尿道を迫り上がるあの感覚がやってくる。ミスタは肢体を弓なりにしならせ、自身のペニスをジョルノの上着に擦りつけて射精した。
ウミネコが一羽、頭の上を飛んでいる。
「っは、あ……、あ」
散々高められて解放した身体は、鉛のように重い。腕に巻きついていた蛇はいつのまにか元の木片に戻っており、手指へ血が再び通っていくビリビリとした感触のせいで、この悪夢が現実だと理解させられた。
出し切って芯を失った雄を、何かに拭われている。敏感になったそこは、痛いほどの刺激を訴えた。精液の飛び散った自身の腹や
ジョルノは、初めて会ったときのような固い表情で『手当ての後始末』を進めていた。紺色の学生服に散りばめられた白濁を気にする様子もなく、ベンチの脇に膝をついてミスタの着衣を直す。先程までの彼はどこにも見当たらなかった。
冷たい潮風がミスタの火照った頬を撫ぜる。ニャアニャアと鳴く声は、徐々に東の空に消えていった。
街が目覚める。任務は目下進行中で、このあと仲間と合流し、『彼女』を送り届けなければならないのだ。優先されるべきなのは自分ではなく『彼女』であり、こうして時間を食うことはリスクでしかなかった。
ジョルノの右手に身体を起こされ、痺れの残る右手でくしゃくしゃになった帽子を手繰り寄せる。彼が左手で自分の服をはたいているのが視界の端に見えた。
腰が抜けてうまく立ち上がれないのを見て、ジョルノが無言で肩に腕を回してくる。
──やっと、あるべき現実へ戻れる。
二人でよろめきながら水路に向かう途中で、ミスタの意識はベンチでの記憶から逃げるように遠ざかっていった。
平衡感覚が失われ、衝撃とともに視界が180度反転する。無音の世界。焦った様子の少年と抜けるような青空、そして──
──漆黒の瞳には太陽が映っていた。しかし、その深淵に光が差し込むことはないまま、瞼は閉じられた。