中折れ傷心先生が蒼森ミネの雛鳥として甘々な救護をされてしまうお話 作:瑚白糖
えっちはないのでお気軽に
「で、結局その後もしたんですか?」
「えぇはい勿論。先生はもう虫の息。最後まで刺激的な休暇でした」
満足気に語り終えたミネ団長は紅茶を飲み干し、空になったカップに再び紅茶を注ぎ入れました。呆れ返るほど穏やかな昼下がり。今回の元凶ことこの私、浦和ハナコはミネ団長に誘われ、テラスで青々とした景色を背景にして優雅なティータイムへと入っていました。正直早く帰りたいです。
「こちらをお返しします。非常に勉強になりました。これも全て貴方のお陰です。ハナコさん。いえ、ハナコ師匠」
「え、えぇっと……」
感謝の言葉と共に返される私のノート。所々に付箋の跡が見られます。まさかこれ程の結果を生み出すとは思いもしませんでした。私としてはあの場を去る為、トカゲの尻尾切りみたいな物でしたのに……。
「先生との絆が深まったようで何よりです♡」
物凄く死にたいです。失恋というのは思った以上に苦しいものです。彼女を焚き付けた日、私は自身の恋心を自覚してしまうと共に失恋をしていた事に気付いてしまいました。それであの後1人涙を流す結果となりました。大泣きして気持ちの整理も出来たおかげで、今日という日の致命傷は避けられたという訳です。
「あぁあと、先生からこれを手渡すようにと……」
「これは…?モモフレンズのコラボカフェのチケットですか……。ヒフミちゃんアズサちゃんが必死に探しても1日2枚ずつしか見つからなかったという……いいのですか?」
「ええ。あの日、もし私たちで外出するならと控えていたそうですが、そうはならなかったので。期限である来週も互いに救護活動があります。なのでもう私達には不要な物です」
「流石先生♡どこまでも気が効くお方なのですね♡」
聞けば聞くほど羨ましい。彼が性に爛れたプレイボーイだった、というオチなら紙一重の差、と踏ん切りが着きます。ミネ団長の身体は確かに魅力的とも言えますし。
しかし話を聞く限りそんな浮ついた話は無く、純真で清純なアプローチ。私の誘惑が通用しなかった理由はこれ。私は彼に惹かれた紳士的で清純な人柄を信じきれなかったという事です。どうしていつまでも色仕掛けに頼ってしまったのでしょう……。
「しかしハナコ師匠、本当によろしいのですか?一部屋貸切にさせるだけでいいなんて……」
「ええ♡お礼なら興味深いお話を聞けただけでも十分ですので♡」
「救護騎士団には連絡が着いてるのでもう利用できるようにはしてますが………ん?団員から連絡が…、少し失礼」
会話を遮るかのように鳴り響く着信音。ミネ団長は席を外し携帯に耳を傾けました。
「生徒同士で抗争!?……分かりました。……ええ。これ以上市民に被害を出すというのなら見過ごせません。戦況を…」
先生を魅了する穏やな生徒からいつもの救護騎士団長の顔に早変わり。盗み聞きしてみましたが、正義執行委員会はまだ間に合ってなさそうですね。最近は悪知恵が働くブレインがいるのか、他校も含めた武力部隊への欺き方も上手くなってます。おそらく現場は混沌としている事でしょう。そんな中、同じく団員から連絡を貰った先生が1人、お供も連れず戦場に向かっているらしいです。なんという命知らず……、いえ、信頼を感じさせますね。
「すみません。私はもう行かなくてはなりません」
「はい♡後片付けはしておきますので、行ってらっしゃいませ♡」
「ありがとうございます。Cの病室は空けてありますので、ご自由に」
私に一礼したミネ団長は盾と銃を手にテラスへの端へと向かっていきます。そして大きく溜めた後、蒼く透き通った大空へと強く高く蹴り上げていきました。
「救護騎士団、参ります!」
雷鳴のような爆音、崩れ落ちる石造りのテラス、いつ見ても豪快な飛翔。戦場へ翔く蒼い軌跡はまさに流星。彼女の放った救護の光が戦地に落ちる。これで戦場はさらに混乱の渦に……。まあ後は先生が何とかするでしょう。救護騎士団補修部隊によるテラスの修復が始まり場は一気に騒がしくなりました。
「今日の現場はどこだっけ?」
「学園から6kmくらい先だね」
「おお、新記録。団長張り切ってるね」
もうすっかり見慣れた光景です。テラスに響く工事音、ホスト不在の茶会。ようやく私は溜め込んだ本音を発せるという訳です。
「こんな……、こんなの……、****じゃないですか!」
「寝てから言いなさいよ!」
はい。的確なツッコミをありがとう、都合よく通りかかったコハルちゃん。私は団長と共にしたティーセットを片付けコハルちゃんとテラスを後にしました。
「で、なによ用事って」
「コハルちゃんにしか頼めない大事な事です♡」
「……エッチな事だったら死刑だからね!」
それにしても意外でした。まさかミネ団長が禁忌の業を持ち出すなんて……。私があれを暗号化した理由は暗号の使い勝手を試す為。そして単にあのプレイが無理だったから。彼女が、ではなく私がです。
エイジプレイ、相手を赤ちゃんのように見立ててお世話し甘やかし、時に躾けるという高等技法。その難易度たる由来は完遂するのに強靭な精神力を必要としている所にあります。包容力は必須として、あらゆるノイズと戦い続けなければならないのです。
「着いてきてください、コハルちゃん♡」
まず一つは甘えの禁止。生徒であれば誰だって先生に甘えたいはず。それを押し殺し、甘やかす方へと徹底しなければいけません。相手が甘やかしたくなる歳下の子であればその難易度は緩和されるとは思います。ですが相手は歳上で大人の先生、どちらかというと私がされたいです。
「ここって救護騎士団の……」
「はい。ミネ団長にお願いして一部屋貸していただきました」
「な、何するつもりなの……」
そしてもう1つ、手間がかかるプレイということ。私もシミュレートしてみた事はありましたが、オムツやおしゃぶり、用具を集めた時に問題が出ました。「あれ?自分何やってるんだろう……」と。手間がかかるというのはそれだけ冷静なるタイミングが多くなるということです。露出や水着とは全く別ベクトルの問題と言えるでしょう。頭の回る人程このドツボにハマります。
「はい♡到着です♡」
そして1番の問題、肉体までは誤魔化せないということ。どんなに言い聞かせたとはいえ相手は大の大人。身長も体格も変わる事はありません。赤ちゃんであれば勃起もしませんし体毛も極わずか。そんな赤ちゃんであるはずのない人に赤ちゃん言葉で語りかけ取り扱う。私であれば早い段階でボロが出てしまうでしょうね。
ただこれらのノイズを全てスルー出来てしまう天性の逸材は存在します。近しい所で言えば団長の部下である朝顔ハナエ。ああいう他人への隔たりが薄い感覚派博愛タイプはナチュラルにこなせてしまう可能性があります。ああ恐ろしい。
「で、何するのよ」
「コハルちゃん、これを……」
「なにこれ?おしゃぶりと……なに?」
「ラトルです♡カラカラと心地良い音色がなる気持ちのいいおもちゃ♡」
「エッッ………、いや、なに……?」
やる方もやられる方もまともであってはいけません。不条理にしてインモラル。はっきり言って狂気の沙汰。これらの理由から私には無理だと判断、禁忌の技として封印したつもりでした。暗号化なんて手間かかることしたせいで余計忘れられなくなりましたが……。
「実はシスターフッドのマリーさんから頼まれ事を引き受けてしまいまして……、養護施設にボランティアに行くことになったんです……」
「へぇ……」
「それで聞いたら施設には赤ちゃんばかり、どう交流すればいいかな悩みました…。なので付き合ってくれませんか?その予行演習に♡」
「は?それでなんで私!?」
「理由なんてどうでもいいじゃないですか♡コハルちゃんにしか頼めないんです♡」
だからこその敗北。ミネ団長、彼女は自分には無理と吐き捨てた物を拾い上げ、そして見事完遂した。彼女の本質は私と同じ頭の回転を活かす理論派プレイヤー、きっと同じ理性の壁に衝突したことでしょう。その上でやり遂げた。そんな彼女の強靭な精神力に私は敬意を表しています。それもあって彼女の体験談は聞き惚れてしまうほど屈辱的であり、刺激的であり、魅力的な物でした。
「これエッチな奴でしょ!死刑よ死刑!」
「エッチな事ではありません。乳児の心を識り、彼女らと心を繋ぐ。赤ちゃんは一体何が好きで何を求めるのか……、これはとても健全で意義のあること。これは全てこれから出会う赤ちゃん達の為なのでコハルちゃん。お願いします」
「そ、そんなに言うんなら……てなんであんたが赤ちゃん側なのよ!逆でしょ!練習なら!」
「ばぶばぶ♡」
私も味わってみたいのです。彼を堕としたという赤ちゃんプレイのポテンシャルを。傷心なのはこちらも同じ。1度抱いた憧れは止められません。勿論先程までの建前は全部嘘ですが、コハルちゃんならやってくれると信じています。
「はぁ……エッチなことだったら死刑だからね」
「ばぶ♡」
その日私は識りました。世界の真理、最果ての景色、宇宙とはなんたるかを。
「お目覚めですか、ハナコさん」
目に映るのは白い天井。少女の声により意識が戻る。
「ここは………」
「救護騎士団の病室です。私がお貸しした病室で爆発があったと聞きましたので、私が救護に参りました」
「ミネ団長……」
貸出した責任ということでしょうか、この病室には私とミネ団長しかいませんでした。
「あの部屋には爆発物のような物はなかったと思うのですが、一体何があったんですか?」
「…………主文後回し……、ですか……」
「主文?」
「ああ、いえ、こちらの話です。こんな爆発大した事ではありません。助けて頂きありがとうございます」
彼のママは怪訝そうな顔を浮かべています。私の怪我には意味は無い、そんな話をしている場合では無いのですから。
「ミネ団長。楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか。ご存知ですよね」
「ええ勿論。セイアさんが口にしていた7つの古則ですね」
「楽園とは何か、分かってしまったかもしれません」
「ハナコさん……?いえ、師匠。あなたも……」
「母鳥の揺りかご。この道を極めた時、私たちは楽園へ至る。そうは思いませんか、ミネさん?」
この時2人の間に芽生えた物は友情に似た何か。退学の危機を乗り越えたあの3人とは違う、もっと軽い同好のような、そんな軽い絆。それでもこれからを歩む道のりに新たな色が加わった、そんな気がしました。
同志ミネとその被害者である先生。2人の活躍を頼りに生まれた暗号書は、後に図書委員会によって発掘され、深夜の図書館から甘い声が流れてくるようになりました。
キヴォトスは今日も平和です。おしまい。