褐色の残り香 作:自棄ノ原
原作5巻まで読了後推奨
将官たちとの昼食を終えると、グスタフは駅舎に設けられた彼の執務室に戻った。その扉の前では、常に二名の闇エルフが警戒にあたっている。ディネルースが彼につけた精兵、特別警護班員である。
王は自分の椅子にふかぶかと腰を落ちつけてため息をつき、しばらく安らっていた。
そこへディネルースがそっと訪ねてきた。その瞳は濡れている。王の側によるなり、彼女は密やかに告げた。
「帰りの汽車の時刻まで、四時間ほどあるんだが……」
彼が驚いた顔になり、唖然としている僅かな間に、褐色の両手が彼の頬を挟んだ。
次の瞬間にはもう唇が割られ、柔らかい舌が侵入してきた。
執務室の机を挟み、互いに身を乗り出し合って、懸命に貪り合う。
やがて示し合わせたように離れ、そばにより、固く抱きしめ合った。
久々に聞く女の吐息と全身の感触に、彼の中に凝り固まっていた冷たく固い何かが溶け落ちていくのを感じた。
女の漆黒の将校服に包まれた臀部のふくらみに右手を伸ばし、乱暴に掴み、感触を感じ、その奥に指を這わす。左手は、銀糸に飾られた胸の膨らみに殺到し、揉みしだいている。
「く……ん……」
女は身をよじるが、彼の動きを阻もうとはしない。ますます身を寄せ、耐えかねたように囁いてくる。
「寝台車に……」
女の手は牡の腰にまわっている。
もつれ合うようにして歩き、執務室の裏口から、そっと外へ出た。
誰の目にも触れぬよう、駅舎と車両の影を縫うように歩き、すぐ国王専用車両に辿り着く。
その寝台車の扉を、できるだけ音を立てぬように開いて中に入ると、彼らの目に映る風景は一変した。屋外から隔絶された豪奢な国王用寝室である。
いつでも避難ができるよう、また警備の利便からも、王は開戦以来、ずっとこの寝台車に寝泊まりしているのだ。
寝台に辿り着く前にディネルースは振り返り、扉に鍵をかけた。
「待ってて」
女はすたすたと歩き、隣の車両につながる扉にも施錠した。車両の反対側に行き、外に繋がっているもう一つの扉にも鍵をする。
ガチャリとノブを回し、最後の施錠の確実を確かめて、ディネルースは小さく「よし」と言った。
そのすぐ背後で待ちわびていた彼は、女が振り返るより早く、後ろから抱きしめた。
女の顔に横を向かせて口づけ、舌を貪り合いながら、豊かな胸を服の上から撫でる。
反対の手は女のベルトに伸び、緩め、すかさず下肢へ侵入している。下履きの中に滑り込み、豊かな叢をかき分け、指先は潤いに達した。
「はぁっ」
吐息に熱さを増した女は、膝を震わせた。
「向こうに……」
寝台に行き、そして素肌で抱き合いたいと、女はその一言と身じろぎで伝えた。彼もそうするつもりだったが、もはや止まらない。
唇を離すと、立ったままの女の軍袴を緩め、下履きごと引きずり下ろす。女の足元に跪いて、軍袴から足を抜くのを手伝おうする。
そこで、女が騎兵の軍靴を履いたままでは思うに任せないと気づいた。
彼が顔を上げると、急に室内の空気にさらされて震える褐色の丸みがあった。嗅ぎ慣れた香りが立っている。
グスタフは両手を二つの丸みにあてがい、開き、潤んだ部分にむしゃぶりついた。
「あっ! 駄目、今は……あぁ!」
いつもとは違う汗ばんだ香りと味わいを感じつつ、両手は女の尻から腰、背へと撫でて、彼が望む姿勢を教える。
ディネルースはもう抗わない。立ったまま上体を倒す。両手を車両の扉について身体を支えている。
軍袴を両の足首に残したまま、精一杯に両脚に開いて、しきりと舌で弄られている部分を後ろに突き出してくる。
「うあっ……ああ、あああ!」
オークの太い舌が内部にまで侵入すると、女の声は高まり、よく発達した褐色の太ももが震えた。女の潤いと牡の唾液が混淆し、その部分はてらてらと光り、滴らせている。
まだ漆黒の肋骨服に身を固めた上肢に牡の両手が伸び、その生地の上から胸を荒々しく撫で、頂点を五指でつまむように刺激する。
ますます声は高まったかと思うと、断ち切られたように息を飲み、女は痙攣した。
「……っ、はぅ……は……はあ……グスタフ。もう駄目だ。お願いだから……」
移動を求める懇願に関わらず、彼の手は己の軍袴を慌ただしく緩め、猛り立った部分だけを露出させた。その先端が、彼に向けて突き出された褐色の尻に当たると、女はかぶりをふった。
「向こうへ……」
しかし、扉に手をついたまま、女の姿勢は変わらない。その中心の彼を招いてやまない部分へ先端を合わせる。
「あっ! だ、駄目だと……」
そう言いながら、女はますます上体を傾けた。ほとんど下肢と直角にまで前傾する。腰の角度も微妙に変わり、太腿も身じろぎすると、牡の先端が触れる部分が僅かに緩んで、彼を導いた。
しかし、それでも狭い。女の両足は足首の軍袴に制約されて、僅かしか開いていない。また、もとがオークの体格は、人間並の闇エルフには雄大でありすぎる。
だから牡の侵入は、いつものように滑らかにはいかず、ずる、ずるとかき分け、拡張しつつ進んでいく。段々と押し入られ、つながりが深まるたび、女は声をあげた。
「っあ!……あ、あ!……あ!……ああ!」
闇エルフの柔軟で強靭な身体が、彼を全て受け入れ切ろうとした、その時のことである。
ことり、という微かな音がした。女が手をつき、体重を委ねる扉の向こうからである。靴の踵で床を踏んだような音だった。
その外は、車両の外側に沿う狭い通路がある。来る時には誰もいなかったが――考えてみれば、それこそ不自然だった。
王がいる部屋は、そのあらゆる出入口を特別警護班員が固めているはずである。扉につき二名ずつが警備につくことになっている。王自身であれ、密かに抜け出すなどできるはずがない。
もしできたとすれば、わざと見逃されただけのことだ。そうだとするならば。
「ひっ……」
勇敢な女将軍は、素肌の下肢を後ろに突き出した格好のまま、恐れるような声を漏らした。
特別警護班員は全員が闇エルフ。戦闘技量と忠誠心を見定めて、ディネルースが自ら選抜した精兵である。当然、全員のことをよく知っている。名前に顔に、各員が子供の頃から世話してやった記憶まで、ありありと思い出せる。
そのうち二名が、拳銃と山刀を腰に下げ、騎銃を手にし、目前の扉の向こうで油断なく周囲を警戒しているに違いない。その二名の立ち位置から鉄扉一枚を挟んだところで、いま彼女は牡に侵入されている。
ディネルースは声を抑えて言った。
「グ、グスタフ……向こうへ」
「どこでも同じだよ。さして変わらない」
扉の方に向いたまま、ディネルースはかぶりを振った。豊かな栗毛が揺れ、既に差し貫かれている美しい尻も左右に振れた。振動は彼にも伝わり、生々しい音が鳴った。
「無理、無理だ。一度離れて。聞こえてしまう」
「とっくに聞かれているよ」
その短い会話の間にも、繋がっている部分からは潤いが染み出し、溢れるようになっている。
牡が少し身じろぎすると、先程までより大きい音がぬちゃりと響き、女は喚声を漏らした。
「ああ!……っ!」
目前の扉に向けて叫んでしまったと、そう気づいたらしく、女は声を噛み殺した。彼がゆっくりと動き始めると、その努力はすぐに決壊した。
「あっ!……はあっ!……うあ!……駄目、駄目、だ……んんっ!」
軍服に隠された背中がそり、女の全身が震える。溢れる潤いが滴り、床に落ちて微かな水音を立てる。
「……くうっ!……んん……」
女は片手で自分の口を抑えることを思いついた。腕一本を扉について苦しい姿勢を支えながら、口に当てた手のひらで、全ての声を覆い防ごうとする。
それでも牡が動くたび、女の指の間からは抑えきれない密やかな声が漏れ、ますます牡を昂らせた。常ならず荒々しく突き入れられて、女もまた急速に登り詰めていることが分かった。
「んっ……んっ……っ! う……あ……」
たちまち牡が果て、女の体を満たすと、その繰り返す震えの間に、女もまた到達したことが分かった。
そのままの姿勢で、慄くような呼吸の音だけが、しばらくは響いていた。
「……服が汚れると困る」
女が小声で言うと、牡はその意図を了解し、ごくゆっくりと引き抜いた。先端まで抜け出ると、女はすかさずその部分に手をやって抑えた。
息を整えながら、女はようやく上体を起こした。まだ扉の方をむいたまま、その外にいる者から自分の部分を隠すように手で抑えている。
「……困る。靴を脱がせてくれ」
真っ赤になった顔だけで振り向いて伝えてきた指示に、彼は粛々と従った。
女王に仕える奴僕のように跪き、騎兵長靴の靴紐を緩め、脱ぐのを介添する。靴とともに、足首にかかったままでいた軍袴も取り去ってやる。
女から滴ったもので軍袴が僅かに濡れ、床に小さな水たまりができていることが分かった。靴下も脱がせてやる。
下半身をすっかり解き放つと、女は彼に恨むような目を一瞬だけ向けてから、内股な小歩きで寝台に向かった。
そのような用途のために、貴人の褥には備えられている清潔な夜具布を手に取ると、女は背を向けた。布をいずこかにした後、軍服の上衣を脱し、ざっと畳んで小机に置く。肌着も同様にする。女の背中が見えた。
完全に無防備になると、やっと安心したような顔でディネルースは振り向いた。
彼の方は、まだ軍袴を緩めただけの間の抜けた格好で、寝台に腰掛けている。オークにしても大柄な体躯をあたう限りに縮こまらせている。
女は、鋭い小声で言った。
「今回だけ特別に許してやる……特別だ。反省するように」
「……うん」
「返事は、はいだ」
「はい」
「よく反省しろ。また同じことをしたら……ううん、ええと……何かで仕返ししてやる。そう……何らかの手段で。きっとだ」
「考えておいてくれ」
「する前提で物を言うな……!」
彼をどやしつけてから、女は慌てたように声を抑えた。
「まったく……帰る時、どんな顔で行けばいいんだ」
「たぶん、誰にも会わないと思うぞ。また気を遣ってくれる」
「それでもだ! ああ、もう駄目だ。私はおしまいだ」
「…………」
何を言う資格もなく、賢明にも黙っている牡を、ディネルースは恨みがましく睨んできた。
「全く、本当に、この馬鹿……」
牡はポリポリと頭をかき、なんとかそれで誤魔化せないものかと思っている。
すると、ディネルースは不意に言った。
「全く、馬鹿げてる。戦争中に、こんな心配をしてるなんてな。ふふ……」
グスタフも、何やらおかしみを感じた。しかし、笑ったら怒られると恐れて我慢を試みると、そうしている自分がますます、おかしく思えた。
「ふ、ふふ……ふふふっ」
ふたりで忍び笑いを交わすうち、何とも言えない喜びが腹の底から湧き上がってきた。
生きている。自分は生きている。
ディネルース・アンダリエルも生きている。
生きていればこそ、くだらぬことで笑い、ふざけ合うことができる。何と素晴らしいことか。
小声で笑い合う間、ディネルースは拳骨を作って、彼の分厚い胸を何度も叩いた。最初は叩くふりだけだったが、そのうち遠慮なく、ゴンゴンと叩き始めた。
「何とかいえ。貴方の責任なんだぞ」と言う女の顔は、わざと怖い顔を作っている。
「いや……悪かったと思うが、この車両の中じゃ、どこでもさして変わらないと思うぞ。官邸じゃないんだから、壁は厚くない」
「気持ちの問題だ!」
「ここなら、もう気にならないか?」
「…………」
ディネルースは無言のまま、ひとしきりあたりを見まわした。外に繋がる二つの扉まで、寝台からの距離は近い方で5メートルかそこら、遠い方でも10メートルとはいくまい。
地形偵察を終え、彼の将軍は小声で宣言した。
「……できるだけ静かでいよう。協力を要請する」
「もちろんだ。じゃあ、いいんだね?」
女は、左手首を彼に突きつけてきた。服は全て脱しても、女はまだ腕時計をつけていた。彼が贈った時計を。
「四時間あると言ったろう。まだ三十分しか経ってない」
彼は苦笑した。自らも馬を駆って騎兵旅団を率いる女が、戦陣で便利なようにと贈った腕時計だ。
よもや、こんな風にも使うことになるとは。過去の自分に感謝しなければなるまい。
「じゃあ、まだ三時間半あるな」
女は彼を叱りつけるように答えた。
「馬鹿。ぎりぎりじゃ困る。参謀も連れてきてるんだ。身繕いの時間がいる」
「どのくらい必要なんだ?」
「一応、一時間」
「では、残り二時間半か」
身体の芯が震えた。久しぶりの逢瀬なのだ。熱情が滾り、湧き上がってくる。
女は上気した美貌に思案顔を浮かべ、そして宣言した。
「やっぱり三時間でいい」
そう言うと、褐色の手が彼の服に伸びてきた。